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ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ
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【この小説が収録されている参考書籍】
ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.56pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全61件 41~60 3/4ページ
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ル・カレ「そんなことは絶対にありえない!」 ……………………… 内容については、文庫版の方のレビューにしっかりした評が載っているので、そちらを参考に…。 こちらの単行本の方には、旧訳者菊地光さんの「訳者あとがき」が載っています。 それを読めたのが良かったので、このレビューを書いています。 その「あとがき」に、ル・カレの当時のニューズ・ウィーク誌へのコメント〜Q&Aの引用と、本タイトル「Tinker,Tailer・・・」の元ネタについての補足が書かれています。 当時の時代背景や英国文化を詳しく知らないので、理解の助けになりました。こういうことを文庫版にも載せればいいのに…。 …但し、訳の方は、文庫版のレビューで酷評されている以上にアレなんで(…英語がわかってるとは言い難いド素人(これを書いてる私ですorz)にもおかしさがわかるくらいに…)、これから新たに読まれる方は、入手しやすい新訳版をオススメしますf^_^;。(…雰囲気重視でじっくり読みたい方は、文庫版旧訳をどうぞ…) あと、装丁がナイスです(^^) | ||||
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翻訳について色々議論がある。 日本仏教について、サンスクリット語からの日本語直訳がないに等しいので日本に伝わっている仏教は真の仏教ではないと言う学者もいる。 しかし、言葉(言語)とは、広大深淵を表わすことが出来るとも、何も表わすことも出来ないとも言える。 特定の言語が唯一のものではない。 だから、どの翻訳でも理論的に完全はない。それは、読者が判断するものである。 私は、この翻訳で十分堪能した。 翻って、このレベルの洞察がありそれを知的に表現出来る日本の作家はいるかと問うと、直ちに名前が浮かばない。 | ||||
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内容: 初めての方が、「今更、冷戦時代のスパイものなんて」と思ったとしても当然です。しかし、時代が変わっても、小説としての面白さは変わりません。(だから最近、映画化もされたのでしょう。) 翻訳: これで村上博基氏の翻訳でスマイリー三部作が読めることになりました。本当に嬉しい。新訳の出版を決定した出版社に感謝します。本作も他の2作に並ぶ名訳で、そもそも翻訳について気にかけることなく読めると思います。 すでに旧訳を読まれた方にも新訳で読み直すことをお薦めします。数段良くなっていますよ。日本語として自然になっているのが分かります。ちょっとだけ冒頭を引用してみましょうか… 「じつのところ、もしもドーヴァー退役少佐がトーントンの競馬場でぽっくり死ななかったら、そもそもジムがサースグッド校にくるはずもなかった。・・・」(お手元の旧訳と比較してみて!) 村上氏の翻訳について気になる方は、プロの評価を参考にして下さい。 山岡洋一氏の「翻訳通信」から「名訳 誠実な美女 村上博基訳『スマイリーと仲間たち』」のURLを添えておきます。 http://www.honyaku-tsushin.net/hihyo/bn/smiley.html (これが、この翻訳の批評でないことが残念です。私たちがそれを目にすることはないと思われます。山岡氏は2011年に急逝されたので。) 最後に、作者が1991年に記した序文の最後の言葉を引用します。 「…作者が読み返すと楽しいように、読者もぜひたのしんでもらいたい。ジョン・ル・カレ」 | ||||
