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天使に見捨てられた夜



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天使に見捨てられた夜の評価: 7.00/10点 レビュー 4件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全4件 1~4 1/1ページ
No.4:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

天使に見捨てられた夜の感想

桐野夏生氏の初期作。
女性版ハードボイルド小説という触れ込みである。
読んでみたが、まあこれは面白いし、読み易い。悪くはない。
特に主人公の女性探偵村野ミロ、この娘のキャラがいい。
いいと言っても、ハードでないところがいい。固ゆででない半熟・未熟なゆで加減いい。
そういうちょっとよれよれの探偵というのが、この小説の重要ポイント。

そして、このちょっとだらしない素人っぽい女性探偵が、失踪したAV女優を追いかけるというお話。
ミステリー感もあり、なかなか失踪女優の正体がつかめないストーリーも楽しめる。
さらに90年代のアダルト業界、歌舞伎町の風俗等、が多く扱われていて、社会派的な一面も見られる。
しかし、もっとも楽しめたのは、女性の描き方。ミロだけでなく、依頼人で活動家の渡辺房江。依頼人の支援者で著名な料理研究家である八田牧子。この辺りが華を添える。
桐野氏の作品はさほど多くを呼んだわけではないが、さすが女流作家だけあって、女性を描かせたらその生態・心理の描写が妙にリアルで面白いですね。
そこそこのオチも準備されており、素直に楽しめるお話です。
ある程度、ボリュームもあり、十分にアマゾン評点4点は与えられるでしょう。

マッチマッチ
L6YVSIUN
No.3:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

今を生きようと足掻く女たちの物語

村野ミロ2作目の本書は失踪したAV女優の行方を追う物。それはレイプ同然に犯される様を撮影された一色リナという女優を探し出し、告発することを目的としたフェミニスト運動家の依頼を受けての物で、その後内容はディープでマニアックなAV業界へと踏み込んでいく。

最近でもAVに騙されて出演させられるレイプ被害が問題になっているが、本書はなんと30年前にその問題を扱った作品である。それほども前に既に問題視されていたのは寡聞にして知らなかった。

作者の江戸川乱歩賞受賞作にして村野ミロ第1作の『顔に降りかかる雨』でも失踪したフリーライターの行方を追う依頼であったが、その捜査の過程でミロはネクロフィリアや性倒錯の世界をモチーフにしたアングラパフォーマンスへと踏み込み、かなりディープでダークな世界を我々に見せてくれたが、本書も同じくこのレイプ被害と思われる理不尽な撮影と自傷行為の様子を淡々と映すといったAV業界の闇を浮き彫りにする。

AVも多々あり、普通AV女優が出ているものから、素人ナンパ物、そして特殊な趣味嗜好に特化した企画ものまで様々だ。その裾野は幅広く、全てを網羅するのは困難だろう。従って星の数だけAVがあれば星の数ほどAV女優もおり、そして1作のみで終わる女優未満のモデルもゴマンといる。本書に登場する一色リナもそんな泡沫モデルの1人である。

さて本書を一言で表すならばそれは“今を生きようと足掻く女たちの物語”だったことだ。

本書に出てくる女性たちは様々で主人公の村野ミロはじめ、依頼人の渡辺房江、彼女がレイプ被害を訴えるための神輿としようと考えているAVモデルの一色リナ。そして渡辺の活動を陰ながら支援するセレブの料理研究家八田牧子。

四者四様の女性たちの生き様がミロの捜査で語られる。そして彼女たちの印象はミロの捜査の成り行きでガラリと変わってくる。

まず依頼人の渡辺房江。最初彼女の印象は猪突猛進の、自分の目的のためには利用できるものは何でも利用する旺盛な活動家という印象で現れる。
彼女は己の正義、つまりAV撮影と称してレイプ被害に遭っている女性たちを救おうと奮闘し、何が何でもその生き証人として一色リナを探し出して訴訟を起こしたいと考えている。それは自身と経営する弱小出版社の名を高らしめることも想定してのことだ。つまり半ば売名行為でもある。

そしてその熱心さはミロの捜査の妨げになる。

しかし次第に彼女の行為は熱意が裏目に出ただけのことだと解る。強かな女性だと思っていた渡辺は、ミロが単に一色リナという女性を捜し出すことが依頼内容であり、そこから一色リナを担ぎ上げて渡辺の活動の協力をする気はないと断言すると態度を軟化させてミロの捜査を支援するようになる。

