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赤緑黒白



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赤緑黒白の評価: 7.33/10点 レビュー 3件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.33pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全3件 1~3 1/1ページ
No.3:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

この題名を覚えておくこと!

Vシリーズ最終作。このシリーズは今までの森作品同様、密室殺人が多いのだが、本書は一風変わった連続殺人事件が描かれる。色を含んだ名前の被害者がその色一色に塗りたくられて死ぬという実に奇怪な事件である。

さてS&Mシリーズでもシリーズ1作目の犯人が最終作で再登場したように、このVシリーズでも同様の趣向が採られている。

保呂草潤平に成りすました殺人鬼、秋野秀和が拘置所の中で瀬在丸紅子と面談するのだ。この辺は『羊たちの沈黙』のレクター博士とクラリスの面会シーンを思わせる。

S&Mシリーズでの犯人真賀田四季が警察に捕まらず、自由の身であることの違いはあれど、犀川創平と邂逅し、議論を戦わせているという点で、犯人と名探偵の再会という同じようなシチュエーションを使っているのが面白い。

これだけのミステリアスな道具立てをしながら、その動機やトリックが実に呆気ないのが森作品の特徴。むしろ動機なんて犯人しか解らないとばかりに端折る傾向さえあるドライさが見られる。

本書でも犯行のトリックはさほど詳しく語られない。

第1~3の殺人に関してはその方法についてはほとんど語られないから、普通に彼らの前に現れ、普通に殺したようだ。

問題は第4の殺人。そのトリックは何ともしょうもない。

このトリックが明確に書かれないところが、森ミステリの甘いところで私はいつも欲求不満を持ってしまう。

この犯行動機、この現代社会においては実に多い動機だ。

昨今の犯罪の動機は稚拙の動機がいかに多い事か。何度もこのような理不尽な理由で殺人が行われている報道を耳にする。
ストレス社会と云われる現代社会の闇。逆にこのドライさ、単純さ、無邪気さを森作品ではミステリに敢えて取り込んでいるように思う。

ミステリのようにいつも理由があって、意外な動機があって人を殺すわけでなく、案外人を殺すのは至極単純な理由でしょ?
そんな風に森氏が片目をつぶってニヤリとする顔が目に浮かぶようである。

それもあってかこのシリーズにはS&Mシリーズにはない不穏な空気がある。

表向きは私立探偵兼便利屋稼業の保呂草が実態は泥棒と云う犯罪者の空気を纏っていることが更にミステリアスかつ危険な香りを感じさせているのだが、それにも増して瀬在丸紅子と云う探偵が次第に自身も殺人者としての素養が、資質があること、そしてその衝動を実は紅子自身が押さえていることが明かされる。

常に犯人を突き止める名探偵こそが、犯罪者、とりわけ殺人者の心理を理解している、即ち名探偵も殺人者の心の持ち主である、つまり悪は悪を持って制される、そんな不穏さを感じさせる。

さらに瀬在丸紅子と祖父江七夏の林を巡る女の闘い。ドライな森作品には珍しく嫉妬や愛情への渇望感など、ウェットな部分が書かれているのがS&Mシリーズの、どこか新本格ミステリの流れを継承した、パズルに徹した作風と異なり、大人の読み物としての色合いを濃くしたように感じていたが、本書では既にそれらは薄まり、むしろ紅子が七夏に歩み寄るような姿勢を見せているのが驚きだった。

しかしそんな冷戦も犯人との最終決戦で破られる。林の捜査に協力した紅子が犯人と対峙する時に明らかに七夏は嫌悪感を示し、さらに真犯人との対面に対してははっきりと拒絶する。
これは民間人が犯行現場に土足に立ち入ることへの窘めでもあるが、女性として同じ男性を愛する相手に対する女の意地である。この2人の女の感情的な行動もまた本シリーズの特徴だ。

