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黒衣の花嫁



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黒衣の花嫁の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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(7pt)

冬の寒さがこの遣る瀬無い結末を一層身に染入らせる

ウールリッチお得意のファム・ファタール物のサスペンス。謎の美女による連続殺人事件を描いた作品だ。

被害者はそれぞれ株式仲買人に年金暮らしのホテル住まいの男、そして普通の会社員、画家に作家とそれぞれバラバラだが、殺人犯のジュリーとだけ名前の判明した女性には彼らが持つある共通項に基づいて殺害を行っている。

それぞれの被害者と謎めいた女性殺人者ジュリーとのエピソードはまさにそれ自体が短編のような読み応えで、これぞまさにウールリッチ・タッチだと存分に堪能した。

まず最初の餌食となる株式仲買人のジョン・ブリスの前に黒いドレスを身に纏った周囲の目を惹く金髪美人として登場し、スカーフをバルコニーから落としてそれを取らせて身を乗り出したところを突き落として殺害する。

次の犠牲者ミッチェルでは彼の住むホテルの部屋を予めチェックし、彼が飾る女性遍歴の写真を見て、彼の理想の女性のタイプを突き止め、赤毛の理想の女性として登場し、お酒を愉しみながら毒を盛って毒殺する。

次の一介の会社員フランク・モランは彼の5歳の子供から家族構成や家庭の情報を聞き出し、彼の妻マーガレットを偽の手紙で実家に帰らせ、その間子供の世話を頼まれた幼稚園の先生に成りすまし、彼の部屋で子供の相手をしながら、かくれんぼに参加するよう誘い込み、一度入ってしまったら外から開けないと出れない階段下の部屋に彼を閉じ込め、窒息死させる。

次の画家ファーガスンには絵のモデルとして登場し、彼が正規に手配されたモデルを断るほど見事に取り入ることに成功する。しかし夜な夜な行われるパーティーで面が割れることを恐れる綱渡りの中、ブリスの友人コーリーが現れる。彼はジュリーに逢ったことがあると思いながらも思い出せないでいると、狩りの女神ダイアナに扮した彼女は矢で彼を射ち殺す。

最後のターゲット、作家のホームズには彼の口述記録のタイピストに成りすまし、暖炉の熱でライフルの弾が暴発してお決まりの位置に据えられている書斎の椅子に座る作家に命中するよう工作するが…。

ある時は金髪の黒衣の女性、またある時は赤毛の理想の美人、またある時は赤みがかった金髪の化粧っ気のない幼稚園の先生、またある時は黒髪の画家のモデル、そしてある時は白髪交じりの髪をした中年の婦人に扮して標的となる男たちの前に姿を現す美と知性と度胸を兼ね備えた稀代の悪女ジュリー。

しかし彼女は決して自分の復讐に他者を巻き込ませようとしない。年金生活者のミッシェルを殺害した後にたまたま彼の許を訪れた彼の恋人メイベルを偽の容疑者に仕立てず、逆に自分が彼をたった今殺害したから、巻き込まれたくなかったらすぐに去るように命じる。

更にモランに近づくために息子の幼稚園の先生ミス・ベイカーに成りすまして殺害し、その後の捜査でベイカー本人が嘘のアリバイを供述したために本当に容疑者になろうとしたところを匿名の電話を警察に掛けて誤認逮捕であることを告げる。

自分の殺人に責任をもって行っている、気高さすら感じる公平さを持っている。

彼女がなぜ彼らの命を取ろうとするのか。

姿を変え、危険を承知で近づき、そして復讐を果たす。
しかし決して被害者周囲の関係のない者達には迷惑を掛けずに、時に自分が殺人を犯したことさえ話して現場から追い払い、または冤罪を掛けられそうになった者を救うために匿名で電話さえもする。

しかし周囲が振り返るほどの美貌を持ち、そして貴婦人、幼稚園の先生やタイピストなど千変万化の変身・変装ぶりを遂げるこのジュリー・キリーンという女が、殺人を犯さない間は何をしていたのか?

現在社会ではこのジュリーの犯行は計画的に見えてかなり危ない橋を渡ったもので、顔も隠していないどころか複数の目撃者もおり、逮捕されるのも時間の問題のように思えてならないだろう。

しかしウールリッチの抒情的かつ幻想的な語り口がそんな偶然性、現実性を霧散させ、まるで復讐を遂げようとするか弱き美女の死の魔法が成功する様を酔うが如く堪能するような作りになっている。

愛ゆえの女性の復讐譚である本書が女性がまだ男から軽んじられている時代に書かれたことを我々は知らなければならない。
作中でもプレイボーイの男がジュリーにあしらわれたのを根に持ち、憤慨する様に刑事は同情し、好感さえ覚える、そんな時代だ。そんな時代に女性の強さを強調した本書は母親と一緒に暮らしていた作者だからこそ書けたのだろう。
それでもこの徒労感漂わせる結末は何とも遣る瀬無い。冬の寒さが身に染みる夜だけにこの女性の虚しさが一層胸に迫った。

▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S

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