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映画で話題になって興味を惹かれ、まず、この新版を読んで、映画鑑賞後に再読しました。 二重スパイを探し出せ!というシンプルな命題ながら、実は難解な作品でした。 最初読んだ時は、著者の文体、スパイ小説の独特の言い回しや隠語など理解不足で、読み通す為に、時間をかけました。 結果、読後は、久しぶりの読み応え。。というずっしりとした満足感が得られました。 映画で鑑賞後、また、手に取りました。かなり細かい点に注意しながら。。 再読の度に、見落としや発見がつかめる貴重な本との出会いだ・・と感じています。 冷戦の只中にうごめくスパイの閉鎖された空間、各地に暗躍する孤独なスパイのミッション、複雑な愛憎劇も堪能しました。 (スマイリーのカーラに対する私怨の深さ、サーカス内の権力闘争と、同僚の秘めた愛には驚愕と新鮮な刺激を受けました。) その深みにはまってか、スマイリー3部作を一挙に読破しました。 最終作の「スマイリーと仲間たち」まで、たどりつくと、心の霧がやっと、何とか取り払われた・・ という不思議な達成感が湧いてきました。(後味の苦さ、虚しさは残りますが。) ところで、皆さんのレビューで気になってしようが無い、菊池氏の訳本が手に入らず探し回っています。 探してたどりついたら、また違う世界が待っているような気がしてなりません。 | ||||
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この新訳版で初めて本書に触れました。 私は気になりませんでしたが、確かに翻訳に問題はあるようです。 しかし、だからといって、この作品が名作であることは変わりません。 謎がじっくりと解きほぐされていく過程や、全体に漂う緊張感と不思議な哀しさは、この作品でしか味わえない素晴らしいモノでした。 もし訳の問題を考えて購入を迷っている方がいましたら、是非、実際に読んでみて欲しいと思います。 多少の問題を吹き飛ばす魅力が本作にはあります。 | ||||
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旧訳新訳共に一長一短あり。疑いの無い事実は、この小説は紛れも無く一読に値する傑作だということ。興味を持たれたならまず手に取ってみて欲しいと思います。比較検討はそれからでも遅くはありませんよ | ||||
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この小説はフィルビー事件をモデルとしている。 なぜ周知の共産主義学生が英情報部内で頭角を現し、44年から51年まで疑惑にもかかわらず長期でキャリアを維持したか、その謎を・・・90年代になって英情報部非公式史家と判明したル・カレが、丹念に70年代に舞台を移し、追求している。 解答1 まず技術的には英情報部の国内競争機関(MI5)や政府向け弁解があった。自己欺瞞である。 作中<ウィッチクラフト>として描写があるが、「彼はソ連の二重スパイのふりをした英国の二重スパイだ。でないとソ連を騙せないだろう」「外野はそれをわかっていない。告発するなんてばかげている」という複雑なダブルクロス作戦の描写が、おそらくこの小説の難解さの大半を形成していると思う。 解答2 英国政府内の官僚主義、事なかれ主義。これはまあ真相の大半か。 解答3 だがルカレはさらにフィルビーのニヒリズム、怪物性に注目している。 「フィルビーは仲間だ」「友情を裏切る仲間はいない」「それは人間として普遍の真理だ」という常識を裏切った、フィルビーは怪物という理屈である。モラリストとして、作中ル・カレは「友情を裏切った罪」を多少大袈裟に非難している。 解答4 そしてここからが小説家としてル・カレの底力なのだが・・・裏切られる「友情」「仲間」「信頼」の対象としての英情報部を丹念に描写する。アマチュアリズムと大学スポーツクラブのような空気の中で大戦時に雇用された情報部員たちが、70年代、衰退する英国社会の中で老いて、朽ちて、昔日の友情だけを生きるよすがとする。快活で魅力に溢れたフィルビーだけがかつての青春を思い出させるアイドルなのに、彼は最後の希望さえ打ち砕いてしまう。もちろん皆フィルビーがスパイである事を知っているが、彼を告発する事は、自らの最良の思い出を否定する事に等しいから誰もそれを言い出せない・・・。 小説全体に緊張と悲しみがぴんと張っている。よいストーリーである。 20世紀最良の小説のひとつといったら褒めすぎか | ||||
