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ヘラクレスの冒険
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ヘラクレスの冒険の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.16pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全19件 1~19 1/1ページ
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短編集です。いつもは登場人物の深い描写に引き込まれるクリスティー作品ですが、今回は短編集なので、それほど脇役の心理も設定も深掘りせずさらっと流して、颯爽と事件を解決するポアロ。物足りない向きもあろうかと思いますが、でも、暗くならずに楽しく読めます。眠る前の軽い読書にぴったりです。 | ||||
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短篇集として考えると戦後の1947年の出版だが、雑誌掲載はドイツとソ連がポーランド侵略を開始して間もない頃に始まった。ポーランドと相互援助条約を結んでいたイギリスもすぐに対独宣戦布告を行ったが、いわゆるまやかしの戦争期で一般の英国市民はまだ戦時下の意識があまりなかった頃だ。本作を構成する短篇の連載中に、近年クリストファー・ノーランの映画で話題になったダンケルク撤退作戦 (1940.5.26~6.4)が実施され、バトル・オブ・ブリテン (1940.7.10~10.31)やザ・ブリッツ (1940.9.7~1941.5.10)へと戦局は進んでいった。 著者の執筆タイミングはわからないが、本作に戦争の影響は感じられない。 本作以後にポワロは引退して『アクロイド殺し』に繋がるのだからあたりまえかw【注1】 彼が最後に活躍する『カーテン』が、執筆≒作中時期と仮定して1943年である。 ところで、クリスティ作品に対するわたしの駄文に毎度登場頂いて恐縮だが、霜月蒼の本作への評価は高い。中篇集『死人の鏡』や幻想小説味の強いものを除いて、謎解きミステリ短篇集の中では本作が唯一のAクラスだと書いている。 わたしも『ポアロ登場』や『教会で死んだ男』に較べて本作のほうが少々出来がよいとは思うが、評価の程度は若干異なる。前掲の短篇集に収録された作品がB、Cクラスで、本作のそれがAクラスだと持ち上げるほどに差が大きいとは思わない。例えば彼が本作でフェイバリットのひとつとして挙げた「クレタ島の雄牛」は、『教会で死んだ男』に収録された「呪われた相続人」とほぼ同じプロットが再利用されていて、出来栄えの差だってあまり感じなかった。 霜月蒼は、本作の諸短篇の同時期に幾つかの長篇の傑作があることを挙げていて、つまりは著者の小説技法の上達を(本作の出来のよさの)理由にしている。 具体的には、収録作品のバラエティの豊富さを挙げていて、そこにはわたしもまったく異論はない。 しかし、それは小説技法の向上によるものではなく、別のことに大きな要因がある。ずばりヘイスティングスがいないことだ。 彼が遠く南米に去り、彼視点ではないからこその場面設定の自由さが大きい――というか、すべてではないか? 秘書のミス・レモンや助手のジョージがたまに登場することはあっても、彼らがしゃしゃり出たりアホアホ光線を発射することはないしw 【注1】どうもそうではなく、『アクロイド殺し』後に一旦探偵業に復活しているようだ。 | ||||
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小話のような短編の推理モノがたくさん読めて楽しかったです、1つ1つの話がまとまりが良く読みやすかったのでお勧めです | ||||
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一二篇からなる短編集です。 デビッド・スーシェのポワロシリーズのドラマを見てから読みました。 映像を見てから原作を読むようにしているので。 あのドラマは度々原作よりも面白くなっています。 この「ヘラクレスの難行」もそうです。 とはいえこの原作が面白くなかった訳ではなく。 短編集なのでサクサク読めてお勧めです。 終わり方がどれも洒落ていると感じました。 | ||||
