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卵をめぐる祖父の戦争
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卵をめぐる祖父の戦争の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.64pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全69件 61~69 4/4ページ
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レニングラード包囲戦の時代的背景、市民の戦争被害、レフとコーリャの友情、兵士の死、など本書のメインテーマに関しては他のレビューにゆずり、私は印象に残ったエッセンスについて書きたいと思います。 主人公のレフの父親は、チェスの市チャンピョオンでレフは小さいころからチェス・クラブに通っていました。6歳のとき指導者に才能があるといわれて、ジュニアの上位選手としてレニングラード州のトーナメントに出場してはメダルを獲得していました。しかし、14歳にときに自分はいいプレイヤーであるが決して偉大なプレイヤーにはなれないと悟り競技から離れてしまいます。優れたプレイヤーは自分でもうまく説明できない方法で局面を理解して、思いつくままに局面を分析し自分が優位に立つすべを心得ているが、レフにはそうした直観力がなかったことを悟ったのでした。どんなに努力をしても仲間は手の届かない遥かかなたに行ってしまいました。 人は誰でも自分の能力の限界を思い知らされる瞬間が訪れます。それは日ごろ努力を重ねている人ほどその機会は多いと思います。努力をしていなければ自分の限界を知ることもないからです。そのときは人はどうするかということをそのとき考えてしまいました。そのときの年齢にもよりますが、いずれにしても大きな選択を迫られることと思います。しかも志の高い人ほどその決断はつらいものになるのだと思います。 終盤クライマックスでレフの経験が大きな役割を果たす複線となる場面なのですが、努力と才能、その努力が人生に及ぼす影響についてひとり大きくうなずいてしまった場面でした。 | ||||
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さすがは人気の映画<ウルヴァリン>の脚色に携わったことのあるベニオフ、主人公2人の関係距離感に 「スター・ウオーズ」の人気コンビを取り込んだかと、勝手に感心している次第。(アーベントロートという<ダースベーダー> も登場するし、ただし会話の多くが下ネタなのが、ひねりなのか...) 思わす二台のロボットが、とぼとぼと砂漠の惑星を(下ネタで盛り上がりながら)彷徨う姿を思い描いてしまった。 それほど映画的というか、読書していて情景、場面を思い浮かべられないということが皆無で、非常に 細部の<きっかり>とした、題名からはとても想像の付かぬ痛快なスリルに満ちたエンターテインメント冒険小説でした。 私的には満足の☆5.5。こんな本をまた、すぐ読めれば幸せなのだが... この本がこれほどの面白本となったのは翻訳の貢献も大きいと思う。 読んでいて<おッ、とッ、とッ..>と突っかかる場面が全く無かった事がうれしい。 <ただ、P215 この時代レギンスてあったのか?どうでもいいか...> 話は全く違うのだが、「fallout」( とくに3)というTVゲームをご存知だろうか? 防核シェルター生まれの少年が、突如姿を消した父親をさがして、アメリカと中国の核戦争で壊滅したワシントンの街を 彷徨い冒険するという米国産PPG。生きぬく為には、悪人となり盗みもスリも働くし、必要とあらば恩人も殺す、奴隷商人と 取引もする、という私にとっては驚愕の18禁のゲームなのだが(ご存じなく、興味ある方は、そちらのレビューも読んで見ては...) 本書を読んでいて、崩壊しつつあるレニングラードを徘徊する<食人鬼>、少女を閉じ込める特別行動部隊の将校たち等の件にゲームとの類似性を感じた。 作者が映像業界人ということもあり、その辺りお互いに影響があったのでは、と勝手に想像したりして楽しんでいるのだが... | ||||
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素晴らしい小説だ。 この小説の素晴らしさは、歴史的事実を下敷きにしつつも、どこまでも普遍的な物語を語るその語りの力にある。だから、コーリャが語る物語を祖父レフが語るのを作家のデビッド(作者と同名だが実際の祖父の話ではなくフィクションらしい)が語るのを読者が聞くという入れ子構造になっている。さらに言えば、レフの父親は言葉の力によって体制側に殺された詩人でもある。 物語が語るのは、実際の戦争の場、包囲されたレニングラード(思わず、遠い昔に読んだはずの、作者も勧めている「攻防900日」を再読したくなった)という特異な場所で起こりえたかもしれないが語られなかった、戦争の残酷さ滑稽さ、その中に生きる人々の逞しさであり、歴史に刻まれなくても恐らくどこかで確実に起こったはずの、人生の1コマなのである。