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この小説はフィルビー事件をモデルとしている。なぜ周知の共産主義学生が英情報部内で頭角を現し、44年から51年まで疑惑にもかかわらず長期でキャリアを維持したか、その謎を・・・90年代になって英情報部非公式史家と判明したル・カレが、丹念に70年代に舞台を移し、追求している。解答1 まず技術的には英情報部の国内競争機関(MI5)や政府向け弁解があった。自己欺瞞である。作中<ウィッチクラフト>として描写があるが、「彼はソ連の二重スパイのふりをした英国の二重スパイだ。でないとソ連を騙せないだろう」「外野はそれをわかっていない。告発するなんてばかげている」という複雑なダブルクロス作戦の描写が、おそらくこの小説の難解さの大半を形成していると思う。解答2 英国政府内の官僚主義、事なかれ主義。これはまあ真相の大半か。解答3 だがルカレはさらにフィルビーのニヒリズム、怪物性に注目している。「フィルビーは仲間だ」「友情を裏切る仲間はいない」「それは人間として普遍の真理だ」という常識を裏切った、フィルビーは怪物という理屈である。モラリストとして、作中ル・カレは「友情を裏切った罪」を多少大袈裟に非難している。解答4 そしてここからが小説家としてル・カレの底力なのだが・・・裏切られる「友情」「仲間」「信頼」の対象としての英情報部を丹念に描写する。アマチュアリズムと大学スポーツクラブのような空気の中で大戦時に雇用された情報部員たちが、70年代、衰退する英国社会の中で老いて、朽ちて、昔日の友情だけを生きるよすがとする。快活で魅力に溢れたフィルビーだけがかつての青春を思い出させるアイドルなのに、彼は最後の希望さえ打ち砕いてしまう。もちろん皆フィルビーがスパイである事を知っているが、彼を告発する事は、自らの最良の思い出を否定する事に等しいから誰もそれを言い出せない・・・。小説全体に緊張と悲しみがぴんと張っている。よいストーリーである。20世紀最良の小説のひとつといったら褒めすぎか | ||||
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読み始めて、最初から2ページ目で、もしや翻訳者は・・・と表紙を確かめてみると・・・あっちゃーあのK氏でした。 これは読破するのは厄介だ、と思いつつ、You Tubeにアップされていた、TV版(アレック・ギネス主演)を思い出しながら読み終えました。後半は一気にいけます。 それにしても、些細な部分ながら、「母親はバスで豪奢な生活をしており・・・」??? せめて、バースと表記して下さいな。 まるで廃バスの中で、飾りたてて暮らしているみたい。 | ||||
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読み始めて、最初から2ページ目で、もしや翻訳者は・・・と表紙を確かめてみると・・・あっちゃーあのK氏でした。 これは読破するのは厄介だ、と思いつつ、You Tubeにアップされていた、TV版(アレック・ギネス主演)を思い出しながら読み終えました。後半は一気にいけます。 それにしても、些細な部分ながら、「母親はバスで豪奢な生活をしており・・・」??? せめて、バースと表記して下さいな。 まるで廃バスの中で、飾りたてて暮らしているみたい。 | ||||
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昔読んだときは、何がなんだか分からず、ル・カレはつまらないと思い込む原因となった作品です。 再読してようやく面白さに気づきました。 派手なアクションは回想シーンで一度、ほんの少しだけで、後は淡々と事実関係の確認作業が関係者の証言とファイルを読み返す中で行われていきます。その中でも示唆だけで終わって、明確に語られていない部分も多く、読者も与えられる情報をただ読み辿るだけでは、最初に読んだ私のように訳が分からないまま、終わると思います。この手の作品には珍しいことだと思いますが、読者にも積極的に物語を読み解くことを要求しています。そこがこの小説の面白さでもあるので、是非読んでみてください。 | ||||