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短編は短すぎて中身があまりしっかりしてなさそうと思い、全くノータッチでした。 まさかこんなに面白いとは… 寝る前にkindleで楽しんでいます。 | ||||
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再読です。相変わらず楽しめました。ただ、初心者の読者には同じクリスティの「火曜クラブ」の方がおススメです。 クリスティの作品の多くは会話で構成されているため、長編でも読み易いですが、短編、とくにこの作品はポワロの性格や背景を知らないと十分に楽しめないと思います。数冊ポワロの長編を読了されてから本作品を楽しんでください。 | ||||
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ドラマを見てから書いました。ドラマはダイジェスト版だったので、原作を読めてよかったです。 | ||||
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ポアロ物の短編12作を収録。いずれも好編揃いで、ポアロを代表するだけでなく、クリスティの全短編集の中でもベスト3に入る傑作といえるでしょう。 普通に読んでも十分楽しめると思いますが、できれば原題でもある“The Labours of Hercules”、すなわちギリシャ神話の英雄ヘラクレスが行ったとされる“12の難業”について前もって知っておくと、より面白さが深まるはずです。それぞれのエピソードのモチーフをどう料理したか、ストレートな場合もあれば、喩えや見立て、ユーモラスなアレンジなど、実に多彩で、ここに単なるミステリーの作り手を超えた作家としてのクリスティのセンスが表れています。なお、ハヤカワミステリ文庫版では、巻末に訳者による“12の難業”解説が付されており、読者の理解を手助けしてくれていました。ネット時代の今となっては不要と考えたのか、クリスティー文庫版にはこれがありません。よくまとまった解説であっただけに惜しまれます。 本書収録の12作は、いずれもThe Strand Magazineにて、1939年11月から1940年10月まで、11ヶ月連続で掲載されました。ポアロ物短編としては、第40作から50作に該当します。……と聞くと、“12の難業”なのに11しかないじゃないか、というご指摘が出そうですが、これは最終作「ケルベロスの捕獲」に関し、The Strand Magazineが掲載を断ったためです。このときのボツ原稿は、後に発見され、現在『アガサ・クリスティーの秘密ノート(上)』に収録されていますので、興味のある方は、そちらもご一読ください。本書に収録されている「ケルベロスの捕獲」は単行本化に際し、クリスティが新たに書き下ろしたバージョンであり、また同時に全体の序章にあたる「ことの起こり」も書き足されました。これにより、『ヘラクレスの冒険』は完全形態となって世に出ることができたのです。 ところで、本書で扱われるエピソードは、ポアロが引退を決意し、その前に自身のクリスチャン・ネームであるヘラクレス(エルキュールはそのフランス語読み)に因んだ12の事件を引き受けようと考えたことから始まるのですが、その後何作もポアロ物が書かれているため、不可解に思う方もいるかもしれません。 ポアロの引退については、初期の『ビッグ4』から繰り返し言われており、それでも結局辞めないのですが、これはポアロを嫌って早く書くのを止めたかったクリスティと、それを許さなかった読者や出版社とのせめぎ合いの結果といえるでしょう。とはいえ、この連作短編集が書かれたのは、第二次世界大戦が始まる直前の、非常に緊張した時代で(単行本になって発刊されたのは戦後の1947年)、クリスティ自身、戦争で命を落とすこともあり得ると考えていた頃ですから、引退という言葉は現実味もあったのです。デヴィッド・スーシェがポアロを演じたTVシリーズ『名探偵ポアロ』では、そうした経緯を尊重したのか、「ヘラクレスの難業」を最終回「カーテン」の1つ前に放送しています。 以下、収録作品の簡単なレビューを付します(「ことの起こり」は省きます)。 ネメアのライオン 巻頭を飾るのは、日常に溶け込んだ巧妙な犯罪とその顛末。ユーモラスな筆致の中に、階級社会である英国の一面と、その中でしたたかに生きる使用人階層の姿が描かれます。秘書のミス・レモン、従者ジョージが登場します。 レルネーのヒドラ クリスティが得意とした家庭内のいざこざ物で、そこにマープル物を彷彿させる村の噂話という要素が取り込まれています。犯人の心理がいかにもクリスティ的。