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照柿
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照柿の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.99pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全109件 41~60 3/6ページ
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読み応えある一冊です。「マークスの山」から引き続き私の苦手な合田刑事。重くて、陰にこもって、人と交わらない孤高の男。苦手だけど、またまた惹き込まれる、、、。 幼なじみの男との 関係、感情、言葉のやりとり、殴り合い。私にはよく理解できるのです。あの危ない関係が。お互い惹きあいながらも暴力的な行為で心を交わし合う。ふたりの間にひとりの女性が入ることで、相手を攻撃しながらも 余計にお互いが相手の存在を確かなものにしていく。そう、この物語はサスペンスの体をなしながらも、実は男の心をえぐる物語なんだ。 | ||||
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読み応えある一冊です。「マークスの山」から引き続き私の苦手な合田刑事。重くて、陰にこもって、人と交わらない孤高の男。苦手だけど、またまた惹き込まれる、、、。 幼なじみの男との 関係、感情、言葉のやりとり、殴り合い。私にはよく理解できるのです。あの危ない関係が。お互い惹きあいながらも暴力的な行為で心を交わし合う。ふたりの間にひとりの女性が入ることで、相手を攻撃しながらも 余計にお互いが相手の存在を確かなものにしていく。そう、この物語はサスペンスの体をなしながらも、実は男の心をえぐる物語なんだ。 | ||||
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レディ・ジョーカーよりは読みやすく、マークスの山よりは読み難い。マークスの山のどんどん読み進んでいけるのとは違って心して読めといったところ。マークスの山の調子を想像して読み始めると別人が書いたもののように感じられて人によっては読み続けるのが難しいのではないか。 鬱々とした日常と暑い夏と劣悪な職場環境と、一人の女性をめぐる男同士のやりとりと、全編を通じてキーワードは「熱」。その熱の中で、明確な動機のない犯罪を題材とした話は進んでいく。 主人公の合田雄一郎がどう変わっていくか、レディ・ジョーカーへの橋渡しをする作品なので高村薫好きの人は必読。 | ||||
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レディ・ジョーカーよりは読みやすく、マークスの山よりは読み難い。マークスの山のどんどん読み進んでいけるのとは違って心して読めといったところ。マークスの山の調子を想像して読み始めると別人が書いたもののように感じられて人によっては読み続けるのが難しいのではないか。 鬱々とした日常と暑い夏と劣悪な職場環境と、一人の女性をめぐる男同士のやりとりと、全編を通じてキーワードは「熱」。その熱の中で、明確な動機のない犯罪を題材とした話は進んでいく。 主人公の合田雄一郎がどう変わっていくか、レディ・ジョーカーへの橋渡しをする作品なので高村薫好きの人は必読。 | ||||
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・・・高村薫さんって、こんな感じだったっけ? 重厚だけれどテンポの良い、五條瑛さんやとにかく一切修飾語のない 吉村修一とか読んでいたせいか、す、す、進みませんページががが! この上巻でも、「工場が衛生的でなく暑く、苛酷な労働条件です」 ということを表現するのに何十ページと使ってある。 うーん、確かに主人公の幼なじみとして、しかも極道という過去を捨てて これだけの苛酷な場所でずっと働いていた・・という虚無感や焦りを表現するのに 必要なのかもしれないが・・ 昔、世界名作全集で、延々と家族構成の説明だけを読まされた、 某・有名な名作を思い出す。 コンサルのレポートは一枚いくら、だとか何時間でいくら、だとか、 完全に量で金額が決まる分野もあることは知っているが、 もしかして小説も?長ければ長いほどありがたがられるの?と、 少しやさぐれてきたのも本当だ。 熱くて暑い描写がえんえんと続くので、読んでいるのは真冬なのだけど、 なんだか息苦しくなってきた。 