フィクションかどうかは関係ない。歴史的真実など存在しないのだから、語られる物語こそが生きる力でなくて何だろう。だからコーリャは語り続けるし、言葉少なく実際にはあまり語っていなかったレフが当時頭の中で考え続けたことが、今作家デビッドの言葉を借りて我々に伝えられることになる。当然その作り自体はフィクションなのだが。 物語の背景については他のレビュアーの方も書いているので、題について少し書きたいと思う。原題("City of Thieves" 「盗人たちの街」)を知ってみると、言語の違いはどうしようもないとはいえ、最初は邦題に対して違和感を抱かずにはいられなかった。いかに日本語として座りが悪く、この題が読者の興味を惹く上手い題であっても、やはり印象は違うし、レニングラードについての物語という作者の意図もずれてしまうように思ったのだ。ただ、それからいろいろ考えてみると、どんなに優れた小説であろうと、読まれなければ全く意味はないわけで、そう考えれば、原題からズレようが興味深い題をつける気持ちもわからなくはないと思うようになった(歴史的匂いを感じさせてくれなければ、現に私自身読まなかったかもしれないし)。「卵」と聞いて即座にロシアを連想するのは、非常に単純にファベルジェのインペリアル・エッグが頭にあるからなのだろうが、とするとこの邦題は秀逸だと言ってもいいのだろう。作者の意図どうのこうのではなく、邦題の価値は日本人の我々にいかに情報を伝えるかというところにあるのだろうから。 | ||||
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これまで油絵で独特の表紙を描いてきた勝呂忠氏が’10年3月15日に逝去されたのに伴い、伝統の「ハヤカワ・ポケット・ミステリ」が新カバー、大きな活字でリニューアルされた。本書はその第1弾で、全米大絶賛という触れ込みの歴史エンターテインメントである。 時は第二次大戦下の1942年1月、ドイツ軍によって包囲されたレニングラードでは人々は窮乏と飢餓の極地にあった。当時17才だったレフは、夜間外出禁止令違反と略奪罪で逮捕される。即死刑のピンチにあった彼は、獄中で一緒になった脱走兵のコーリャと共に、秘密警察の大佐から、その命と引き換えに、娘の結婚式のウェディングケーキの材料として卵1ダースを5日以内に持ってこいという、人を喰ったような、笑うに笑えない極秘命令を受ける。かくしてふたりの、卵を求めての一大冒険が始まる。 「ヘイマーケットの人食い夫婦がすりつぶした人肉でソーセージを売っていた。住んでいたアパートが爆撃で跡形もなく崩壊した。犬が爆弾になっていた。凍りついた兵士の死体が立て看板になっていた。顔半分を失ったパルチザンが悲しい眼を殺人者に向けて、雪の上で体をゆらゆら揺らしていた。」極寒の、しかも敵軍に包囲されたロシアで、ふたりは困難を極めるが、そんな中にあっても下ネタと文学談義と恋愛指南といったふたりの掛け合いは限りなく明るい。 著者の祖父であるロシア系ユダヤ人移民レフの懐古談の体裁で綴られる本書は、臨場感に溢れており、レフとコーリャの笑いとペーソスに満ちた友情と冒険を物語のメインに据えながら、戦争の悲惨さと愚かさを痛烈に風刺し謳った傑作である。 | ||||
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アメリカ人作家のデイヴィッドはソ連出身の祖父レフ・ベニオフの戦時中の体験談を取材する。 1942年、レフはドイツ軍によって包囲されたレニングラードに暮らす17歳だった。略奪罪に問われて拘束された彼は、少し年上の脱走兵コーリャとともにある大佐から密命を果たすよう命じられる。娘の結婚式のケーキのために卵1ダースを今度の木曜までに調達せよと…。 激しく愚かな戦争のさなかに、娘の結婚式のために卵を手に入れよという愚かな命令を実行する若者二人。その二人が卵探索の旅の途上で出会うのは、飢餓によってむしばまれた市民、戦争の犠牲となる犬、ドイツ兵の慰み者となる少女たち。二人の心が壊れてしまっても仕方ないような筆舌に尽くしがたい体験の数々が続きます。 馬鹿馬鹿しさを通り越してどこか滑稽で仕方ない物語の進展と、決して避けて通れない戦争の厳しく無残な現実。主人公二人の間に交わされるのはあけすけな性にまつわる話と文学論。 心の針が交互に両極へと振り切れる思いのする書です。 最後にレフのもとをある人物が訪れるのですが、それはおおよそ予定調和的であって驚きや新鮮味を感じさせません。ですが、胸を引き絞る体験の連続の果てに、このエンディングはほんのりとした温もりをひとつ残すものとして、この物語にはやはり必要なものであったとも感じます。 ただ、ロシア人もあきれると目をぐるっとまわすのでしょうか。あれはアメリカの女の子に特有の仕草かと思っていました。 | ||||