ジョージが本職の探偵さながらの活躍を見せます。 アルカディアの鹿 とても印象的な愛の物語。犯罪を描かずに、これほどリリカルで美しい話を綴れるのが、クリスティという作家の真骨頂。少々童話的ながらも、それを迷わずに描き切ったことで心温まる幕切れを味わわせてくれます。 エルマントスのイノシシ 孤立した雪の山荘物。トリックや犯人の意外性はもちろん、クリスティにしてはややブラッディな要素もあり、その一方でユーモアも抜かりなく入っています。本書の中でもエンターテインメント性の高い一編です。 アウゲイアス王の大牛舎 政界のスキャンダルを扱います。興味深いのはポアロがもみ消し工作というダーティ・ワークをすること。硬直した遵法主義ではなく、時に法律を超えて自己の心の声に従うこともある、ポアロの一面が現れています。 ステュムパロスの鳥 人肉を喰らうという怪鳥を何に喩えたかが読みどころ。ポアロが出てくるのは、終盤の4分の1ほどですが、そこから快刀乱麻を断つが如き活躍を発揮。ビターなユーモアが効いたラストも見事です。舞台となっているヘルツォスロヴァキアはバルカン半島にあるという架空の小国。『チムニーズ館の秘密』にも登場します。 クレタ島の雄牛 エリザベスI世時代から続くという名家を舞台にしたサイコサスペンス色の強い作品で、テーマは狂気が流れる血統。全編中でもひときわ重く影のある物語が展開し、残酷で哀切なラストへと向かっていきます。 ディオメーデスの馬 手がかりを追っていくうちに謎が解けていくという刑事物風の一編。麻薬取引を扱っており、その方法も含めて犯罪自体はかなり悪質ですが、恋愛要素を上手く絡めて、ソフトかつハートウォーミングにまとめています。 ヒッポリュテの帯 タッチは軽めながらも、絵画盗難事件と女子高生失踪事件という2つの謎を扱った本格物。終盤、名門女子高での描写がなんとも楽しいです。短編では「厩舎街の殺人」以来となるジャップ警部が久々に登場します。 ゲリュオンの牛たち 怪しげな新興宗教団体に隠された秘密を潜入調査で探る物語です。依頼主兼潜入役を務めるのは「ネメアのライオン」に登場し、ポアロも一目置く中年女性ミス・カーナビイ。前話に続いてジャップ警部も顔を見せます。作中、教祖はドイツから追放された人物で、悲しみも苦しみもない平和な理想世界を解くという設定が出てきますが、ドイツでヒトラーが台頭している頃に執筆されていることを考えると、なかなか示唆的です。この流れで、本来掲載される予定だった版の「ケルベロスの捕獲」を読むと、印象が変わってくるかもしれません。 ヘスペリスたちのリンゴ いわくある美術品の盗難事件を扱いますが、謎解き要素は薄く、それを通して、幸福とは何なのかを問うことに主眼が置かれています。静的なドラマの中に、クリスティの人に対する見方が伺える、味わい深い一編です。従者のジョージがワンシーンだけの端役として登場します。 ケルベロスの捕獲 <地獄>という名のナイトクラブを舞台に、ポアロがスコットランドヤードと協力して麻薬密売人を追い詰めます。ミス・レモン、ジャップ警部、さらにはポアロの永遠の憧れの人、ヴェラ・ロサコフ伯爵夫人が登場し、大団円を盛り上げます。ラストでミス・レモンが見せる態度は必見。遊び心満載の本作を飾るに相応しい幕切れをもって、“12の難業”は完結します。 | ||||
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多少こじつけとも感じられるが、ヘラクレスの12の難行になぞらえた12の事件。 ポアロの頭脳的な策略や、ヒューマニズムを感じさせる心にくい解決手法が味わえる作品集。 人生相談や身の上相談、教訓話といった、ポアロよりもパーカー・パインが登場した方がふさわしいと感じる話が多いが、楽しめた。 特に、予想外の真相に驚かされる「ステュムパロスの鳥」と「クレタ島の雄牛」、ポアロがトリックを仕掛ける「アウゲイアス王の大牛舎」が面白い。 「ネメアの谷のライオン」 人間の認知機能の限界をうまく扱っている。 「レルネーのヒドラ」 事件関係者の聴き取り調査でポアロは違和感を感じ、犯人に気付く。 「アルカディアの鹿」 愛する人を探してほしいという、雲をつかむような青年の依頼をかなえるために奮闘するポアロ。愛する人は意外なところに。 「エルマントスのイノシシ 」 凶悪な殺人犯と一緒に雪の山頂ホテルに閉じ込められたポアロ。 誰がその凶悪犯か? 「アウゲイアス王の大牛舎」 ポアロの策略が鮮やかに決まり、政界のスキャンダルを見事解決。 「ステュムパロスの鳥」 ステュムパロスの鳥とは誰のことか? 予想外の真相に驚いた。 「クレタ島の雄牛」 狂人の血統とは、そのことだったのか。 「ディオメーデスの馬」 麻薬を扱っている影の人物とは? 「ヒッポリュトスの帯」 名画盗難事件と女学生の失踪事件とのつながりの謎。 絵がどのように処理されたのか、良くわからなかった。 「ゲリュオンの牛たち」 ミス・カーナビが再び登場し、新興宗教の教祖を相手に活躍。 「ヘスペリスたちのリンゴ」 酒盃を取り戻したポアロが、依頼者に要求したこととは? 「ケルベロスの捕獲」 麻薬の意外な隠し場所。 | ||||