顔をぐいぐい、夏のむわっとした熱いコンクリートにでも押し付けられているようだ。 読んでいるのが冬で、逆によかった。。 でも、そろそろ、展開急いで!正直しんどいです、読むの。 この上巻を説明して、と、誰かに言われたら、あたしは迷わずこう言う。 「主人公の刑事が偶然電車事故に巻き込まれて、 事故の被害者を愛人にしていたオトコの奥さんに一目惚れして 偏執狂的にストーカー紛いのことをおっぱじめる。 たまたまその奥さんと浮気しているのが、劣悪な工場で働いている 芸術家の男で、逃避行しようとしていたらばったり刑事と遭遇。 そうしたらこの二人はたまたま幼なじみだったらしい。 んで今、お互い奥さんを間に挟んで勝手に相手を陥れたくて モウソウシテルところ。そこに刑事が追っている事件がちらほら、 間に入ってきてる感じ」・・以上! | ||||
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・・・高村薫さんって、こんな感じだったっけ? 重厚だけれどテンポの良い、五條瑛さんやとにかく一切修飾語のない 吉村修一とか読んでいたせいか、す、す、進みませんページががが! この上巻でも、「工場が衛生的でなく暑く、苛酷な労働条件です」 ということを表現するのに何十ページと使ってある。 うーん、確かに主人公の幼なじみとして、しかも極道という過去を捨てて これだけの苛酷な場所でずっと働いていた・・という虚無感や焦りを表現するのに 必要なのかもしれないが・・ 昔、世界名作全集で、延々と家族構成の説明だけを読まされた、 某・有名な名作を思い出す。 コンサルのレポートは一枚いくら、だとか何時間でいくら、だとか、 完全に量で金額が決まる分野もあることは知っているが、 もしかして小説も?長ければ長いほどありがたがられるの?と、 少しやさぐれてきたのも本当だ。 熱くて暑い描写がえんえんと続くので、読んでいるのは真冬なのだけど、 なんだか息苦しくなってきた。 顔をぐいぐい、夏のむわっとした熱いコンクリートにでも押し付けられているようだ。 読んでいるのが冬で、逆によかった。。 でも、そろそろ、展開急いで!正直しんどいです、読むの。 この上巻を説明して、と、誰かに言われたら、あたしは迷わずこう言う。 「主人公の刑事が偶然電車事故に巻き込まれて、 事故の被害者を愛人にしていたオトコの奥さんに一目惚れして 偏執狂的にストーカー紛いのことをおっぱじめる。 たまたまその奥さんと浮気しているのが、劣悪な工場で働いている 芸術家の男で、逃避行しようとしていたらばったり刑事と遭遇。 そうしたらこの二人はたまたま幼なじみだったらしい。 んで今、お互い奥さんを間に挟んで勝手に相手を陥れたくて モウソウシテルところ。そこに刑事が追っている事件がちらほら、 間に入ってきてる感じ」・・以上! | ||||
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上巻から感じたこの感じ。 ようやく気づいた。 そうだ、ロシアなんかの寒い国で、社会主義国家の昔の文学に似てる。 抑圧された労働者の日常と劣悪な職場環境。 上下関係の階級社会。 苦悩しっぱなしの主人公。 最後の書簡に至るまで、主人公を始め、およそどの登場人物にも同調できない苛立ち。 特に極悪人が描かれるわけでもないし、奇抜な設定でもないのに、 何十年も前の設定の話を読むかのように自己投影ができない。 自己憐憫と自己欺瞞と鬱屈された嫉妬と抑圧された欲望が、 そこここにぽっかり、口を開けている。 重さが耐えられるのかいなか、筆者が読者を選ぶようなスタンスがそこに。 筆者の渾身の、という評価に十分値する力作。 ・・・ただし、ミステリを期待した私にはやや荷が重かった。 桐野夏生の、ミロシリーズの堕ち方を思って、ちょっと怖くなったというのが正直な感想。 ・・紹介文を読み、現代の罪と罰、というコピーに少しナットク。 なーんだ、刑事は出てくるのに、刑事物じゃないんだね。 | ||||
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作品の情熱の炉の中で、共にうだる快感は、 心の汗を流して促される新陳代謝の表れかもしれない。 幼き日を共有した者が追う者と追われる者になりつつ、 追う者が追っている者にぎりぎりの魂の交流を求めるのは、 おおよそ人の慈悲心なのだろう。 | ||||
