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石の猿



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【この小説が収録されている参考書籍】
石の猿
石の猿〈上〉 (文春文庫)
石の猿〈下〉 (文春文庫)

石の猿の評価: 7.20/10点 レビュー 5件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.20pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全5件 1~5 1/1ページ
No.5:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

West Meets East.

West Meets East。
本作の主題を一言で表すとこうなるだろうか。
中国からの密入国者とそれを抹殺する蛇頭の殺し屋の捜索に図らずも中国から密入国してきた刑事ソニー・リーと協同して捜査することになったライムとリーとの交流が実に面白い。物語の構図は殺し屋対ライムと変わらないが、決してマンネリに陥らないようアクセントを付けているところがディーヴァーは非常に上手い。特にお互いが白酒とスコッチと西と東の蒸留酒を飲み交わしあいながら語り合い、碁を打ち始めるシーンはとても印象的だ。
毎回このシリーズには名バイプレイヤーが登場するが本書ではまさしくこのソニー・リーだ。

現場に遺された遺留品や証拠類、痕跡から快刀乱麻を断つがごとく、犯人の行動を再現し、その正体に迫っていくライムだが、今回は東洋、中国人の思想という壁に阻まれ、いつものように殺し屋の先手を打つ精細さが発揮できない。西洋人の論理的思考が中国人の面子を重んじる精神を上手く理解できず、成り行きで捜査の手伝いをすることになった中国公安局刑事ソニー・リーにイニシアチブと取られてしまう場面が多々出てくる。
あくまで物的証拠を重視し、刑事の勘などを一切認めなかったライム―その頑なさが前作『エンプティー・チェア』でアメリアとライムとの対立を生んでいた―が本書では東洋の―というか中国人の―特異な考え方のために、ソニー・リーに頼らざるを得なくなるのが面白い。世界一の犯罪学者と称され、巻を重ねるごとに全知全能性にますます拍車がかかっていくライムを『エンプティー・チェア』では知らない土地での捜査という趣向で、本書では異民族との戦いという趣向でライムが決して万能神にならないよう工夫を凝らしているのが素晴らしい。
『エンプティー・チェア』と云えば、冒頭に『コフィン・ダンサー』で標的になった被害者のボディガードになったローランド・ベルがいとこが保安官を務めている『エンプティー・チェア』の舞台ノースカロライナで、同書にも登場したルーシー・カーと付き合っているというエピソードがさりげなく挿入されているあたりはシリーズを読む者にとってささやかな醍醐味だろう。とはいえ、前作の結末を知っている者にはいささか複雑なものを感じる話ではあるのだが。

またシリーズも4作目になるというのにまだまだ鑑識の世界は奥深く、今回もディーヴァーは我々一般市民の知らない専門知識や情報を教えてくれる。

例えば証拠物件を扱うのにピンセットではなく日本人や中国人が使っている箸を使うのだそうだ。箸の方が力を上手く和らげ証拠物件を損傷することなく扱えるからだという。
また鑑識捜査で大敵であるのが現場に落とされる捜査官達の頭髪やら皮膚、汗など部外者による余計な証拠なのだが、これを解消すべくフード付の防護服が開発されたこと(しかしその着装姿はとてもカッコいいものではないらしいが・・・)。

鑑識以外にも豆知識はふんだんに盛り込まれていて、例えばライムの半身不随の手術に使われるのがサメの細胞などということも触れられる。これはサメの細胞が人間の物と適合しやすいからだそうだが、今ではこれはiPS細胞になるんだろうなぁ。

またディーヴァーといえばどんでん返しが定番だが、しかしこれには無理があるのではないか?

