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デンマークに死す



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【この小説が収録されている参考書籍】
デンマークに死す (ハーパーBOOKS)

デンマークに死すの評価: 9.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点9.00pt

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(9pt)

デンマークから来た、ダイヴァーシティ時代のP.I.

インドに生まれ、インドとアメリカで学び、シリコンヴァレーで働き、デンマーク人男性と結婚して14年間デンマークで暮らし、現在はカリフォルニアに住むデンマーク国籍の女性作家の初ミステリー。コペンハーゲンを舞台に元刑事の私立探偵がムスリム男性の冤罪を調査した結果、デンマークの黒い歴史に直面するという、一級品のハードボイルド作品である。
正義感から警察組織のルールを破って解雇され、元恋人(愛娘・ソフィーの母親)の夫の法律事務所に間借りして私立探偵業を営むゲーブリエルは、かつて熱愛関係にあった人権派弁護士のレイラから「右派政治家・メルゴーの殺害で服役中のムスリム男性・ユセフの事件を再調査して欲しい」と頼まれる。5年前に起きた事件で、ユセフの息子がイラクへ強制送還されてISIS(イスラム国)に処刑されたためユセフはメルゴーを恨んでおり、物的証拠も揃っていたのだが、本人は頑強に犯行を否定して続けていた。冤罪の証明はほとんど不可能だと思いながらも、これまででただ一人、本気で愛したレイラの頼みとあって、ゲーブリエルは調査を引き受ける。ところが、調査を進めるうちに、当時の警察の捜査がずさんで矛盾点がいくつもあること、さらにメルゴーがナチス占領時代のデンマークに関する衝撃的内容の本を執筆中だったことが判明する。ゲーブリエルが本格的に調べ始めると、ゲーブリエル本人だけでなく、関係者、娘・ソフィーまで脅迫されるようになった…。
白人社会デンマークでのムスリム男性の冤罪ということで、当然ながら移民・人種差別がメインテーマであり、さらにナチス時代からのユダヤ人差別というデンマークの黒歴史が大きな影を落とす、まさに北欧ノワール、ミステリーの主流を行く物語である。だが、主人公のキャラクターが定番の殻を突き破ったため、読者の思い込みはあっけなく破壊される。スキンヘッドの40代白人男性ながらおしゃれに気を使い、健康や環境に配慮し、人種差別とは無縁で、しかも女性にモテモテにも関わらず恋人や家族(現在、過去を問わず)を熱愛しているという。しかもステージに立つほどのブルースギタリストであり、時に口にする警句はキルケゴールの引用で、趣味が自分が住む家の改修というのだから、文句の付けようがない、夢のようなキャラクターである。それでも読んでいて嫌味なところがないのは、作者の懐の深さと巧さである。
多様性がデフォルトの時代にふさわしいニューヒーローの登場(シリーズ化の予定)で、これまでのP.I.ものとはひと味違うハードボイルドの新ジャンルを開く作品として、多くのファンにオススメしたい。

iisan
927253Y1

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