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照柿
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照柿の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.99pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全109件 81~100 5/6ページ
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10年以上前に単行本が出たとき読んだ作品ですが、今回例によって全面改稿ということなので再読しました。非行歴はあるものの社会人になってからは人並みに生きてきた野田達夫が殺人を犯すまでの過程と、達夫の幼なじみである合田雄一郎が達夫への嫉妬に駆られて刑事の道を踏み外していく様が、現在・過去、東京・大阪と舞台を変えながら丁寧に描かれていきます。達夫の狂気も雄一郎のエゴも、どうしてここまで書けるのかというくらい現実感があり、以前と変わらぬ迫力を感じました。大雨の中、達夫が公衆電話から雄一郎に電話をかけてくるラストシーンは感動的です。 | ||||
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おそらく万人が楽しめる小説ではないと思います。 描写も、ストーリーも、背景も、何もかもがドロリと濃密で、 文章から目が離せなくなるような引力があるわけではなく、どちらかといえば冗長な展開で 読み途中でも置いておけるのですが、 時間をおいて続きを読み出したときに、登場人物や背景や色や音や触感のようなものをすぐに思い出せるほど深い余韻が記憶にこびりつきます。 どこか達観した結末は腑に落ちるものの、登場人物には理解が及びきらず 読後感もあまりいいとはいえません。 そこも含めて濃厚な読み応えがあるとは思います。 あとがきでドストエフスキーに喩えられていましたので、サスペンスよりは人間の精神の彼岸に興味のある方(?)によりお勧めの作品だと思います。 工場の描写は下知識がなくとも想像するに足る描写がされていますので問題ないですが、 美術の知識が多少あった方がとっつきやすくなると思います。 ハードカバーの書評を読んで文庫化を待ちわびていたのですが 大幅加筆をする作家さんだったんですね・・・今度ハードカバーを別途読み直します。 文庫ではだいぶ描写を削いでいるらしいので、理解の及びきらなかった箇所が多少明らかになることを期待して。 | ||||
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おそらく万人が楽しめる小説ではないと思います。 描写も、ストーリーも、背景も、何もかもがドロリと濃密で、 文章から目が離せなくなるような引力があるわけではなく、どちらかといえば冗長な展開で 読み途中でも置いておけるのですが、 時間をおいて続きを読み出したときに、登場人物や背景や色や音や触感のようなものをすぐに思い出せるほど深い余韻が記憶にこびりつきます。 どこか達観した結末は腑に落ちるものの、登場人物には理解が及びきらず 読後感もあまりいいとはいえません。 そこも含めて濃厚な読み応えがあるとは思います。 あとがきでドストエフスキーに喩えられていましたので、サスペンスよりは人間の精神の彼岸に興味のある方(?)によりお勧めの作品だと思います。 工場の描写は下知識がなくとも想像するに足る描写がされていますので問題ないですが、 美術の知識が多少あった方がとっつきやすくなると思います。 ハードカバーの書評を読んで文庫化を待ちわびていたのですが 大幅加筆をする作家さんだったんですね・・・今度ハードカバーを別途読み直します。 文庫ではだいぶ描写を削いでいるらしいので、理解の及びきらなかった箇所が多少明らかになることを期待して。 | ||||
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高村薫の作品の中でこの作品が最も好きです。警察小説・犯罪小説としても読めるのでしょうが、人間誰しもが持つ心の闇や情念、狂気が織り成す極めて濃厚な青春小説ではないかと思います。この作品で主人公・合田雄一郎のもつ理性・欲望・情熱・狂気・論理が切ないトーンを伴って狂おしく迫ってきます。それは『マークスの山』にはなかった、真の合田雄一郎像です。それもこれももう一方の主人公である野田達夫の描写が極めて秀逸であるがために引き出されたものかもしれません。そしてもう一人、佐野美保子。どこにも救いがなく、暗く、しかし狂気を孕んだエネルギーはタイトルの照柿のカラートーンとなって完結します。全く素晴らしい作品です。 | ||||