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大幅な改稿を経て文庫化された上下巻の下。 ホステスを殺したのは土井なのか堀田なのか。検死解剖や堀田の供述では釈然としない真実。土井を自首に追い込む為、雄一郎はヤクザとの賭博に手を染める。 一方東京の美保子の元に戻った達夫は、美保子と束の間の逢い引きを楽しむが、その事が律子にバレ、また美保子への警察の追ってが迫る。 そして、不意に明るみに出る、女の情念の起こした事件。 破滅の予感が頂点に達した時、猟奇殺人は起こった。 同じく合田雄一郎刑事が登場する「マークスの山」を先に読んだのですが、 あちらがサスペンスの中に合田刑事やマークスの悲哀、情念が織り込まれている印象だったのに対し、 「照柿」は情念が主体で、その想いの渦を描く手段としてサスペンス的な話が展開されてゆくような印象を受けました。 それだけ美保子を巡る達夫と雄一郎の感情の激しさと暗さ、執拗なまでに描かれる人生に圧倒されました。 暗い森で迷うというダンテの「神曲」の引用から始まって、最後まで大きな救いのない話ではありますが、非常に読み応えがあります。 解説で沼野氏がおっしゃっているように、現代の「罪と罰」を描いた「すぐれた文学」である本書を是非オススメします。 | ||||
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合田刑事シリーズ第2弾!! 「マークスの山」よりもずっと、合田刑事の内面に踏み込んだ、人間ドラマの意味合いが強い作品になっていると思う。 ホステス殺しを追う合田刑事が偶然居合わせた列車轢死事故。そこで出会った佐野美保子に対する執着。幼なじみの野田達夫との再開。実は達夫は美保子と不倫の関係だった。 警察内部と被疑者の両方の問題から、なかなか決着の付かない捜査。圧倒的なリアリティを持つ高村節は本作でも健在でした。 達夫が勤める工場の炎に似た、エンジ色の「照柿」という色が執拗と言えるほどに描写され、登場人物達の心理状態の細かな描写と相俟って、作品の世界を、確かな質感と匂いの迫り来るリアルさを醸し出しています。 佐野美保子への想いに揺れる合田刑事とか。 他の高村作品が好きな方、人間味溢れる刑事小説が好きな方、オススメです。 | ||||
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合田刑事シリーズ第2弾!!「マークスの山」よりもずっと、合田刑事の内面に踏み込んだ、人間ドラマの意味合いが強い作品になっていると思う。ホステス殺しを追う合田刑事が偶然居合わせた列車轢死事故。そこで出会った佐野美保子に対する執着。幼なじみの野田達夫との再開。実は達夫は美保子と不倫の関係だった。警察内部と被疑者の両方の問題から、なかなか決着の付かない捜査。圧倒的なリアリティを持つ高村節は本作でも健在でした。達夫が勤める工場の炎に似た、エンジ色の「照柿」という色が執拗と言えるほどに描写され、登場人物達の心理状態の細かな描写と相俟って、作品の世界を、確かな質感と匂いの迫り来るリアルさを醸し出しています。佐野美保子への想いに揺れる合田刑事とか。他の高村作品が好きな方、人間味溢れる刑事小説が好きな方、オススメです。 | ||||
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野田達夫は自分は人殺しではないかという脅迫観念を 心の中に飼い、しばし噴出しそうになる怒りを微妙な バランスで自制しながら、工場勤めを続けてたが、 18年ぶりの合田雄一郎との再会が彼の人生を狂わる。 ラストに達夫が起こした殺人事件のきっかけとも言える子供時代の 二人の出来事が明かされます。逃れられない運命をいつもながらの 格調高い表現で淡々と描写する筆力に脱帽。 余談ですが、作者が女性って始めて知ったときはびっくりしました。 | ||||
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野田達夫は自分は人殺しではないかという脅迫観念を 心の中に飼い、しばし噴出しそうになる怒りを微妙な バランスで自制しながら、工場勤めを続けてたが、 18年ぶりの合田雄一郎との再会が彼の人生を狂わる。 ラストに達夫が起こした殺人事件のきっかけとも言える子供時代の 二人の出来事が明かされます。逃れられない運命をいつもながらの 格調高い表現で淡々と描写する筆力に脱帽。 余談ですが、作者が女性って始めて知ったときはびっくりしました。 | ||||
