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恐怖の関門



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恐怖の関門の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

何が一体起きてるの?

マクリーン5作目の作品はなんとある犯罪者が巻き込まれる数奇な運命を語った話だ。
主人公のジョン・タルボはサルベージ会社を転々とし、そこで引き上げた財宝を盗んだり、または宝石泥棒と組んでダイヤモンドを盗んだりと悪行の限りを尽くした男が警察の追跡から逃げまくる逃亡劇が始まるかと思いきや、それは100ページほどで終わりをつげ、次は海底油田の採掘ステーションへの侵入劇、そしてヴァイランドと云う悪党によって潜水艦の技師として雇われ、ある仕事を頼まれる。

とまあ、このように実に先が読めない事極まりない物語が読者の眼前で繰り広げられる。

しかもその行動の真意が明らかにされないまま物語が進行するため、読者はタルボが何をしようとしているのかが解らない。とにかく読んでいて実に気持ちが悪い物語展開なのだ。

例えばタルボがいきなり警察に捕まるのも突然食事をしていた彼の許に警察が現れ、有無を云わさずに連れていくところから始まり、そこから機転と隙を見て、その場にいた女性を人質に逃亡し、モーテルに隠遁するが、そこに突如殺し屋が現れ、女性の親である石油富豪のラスヴェン将軍邸に連れられる。
更に将軍がタルボに自分の石油採掘ステーションに忍び込むよう依頼する。が、その後タルボは隠密裏に屋敷を抜け出して単独でステーションに忍び込む。何らかの目的があるのかは判るものの、それが何のためなのか明らかにされないまま、行動に移るのである。

とにかく登場人物それぞれが秘密を抱いていることを仄めかしながらも、それが明確にされずに物語は進行する。これほど靄の掛かったままで進む小説も珍しい。
本格ミステリならば殺人の犯人や殺害方法、動機など不明なままで物語は進行するが、それはそれを突き止めるための物語であるから、逆に云えば目的がはっきりしているのだが、本書においては主人公のタルボを筆頭に、彼に依頼をするラスヴェン将軍の仕事の内容も不明で、ヴァイランド一味の目的も不明で何が目的なのかがはっきりせず、焦点が絞れずに進行するため、実にもどかしい思いをしながらページを繰らなければならなかった。

そしてそれら物語の靄は最終章、タルボの口から明かされる。

専門家と見紛うような石油採掘ステーションの技術的な説明と描写はマクリーンの専売特許とも云うべき精緻かつ精密で作家が付け焼刃的に浅く薄く専門書を読んで物語に挟み込んだような代物ではない。
そこは認めるものの、本書における作者の企みは決して効果的なサプライズを生んでいるとは云えない。プロローグで起きた事件が物語の布石であることは容易に知れるものの、そこから展開する物語は焦点が掴みにくく、さらに殺人犯として知らされる主人公タルボの不可解な行動の数々には上で書いたようにとにかくどこへ進むのかがはっきりとせず、終始やきもきさせられた。
私はある明確な目的に向けて登場人物が生死の境で苦しみながらも前に進もうとする極限状態での苦闘を描き、その中で挟まれる意外な人間関係や本性がサプライズとして有機的に働くことで生まれる心震わせる人間ドラマこそがマクリーンの真骨頂だと思うが、物語全体を仕掛けにするという器用な創作は似つかわしいと本書を読んで思ってしまった。

しかし上にも書いたようにマクリーンはどの分野を書いても専門はだしの詳細な内容を技術者が読んでも眉を潜めないほどの正確さをもって書けることが今回も解った。
次はどのような舞台で専門知識と人間ドラマが絶妙に絡み合った作品を提供してくれるのかを期待したい。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S

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