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高村薫の作品の中でこの作品が最も好きです。警察小説・犯罪小説としても読めるのでしょうが、人間誰しもが持つ心の闇や情念、狂気が織り成す極めて濃厚な青春小説ではないかと思います。この作品で主人公・合田雄一郎のもつ理性・欲望・情熱・狂気・論理が切ないトーンを伴って狂おしく迫ってきます。それは『マークスの山』にはなかった、真の合田雄一郎像です。それもこれももう一方の主人公である野田達夫の描写が極めて秀逸であるがために引き出されたものかもしれません。そしてもう一人、佐野美保子。どこにも救いがなく、暗く、しかし狂気を孕んだエネルギーはタイトルの照柿のカラートーンとなって完結します。全く素晴らしい作品です。 | ||||
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かなり苦労して通読しました。警察小説は大沢在昌、横山秀夫のものが好きで結構読み込んでいますが、この小説を警察小説と捕らえると違和感が残ると思います。特に上巻はテンポが遅く、工場の工程説明に多大のページを費やしているので読んで行くのが苦痛になります。下巻でとんでもないカタストロフが待っているのですが、余りに理不尽、不条理、私がお人好しなのか読後感は最悪でした。鮫島警部や二渡警視に共感を覚えたような、読後の感動や一種の爽快感を味わうことはできませんでした。高村さんの才能はきっと遺憾なく発揮されているのでしょうが、読書を単純に楽しむ方には不向きの小説だと思います。 | ||||
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かなり苦労して通読しました。警察小説は大沢在昌、横山秀夫のものが好きで結構読み込んでいますが、この小説を警察小説と捕らえると違和感が残ると思います。特に上巻はテンポが遅く、工場の工程説明に多大のページを費やしているので読んで行くのが苦痛になります。下巻でとんでもないカタストロフが待っているのですが、余りに理不尽、不条理、私がお人好しなのか読後感は最悪でした。鮫島警部や二渡警視に共感を覚えたような、読後の感動や一種の爽快感を味わうことはできませんでした。高村さんの才能はきっと遺憾なく発揮されているのでしょうが、読書を単純に楽しむ方には不向きの小説だと思います。 | ||||
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高村薫の単行本 照柿は1994年に出版された。その際の衝撃は 単行本のレビューに書いたものである。12年を経て 全面改稿されて文庫で本書が出た。 高村は 単行本を文庫化するに際し 書き直すという作業をほぼ毎回行っている。「神の火」「リビエラを撃て」「マークスの山」等。小生は かような作家は 寡聞にして他に知らない。あえて言うなら 村上春樹は 短編を長編に書き直すという作業を行っている。但し 高村のように 同じ作品をリライトするわけではない。今回の「照柿」にしても 8ヶ月もの時間を掛けて 書き直したという。 「発表された以上 その本は作者の手を離れる」という意見もあるが 高村の遣り方はその対極にあるわけだ。 レオナルドダビンチは モナリザを完成させるのには相当年月をかけたらしい。旅先にも常に携帯し 常に手を入れたという話は有名である。高村の姿勢は どこか このエピソードに似ている気がする。そこには「作品に対する誠意」とかいう綺麗事では済まされない 一種の「怨念」のようなものも感じないこともないではないか。 凄い作家だと思う。 | ||||