彼女の支援者八田牧子はテレビにも出演している有名な料理研究家であり、大手ゼネコン社長の妻であり、名門中学に通う2児の子供の母でもあり、全てを手に入れた、多くの女性の理想像とも云われている女性だ。彼女は一色リナが自分の子供だと云って付きまとわれており、自分が出演したAVのビデオテープを送りつけられるなど、半ば脅迫行為を受けており、彼女を探そうとしている渡辺房江に協力してスポンサーとなっているのだ。

一色リナを捜し出すという目的は同じだが、渡辺が一色リナを悲劇のヒロインに仕立て上げようとしているのに対し、八田は彼女を脅迫被害で訴えようとしている。まさに呉越同舟と云った状態であることが判ってくる。

そして彼女たちの依頼を受けて捜査をする村野ミロ。彼女の女性像について語るには後ほどにしよう。

最後の1人は渡辺、八田、ミロ3人の女性が足取りを追う一色リナだ。彼女ほど変幻自在に印象が変わっていく女性も珍しい。

依頼人を反故にして男と寝る女性探偵に自身の身体を傷つけることでしか金を稼げない女性からサイコパスへと転ずる失踪人。これは今までになかった新しい女性探偵小説かもしれない。
しかしこれらの設定からは主人公含め一切共感を生まないことも凄いが。

一方で本書に登場する男たちの印象はどこか薄い。

その中で最も存在感を示すのはミロのアパートの隣人の友部秋彦と一色リナのAVの販売会社クリエイト映像の社長、矢代亘の2人だ。

友部はバツイチのゲイで新宿二丁目でバーを経営している。彼はミロに紹介された弁護士に友人のニューハーフ礼矢の窮地を救ってもらったことが縁で彼女の捜査に協力するようになる。
ミロは友部の男の色っぽさと繊細さに惚れているが、彼とは寝ることすらできない。彼らは隣人愛で繋がっている同志という関係だ。

一方矢代亘はそのカリスマ性で色んな女性を魅了する会社社長で家族を持ちながら六本木の億ションを持ち、そこで気に入った女性と寝たり、自身もAVに出演したりする。肉体美を誇示し、その彼の魅力に敵ながらミロも抗えないでいる。

また他にはミロの父親村野善三がミロの依頼で北海道から上京して捜査に協力するのが新機軸だ。レイバンのサングラスを掛け、ツイードのジャケットに上下黒のシャツとパンツを履き、柄物のシルクベストを着こなすダンディだが、元探偵とはいえ、堅気には見えない風貌で登場する。
逆に探偵がこんなに羽振りのよさそうな格好をしていていい物かと首を傾げてしまうのだが。

そしてもう1人、事件の鍵を握る男性が富永洋平。彼はかつて一世を風靡したロックバンドのボーカリストでソングライターであったが、その後凋落して忘れ去られたアーティストである。
彼は自分の車の中で首を絞められて殺害されたことでニュースに取り上げられ、再び話題に上る。なお本書のタイトル『天使に見捨てられた夜』は彼の往年のヒットソングのタイトルでもある。

この元ロックスターと一色リナが繋がるのが『雨の化石』と呼ばれる謎の土の玉だ。

一色リナの足取りを掴むこの謎めいた土の玉『雨の化石』がミロを真相へと導く。

一色リナは自分の境遇をこの『雨の化石』に擬える。自分も灰に降った雨が固まってできたようなものだと。

そんな女と男の因果が絡み合った事件を地道に紐解いていく村野ミロ。
しかし12年ぶりに再会した彼女に対して、私は当時抱いていた主人公ミロに対する嫌悪感は結局変わらなかった。

女性探偵という物に私がか弱き女性が魑魅魍魎の社会の暗部で孤軍奮闘する姿を先入観として持っているのかもしれないが、この村野ミロは男に対する警戒心が弱いのがどうしても腑に落ちないのだ。

1作目も協力者でありながら敵役であった成瀬に平気で捜査情報をばらす軽率さが目に付いたが、本書でもミロは依頼を受けて探している失踪したAV女優の撮影をした制作会社の代表の矢代亘の放つフェロモンに抗えなくなり、二度も寝るのだ。
心では矢代のことを嫌いながらも彼の屈強な肉体と人を寄せ付けるカリスマ性に魅了され、身体が反応し、自分から求めてしまうのだ。そして仕事は軽蔑しているが貴方のことは好きとまで言葉に出す始末。

