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球形の季節



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【この小説が収録されている参考書籍】
球形の季節
球形の季節 (新潮文庫)

球形の季節の評価: 6.00/10点 レビュー 2件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.00pt

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No.1:
(7pt)

思春期「あるある」満載

現在、ジャンルを問わず、日本のミステリ・エンタテインメントシーンで毎年精力的に作品を発表し、女流作家としての地位を確立した恩田陸氏。その最初期の作品が本書で、私にとって初恩田体験となった。

一読して上手いと思うのは、誰もが経験した庶民的な風景を映像的に、また世間話のような親しみやすさで語る、その文体にある。
本書の舞台となる谷津は、地方に住む人間なら誰もが持っている故郷の風景、つまりどこかで見たことのある田舎の街並みなのだ。このノスタルジックな高校生の時の心象風景を切り取ったような作品世界は、非常に取っ付きやすかった。

更に扱うテーマも非常に親近感を覚えるもので、いわゆる都市伝説的な学生間に広まる妙な噂やおまじないだ。
本題である5月17日にエンドウという生徒がUFOに攫われるといった噂から、金平糖をばら撒いて好きな人がそれを踏むと両思いとなって結ばれる、木の穴に願い事を録音したテープを入れておくとそれが正しいと見なされたら願いが叶うなどといった物。これらは誰もが学生時代に一度や二度経験した、信憑性もない言い伝えだ。
これらも含め、作品の舞台に横溢する風景や高校生の思春期に感じる想いなどは俗に云う読者の「あるある」感を引き出し、読者の共感を誘う。実際私もそう感じることがしばしばだった。

やがて物語はそういった地方都市のありがちな風景と高校生のありがちな生活から超常的な内容へとシフトしていく。その因子となるのがある能力を持った4人の高校生たちだ。その中の1人、地歴研のメンバーでもある一ノ瀬裕美は霊感の強い高校生として描かれているが、彼女には他の人が見えない物が見え、異質な物を「臭い」で感じる能力を持つ。そしてそれらが日常生活で見えないように自分に「わっか」を被せている。

そしてさらに他の丹野静、潮見忠彦・孝彦兄弟、そして藤田晋という能力者が出てくる。これらのキャラクターはその後恩田氏が書く常野物語という能力者の物語の原点なのだろう。いや、もしかしたら既にこのデビュー間もない本作で一連の構想があり、常野物語でも彼らの家族について触れられているのかもしれない。
とにかくこの頃から既に恩田氏は自身の作品世界を作ることを想定していたように思う。つまり本書には彼女の作家になりたい野心が込められていると云えるだろう。

そして彼ら彼女らが共有しているある世界、「あそこ」がある。そこは暗くて殺伐とした風景が広がっているだけのところなのに、何故か妙に落ち着く場所だ。
それは誰もが思春期の頃に抱く逃亡願望、つまり「ここではない何処か」なのだ。

現在膨大な著書がある恩田氏の作品群に本書の系譜に連なる作品が既にあるのか、寡聞にして知らないが、ここに出てきた谷津の人々、とりわけ主人公でもあるみのりのその後をまた見たいと思わせる、実に瑞々しい作品だ。


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