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戦時下のロシアで、ひとりの青年と、青年になりかけの少年が卵を探して旅に出る。命とひきかえに秘密警察から特命を受け、“卵1ダース”を求めてさまよううち、少年は極限状況に置かれた人間たちの姿を目の当たりにしていく。狂気、暴虐、死――、作者は第二次大戦当時のレニングラードの史実をふまえてこの物語を描いているのだが、数々のむごいエピソードを織り交ぜながらも、本書は主人公レフのナイーブなほどの感性と一見道化た青年コーリャのユーモアと懐の深い優しさを主軸に据えた、哀しくも可笑しい青春小説である。男ふたりの道中には恋愛、セックス、文学の話が飛び交い、表面上は反発しながらもレフがコーリャとの絆を深めていく様子がほほえましい。そしてすべてが終わった時に、喪ったものと残ったもの。戦争の残す傷跡の重みとともにラストは哀切がつのるが、作者はちゃんと人生の贈り物を用意している。 構成は作者同名の小説家が祖父の戦争体験談を聞き書きしたという体裁。どこまでがフィクションでどこまでが事実なのか、読後に読者を煙に巻くベニオフ、さすがハリウッドでは脚本家として活躍しているだけあり、映画にしてもさぞさまになるだろう小説だと想像する。見事にパズルのピースがぴたりとはまった、良質のエンターテイメント。 | ||||
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デイヴィッド・ベニオフは『25時』でも、また『99999(ナインズ)』でも語りのうまさがきらりと光っていたが、今回はまさに彼の真骨頂。抑えた文体はときにtongue-in-cheekでありながら、戦時のほろ苦い青春譚を切々とうたいあげる。おとぎ話と思って迂闊に不用意に読んでいると、戦争の残忍さに直撃される。(被爆国)日本に育った人間としては、当然小学校時代に戦争ものを読まされているが、この作品の衝撃度は感受性がまだみずみずしい子供の頃に読んだ作品にも負けず劣らずである。いや、こちらの方が上かもしれない。抑えた文体、皮肉なユーモア、実録ものと見せかけたおとぎ話仕立て、といくつか工作がなされているだけに、シニカルな大人の心もより深く直撃するので。心のやわいところを、グサリと。 三人の若者に巡り合わせてくれたベニオフに感謝するのみである。とくに、コーリャの元彼女のソーニャに命の輝きを見た。 | ||||
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すごく面白かった! 一気読みした! 1941年9月8日から1944年1月18日まで900日近くにわたって続いたレニングラード包囲戦は、100万人以上の市民が死亡し、大虐殺の一例として歴史の汚点となっているが、ドイツと枢軸国の関係にあったせいか、あるいは民主主義対社会主義の戦いと映るせいか、日本では知名度が低すぎるような気がする。 本書は極限状態のもと、不可能で無意味なミッションを命と引き換えに強要された二人の若者の友情・冒険物語だが、主人公が大人になっていく過程を描いた成長物語でもある。悲惨な状況にもかかわらず、17歳と20歳の青年らしく、話題はセックスのこと、排便のことから、文学、芸術、チェスにまで及び、微笑まされたり、笑わせられたりすることしょっちゅうだった。ことに、まるで主人公レフの守護天使のような友人コーリャのキャラクターは、天衣無縫、豪放磊落かつ繊細で、非常に印象に残った。 ストーリーも、これでもか、これでもか、と波乱万丈で、まったく厭きさせない。とくに、プロローグで、作者の祖父母は生き残ることがわかっているので、友人のコーリャは無事に済むのだろうかとハラハラしながらページをめくった。また、祖母になる女性は誰なのかと、女性の登場人物が現れるたびに、謎解きを楽しんだ。 これは、笑いとペーソスに満ちた極上のエンタテインメント小説だ。戦争の悲惨さと愚かさ、若者の逞しさと頼もしさ。ときに笑い、ときに涙し、小説の愉しさが存分に楽しめる一冊。お勧め! | ||||
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第二次大戦中のレニングラード。少年レフは敵の兵士の遺体から所持品を略奪し、当局に捕まってしまう。留置場で出会ったのが脱走兵の青年コーリャ。二人は五日以内に卵を一ダース探し出すという条件で命拾いをする。食料難にあえぐ町や敵軍が迫る最前線を行く二人をさまざまな困難が待ち受ける。やがてパルチザンと行動を共にすることとなり、レフはパルチザンの紅一点ヴィカに惹かれていく。終盤、三人はドイツ軍に捕らえられてしまうが、持ち前の度胸と知恵を発揮して絶体絶命の危機を乗り越えていく……。 ドイツ兵に囲まれ絶対絶命と思いきやパルチザンが現れたり、命がけのチェスの試合に臨んで仲間を救ったりと、主人公が何度も危機を切り抜ける場面で、作者の筆の運びは冴えわたっている。一方、ひどい食料難や、知識人への弾圧、戦闘で犠牲となる一般市民など、悲惨な光景もリアルに描かれている。しかし、なんといってもこの作品の魅力は主人公二人のキャラクターだろう。反体制的とされた詩人の父を誇りに思い、思春期の少年らしく性的好奇心が旺盛なレフと、減らず口ばかりたたくが、実は小説を書きたいという繊細さも持ち合わせ、男の先輩としてレフにいろいろ教えてやろうとするコーリャのやりとりには何度もニヤリとさせられる。 | ||||
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