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照柿
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照柿の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.99pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全109件 101~109 6/6ページ
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読み始めるなり,ネチネチした,『青年の環』の野間宏ばりの文章に,辟易しそうになった。登場人物たちそれぞれが生きる世界が,かれらの五感にからみついてくるものとして,執念深くやや偏執的なまでに詳細に描かれる。それは,ねっとりと暑苦しく,呼吸のしづらいような世界で,己と世界にたいする根深い不快感と愛憎が,とぐろを巻いている。 おそらく人並み以上に理性的な作者は,刻苦のうえに,こうした描写を成し遂げたのであろう。作者は,テーマを大上段に観念的な形で提出しない。厚塗りの点描画のように,具体的な情念描写,情景描写を積み重ねることによって,描き出していく。作中人物たちにおいて,知性の働きはごくまれにのみ,キラリとかいま見える。意識的に,情念に偏向しているようだ。 読むのに抵抗感を覚えさせるこうした世界の提示に,あえて作者がこだわったのは,作者の資質によるものではなく,それをあえて選んで大切にしている証拠である。不快な情念にまとわりつかれた日々の些事にこそが,現実だからであり,またそれは,腰を据えて観想すべき「荒れ野」だからである。 人を愛せない,殻から抜け出すことができない,孤独に気づくとき,人は荒れ野にいる。あるいは,みずからの情念の暴走を知性が制御しえずに,苦しみのたうちながら流された果てに,呆然と荒れ野にたたずむ自分を見出す。そして,旧約聖書の昔から,人が神に出会うのは,荒れ野においてなのである。荒れ野にあってこそ,慈愛や善といった超越を,はるか彼方に求めることができる。それを,気晴らしや多忙でごまかしていては,人間の救済はありえない,というのが作者の思いなのではないだろうか。 作者の底力を見せつけられような,重厚で胸に残る作品であった。読後感は不思議にさわやかである。 | ||||
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中盤からようやく深いドラマなのだなあ、と思わされた。ストーリー性はほとんどない気がした。でもここに小説として存在する。言えば異色かもしれない。 駅のホームで男と女が絡み合い、一人の女が線路に転落。それを見た合田雄一郎は逃げた男を追いかけた。もう一人いた女を見ていた野田達夫は、久しぶりに見る自分の昔の恋人佐野美保子だった。合田と達夫は20年ぶりの再会を果たし、ここから達夫と美保子を中心とした人間ドラマが始まる。そして、出くわせてしまった合田も。 もう大分メジャーになった合田雄一郎シリーズ第2弾。この読み物に筋はあるのだろうか。淡々と2人の男女に焦点を合わせるだけ。その日々を順を追って綴られている。日記とも言えなくない。合田は別の事件で2人の被疑者を見極めていた。そのときに遭遇した3人。相変わらずのディティールで乃南アサ以上に酷な心理描写。それに前半つまずいた。しかし中盤から面白さを知ってからは一気に読めた。浅いかと思っていたんだが深い人間ドラマなのだ、と。その面白さに作家はなかなか気付かせてくれないのが憎い。 美保子は美保子で、ホームにいた夫の敏明を女性関係で憎んでいた。達夫は仕方なく結婚した今の妻より確実に美保子を愛してしまった。そして6年前に離婚を経験した合田さえもが。愛することとは果たして罪なのだろうか。どこまでが罪なのだろうか。問いかけのように思えた。書きたかったのはその罪と、愛したことの罰なのだろうか。この罰はあまりに痛くないか。このテーマを出すために長々と読んできた。十分面白いと思った。前作と比較は出来ないがこれは面白い。 タイトルの照柿は、達夫が工場で熟処理をしているときの色である。子どもの頃の図工の時間に書きたくて書けなかった色。そして、壮絶なラストで垣間見た故郷大阪での色。切なすぎた。 | ||||
