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(アンソロジー)

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新・本格推理05 九つの署名



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【この小説が収録されている参考書籍】
新・本格推理〈05〉九つの署名 (光文社文庫)

新・本格推理05 九つの署名の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

青木知己氏の才能に感服

今回のアンソロジーで際立っていたのは投稿者の文章力の向上。ほとんどがプロと比肩して遜色がない。いや、名前を伏せて読めばプロ作家のアンソロジーだと勘違いしてしまうだろう。
これは神経質なまでに原稿の字組から指導した編者二階堂黎人氏の執念の賜物だろう。ただプロとアマとの大きな隔たりがあるのは否めない。それは過剰なまでの本格どっぷりに浸かったパズル志向である。その最たるものは「水島のりかの冒険」と「無人島の絞首台」と「何処かで気笛を聞きながら」である。

まず「水島のりかの冒険」は留学先のボストンで知り合ったカップルが新婚旅行先のホテルで殺人事件に出くわす物語。(感想はネタバレにて)

次の「無人島の絞首台」はインドネシアに旅行で訪れたカップルが事故により無人島に漂着し、サバイバルの日々を送るうちに、あたかもつい最近処刑が行われたかのような痕跡があった絞首台を見つけ、他人の存在に恐々とする話。これは無人島に漂流したという内容だけで50ページ以上も読ませる筆力は素晴らしいと思う。

そして「何処かで気笛を聞きながら」は幼い頃、誘拐された話を聴いていた夜ノ森静が、そのわずかな手掛かりからどこで起きた事件であるかを探り、命の恩人を探し出すというもの。これはもはや鉄道マニアのためのミステリで、常人にはこの謎は解けません。

この3作品に共通するのは100ページの短編の中にアイデアを詰め込みすぎていること。上にも上げたようにモチーフとなった作品はいずれも長編である。ワンアイデアを借りているだけという意見もあろうが、読んでいる身にしてみれば作者の言葉遊びに無理矢理付き合わされている感じは拭えなかった。

そんな中、傑作といえる作品が「コスモスの鉢」、「モーニング・グローリィを君に」、「九人病」の三作品。

「コスモスの鉢」は半身麻痺の資産家が自宅の2階から落ちて死亡する事件が起き、その事件の容疑者となった妻を検事不二子が調査するといった話。
平凡な事件に少ない登場人物。はっきり云ってこの作品は地味なのだが、地味な分、足元がしっかり地に着いており、読み物として濃い味わいがある。もちろん本格推理を募集したアンソロジーだからトリックはある。それが地に足が着いた検事を主人公にした話と違和感無く融合する程度だから、さほどすごいものではないのだが、場面展開といい、話の合間に挟まれる人物描写や検事の仕事の解説といい、全てが読ませる。

「モーニング・グローリィを君に」は今までも「窮鼠の悲しみ」、「金木犀の香り」と全て私がベストに推している鷹将純一郎氏の作品。
介護のバイトをしていた女子大生が介護先の老人の家で強姦の末、殺されるという事件を長きに渡って捜査する刑事と介護されていた老人たちの物語。
今回の事件の真相は実はほとんど推理できた。にもかかわらず優秀作に推すのはこの人の文章のためである。濃密でドラマ性があり、人間ドラマが際立っており、非常に読ませる。ただ本格に拘泥するあまり、最後に出てくる車のトランクの中での機械トリックが非常に浮いた感じがする。この人の本質はこんなトリックにないと思うので活躍の場を移せばいいのにと強く思った。

そして今回のベストは「九人病」。この作者青木知己氏も過去に名作「Y駅発深夜バス」と佳作「迷宮の観覧車」を送り出している優れた資質を持った人だ。
雑誌社に勤めている和久井が特集記事の取材のため訪ねた北海道の辺境の温泉で相部屋となった男から聴いた四肢が抜け落ちるという奇病「九人病」のお話。
この作品、純粋な意味で本格ミステリではなくホラーだろう。しかしそんな事がどうでも良くなるほど面白い!まず「九人病」というネーミングが秀逸で、なんとも読書意欲をそそられる。そして土俗ホラーの陰鬱な文章とこの九人病のアイデアが素晴らしく、読んでいて非常に楽しかった。これぞ物語の醍醐味である。

そして今回、今まで二階堂黎人氏が望んでいた「空前絶後の推理小説求む!」の声に応える作品が来た。その作品、高橋城太郎氏の「蛙男島の蜥蜴女」と「紅い虚空の下で」はそれぞれ蛙の面を被った男たちの住む島で起きた蜥蜴女の殺人事件とスカイフィッシュ(作中ではメタルフィッシュ)が人間界で起きた殺人事件を解くといういずれも幻想小説テイストの作品。漫画『ジョジョの奇妙な冒険』を思わせるアクの強い文章(きっとこの作者は荒木飛呂彦のファンですな)とピーター・ディキンソンを思わせる悪夢のような作品世界は非常に読者を選ぶ。つまり二階堂氏が望んだ小説がこういうのだということが解り、がっかりした次第だ。

このシリーズは決別の意味を込めて今まで読んできたのだが、この高橋氏の作品に対する編者の喜びを読んで、その意を強くした。
しかしこのアンソロジーを読むことは決して無駄ではなかった。特に二階堂氏に編者が代わってからのこのシリーズの充実振りは目を見張るものがあった。このアンソロジーからデビューした作家が私の今後の読書体験の線上に上る事を願いつつ、このアンソロジーから本書を以って別れを告げたい。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S

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