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その裁きは死



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【この小説が収録されている参考書籍】
その裁きは死 (創元推理文庫)

その裁きは死の評価: 8.00/10点 レビュー 4件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全4件 1~4 1/1ページ
No.4:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

事件はさらに複雑で面白く、探偵はさらに厚かましくて憎々しく

2019年のミステリランキングを総なめにした『メインテーマは殺人』のコンビが帰って来た。
前作同様本書も作者自身がワトソン役になり、元刑事のダニエル・ホーソーンが探偵役を務める。

彼らが今回捜査する事件は離婚専門弁護士リチャード・プライス殺人事件。自宅でワインボトルで殴られたことが死因だ。さらに壁にはペンキで大きく“182”と数字が書かれていた。事件の直前、ゲイである彼の恋人スティーヴン・スペンサーと電話中だったが、通話中に客が訪れたため、掛け直すと云ったきり電話はかかってこなかったらしい。その時リチャードは知っている人間が訪れたような感じで、「もう遅いのに」と云っていたという。

凶器のワインボトルは2000ポンドもする高級ビンテージワインだが、被害者はお酒が飲めない。そのワインは彼の依頼人エイドリアン・ロックウッドが離婚調停が上手く行ったことに対する感謝の意を込めて贈られたものだった。
そしてその依頼人の離婚相手は作家の日本人の純文学作家アキラ・アンノで彼女は事件前にレストランで出くわしたリチャード・プライスに歩み寄って残っていたワインを彼にぶっかけ、さらにワインボトルがあれば殺してやれたのにと暴言を吐いた人物だった。それがゆえに彼女が最有力容疑者となっていた。

さらにリチャード・プライスの遺言状には相続人としてスペンサー以外にダヴィーナ・リチャードソン夫人という名が挙がっていた。彼女は彼が昔洞窟巡りをしていた時の仲間の1人チャールズ・リチャードソンの元妻だった。
その仲間にはもう1人、ヨークシャー在住で経理の仕事をしているグレゴリー・テイラーがおり、彼らは3人で毎年1週間ほど各地の洞窟探検に行くのが通例になっていたが、2007年の≪長路洞(ロング・ウェイ・ホール)≫と呼ばれているリブルヘッド近くの洞窟で雨に降られ、2人は命からがら逃げ出したものの、ダヴィーナの夫は途中で道に迷い、洞窟を脱けられずそのまま還らぬ人となった。
未亡人となった後もリチャードは彼女を経済的にも支援し、インテリア・デザイナーである彼女の仕事の斡旋も行っていたのだった。さらに彼女の息子コリンの名付け親でもあった。

しかしリチャード・プライスの死の前日、もう1人の仲間グレゴリー・テイラーがロンドンのキングス・クロス駅でホームから落ちて列車に轢かれて死んでいたことが判明する。
ヨークシャー在住の彼がなぜロンドンにいたのか。
そしてリチャードの死に彼は関係しているのか、というのが今回の事件の謎だ。

今まで作家自身が作品の中に登場して探偵役もしくは相棒役を務めるミステリはたくさんあったが、ホロヴィッツのこのホーソーンシリーズはホロヴィッツの実際の仕事や作品が登場するのがミソで現実と隣り合わせ感が強いのが特徴だ。
例えば本書では彼が脚本を務める『刑事フォイル』の撮影現場に訪れるのが物語の発端だが、その内容は極めてリアルで1946年を舞台にしたこのドラマのロケハンから当時の風景を再現するための道具立てや舞台裏が事細かに描かれ、映画ファンやドラマファンの興味をくすぐる。そんな製作者たちの苦心と迫りくる撮影許可時間のリミットの最中にホーソーンが傍若無人ぶりを発揮して現代のタクシーでガンガンにポップスを鳴り響かせながら登場する辺りは、本当に起こったことではないかと錯覚させられる。特に最後に附せられた作者による謝辞を読むに至っては作中登場人物が実在しているようにしか思えない。