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12編の短編すべてにポワロが登場する。 どれもおもしろいが、『ケルベロスの捕獲』がおもしろい。ロサコフ伯爵夫人が登場する。 夫人は『二重の手がかり』、『ビッグ4』に出てきたあの人だ。 神話のケルベロスは三つの頭を持つ犬の化け物だ。 ヘラクレスは冥界に入っていってケルベロスを捕まえる。 ケルベロスは地上で太陽の光を浴びるとよだれをたらす。 よだれから毒草トリカブトが生まれる。 ロサコフ伯爵夫人も犬を飼っている。偶然夫人と再会したポワロはどこに行けば会えるかと聞く。 夫人は「地獄」と答える。夫人は「地獄」という高級ナイトクラブを経営していた。 | ||||
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ポアロが自らのクリスチャン・ネーム「ヘラクレス」にかけて十二の事件に挑む短編集です。最初期の「ポアロ登場」を読んでいたときにも抱いた感触なのですが、クリスティは非常にテンポがよく、読みやすいのにひきかえ、あまり印象に残る短編がないように思えます。この巻でも、ポアロは引退前の最後の「難業」として、捜査にとりくんでいますが、それほどの事件はありません。日本ミステリ界の巨匠法月倫太郎氏はこの連作をモチーフにした作品を発表しておられますが、あちらのほうが本格度は大分上です。もちろん、さまざまなテーマを扱ってはいるのですが… 早い話が、うすくち、です。 とはいえ、さすがはミステリの女王というだけはあってどのテーマにしろきれいに料理してくれています。個人的には「スチュムパロスの鳥」がおもしろかったです(各話のタイトルは全部ギリシャ神話にならっているそうです。)まあ、ご都合主義といえばご都合主義なのですが…次点には「クレタ島の雄牛」でしょうか… とにかく楽しませてくれること請け合いの短編集です。good!でした。 #直接関係はないことなのですが、ポアロ、引退すると言っておきながら、最後の「ケルベロスの捕獲」にもそのような描写がいっさいでてきません…… 実をいうとポアロ物に詳しくないのですが、他の巻で何か触れられたりしているのでしょうか?できれば、どなたかご教授ください# | ||||
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最近読んだ、「ミステリの美学」収録の評論「編集者のノートから」(エラリー・クリーン著)で、世界で最も有名な探偵の一人、エルキュール・ポアロの「エルキュール」は、ギリシア神話の神「ヘラクレス」のフランス語読みだということを知りました。 本書は、引退を考えているポアロ探偵が、ヘラクレスが取り組んだ12の難業(いわゆる「ヘラクレスの冒険」と呼ばれているもの)にちなんだ事件に取り組むというもので、その難業を題名に冠した12編が収録されています。 少年の頃から、本書の題名は知りつつ、「なぜ、ヘラクレス?」と思いながらも、未読であったものです。 お恥ずかしながら、エルキュール=ヘラクレスとは、知りませんでした…。 題材となる事件は、殺人事件だけでなく、盗難事件や、失踪事件などバラエティーに富んでいて、著者の作風らしく、血なまぐさい感じのない、英国風のユーモアに満ちた物語です。 もっとも、ミステリも長年読んでいるためか、単なる「犯人探し」「トリック当て」として読んでしまうと、結末が想像できる作品もありました。 しかし、本書の最大の魅力は、「ヘラクレスの難業」がどのように「事件」に関連づけられているか、ということ。 しかも、結末が想像できるといっても、それぞれ一工夫あり、さすが、ミステリの女王の作品だけのことはあります。 各作品は、物語としては、それぞれ完結していますが、時系列的にユルくつながっています。 ある短編で海外に行った帰りに、次の事件に出遭うとか、前の短編の登場人物が、後の短編に登場するとか…。 著者の作品には、マザー・グースの歌詞になぞらえた「見立て殺人」を扱った作品がありますが、本書の発想も同じでしょう。 ただ、「ヘラクレス」とは似ても似つかない「ポアロ」が自分なりの「ヘラクレスの冒険」を実行するという趣向がユーモラスで、楽しめる作品集だと思いました。 (※コメント欄に、収録作12編の事件の概要を掲載しました。ネタバレではありませんが、白紙の状態で読みたい方は、読了後にご覧ください。) | ||||