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この冬「マークスの山」を文庫版、単行本の順に読み、合田刑事シリーズにはまってしまった私である。合田と森のコンビが、8月2日の電車で、偶然轢死事故を見るところからこの物語は始まる。女を弾みで電車の前に突き落としてしまった男。その男を亭主だという白いブラウスの女。合田は轢死した女を別れた妻貴代子ではないかと疑ったりしている。今回の合田は単行本版の合田の続きである。断じて文庫版の合田ではない。貴代子のことをこんなに女々しく思いつづけているのだから。この作品は表面は犯罪小説ではあるがそう思って読むと消化不良を起すこと必死である。「罪と罰」を探る暑い暑い夏の数日間であり、自分自身の「暗い森」の中で「呼び止めるべき人の影」を見出す物語なのだ。「罪」というは、法律の条文に現れた事象のみを意味するのではない。「罪」の自覚無しには「罰」は現れない。なんて自分かってな「恋」だったのだろう。自分を追い詰めるだけの「仕事」だったのだろう。いわばそういう私にもある自分自身の「罪」を自覚するまでの物語。実は私はこの作品をドフトエフスキーの「罪と罰」と並行して読み、読書ノートにまでとって読んだ。しかしそれてでもいまだにどう整理していいのか分からないでいる。今年100冊近く読んだ本の中でベスト3に残る作品になった。 | ||||
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じっとりとした夏の暑さの描写と工場の炉の暑さが見事にミックスして犯罪を盛立てる。この物語の中心をなすのはやはり炉の中で焼かれ、油冷で仕上げられる金属のあの色だろう。まるで熟した柿のような赤は人を狂わせるには十分な色だ。狂赤は夕日の色でもある。カミュの異邦人のごとく、暑さと視界の悪さが人を犯罪に駆り立てるのであれば、人生のあい半ばにして絶望の淵に追いやられた男は皆犯罪者になるのであろうか。 | ||||
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人間のどろどろした情念をのぞかせられる作品。 しかし、読んでいるうち、気が付くと、その情念は自分が日頃抱き、目をそむけているものだったりする。 少しずつ、心に何かが侵入してくる、そんな本です。お勧め。 | ||||
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まさしくマグマの如く、内より吹き上げてくる人間の性。 43時間の不眠の後に殺人を犯す主人公の一人。 たった3分の逢瀬をこの小説の中に凝縮してしまう著者のすごさ。 | ||||
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「レディジョーカー」や「マークスの山」を読んで、筆者の人間を描く筆力に惚れた人には最高の作品!高村薫の凄さだけを煮出して結晶化させたような作品です。ミステリー(?)に「殺人」はいらない。人間を描ききっているだけでも充分、というよりそれが本質ではないか。刑事という世界の中で人を愛して苦悩する想い、工業地帯の街で暮らす中で自分を見つめる想い。暑さや寒さが文章から伝わってくるような文章力に、「合田雄一郎」の体臭があわさって圧倒的な迫力を持っている。 | ||||
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前作「マークスの山」では、群像のなかの一人にすぎなかった合田刑事が単独で登場する。工場の職人であるもうひとりの主人公は、高炉の温度を火の色合いで判断できる熟練者であるが、仕事の積み重なりから焦りの感情が生まれる。公私ともに追いつめられていく主人公と、犯罪に絡んでいると思われる人妻に異常な関心を抱く刑事・合田という図式で動いていく。東京都下と言われてきた青梅線沿線新興都市、工場地帯の乾いた空気が行間から感じられ、暗い情念が読者に迫ってくる。本作で作者は合田刑事という特異な人物像を確立した。日常に潜む非日常への移行という恐怖も描ききっている。 | ||||
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高村薫作品全てに共通しているが、女性とはとても思えない程男臭い作風。 こちらまで、脇の下にじっとり汗をかいていそうである。 しかし、不思議な事に自称、男臭い不器用な男嫌いな私でもなぜか入り込める。登場人物は、工業地帯に住んでいて、決して楽しいとはいえないけれど、平凡な生活をしている。来る日も来る日も同じ事の繰り返し。そんなある日、元彼女を秘密のアトリエにかくまう事になるが、情熱的になるわけでもない。 心は冷めているが、何かが少しずつ変わっていく。 刑事と犯人というよりも、冷めた心の中に黒い塊のような爆弾を抱えている人間達が、淡々と描写される。シリーズの中で、照柿は合田刑事が最も人間くさい。一番好きな作品です。 | ||||
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