今回ホーソーンが担当する事件の警察側の担当者はカーラ・グランショー警部でかなり押しの強い女性警部だ。表面上は協力的だが、ホロヴィッツの許を訪ねたかと思うとホーソーンが事件の捜査に関わることを苦々しく思っていることを口汚く述べて、ホロヴィッツを脅し、逆にホーソーンの知り得た情報をリークするようにスパイ役を命じる。

ただこの警部は単に上昇志向が強いだけでなく、独裁志向も強く、とにかく自分が一番に自分の意に沿わない場合は傍若無人に振舞う。『刑事フォイル』の撮影許可も簡単に取り下げて、ドラマスタッフを狼狽えさせるし、スパイの働きが悪ければ書店ではホロヴィッツのカバンの中に未精算の本を忍ばせ、万引き犯扱いし、書店との関係を悪化させようとする。まさに悪漢警察そのものだ。

特に私が面白いと感じたのはこのホーソーンシリーズをホロヴィッツは自身のホームズシリーズにしようと思っているらしく、その場合、謎に包まれたホーソーンの過去や私生活を徐々に明らかにするには固定した警察側の担当、ホームズ譚におけるレストレード警部やエラリイ・クイーンに対するヴェリー警部と定番の警察官がいたため、彼としては前回登場したメドウズ警部を望んでいたのだが、現実の事件捜査ではそんなことは起きないことを吐露している点だ。
この辺がリアルと創作の歪みを感じさせ、いわゆる普通のシリーズ作品にありがちな固定メンバーによる捜査チームの確立を避けているところにホロヴィッツのオリジナリティを感じる。

他にもワトソン役であるホロヴィッツ自身の扱いが非常に悪く書かれており、警察の捜査に一作家が立ち会うことについて警察が面白く思っていないこと、また自分の捜査の実録本の執筆を頼んだホーソーン自身でさえ、彼の立場を擁護しようとしないこともあり、本書におけるホロヴィッツは正直少年スパイシリーズをヒットさせたベストセラー作家でありながらも至極虐げられているのだ。
特に面白いのは彼らが行く先々でホロヴィッツの名前を聞くなり、彼の代表的シリーズ、アレックス・ライダーの名前を誰もがまともに云い当てることができないことだ。これがホロヴィッツとしてのジレンマを表してもいる。
いかにベストセラーを生み出しても所詮ジュヴィナイル作家の地位はさほど高くはならない現実を思い知らされる。それこそが彼がホームズの新たな正典である『絹の家』を著した動機でもあることは1作目の『メインテーマは殺人』でも書かれている。ちなみに今回の事件はホロヴィッツが次のホームズ物の続編『モリアーティ』の構想を練っている時期に起こっている。

この扱いのひどさがワトソン役であるホロヴィッツにホーソーンやグランショー警部を出し抜いて事件を解決してみせるという意欲の原動力となっている。
つまりこのワトソン、実に野心的なのだ。だから彼はワトソン役にも関らず、警察の事情聴取の場でも自ら関係者に質問する。何度も口出しするなと釘を刺されてもいつもついつい質問していしまうのだ。
1作目では彼の不用意な質問が自身を危険な目に遭わせたにも関わらず、彼は止めない。
しかしそれがまた警察の、ホーソーンの不興を買ってさらに関係を悪化させる。
作家の好奇心がいかに疎んじられているかを如実に示しているかのようだ。

物語は1作目同様、さらに複雑さを増していく。

人間関係の網が複雑に絡み、誰もが何か後ろ暗い秘密を持っていることが判明していく。
いやはや本当ホロヴィッツのミステリはいつも複雑で緻密なプロットをしているものだと思わされた。したがって私もなかなかな犯人が絞れないまま、読み続けることになった。

ところでこのシリーズはホロヴィッツの相棒ダニエル・ホーソーンの謎めいたプライヴェートを探るのも1つの大きな謎だ。
1作目では元刑事の職業とは分不相応な高級マンションに住んでいることの解答が得られたが、プラモデルを作るのが趣味でゲイを嫌悪しているという以外まだよく彼のことをホロヴィッツも読者も知らない。
今回は同じマンションの住人たちで開催されている読書会に彼が参加していることが判明する。
さらにその中の1人でインド系のチャクラボルティ家と親しくしており、特に筋ジストロフィーに罹っている車椅子の少年ケヴィンとは親しいようだ。

