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眠れる美女



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眠れる美女の評価: 8.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.00pt

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No.1:
(8pt)

アーチャーの新機軸

冒頭、あまりにもロマンティックな展開に面食らった。これはロス・マクではなくてハーレクインかと思ったほどだ。
とはいえ、このような幕開けは嫌いではない。寧ろ従来のハードボイルド探偵小説物の定型を破る斬新な導入部と評価できる。

この、石油が海へ流出するというシーンから始まる本書は従来探偵事務所に依頼人が来て仕事を依頼する定型から脱却し、自らをいきなり事件の渦中に飛び込ませ、依頼人を得るというまったく逆の手法を用いている。これは常に傍観者たる探偵を能動的に動かそうとした作者の意欲の表れではないだろうか?
したがって本作ではアーチャーは本作の中心となる女性、ローレルに好意を抱き、家に誘う。さらに珍しいことに事件の関係者の一人と一夜を共にしたりするのだ。
しかしやはり中盤以降は従来の観察者及び質問者のスタンスに回帰し、ある意味、試みは半ばで費えてしまう。物語中、登場人物に「そんなに質問ばかりして嫌にならない?」とアーチャーに尋ねさせている所は非常に興味深い。

しかし今回も登場人物に対して容赦がない。誰一人、どの家族として倖せな者が出てこない。常に何らかの問題を抱えており、陰鬱だ。チャンドラーは時には非常に印象的な女性を登場し、物語に一服の清涼剤をもたらしたりしたのだが、ロス・マクは常にペシミズムに満ちている。またモチーフとなる石油の海への流出が物語の進行のメタファーとなっているのも上手い。
ただ『地中の男』の山火事と違い、本作の中ではそれは解決しない。これも真相は判明するものの、事件そのものが解決しないことのメタファーなのだろう。

しかしここに来てロス・マクの良さが一層判ってきた。今なら以前読んだ『ウィチャリー家の女』、『めまい』も、もっと面白く読めるかもしれない。未読の作品の復刊も強く求める次第である。

Tetchy
WHOKS60S

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