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正直、翻訳が拙くてとても読み進めることができませんでした。 安い映画の字幕を延々とつなげたような文で、クリスティーの理路整然とした プロットすら崩れて見えます。出版社が何故わざわざ新訳を出そうと考えたか わかりません。購入するなら、高橋豊氏の訳した中古本の方をおすすめします。 | ||||
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ギリシャ神話の英雄ヘラクレスと同じクリスチャン・ネームを持つ我らの名探偵エルキュール・ポワロが、ひょんなことから有名な<ヘラクレスの12の難行>にあやかった12の事件を引き受けることを思いつきます。そんなわけで本巻は、怪力でなく灰色の脳細胞を武器とする<ベルギーのヘラクレス>の事件簿という趣向で12の短編が収められたオムニバスものです。 ミス・マープルシリーズのオムニバスものである『火曜クラブ』に似た所があり、どの話もかなりコンパクトにまとまっていて、読者がじっくり推理するというよりはクリスティの洒脱な会話の妙やミスリードの上手さに気持ちよく引き込まれて騙されるのを楽しむ、というタイプの作品かと思います。 個人的なお勧めは何と言っても最終話『ケルベロスの捕獲』。テレビ版の『メソポタミアの殺人』や原作のはしばしで名前だけが出てくるポワロの想い人・ロサコフ伯爵夫人の実物(?)が登場します。 私は今まで20冊程ポワロシリーズを読んできましたが、この話ほど、我らのポワロが普通の人に見えたことはありませんでした。特に伯爵夫人に贈るバラの花束のことをミス・レモンに突っ込まれた瞬間ポワロが顔を真っ赤にするくだりは、もう何と表現すべきか、何とも・・不思議なショックを受けました(笑)。ホームズはまさに恋愛できない理知の塊タイプの探偵ですが、ポワロは自慢癖といい潔癖症といい、パンチの効いた伯爵夫人への恋心といい、頭脳は人間離れしていても所々人間味豊かで面白いですね(ホームズも好きですけど!)。 | ||||
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エルキュール・ポアロの“エルキュール”という名前は、ギリシャ神話に登場する“ヘラクレス”のフランス語読みにあたります。そのことに興味を引かれたポアロが、あたかもヘラクレスが十二の難業を成し遂げたように、十二の事件を手がけることにした、というところから、話がはじまる短篇集。おしまいの短篇「ケルベロスの捕獲」を除いた十一篇がまず、『ストランド・マガジン』誌の1939年9月号から1940年9月号に連載され、おそらくは話の内容により掲載されなかった「ケルベロスの捕獲」が、全く別の話に変わって追加され、『ヘラクレスの冒険』として出版されたのが1947年の9月だった、という経緯がある作品集です。この辺の事情は、『アガサ・クリスティーの秘密ノート』の上巻に記されています。 ひとつひとつの短篇はそこそこ楽しめるという程の小粒なものですが、舞台がヨーロッパのあちこちにまたがる国際色豊かなもので、ポアロという探偵が“ヘラクレスの難業”にちなむ事件にあたるという統一性があるせいでしょうか。作品の雰囲気に調和とセンスがあって、全体としてとても読み心地のいい短篇集になっていますね。ポアロものの名作と引っかけて言わせてもらえば、ちょうど、かの有名なオリエント急行に乗車して、様々に変化していく窓外の景色を眺めながら、卵型の顔にぴんとはねた口髭の小男(コンパートメントに相席していた、不思議な存在感を持った人物!)が活躍する探偵譚に耳を傾けている、とでもいった感じ。なかでも、「ネメアのライオン」「アウゲイアス王の大牛舎」「スチュムパロスの鳥」「ヘスペリスたちのリンゴ」の事件が面白かった。 それと、おしまいの「ケルベロスの捕獲」は、この第二バージョン版よりも、当初、雑誌に載るはずだった初期バージョンのもの(『アガサ・クリスティーの秘密ノート(上)(ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』に収録)のほうが、インパクトがあって魅力的ですね。この初期バージョン「ケルベロスの捕獲」からさらに、フリッツ・ライバーのSF短篇の逸品「あの飛行船をつかまえろ」(『20世紀SF〈4〉1970年代―接続された女 (河出文庫)』所収)を読んでみると、なかなか風変わりでスリリングな本の旅ができるかも。 | ||||