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昔読んだときは、何がなんだか分からず、ル・カレはつまらないと思い込む原因となった作品です。 再読してようやく面白さに気づきました。 派手なアクションは回想シーンで一度、ほんの少しだけで、後は淡々と事実関係の確認作業が関係者の証言とファイルを読み返す中で行われていきます。その中でも示唆だけで終わって、明確に語られていない部分も多く、読者も与えられる情報をただ読み辿るだけでは、最初に読んだ私のように訳が分からないまま、終わると思います。この手の作品には珍しいことだと思いますが、読者にも積極的に物語を読み解くことを要求しています。そこがこの小説の面白さでもあるので、是非読んでみてください。 | ||||
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真実というものを描出するために、人の記憶・人の話などというあいまいで主観的なものに頼らざるを得ない情報業者の、それでも真実をつかみたいという執念が、本書に最も表れていると思います。スマイリー三部作の他の二作(「スクールボーイ閣下」、「スマイリーの仲間たち」)でも、そしてル・カレの他の作品でも、人に話を聞いて回り、ファイルを読み込んで真実をつかもうとする登場人物が描かれますが、その作業自体でほぼ全編とする本作は圧倒的です。会話・ファイルの中の文章たちが、確たる・そして求めている情報の上に、どれだけたくさんの上着を着てオブラートで包んでいることか。真実全体の、いかに少ない部分しかそれぞれが語っていないことか。そしてその一々を精製して組み立て、真実と呼べるものまでたどり着けるか。延々と続く先の見えない登り道にも似たその過程を支える、静かなエネルギーの一部は不幸な結婚生活に在って、グリンメルスハウゼンの本(阿呆物語そのものかもしれませんね)をレストランに置き忘れ、雨に降られてずぶ濡れで帰ると、若く美しい妻は他所で情事の最中なのか、誰もいないだだっ広い自宅。そして夜眠らずにファイルを読み、昼間に聞いた話を思い返し、また読む。疲労と不眠の極みで生じる確かな興奮の中で、ロンドンの町外れの夜更けに毎晩必ず訪れる、何分間かの完璧な静寂のひとつの中で、最終的にたどり着いてみれば単純な話。そしてそれを実証する過程で突然告げられる、一人の二重スパイの名前でしかないゴール。この大変な仕事はしかし誰にも祝福されず、成し遂げた後の満足感ももちろんない、静かな終幕です。 二重スパイの話の筋自体はごく簡単でも、それを長編に編み上げる細部のかずかず。老いの坂の、錆の浮いた輝きが最も似合うイギリス国内に作品の場をほぼ限定することで、非常に成功していると思います。高校の寄宿生徒たちの口ぶり。リッキー・ターの夢見る粗暴さ。アン・スマイリーが吐いた(とスマイリーが思い浮かべる)預言者的なせりふの数々。特に、コニー・サックスの鬼気迫る老女ぶり。三部作のそれぞれでコニーの描写が際立っていて、作品を追ってコニーもまた老いていくのですが、その書き分けが、スマイリーの老いと好一対で、好きです。 | ||||
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真実というものを描出するために、人の記憶・人の話などというあいまいで主観的なものに頼らざるを得ない情報業者の、それでも真実をつかみたいという執念が、本書に最も表れていると思います。スマイリー三部作の他の二作(「スクールボーイ閣下」、「スマイリーの仲間たち」)でも、そしてル・カレの他の作品でも、人に話を聞いて回り、ファイルを読み込んで真実をつかもうとする登場人物が描かれますが、その作業自体でほぼ全編とする本作は圧倒的です。会話・ファイルの中の文章たちが、確たる・そして求めている情報の上に、どれだけたくさんの上着を着てオブラートで包んでいることか。真実全体の、いかに少ない部分しかそれぞれが語っていないことか。そしてその一々を精製して組み立て、真実と呼べるものまでたどり着けるか。延々と続く先の見えない登り道にも似たその過程を支える、静かなエネルギーの一部は不幸な結婚生活に在って、グリンメルスハウゼンの本(阿呆物語そのものかもしれませんね)をレストランに置き忘れ、雨に降られてずぶ濡れで帰ると、若く美しい妻は他所で情事の最中なのか、誰もいないだだっ広い自宅。そして夜眠らずにファイルを読み、昼間に聞いた話を思い返し、また読む。疲労と不眠の極みで生じる確かな興奮の中で、ロンドンの町外れの夜更けに毎晩必ず訪れる、何分間かの完璧な静寂のひとつの中で、最終的にたどり着いてみれば単純な話。そしてそれを実証する過程で突然告げられる、一人の二重スパイの名前でしかないゴール。この大変な仕事はしかし誰にも祝福されず、成し遂げた後の満足感ももちろんない、静かな終幕です。 二重スパイの話の筋自体はごく簡単でも、それを長編に編み上げる細部のかずかず。老いの坂の、錆の浮いた輝きが最も似合うイギリス国内に作品の場をほぼ限定することで、非常に成功していると思います。高校の寄宿生徒たちの口ぶり。リッキー・ターの夢見る粗暴さ。アン・スマイリーが吐いた(とスマイリーが思い浮かべる)預言者的なせりふの数々。特に、コニー・サックスの鬼気迫る老女ぶり。三部作のそれぞれでコニーの描写が際立っていて、作品を追ってコニーもまた老いていくのですが、その書き分けが、スマイリーの老いと好一対で、好きです。 | ||||
