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不安な童話



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不安な童話の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
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(7pt)

生まれ変わりは本当にある?

恩田陸氏の3作目となる本書は生まれ変わりをテーマにした物語だ。
25年前に夭折した画家高槻倫子の遺作展の会場を訪れた主人公古橋万由子は未発表の彼女の作品を見て妙な既視感を覚えることから自分が高槻倫子の生まれ変わりではないかと思われる。古橋万由子はデパートに勤める6歳上の姉万佐子と2人暮らしをしており、これまで一切絵を描いたことのないごく普通の女性である。2人は母親を早くに亡くし、父親に育てられた2人は神経質な子供だったとされている。

そんな平凡な日々を送っていた彼女が遺作展で「ハサミが…」とつぶやきながら気を喪ったことが高槻倫子の生まれ変わりではと倫子の息子秒に思われてしまい、彼に頼まれ、倫子が4人の人物のために描いた作品を渡す手伝いをする。そしてその過程で万由子は自身が高槻倫子から授かったと思われる、サイコメトリー、つまり物に触れたり、その人と会うことで過去の記憶を観ることが出来る能力を活かして高槻倫子の死の真相に迫るようになる。

その4人の受け取り方は四者四様だ。
初めて高槻倫子の作品を扱った画廊のオーナー、伊藤澪子は「犬を連れた女」という海岸の波打ち際を犬を連れて歩く女性を描いた作品を見て憤怒の表情を浮かべ、そんな絵はいらないから持って帰ってくれとすごい剣幕で怒りを露わにする。

当時世間を賑わせた青年実業家で高槻倫子の名を知らしめるきっかけを作った矢作英之進は「曇り空」というどんよりとした曇り空の海を描いた作品を見て安堵の表情を浮かべる。

高槻倫子の学生時代の友人で今は女子校の校長先生をしている十和田景子には「黄昏」という枯れた薔薇を持った2人の少女を描いた絵を見て、自分が倫子に憎まれていたと悟る。良きライバルであり、一緒にいることも多かったが親友と呼べるほど仲がいいとは云えなかった2人だけが解る関係性を持っていた彼女がいい意味で倫子の真意を知り、微笑む。

最後は高槻倫子が別荘にいた時に必ず訪れていた喫茶店経営者手塚正明は「晩夏」という片隅に1羽の青い鳥の入った小さな鳥籠のある夕暮れの浜辺を描いた絵を見て、素っ気なく受け取るだけだ。

また万由子もまた高槻倫子に関わることで身辺に不審なことが起きる。これ以上関わると碌なことにならないと告げる脅迫電話、遺作展最終日に会場が火事になる焼失未遂事件に自宅にばら撒かれたたくさんの魚の死骸とその上に撒かれた真っ赤なペンキ、そして不審な侵入者。

さて生まれ変わりが物語の中心だが、それ以外にも上に書いたように古橋万由子のサイコメトリーや近未来を幻視する能力だったり、臨死体験や幽体離脱などいわゆるオカルティックな内容が色々盛り込まれている。

ナイル川に対するピラミッドの配置が天の川に対するオリオン座を模しているという仮説や母親が出産の際に子供の苦痛を和らげるために分泌するホルモンが前世の記憶を消し去る作用がある、等々、オカルト雑誌「ムー」の記事のようなエピソードが語られ、またそれらは私も好きなものだから久々に楽しんだ。

本書で最も最たる特徴を持つのは高槻倫子という美しい夭折した画家に尽きる。

その美貌を誇り、他人の夫であっても自分に振り向かせようとする女性高槻倫子は世の男たちを魅了する一方、世の女性たちを敵に回す女性だった。彼女の生い立ちの報われなさと類稀なる美しさが彼女の歪んだ性格を生んでしまったのは何とも皮肉なことだ。

本書は上述のように恩田作品としては3作目にあたるが、自身のそれまでの発表作まで本書においてトリックに寄与していることに気付かされる。

本書を以て恩田氏が作品ごとにジャンルを変える作家であることがさらに強調された。
それはつまりポスト宮部みゆきとして周囲も見たのではなかろうか。

今なお旺盛な創作力で既成概念に囚われない自由な作風と設定の作品を次々と生み出している恩田氏のダイバーシティを認知させる意味でも、案外知られていないが本書の位置付けは重要な作品であると云えるだろう。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S

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