この、例え敵であっても女は相手が魅力的であれば寝る、それが女という生き物なの、という村野ミロの倫理観、もしくは作者のメッセージが私には気に食わない。
大人の女の不思議さを演出しているようだが、逆に村野ミロという女性の安っぽさを感じてしまうのだ。
私ならば強がっていても女性は男には弱いことを出すならば、生理的には嫌だが、ミロが求めるのではなく、レイプされる方を選ぶ。そしてレイプされて心が折れそうになっても、それが男の世界で生きていくことを選んだリスクであると立ち直る、そういう女性探偵の方がよほど共感できるのだが。

その嫌悪感はその後物語に大きく作用する。

私は女性探偵物をあまり読んだことないのだが、こんなひどい探偵はいないのではないか?
これではただの男日照りの淫乱女である。そしてその事実を警察と実の父親にも知られ、ミロは更に深い自己嫌悪に陥るのだ。

さてそんなミロが屈辱にまみれながらも―自業自得も云えるが―辿り着いた真相は実に意外なものだった。

冒頭述べたように最後に判明するのは今を生きようと足掻いている女性たちの物語だった。

しかし唯一今を足掻いて生きていない女が主人公の村野ミロだ。
隣人のゲイの男に恋をし、叶わぬ恋だと一人で嘆くと、次は依頼人の敵であるAV制作会社の社長と寝る。
自分の本能のみに生きる女で彼女には軸がない。本来自分の規律で生きる探偵が意外なことに本書では最も信念を持っていないのだ。

一方でそんな状況を作ったのがエンタテインメントの世界の住民である事だ。

ロックスターだった富永が当時14歳の鳴滝牧子に手を出したために山川雪江の不幸と八田牧子の忌まわしき過去は始まった。

それは矢代亘が作っているAVが望まれない妊娠をしてしまった女性たちを生んでいる温床となっているとも云える。

登場人物の1人、レンタルビデオの店主がこんなことを云う。

アダルトビデオとは人の不幸を笑う物なんだと。

つまり本書は男たちの欲望で女たちの人生が蹂躙されていると暗に訴えているように思える。

“天使に見捨てられた夜”とは即ち男たちの欲望に蹂躙された女たちの夜だ。
西洋では赤ん坊は天使によって連れられるイメージが描かれているが、なるほど望まぬして得た赤ん坊はまさに天使に見捨てられた存在なのかもしれない。

本書に登場するAV制作会社社長矢代亘の姿はそんな男たちの欲望の権化なのだろう。そしてそんな彼に惹きつけられる村野ミロの姿は過ちを犯そうとしている女性の権化か。

いやはや桐野夏生氏は自ら生み出した探偵にそこまでの咎を負わせるとは何とも手厳しい。そして本書の内容は男性にとっても手厳しい作者からの忠告だ。

しかし男と女がいる限り、この“天使に見捨てられた夜”は必ずある。
判っちゃいるけど、止められないのよ。それが男と女なのだから。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

天使に見捨てられた夜の感想


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カミーテル
MCFS6K6O
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

天使に見捨てられた夜の感想

江戸川乱歩賞受賞の「顔に降りかかる雨」に続く女探偵村野ミロシリーズ二作目
この作家の作品は何冊か読んだことがあったので安心して読み始め、案の定
文章も読みやすく自分専用の映画館で映像を観ているような雰囲気も楽しめました。
この人の描く人物・物語は、現実にありそうでなさそうな、未知の土地や職種でも説明調でなく
会話や描写でスムーズに感情移入させてくれます。主人公の人物像に違和感を抱かなければ
(性格や行動)最後まで楽しめると思います。内容はというと、
AVに出演している女の行方探しを頼まれる主人公。捜索のなか出会う仲間や怪しい人物達。女に
近づくにつれ出てくる謎・新事実。(若干、AV女が宮部みゆき著・火車の借金女と雰囲気似てるなと感じた)終盤は強烈などんでんがえしなどは無くTVのサスペンスドラマぽい。
けれど、ラスト7行を読み終わった後の読書特有の、高揚感、心地よい余韻は味わえました。
蛇足ですが「リアルワールド」という作品でこの作家の作品を読み始めました。ミステリじゃないけど桐野作品では断トツ好きです。併せておすすめ。    


sumerujyakohu
QQ9OT9RU

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