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真実というものを描出するために、人の記憶・人の話などというあいまいで主観的なものに頼らざるを得ない情報業者の、それでも真実をつかみたいという執念が、本書に最も表れていると思います。スマイリー三部作の他の二作(「スクールボーイ閣下」、「スマイリーの仲間たち」)でも、そしてル・カレの他の作品でも、人に話を聞いて回り、ファイルを読み込んで真実をつかもうとする登場人物が描かれますが、その作業自体でほぼ全編とする本作は圧倒的です。会話・ファイルの中の文章たちが、確たる・そして求めている情報の上に、どれだけたくさんの上着を着てオブラートで包んでいることか。真実全体の、いかに少ない部分しかそれぞれが語っていないことか。そしてその一々を精製して組み立て、抽象的な真実というものまでたどり着けるか。延々と続く先の見えない登り道にも似たその過程を支える、静かなエネルギーの一部は不幸な結婚生活に在って、グリンメルスハウゼンの本(阿呆物語そのものかもしれませんね)をレストランに置き忘れ、雨に降られてずぶ濡れで帰ると妻は他所で情事の最中なのか、誰もいないだだっ広い自宅。そして夜眠らずにファイルを読み、聞いてきた話を思い返し、また読む。疲労と不眠の極みで生じる確かな興奮の中で、ロンドンの町外れの夜更けに毎晩必ず訪れる、何分間かの完璧な静寂のひとつの中で、最終的にたどり着いてみれば単純な話。そしてそれを実証する過程で突然告げられる、一人の二重スパイの名前でしかないゴール。この大変な仕事はしかし誰にも祝福されず、成し遂げた後の満足感ももちろんない、静かな終幕です。 二重スパイの話を長編に編み上げる細部のかずかず。老いの坂の、錆の浮いた輝きが最も似合うイギリス国内に作品の場をほぼ限定することで、非常に成功していると思います。高校の寄宿生徒たちの口ぶり。リッキー・ターの夢見る粗暴さ。アン・スマイリーが吐いた(とスマイリーが思い浮かべる)預言者的なせりふの数々。特に、コニー・サックスの鬼気迫る老女ぶり。三部作のそれぞれでコニーの描写が際立っていて、作品を追ってコニーもまた老いていくのですが、その書き分けが、スマイリーの老いと好一対で、好きです。 | ||||
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この作品は1987年ごろに一度読んでいる。スマイリーの活躍を描く3部作の第一作として非常に面白かった記憶はあるものの、細部の描写や筋書きはあまり覚えていない。そこで今回また20年ぶりに再読。ルカレの作品は評論家が言うように非常に展開が遅く、退屈なくらいに細部にこだわるため、ゆっくりと味わって読まないと肝心なポイントを飛ばしてしまい、結果として意味がわかりずらくなる。ただ、最後の展開を読み始めるとその細部にこだわった理由が良くわかる。手が込んでいるのだ。いわゆる隠し味の利いた味わい深い料理に似ている。徹底したスローフードである。この作品も英国諜報部の中に潜り込んだ「もぐら」、いわゆる二重スパイをスマイリーが追い詰め探し出すと言う展開だ。このモグラによって完膚なきまでにソ連諜報局のボス、カーラに叩きのめされた英国諜報部、いわゆるサーカスをスマイリーが立て直し、カーラに逆襲するこの3部作の始まりだ。ルカレの作品は出るたびに世界的にベストセラーとなると言われている。一方、読み始めの退屈感はきっと誰もが感じるはずだ。と言うことは、世界中にそのスローフードの醍醐味を知るマニアックなファンがたくさんいるということであり、小生も間違いなくその一人である。 | ||||
