探偵の帰郷
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気障で一匹狼なハードボイルド(作中で主人公自ら吐露するようにソフトボイルドかも知れませんが)を読むつもりで取り組んだら、ハードボイルドが成立する大都会を離れて帰省し、つぶれた工場ばかりの停滞・閉塞・因習(ではまだないけれど、これが何世代も固定されたら閉鎖的な村社会が成立すること明らかな田舎)に30年ぶりに戻ってみたら…? ここで誰もが予測する通り、30年前高校時代の甘酸っぱい初体験のガールフレンドとか熱血でお互いの為なら死んでもいいマブダチとかが出てくるのですが、それが貴方(って誰よ)30年の歳月で、離婚だの愛憎だの人生の有為転変を見事に体現し、人生の重さを我らが主人公探偵に見せつける。…と、ここまでは中年以後の読者であれば「まあ、そんなこともあるわな」というお約束の人生模様で、解説でもホームドラマの要素もあると指摘している。 出色なのはここからである。 このミステリは社会小説としての側面を持ち始め、この田舎にも忍び寄る麻薬の影がちらちらときざし、主人公の甥はベトナム帰還兵だったのだが、これもこれでパターンと言えばそれまでだけれど、人格が破壊されてヒッピーと化しているという設定の上、探偵の帰郷と同日に自殺か他殺か不明な状況で死ぬ。 p131 私たちは若者が戦争が死ぬかもしれないってことは覚悟していたけれども、あんなに変わり果てて帰ってくるなんて事態は想像もしてなかったのね。帰ってきたビリーを見て、初めてそれがわかったわ。 それに、あんなに激しい憎悪に凝り固まって、その憎悪を私たちに向けてくるなんてことも。 この甥御さんはトラブルメーカーで、町中の鼻つまみ者だったことが判然としてくるのだが、最後の50ページ、今では使い古された手のようなベトナムでのトラブルと、時代変化としての麻薬は驚くべき化学変化を来して、田舎のもう一つの性質、アメリカの正義を確信していた純朴な青年がベトナムで人格を破壊され、アメリカ社会への懐疑者、不信者となってその体も人生も崩壊していく(化学兵器で後遺症に苦しんでいた描写が出てくる)有様が描かれる。 p155 自ら進んでアウトサイダーの生活をしているだけなのか、それとも多様性を認めようとしない偏狭な人々に排撃されて、やむなくそうした生活をしているのか。 …その結果、ベトナムだけではない、麻薬だけではない、さまざまな人生の結末が炸裂する。 p226 彼は何年か前、徴兵委員会に入ってたはずだ。つまり、彼は、ビリーを戦争に送り出した人間の一人ってことじゃないか? ベトナムなどまったく舞台にしておらぬ片田舎にもかかわらず、ベトナム戦争は、その過程だけではなく、戦後のはるかのちになっても、アメリカ社会を引き裂き、深刻なインパクトを与えた悲劇となったことを無関係な日本人である筆者にもまざまざと感じさせる傑作だった。 ネタバレを避けるため持って回った言い回しになってしまうのだけれど、こうした「自分とは異なった人と文化」と常に接触し、そのショックを受け続けているアメリカとは、日本とはまったく異なった国なんだな(その中には、サンフランシスコの都会人となった主人公ジョン・タナーと、今や停滞して落ちぶれた故郷カルディアの異質さも含まれる。同じ国内といえども、それだけで理解しあえるなどと主人公はまったく信じてもいない)と、アメリカ社会の姿を想像させる小説でもあった。 作者も想定もしていない読み方かもしれないが、これに比べて日本の均質性、発想や思考の同一性は感じることがある小説だった。 p146 誰かが救いの手を差し伸べてくれるのをひたすら待っていたんだよ。誰かというのは政府だったかだろうがね。だが、町の何人かが立ち上がることにしたんだ。教会で聞くお説教に従って、自らたすくる者になろうとしたって訳さ。 と、沈没する故郷を救おうとする知り合いがおり、これも結末近くで探偵が故郷の再建のためにできることをしていこうという流れに繋がっていく。 p271 決勝点をもぎ取って、仲間から手荒い祝福を受けたことを思い出した。あれは私一人のためのゲームのようなものだった。なんのことはない、私もチャック・ハズバーグと同じような事を考えている。人生というのは、誰にとっても同じようなものなんだろう。 と、人生を振り返って、誰にとっても、その人がヒーロー・ヒロインになる時があり、そして一生は長く続く苦さを浮き立たせる。そうした人間観察も散見されて、アメリカ日常生活を垣間見る小説でもあった。 個人的には傑作でしたが、これを読まれた/読まれる皆様がこう感じるかは判りませんので、参考にアップ致します。 最後の一ページ、大都会に戻ろうとするとき、とうもろこし畑で収穫する巨大なコンバインを見て、異星人のようだ、と思う主人公の感慨は、深刻な悲劇ミステリや戦争を離れて素晴らしい情景で、それ自体「異質」と常に直面している主人公の人生のシンボルのようだった。 | ||||
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探偵のタナーが相続した土地をどうするかで故郷に帰ってきたら・・・というお話。 今回はいつもの舞台のように大都会が舞台ではなくタナーの故郷というカルディアという田舎で事件が発生して捜査にあたるということで、訳者あとがきで書かれているようにシリーズとしては異色作になるかもしれないという展開の小説。まずタナーの家族で相続した土地をどうするかで、兄弟の間で色々揉めたり、その最中にタナーの甥が自殺して、タナーだけは殺人だと思って捜査したりと、タナー個人の人間関係に特化したような内容の作品で、脇役でもかってタナーと関係があったキャラクターが多数出てきて、昔の恋人とは逢瀬を体験したりと、私立探偵の過去を追想するよう話で、著者のグリーンリーフがやりたかったことを憶測すると、主人公のタナーに過去を対峙させ、そのキャラクターの深みをましたかったのではないかと思いましたがどうでしょうか。実際にタナーが対峙する家族関係や友人・知人関係との接触でタナー本人の人格がかなり深化した感じになっていて、この後のシリーズに期待が高まるようになっております。 勿論、甥の死を巡る推理小説としても良く出来ていて感心させられました。 深化したシリーズ第四作。是非ご一読を。 | ||||
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私立探偵ジョン・タナー・シリーズの4作目。 本作は、タナーが30年振りに故郷の田舎町カルディアに帰るところから幕を開けます。帰郷の理由は、タナー兄妹4人が伯父から相続した農地の処分方法を話し合うため。しかし、その農地の用途を巡り、様々な者がそれぞれの思惑を持って兄妹に接近してきます。そうした中、評判の芳しくなかったタナーの甥が首を吊った姿で発見されます。自殺説が強まる中、甥が自殺するはずがないと、タナーは単身で犯人を捜し始め、その結果、図らずも家族や知人、そしてカルディアの暗部を知ることになります。 この作品は、ハードボイルド小説には違いありませんが、探偵の過去や家族が詳細に語られ、また、ベトナム戦争を始めとする社会問題がふんだんに盛り込まれるなど、異色の作品といえるでしょう。 うんざりするような事実が次々と明らかになり、作品全体が重い雰囲気に包まれていますが、読後感は悪くありません。読んでおいて損はないと思います。 | ||||
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