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高村薫の単行本 照柿は1994年に出版された。その際の衝撃は 単行本のレビューに書いたものである。12年を経て 全面改稿されて文庫で本書が出た。 高村は 単行本を文庫化するに際し 書き直すという作業をほぼ毎回行っている。「神の火」「リビエラを撃て」「マークスの山」等。小生は かような作家は 寡聞にして他に知らない。あえて言うなら 村上春樹は 短編を長編に書き直すという作業を行っている。但し 高村のように 同じ作品をリライトするわけではない。今回の「照柿」にしても 8ヶ月もの時間を掛けて 書き直したという。 「発表された以上 その本は作者の手を離れる」という意見もあるが 高村の遣り方はその対極にあるわけだ。 レオナルドダビンチは モナリザを完成させるのには相当年月をかけたらしい。旅先にも常に携帯し 常に手を入れたという話は有名である。高村の姿勢は どこか このエピソードに似ている気がする。そこには「作品に対する誠意」とかいう綺麗事では済まされない 一種の「怨念」のようなものも感じないこともないではないか。 凄い作家だと思う。 | ||||
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上下2巻。単行本のときには手がでなかったが、文庫になり、やっと手にした(単行本では持ち運びに重いため)。「文庫化にあたり大幅改訂」ということだが、あまり気にせず、読んだ。結果は・・・一気に読了。ストーリーが面白い、というよりは濃密でドロドロした展開に目が離せなくなった、という感じ。ストーリー自体より、登場人物の非常に克明な心理描写、キーワードである「夏」の「照柿」色、これでもかという猛暑、盛夏の時期設定、これらで物語をぐいぐい引っ張っていく力強さ、さすがである。 一方、登場人物の心象風景で言葉をいたずらに使いまわして弄んでいる、という感じが否めない。もっとストレートに力強い描写ができないか。それだけが残念。 | ||||
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上下2巻。単行本のときには手がでなかったが、文庫になり、やっと手にした(単行本では持ち運びに重いため)。「文庫化にあたり大幅改訂」ということだが、あまり気にせず、読んだ。結果は・・・一気に読了。ストーリーが面白い、というよりは濃密でドロドロした展開に目が離せなくなった、という感じ。ストーリー自体より、登場人物の非常に克明な心理描写、キーワードである「夏」の「照柿」色、これでもかという猛暑、盛夏の時期設定、これらで物語をぐいぐい引っ張っていく力強さ、さすがである。 一方、登場人物の心象風景で言葉をいたずらに使いまわして弄んでいる、という感じが否めない。もっとストレートに力強い描写ができないか。それだけが残念。 | ||||
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単行本出版から12年もかけてようやく文庫化。 「マークスの山」の時もそうでしたが、大幅に加筆修正されてますので、既読の方もぜひ。(以下は未読の方向けのレビューです) 一言でいえば、非常に暑苦しい本です。 狂ったように暑い夏のある日、18年ぶりに再開した2人の男。 心と体をすり減らし、なお歯車にもなりきれない歪んだ刑事と、圧倒的な芸術への渇仰を持ちながら、熱処理工場で汗まみれになるその幼なじみ。一人の女を巡って二人の人生が再び交錯することに。 それそれの人間が背負った過去、家族という名の他人、他者の才能への嫉妬、繰り返される日常の疲労と夏の暑さ・・・そうしたドロドロした何かが重層的に積み重なっていき、ある意味唐突に悲劇が起きて、物語は幕を閉じます。 上巻からうねりのように繰り返される「照柿色」のイメージが、この下巻の終盤には、圧倒的な迫力、現実感をもって胸に迫ります。 現代の『罪と罰』などと評されていますが、文庫版解説にもあるように、ドストエフスキーでたとえるなら、「白痴」や「悪霊」の方が雰囲気が近いでしょう。 | ||||
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単行本出版から12年もかけてようやく文庫化。 「マークスの山」の時もそうでしたが、大幅に加筆修正されてますので、既読の方もぜひ。(以下は未読の方向けのレビューです) 一言でいえば、非常に暑苦しい本です。 狂ったように暑い夏のある日、18年ぶりに再開した2人の男。 心と体をすり減らし、なお歯車にもなりきれない歪んだ刑事と、圧倒的な芸術への渇仰を持ちながら、熱処理工場で汗まみれになるその幼なじみ。一人の女を巡って二人の人生が再び交錯することに。 それそれの人間が背負った過去、家族という名の他人、他者の才能への嫉妬、繰り返される日常の疲労と夏の暑さ・・・そうしたドロドロした何かが重層的に積み重なっていき、ある意味唐突に悲劇が起きて、物語は幕を閉じます。 上巻からうねりのように繰り返される「照柿色」のイメージが、この下巻の終盤には、圧倒的な迫力、現実感をもって胸に迫ります。 現代の『罪と罰』などと評されていますが、文庫版解説にもあるように、ドストエフスキーでたとえるなら、「白痴」や「悪霊」の方が雰囲気が近いでしょう。 | ||||