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この作品は1987年ごろに一度読んでいる。スマイリーの活躍を描く3部作の第一作として非常に面白かった記憶はあるものの、細部の描写や筋書きはあまり覚えていない。そこで今回また20年ぶりに再読。ルカレの作品は評論家が言うように非常に展開が遅く、退屈なくらいに細部にこだわるため、ゆっくりと味わって読まないと肝心なポイントを飛ばしてしまい、結果として意味がわかりずらくなる。ただ、最後の展開を読み始めるとその細部にこだわった理由が良くわかる。手が込んでいるのだ。いわゆる隠し味の利いた味わい深い料理に似ている。徹底したスローフードである。この作品も英国諜報部の中に潜り込んだ「もぐら」、いわゆる二重スパイをスマイリーが追い詰め探し出すと言う展開だ。このモグラによって完膚なきまでにソ連諜報局のボス、カーラに叩きのめされた英国諜報部、いわゆるサーカスをスマイリーが立て直し、カーラに逆襲するこの3部作の始まりだ。ルカレの作品は出るたびに世界的にベストセラーとなると言われている。一方、読み始めの退屈感はきっと誰もが感じるはずだ。と言うことは、世界中にそのスローフードの醍醐味を知るマニアックなファンがたくさんいるということであり、小生も間違いなくその一人である。 | ||||
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初めて本書を読んだのは随分以前になりますが、非常な衝撃を受けて以来何度も三部作を通して読んでいます。 結末は当然わかっているのだけれどもそれでも再読しながら毎回興奮するのは、登場人物たちの心の動きを感じるのがとてもスリリングだからです。例えば、通常の推理小説というのは犯人探し等の結論に向かって行くのかもしれませんが、ル・カレの作品は極論すれば犯人がわかっていても、網の目のように絡まった人間関係を描き出すことによって、人間社会の不思議さと不条理さを描き切っているとも言えます。 最近英国BBCのDVDを買い、アレック・ギネス扮するスマイリーを見ました。英国人が心に抱くスマイリーはやはりこういう感じなんだな、と妙に納得しました。本書もDVDも私の生涯の宝物です。 | ||||
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初めて本書を読んだのは随分以前になりますが、非常な衝撃を受けて以来何度も三部作を通して読んでいます。 結末は当然わかっているのだけれどもそれでも再読しながら毎回興奮するのは、登場人物たちの心の動きを感じるのがとてもスリリングだからです。例えば、通常の推理小説というのは犯人探し等の結論に向かって行くのかもしれませんが、ル・カレの作品は極論すれば犯人がわかっていても、網の目のように絡まった人間関係を描き出すことによって、人間社会の不思議さと不条理さを描き切っているとも言えます。 最近英国BBCのDVDを買い、アレック・ギネス扮するスマイリーを見ました。英国人が心に抱くスマイリーはやはりこういう感じなんだな、と妙に納得しました。本書もDVDも私の生涯の宝物です。 | ||||
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ル・カレの作品には不思議な魅力を湛えた人物がよく登場しますね。作者自身イギリス情報部で働いていたことがあったそうですが,これまで出会った沢山の個性的な人物が作品にも投影されているんだろうと思います。この作品冒頭から(主人公より前に)登場するジム・プリドーも素敵ですね。寄宿学校の臨時教員として斡旋されてきたのだが,前歴は詳細不明。学校当局はうさんくささを感じているが本人はあっというまに生徒の信望を集めて,そしていつのまにか自分の周辺を「監視し,見守る」,こどもによるネットワークを築いてしまう(その子供達もまた見事に描かれています)。彼はなにを怖れ,何から身を守ろうとしているのか?そのジム・プリドーの物語は,主人公のジョージ・スマイリーがイギリス情報部に潜んでいる二重スパイ探しの秘密の探索(彼はすでに退職しており,二重スパイは現役で要職にあるらしいのです)と平行して語られ,いつしか二つの物語はからまっていくのですね。3部作の竿頭を飾る作品で,ソ連の情報組織の長とされるカーラなる人物もスマイリーの口から詳しく語られます。スマイリーの,そしておそらくはカーラの,そしてもしかすると作者自身の冷戦に対する見方がさりげなく述べられていますが,それが今も全く色あせるものではないのが見事です。 よい小説を読む楽しみを十分に味わわせてくれる本です。 | ||||
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