この事実がしかしホーソーンの驚くべき情報収集の高さの秘密を露呈することになる。

ただ私がこのシリーズを大手を広げて歓迎できないのはこのホーソーンの性格の悪さとマイペースすぎるところにある。彼は常に自分のためだけに周囲を利用するのだ。
冒頭の登場シーンも自分の仕事のためならばドラマの撮影など邪魔するのはお構いなしだし、本書では食事代やタクシー代は全てホロヴィッツに負担させる。まあ、作家である彼はホーソーンの事件を作品化することで全て取材費として経費に落とせるが、それを当たり前のように振舞うのがどうにも好きになれない。

通常ならばアクの強い登場人物、特に主役は物語が進むにつれて好感度を増していくが、このダニエル・ホーソーンは逆にどんどん嫌な人物になっていく。
行く先々で作家と云う微妙な立場で尋問や事件現場に立ち会うホロヴィッツを周囲の誹謗中傷から擁護もせず、ホロヴィッツが口出しをすると自分から依頼したにもかかわらず、この仕事は間違いだった、もう止めた方がいいとまで云ったりする。
また率直な物の云い方、質問の仕方は相対する人物を不快にさせ、協力的だった相手が次第に顔から笑みを消し、退出するよう促すが、ホーソーンは決してそれを聞き入れない。
自分のその時の気分で周囲に当たり、そして自分のペースで物事を運んでは周囲を困らせる、実に独裁的な男である。

しかし今回も手掛かりはきちんと目の前に出されているがあまりに自然に溶け込んで全く解らなかった。ホロヴィッツのミステリの書き方の上手さをまたもや感じてしまった。

そして本書ではシャーロック・ホームズの影響を顕著に、いや明らさまに出している。『緋色の研究』の読書会しかり、作中の期間でホロヴィッツが『絹の家』を発表し、2作目のホームズ物の『モリアーティ』を構想中であることと述べていることもまたホームズ色を強めている一因かもしれない。ホーソーンもあの有名なホームズのセリフを引用したりもする。

1作目においてもホロヴィッツが自分なりのホームズシリーズとしてこのホーソーンシリーズを書いている節が見られたが、本書において作者自身が明らさまにそれを提示していることからこれはもう宣言したと思っていいだろう。

さて私は1作目の感想でこの小説は探偵を探偵する小説だと書いたが、云い直そう。
このシリーズは探偵を探偵するシリーズなのだと。
解説によればシリーズは10冊の予定でその10冊でダニエル・ホーソーンという探偵の謎が明らかになるということだ。1作目の原題が“The Word Is Murder”、2作目の本書が“The Sentence is Death”、つまり1つの単語から始まり、次にそれらが連なって文章になることを示している。それは即ちシリーズを重ねていくうちに物語が連なり、ダニエル・ホーソーンと云う人間が形成されるという意味ではないだろうか。

しかしこのホーソーンと云う男、ホームズほどには好きになれそうにない。今のところは。
このダニエル・ホーソーンをどれだけ好きになるかが今後のシリーズに対する私の評価に繋がってくるだろう。

▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.3:
(8pt)

面白かった。

読みやすい。

わたろう
0BCEGGR4
No.2:3人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

極上のミステリー、お勧めです

ホロヴィッツ氏の小説は毎回ワクワクしながら読み始めて、そして最後は(良い意味での)ため息をつく。
二人組の主人公にも(性格や秘密主義?それと皮肉屋)だいぶ慣れてきて、二人だから本の面白さが増すのだと思われます。たぶん主人公一人だと半減するのではないでしょうか。
ホロヴィッツ氏の特筆すべき点は、まずしっかりとしたミステリーであること。
それから謎解きではあるのだけど、主人公二人のユーモアも楽しめること。
殺人事件の本を読んだあとでも、一種の爽快感があること、ほんと不思議な作家さんです。



ももか
3UKDKR1P
No.1:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

その裁きは死の感想


▼以下、ネタバレ感想

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氣學師
S90TRJAH

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