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みなさんお書きになっているように、読者を選ぶというのは確かだが、 それ以上に、高村薫ファンであっても(私は別にファンではありませんが)、 決して読み易いものではないだろう。特に、下巻にばーっとアクセルがかか るのは他の作品と同様で、そこまで耐えられるかどうかが勝負、という感じ である。 更にハードルはあって、どなたかお書きになっているように、例によって 偶然が多く、合理的な説明がなされていないところがあるが、たぶんそうい う眼で読むと読めないだろうな、と思う。 別に特段新しい趣向があるのでもなし、ストーリーテリングがうまい作家 でもないので、そういうものを求められる方には勧められない。 何だか否定的な書き方になってしまっているが、私自身はとても面白かったっす。 | ||||
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みなさんお書きになっているように、読者を選ぶというのは確かだが、 それ以上に、高村薫ファンであっても(私は別にファンではありませんが)、 決して読み易いものではないだろう。特に、下巻にばーっとアクセルがかか るのは他の作品と同様で、そこまで耐えられるかどうかが勝負、という感じ である。 更にハードルはあって、どなたかお書きになっているように、例によって 偶然が多く、合理的な説明がなされていないところがあるが、たぶんそうい う眼で読むと読めないだろうな、と思う。 別に特段新しい趣向があるのでもなし、ストーリーテリングがうまい作家 でもないので、そういうものを求められる方には勧められない。 何だか否定的な書き方になってしまっているが、私自身はとても面白かったっす。 | ||||
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熱処理工場で働く野田達夫。警視庁の、おなじみ合田刑事。 この二人の幼なじみが偶然、再会します。 二人は単なる幼なじみではなく、お互いがお互いに対して複雑な、というかある意味特別な感情を持っていた。そして再会も単なる再会ではなく、一人の女が間にいる、そんな再会。 野田達夫と合田刑事の視点で細かく細かく心理・情景描写がされます。 この小説では、熱処理の工程について細かく描写がされます。これでもかという描写。 話の流れが退屈なわけではないけど、それそのものより、描写される世界がすごい。 照柿色の電車、暑い夏、熱処理工場、照柿色の高炉、工場で発生するトラブル。それから幼なじみと一人の女のこと。次第に男は精神のバランスを崩していきます。 最後に、達夫は合田刑事に電話をかけ、そして合田刑事の後悔。ここはちょっと感動的です。 達夫の人物像や子供の頃の合田刑事との関係が後半でわかります。わかった上でいつかもう一度最初から読み直してみたいと思っています。特に達夫の見ている世界を。しかしもう一度読むのには気合もいるのですが…。 息抜きに読む本ではない。現実世界のほかにもうひとつ、読みかけの本の中に照柿の世界があり、その世界のイメージが頭の片隅にこびりついている、読んでいる間はずっとそんな感じでした。 | ||||
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熱処理工場で働く野田達夫。警視庁の、おなじみ合田刑事。 この二人の幼なじみが偶然、再会します。 二人は単なる幼なじみではなく、お互いがお互いに対して複雑な、というかある意味特別な感情を持っていた。そして再会も単なる再会ではなく、一人の女が間にいる、そんな再会。 野田達夫と合田刑事の視点で細かく細かく心理・情景描写がされます。 この小説では、熱処理の工程について細かく描写がされます。これでもかという描写。 話の流れが退屈なわけではないけど、それそのものより、描写される世界がすごい。 照柿色の電車、暑い夏、熱処理工場、照柿色の高炉、工場で発生するトラブル。それから幼なじみと一人の女のこと。次第に男は精神のバランスを崩していきます。 最後に、達夫は合田刑事に電話をかけ、そして合田刑事の後悔。ここはちょっと感動的です。 達夫の人物像や子供の頃の合田刑事との関係が後半でわかります。わかった上でいつかもう一度最初から読み直してみたいと思っています。特に達夫の見ている世界を。しかしもう一度読むのには気合もいるのですが…。 息抜きに読む本ではない。現実世界のほかにもうひとつ、読みかけの本の中に照柿の世界があり、その世界のイメージが頭の片隅にこびりついている、読み終えるまでの日々はずっとそんな感じでした。 | ||||