もう一つディーヴァー作品に欠かせないのが息もつかせぬサスペンス。『コフィン・ダンサー』の時は一部空が舞台になったが、本書では一部海が舞台になっている。
前者が航空機の操縦についての薀蓄が語られ、さらにスペクタクルまで用意されていたが、本書ではスキューバ・ダイビングで沈んだ密入国船の捜索にアメリアが当たる。刻々と無くなっていく残存酸素量がタイムリミットサスペンスを煽り立てるところはさすがディーヴァーといった所か。

しかしメインのゴーストとライム&アメリアの対決は意外にも呆気なく終わる。しかし物語の主眼は今までの敵になかった政府との太いパイプを持った殺し屋をいかに逮捕するかというところに置かれている。
捕まったゴーストは中国へ送還され買収した役人・警察たちの手によってすぐさま自由の身となるのだが、それをいかに阻止するかにライムたちチームの捜査がメインとなっている。したがってアクション性は今までの作品の中ではちょっと大人しく感じた。しかしゴーストは他の敵とは違って逮捕されただけでライムとアメリアの住所も知っているだけに再登場して今後の驚異となる可能性もあるのかもしれない。

さて本書のタイトルとなっている「石の猿」とは殺し屋の名前ではなく実は日本人に馴染みのある西遊記の孫悟空のことだ。細かくいうと密入国者の一人、医者のジョン・ソンがしている首飾りに付けられたお守りのこと。
暴れん坊の猿の妖怪が天竺への旅で知見を増やし、改悛していくというモチーフからソニー・リーという刑事が中国の東の国アメリカに渡って親不孝者と思われていた自分を親に認めさせるという影のテーマに擬えているのだろうが、もっと他にもあったのではないだろうか?

今回は従来のジェットコースターサスペンスの趣向から外れ、異文化とライムの邂逅を軸に中国密入国者の現状とチャイナタウンの陰の部分を描くことでストーリーに濃密さをもたらそうとしたのは解る。確かに密入国者のサム・チャンが車が来るたびに、誰かの話し声がするたびに電灯を消し、息を潜めて暮らさなければならない状況に絶望するエピソードなどはなかなかに読ませ、考えさせられたが、もう少し掘り下げてくれればもっと読み応えがあっただろう。
特に読み応えを感じたのはライムとリーのやり取りの箇所だった。特にライムが脊髄の手術を取止める決心をさせたのがリーの言葉だったというのは重要だし、シリーズの今後の方向を決める部分でもあった。

しかし毎度のことながらこの世は騙し騙されの連続で、賢く立ち回った者が生き残り、素直で世間の怖さを知らない無垢な人間は生きていけないのではと思わされる。
作品の性質上これは仕方ないのだが、蛇頭の魔の手から逃れるために善玉の密入国者サム・チャンの取った行動でさえライムの推理を手玉に取るくらいのフェイクだし、そして真相で明かされるのはまたもや政府高官たちの悪行―ゴーストがわざわざ密入国者を殺そうとしたのは福建省の高官たちが企業の賄賂を受け取って潤っている事実を亡命した反体制活動家から暴露されるのを防ぐ為―だ。
政治と金、権力と金の汚さこそが実はこのシリーズの隠れたテーマになっていることを気付かなければならない。

『エンプティー・チェア』から続いたライムの四肢麻痺からの回復への道もここで一旦終了。そしてアメリアが抱くライムの子を授かりたいという思いも一段落着いたような形だ。次作はまた新たなシリーズのステップの始まりではないだろうか。

もう一度『ボーン・コレクター』や『コフィン・ダンサー』で見せた手に汗握るサスペンスを期待したい。


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Tetchy
WHOKS60S
No.4:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

異色の作品

リンカーン・ライムシリーズを順番に読んできて、4作品目の今作。色々なところで言われている通り、前3作品とはやや趣の異なる異色の作品でした。随所に中国の知識がばらまかれ、筆者の勉強熱心さには感心するばかりです。中国情勢には詳しくありませんが、違和感なく読めました。
前3作品と比べるとジェットコースターの勢いは落ち、展開もやや読みやすく、どんでん返しも少な目ですが、それでもリンカーンとアメリアのコンビネーションは必見です。
そして主役を食いかねないほどの存在感を放つ中国人刑事とリンカーンの友情も必見です。