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前回のマークスの山に引き続き、刑事 合田雄一郎が活躍する話… なんですが、今回は、合田刑事の私情も色々入ってきて、面白いです。前作の、あくまでも刑事としての立場から、犯人を追い詰めていく感じとは違って、職務を離れた所での気持ちが、描かれています。 高村作品の、設定の細かさがまた良く分かりました。前回の山の描写に続き、今回は熱処理工場に関する膨大な説明描写。。。 読み飽きるほどに熱処理工場に付いての知識が得られたようにも思います。 でも、さすがに高村薫の本だな〜と言う感じ。読み応えがありました。 500ページもあるのですが、文字も細かくて、一気には読めませんでした。 テーマは照柿色の『熱』です。 実際の暑さの熱、夏の熱気、人間の熱、心の熱。。。 いわゆるミステリーを期待して読むと期待外れになるかもしれません。あくまでも小説(文学作品)として、また、マークスの山の後に読む事をお勧めします。 | ||||
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これをいわゆるミステリーのつもりでわくわくしながら読むと、期待外れになるおそれがある。心の機微にかかわる描写部分がとても多いからだ。それゆえに高い文学性を持ちえたともいえるけれど、事件や謎解きの刺激を期待しすぎると、冗漫でただただ長いような印象を受けてしまう。そういう意味では、スタンスがあいまい。 それと、熱処理工場が取り上げられている点にも大いに期待したのだけれど、明らかな誤りがあって残念。工場の熱処理現場を描写したシーンで、変成炉のフタがあく、というようなくだりがあるけれど、変成炉というのは熱処理炉で使うガスを製造する装置で、配管でつながっているだけなので、稼動中にフタがあくことはあり得ない。 モデルになった工場はトヨタ系ベアリングメーカーの光洋精工と聞いているが、あまり詳しく取材しなかったんだろうか。熱処理現場は、あくまでも赤く重苦しい熱の象徴としてのみ使いましたということなんだろうけれど。 そのあたりもイマイチだった。 | ||||
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物語全編を通して感じられるのはうだるように暑く、熱い「熱」である。熱処理工である野田の持つ炉の「熱」、合田雄一郎の持つ過去への後悔でも贖罪でもない精神の「熱」、美保子の持つ情念の「熱」。そして、照柿色に染まる空の炎のような「熱」。それぞれの熱病に魘され続けた三人が一人の女性の飛び込み自殺に関係したのを切欠に複雑に引き寄せられる事になる。この過程をある意味では淡々と、ある意味では嵐の前の静けさで書ききった中盤までの心理描写は秀逸で特別大事件が起こるわけでもないのにぐいぐいひきつけられるように読み進められる。 そして、殺人は起こった・・・。人を愛したいと願い欲する、人を排除し消しさりたいと思う、この二つの熱は相反するようで実は背中合わせの感情であろうか、ゾッとさえした。そして背中合わせであると同時に愛する事も罪、人を殺す事も罪・・・では罰は誰が与えるのか?宗教的世界観を得意とする高村氏ですが、罰を与えるのはいつも神ではない。人が自ら地獄の業火に飛び込んでいくのである。ラスト、等しく壮絶な罰を引き起こす(あえて受けると言わず。)三人の魂に再生はあるのか?ミステリーでは無く、人間と人間の魂の炎の壮絶な絡まり合いであり、切な過ぎ、哀し過ぎる慟哭の物語です。再生と鎮魂を祈る読者の心すら容赦無く打ち砕く静かなる文章は、一流の文学作品という勲章すら最早必要無い。秦野組長、森巡査部長、相変わらず脇役もよくたっている。軽い気持ちで読み始めると、濃密な心理描写に胸を抉られる事でしょう。読書馴れした方にも覚悟を決めてから読んで欲しい一冊。(「マークス」の後、読むことをお薦めします。)不幸にも私は、真冬にこの本を読んでしまった。次はうだるような暑い夏にじっとりと汗を浮かべながら読み終わりたいものだ。こんな本に出会いたくなかった、でもこの本に出会わない読書人生は考えられないのも事実である。 | ||||