そう、犯行の動機も含めてこのシリーズの登場人物は実に感情的で衝動的、いや本能に忠実なのだ。保呂草の美術品盗みもまた彼の美しいものが好きという衝動によるものだ。

本書でも保呂草による関根朔太の初期の作品≪幼い友人≫の盗難事件がサイドストーリーとして出てくる。その方法はサイドストーリーというほどには勿体ないくらい凝っており、むしろメインの殺人事件よりも緻密である。

この犯行方法は瀬在丸紅子によって見破られ、未遂に終わるのだが、この盗みを働いた保呂草の動機もただ単純に関根朔太が書いた≪幼い友人≫の裏に書いた絵がどんなものなのか見たかったからだけである。
過去にも保呂草はそれがあるべきところに収まるべきだと盗んだ物を無償で誰かに渡したり、美しいから手元に置いておきたいという理由で盗んだりと至極単純な動機で犯行を行っている。美術品を盗んで大金を稼ぐことは二の次なのがほとんどだ。

我々が罪を犯さないとはこの欲望とか衝動を理性で抑えているからだ。そして罪を犯した後で生じることの重大さを想像することで踏み留まらせている。
つまりこの理性と云う壁が破れ、後先の想像をしない時に本能的に人は犯罪を起こすのだ。

作中保呂草は云う。例えば殺人はドライに云えば排除なのだと。自分を確立するために障害となるものを排除する、それが人間だ。
戦争も然り、政治的画策も然り。権力もない人間が邪魔者を排除するために取る方法が犯罪であり、その1つが殺人なのだ。

その排除はまた1つの木から彫刻を作ることにも似ている。余分な部分を削ぎ落し、形を作る。その余分な部分が人ならば殺人であり、そして犯罪は出来上がった作品とも云える。犯罪者の中には犯罪行為にそんな美しさを見出して敢えてする者もいる。

更に保呂草は云う。カラースプレーを手にして色を塗ると実に楽しく、すっきりすることを感じる。
しかし通常しないのはそうすることで後片付けが大変、勿体ない、という倫理、経済的な観念が一般人にあるからそうしないだけで、それを考慮しなければ誰でもできるはずだ。

自分なりの作品を作りたい、人を殺したい。そんな実に無邪気な動機が一連の犯罪の動機である。しかしただの子供ではないかと歯牙にもかけない人はいるだろうが、私は非常に現代的だと感じた。

他にも練無が紫子に語る生贄の話なども興味深い。
命を粗末にしたくないから、死者への感謝の気持ちになり、それが逆に天に命を捧げて天災やら幸せを願うと云う生贄の発想へと繋がったというものだ。これも小さな排除で大きな幸運を得るという行為。

本書は人を殺す、罪を犯すことについてそれぞれの人物が深い考えを述べているのもまた興味深かった。

さて哀しいかな、瀬在丸紅子、保呂草潤平、小鳥遊練無、香具山紫子ら楽しい面々ともこれでお別れである。
S&Mシリーズでもそうだったがシリーズの幕切れとは思えないほどただの延長線上に過ぎないような締め括りであるが、一応それぞれの関係に終わりはある。

そして練無と紫子の関係にもなんだか微妙な空気が流れていた。この2人の関係の今後は明らかになるのだろうか。

新たな謎を残してVシリーズ、これにて閉幕。

▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

赤緑黒白の感想

秋野秀和と紅子さんの会談がとても印象的。S&Mシリーズを読み、最初は上手く理解できなかった、四季の思考がなんとなく理解できたように、Vシリーズを読んで秋野秀和たちの考えが理解できたような気がします。なにより、今作で1番驚かされたのは、タイトルの意味

ほっと
2XKXV6EI
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

赤緑黒白の感想

シリーズ完結!赤、緑、黒、白となぜか死体がペンキで塗りつぶされる連続殺人に紅子が挑む!結末は森さんらしいものでしたが、背後にあの天才が関わっていようとは思いませんでした!これで紅子と愉快な仲間たちともお別れかと思うと、少し切なかったですね(笑)あ、でもまだ「四季シリーズ」全部読んでなかったか(笑)

ジャム
RXFFIEA1

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