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クリスティのマイベスト10に入れたい、短編を体系的にまとめた作品です。 ひとつづつの事件は、必ずしも殺人があるわけではない。 必ずしも犯人がつかまるわけではない。 ヘラクレスの物語になぞらえた事件設定と、ポアロの人間性が現れている。 本書の、解説に書かれている 「著者を通しての、イギリス人の考え方やその他の国々の人たちに対する歴史認識、思想、政治や人種に対する思いなどもまた、やはりある年齢に達しないと面白がれないのではないかと思う。そうでないと、ただ予想外の犯人や驚天の犯行動機、奇想天外のトリック、そして鬼も泣く探偵の推理などに目が奪われるばかりで、クリスティ特有の深みを享受することは難しい。ことに食べものや飲みものに対する好みや道具類、服装などに対する薀蓄、たとえばポアロやミスマープルたちに生かされているそれらを十分に味わうには、やはり読む側にも受け入れる素地がないと」 という文章は、クリスティの楽しみ方を示唆していると思われた。 イギリスでの生活もしたことがなく、 クリスティが書いた年齢にも達していない人間には、 映像を通じて、読む側にも受け入れる素地を醸成するのも手だと確信した。 | ||||
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ヘラクレスの十二の難業になぞらえた十二の事件を、 ポアロが解決していく、という洒落た趣向の短編集です。 巧みにギリシャ神話と、事件のテーマが組み合わせられています。 ポアロがイギリス国内に留まらず、世界各国をまたにかけ、 活躍しているのも、変化に富んでいて面白いです。 予想外だった話が「レルネーのヒドラ」・「スチュムパロスの鳥」・「クレタ島の雄牛」でした。 「アルカディアの鹿」は、純粋な青年の恋の行方を描いたもので 一番好きな話です。「ヘスペリスたちのリンゴ」は、 事件の展開も意外なら、話の終わり方も「ああ、そう終わるんだ」 と関心させられました。最後の「ケルベロスの捕獲」は、 ポアロの恋物語になっています。 | ||||
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この作品の導入で、ポアロが引退後の趣味としてある野菜の栽培を語っている箇所が、昔から気になっていた。 ハヤカワ文庫旧版の高橋 豊氏の訳では「ナタウリ」、本書の訳では「カボチャ」となっているが、前後の記述との違和感があった。 原書をあたってみると、「vegetable marrows」であった。Wikipediaによれば、「vegetable marrow, a variety of squash, or a large courgette (zucchini in US English)」であり、現在であれば「ズッキーニ」と訳するのが適切だと思う。少なくとも、「カボチャ」はあまりにも乱暴である。「ズッキーニ」ならば、「taste of water」との表現や、調理法の描写とも一致する。 長年の疑問が氷解したのはうれしいが、今回の新訳には異議をとなえたい。旧版は昭和51年初版であり、ズッキーニなど恐らく日本で流通していなかった時代を考えると、植物学的に正しい「ナタウリ」との訳は適切といえる。しかし、ズッキーニが普及している現在の訳として、「vegetable marrows」を「カボチャ」と訳するのは訳者の怠慢に思えてしかたがない。 その他、全体として訳文が冗長で、日本語としてのリズムが良くないと感じた。機会があれば、旧訳をお読みになる事を強く勧めたい。 | ||||
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エルキュール・ポアロが挑む、バラエティー豊かな12の難事件。ゆすり事件に巻き込まれた若手政治家の話や、ある人物が2つの事件に登場し、ポアロの指示で潜入捜査をする話などが収められています。ポアロの活躍がたっぷり楽しめる一冊です。 | ||||
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