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文庫化に際し大幅な加筆修正がなされているのだが、単行本を読んだのがかなり以前であったので初読のつもりで読んだ。しかも、高村薫の作品は軽い気持ちで読むことができるような内容ではないばかりではなく、著者自身も読者に居住まいを正して読めと言っているような気がしてならないので、気合を入れて読んだ。 重苦しい。暗い。救いようがない。そんな言葉ばかりが浮かんでくる。硬質な文体と相俟ってその世界に引きずり込まれていく。ストーリーは覚えているはずなのに本を閉じることができずに、ほぼ徹夜で上下巻を読み終わってしまった。 高村薫は自身の作品をミステリーではないしそれを書いているつもりもないと語って(書いて?)いる。では、どのジャンルなのかと考えてみても思いつかない。純文学の色合いも濃いがストーリー物として読んでもイッキ読みが可能な作家だ。高村薫とはジャンル分けすることのできない孤高の存在なのかもしれない。 それにしても「照柿」というタイトルは素晴らしい。これは著者の造語ではなく日本の伝統色の名前だが、作品全編を通じる色彩と熱を見事に表している | ||||
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意匠不明な上巻に続く下巻だが、冒頭の嫉妬に駆られた合田が画策の上、達夫の会社を見に行くシーンで呆れて期待が萎む。僅か十数年の宮仕えで歯車から外れようとしている人物を、このような長編小説の主人公に据える必要があるのだろうか。致命的なのは、合田の行動・心理に作者が合理的な説明を与えられない点である。「だから文学的なんだ」と言う言い訳は通用しない。日々の暮らしの中で、自らの努力が報われない徒労感、他者との隔絶感、彼我の持つ能力と享受する果実との落差感、男女の間に横たわる深い溝と連帯感、生きる事の意義への懐疑の念、現実感と非現実感の境目の無い繰り返し。これらは既に書き尽くされているテーマで、合田、達夫、美保子という全て心神喪失状態と呼べる人物達を陰湿にこねくり回して作者は如何なる新しい物語を紡ごうとしているのか。 作品の進行も、合田とヤクザの博打、達夫の工場の模様、合田と美保子の邂逅、事件に対する胡乱な捜査状況、老作業員の突然の死と意図不明なランダム性に満ちていて、構成力が感じられない。この中では、不良上がりの達夫が一番まともな人間に思えるのは作者の意図通りなのか ? そして予定調和の達夫による殺人。本の帯に「現代の「罪と罰」」とあるが、ポルフィーリィ判事に騙されている。明らかに「達夫=スメルジャコフ」であって、画廊主殺しは間接的な父親殺しなのだ。最後に到って、合田の美保子に対する気持ちが達夫への嫉妬から来ていると悟るのは強引だし、美保子が哀れである。 最後に達夫の逃亡先の大阪が再び舞台となり、山吹、橙、臙脂、赤銅、青と"色"が再度強調される。だが、美保子の負傷は余計だろう。結局、合田の心の不安定さを描いただけの物語となってしまった。それにしても、達夫は作中でご都合主義的に扱われ過ぎている。最後まで、色と気まぐれに彩られた不毛な作品。 | ||||
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「合田刑事シリーズ」第二作だが、作者の意図が奈辺にあるのか曖昧模糊としていて鵺のような作品になってしまった。作中の事件は単なる添え物である。「照柿」と言う題名に合わせ、赤、臙脂、青、青緑、白、薄桃、群青、赤茶、紫、茜などの"色"が作中で強調される。だが、その色の意匠が不明で、太陽と達夫の職場の熱処理の象徴の赤以外は謎である。普通なら精緻な描写と呼びたい工場内のスケッチもピント外れで、「また、いつもの工機オタクかよ」と言う程度の感想しかもたらさない。 作品そのものも登場人物間の宿縁と言うよりは、「作者」にとって都合の良い偶然の積み重ねによって構成された胡乱なものである。冒頭の、合田が乗った電車が美保子の夫の愛人の人身事故に遭遇すると言う偶然。その偶然を契機とする合田と幼馴染の達夫の邂逅と言う偶然。更に合田が達夫の愛人美保子に惚れると言う強引な設定。高村氏は元々女性を描くのが巧くないので、美保子の魅力の源泉が不明であり、何故合田が美保子に惹かれるのか読む者には理解できない。単に瞳が翳を帯びているから(=似たもの同士)と言う理由では安易過ぎるだろう。更に、達夫の父が亡くなると言う弔事と容疑者の自殺未遂が重なると言う偶然の末、合田と達夫が共に故郷の大阪に帰ると言う極め付けの偶然。泰三の狂気の象徴が青か。高村氏がホーム・グラウンドの大阪を舞台に書きたい気持ちは分かるが、読む方はウンザリだ。合田と達夫が交わす昔話や忸怩たる人生論の書き込みも意図不明である。読む者は合田の行動と心理に不安感を覚えるだけである。 読者を楽しませると言う作家本来の使命を放棄し、作者自らの澱を吐き出したかのような不毛な作品。下巻に期待したい。 | ||||
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