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従来のクールな高村ミステリーとは毛色が異なり、書き出しを読むだけでじりじりと「暑さ」が伝わってきた。 それぞれ精神的に追い詰められた状態にある男女3人の、絡み合い、縺れ合う情念の克明な描写には、「これが高村か?」と驚きつつも、一人の人間が壊れていく過程の克明な描写は「やはり高村だ」と納得。いつものことながら彼女の圧倒的な筆力には素直に脱帽してしまう。 告悔を連想する雄一郎の尋問を受けるシーン、達夫と美穂子の哀しい末路には、ただただ引きずり込まれてしまう。そして、物語は雄一郎が各方面に書いた手紙で締め括られるが、手紙の内容とそれを書くに至った雄一郎の心境を想像すると、胸が締め付けられる思いがする。 また一見すれば義弟を思い遣る心優しい義兄だが、手紙の行間からも窺える、雄一郎への人には言えぬ思いを胸に秘める加納との関係を含め、雄一郎の葛藤は次作のレディ・ジョーカーへと受継がれる。雄一郎を軸に物語を捉えたら、本書が「罪と罰」、レディ・ジョーカーは「魂の救済」と喩えたら過言か。 人は、他人を傷つけ、人に傷つけらずには生きられず、そして誰もがその罪を背負い、罰を恐れながら生きるものだという、キリスト教の原罪主義が物語の根底に流れているのを感じた。読み終わって数日たった今も、登場人物の心境や物語の各場面は脳裏から離れることなく、思い出すごとに物語へと引き戻される、「凄い本」である。 | ||||
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損得ではない、本人にも説明し難い暗い情念を抱える男、というのは著者の作品に頻繁に登場する人物像だが、本作でも情念に捕われる男たちが描かれる。さらに本作は題名とおり火に炙られているような焦燥感が全編を包み、異様な雰囲気の中でストーリーが進行する。 前作、「マークスの山」の警視庁捜査一課刑事合田雄一郎。雄一郎の幼馴染の工員野田達夫、達夫の元恋人美穂子・・・。偶然、鉄道飛び込み自殺に居合わせた美穂子とそれを見た雄一郎・・・。 季節は署夏、工場の高炉の火、不眠症、人手不足、不良品の発生、生産管理、整備不良の設備、仕事に追われる達夫。一方の雄一郎も強盗殺人の捜査に肉体と精神をすり減らし、捜査のために暴力団の主催する賭博場に顔を出したことで身内から脅されながらも、情報を獲るというギリギリの生き方・・・。陰のあるヒロイン美穂子の描き方もまた印象的。濃密な描写の独特な文章魅力。 | ||||
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この本は正直高村薫の他作とくらべると地味であるし 秀でているわけでもないというのが僕の印象である。ただし これを読んだ瞬間に「高村薫は大きな舵を切ったな」ということでぞくぞくした。マークスの山までは 彼女はミステリー作家というジャンルで大活躍する作家「だけ」であったと思う。但し 彼女の硬質な文体から立ち上る文学性に酔っていた僕として この「照柿」で完全に彼女の「野心」が分かったと思った。即ち 現代のドストエフスキーとも言うべき 一大文学者魂がベールを脱いだ瞬間である。 そう言う意味で 本作は彼女の転換を示した「処女作」であると思っている。これを読んで高村薫はつまらないと思う人も大勢いるだろうし 高村薫は凄いと思った人もいると思う。ある意味高村薫が読者を選んでいるような そんな作品です。 | ||||
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うだるように暑い。爽やかさなど一片もなく、じくじくと苛むような暑さが本作品全体を包み込んでいる。 熱い情熱のほとばしりではなく、ほの暗く心の内で燃える炎。少しずつ狂い始めた歯車が、男の心をじりじりと追い込んでいく。読んでいてとにかく重たい。そして暑苦しく息苦しくなる。鈍い赤色が自分を包み込んでいくようだ。熱帯夜がつづく日の夕方に西日に焦がされながら読んでみてください。 | ||||
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