▼以下、ネタバレ感想

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ritsu
PZBSUSRN
No.3:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

石の猿の感想

リンカーン・ライムシリーズ4作目。
ページ数が多い作品は積読状態になってしまうのが悪い癖。
読めばやっぱり面白いシリーズで楽しみました。

1作目から順番に読んでますが、本作は内容がとても把握しやすく読みやすいです。

あらすじから社会派のような重い移民の話が感じられるのですが、事件の概要はシンプル。
密入国の移民船をゴーストが爆破。生き延びた移民を始末しようとゴーストが追いかける。
移民を殺されないように現場の手がかりを推理してゴーストを追いかける。というシンプルな物語。

この物語を軸に、1作目を彷彿する現場検証の楽しさ、アメリアとライムの関係、新登場の中国刑事のリーとライムの人間模様というキャラ展開が楽しめ、ゴーストの犯人視点や、逃げ延びる移民視点での展開を読ませて飽きさせない作りになっています。読めば一気読みの楽しさは流石。

見どころとして、中国人刑事のリーとライムの関係が良かったです。
米捜査視点では疑心状態のリーでしたが、異なる操作方法を認め、人間関係ができていく姿は心地よかったです。
酒の味を認め合う表現やライムがプレゼントするあたりのシーンは心にきました。

シリーズが進むごとに評判が良くなるので、引き続き追っかけてみようと思います。

▼以下、ネタバレ感想

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egut
T4OQ1KM0
No.2:4人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

石の猿の感想

リンカーン・ライムシリーズの作品です。相変わらず、意外な展開で驚かせてくれます。
今回の作品に登場する暗殺者の正体は誰なのか推測しながら読みましたが、なかなか上手く書かれていて正体が明かさられるまで分からなかったです。
分からなかった分、面白く、心を躍らせながら読むことが出来ました。
また、この作品は中国からの不法入国者について取り入れた物ですが、中国に関することがきちんと書かれており、しっかり調べたという印象を感じました。
このように、しっかり調査し、きちんと書いてくれるような作者の作品は、読む価値があると思いますので皆さんもJ・ディーヴァーの作品を読んでみて下さい。

松千代
5ZZMYCZT
No.1:3人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

感想

1作目から順番に読んできたのですが、この話が個人的には一番好きです。
エンターテイメントとしては非常に面白いし、社会背景よりも娯楽を重視してると言うか、どんでん返しが多くてどちらかと言えば映像向きの話なのかなと思います。
映画化されたのは1作目の『ボーン・コレクター』だけですが、ずっと前に映画だけ見ていて犯人があまりに唐突だったのでいまいち納得できなかったのですが、原作を読んでかなり設定に変更があったのだとやっとわかりました。
それんしても、どんでん返しが好きな作家さんですね。あまりにそればっかりでちょっとこじつけっぽい感じがして、そこまで必要ないのでは?と思いますが、面白いのには間違いないです。
最後にはすっきり解決するので、そこはスウェーデンの作家さんが書くような重い感じはなく、爽快です。

映画でのデンゼル・ワシントンとアンジェリーナジョリーがなかなか良かったので、どうしても読んでいてそのイメージから抜け出せませんが、この『石の猿』では、ソニー・リーがどうしてもジェット・リーになってしまって・・・・。

これまでの話ほどどんでん返しはありませんでしたが、中国に生きる人達の大変さ、過酷さがリアルで伝わってきて良かったです。ゴーストの背景にあるものも現実に存在したのだろうなと思います。
ただ、本当にアメリカは美国ですばらしい国なんですかね?銃依存症のような国民性と犯罪の多さを考えると、すごい病んだ国に思えるのは私だけではないと思うのですが・・・・。


たこやき
VQDQXTP1

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