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判決破棄 リンカーン弁護士



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判決破棄 リンカーン弁護士の評価: 8.00/10点 レビュー 2件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

子を持つ親たちの戦い

リンカーン弁護士シリーズも早や3作目である。
前作がボッシュとの共演だったら、なんと本書ではそれに加えて彼の元妻マギー・マクファーソンとも共同で仕事をする。更になんと今回ハラーは弁護士でなく特別検察官として雇われ、DNA鑑定によって判決破棄された24年前の犯罪で逮捕された少女殺害犯の有罪を勝ち取るためにマギーを補佐官、ボッシュを調査員として雇い、チームとして戦うのだ。しかもそれぞれの関係が元夫婦、異母兄弟と微妙な繋がりがある奇妙な混成チームであるところが面白い。
しかし彼らに共通するのは年頃の娘を持つ親であること。ミッキーとマギーは2人の間に生まれたヘイリーがおり、ボッシュは前作『ナイン・ドラゴンズ』で一緒に暮らすようになったマデリンがいる。彼らのこの同族意識が勝ち目のないとされる少女殺害犯の有罪判決への道を歩ませたと云える。

前作でボッシュを中国警察から救ったミッキーはお互いの娘を逢わせることを提案し、それをボッシュは保留していたが、一緒に出張に行ったマギーからも同様の提案をなされ、その押しの強さとボッシュが幸せな人生を送ってきていないことを見透かされ、とうとう2人を引き合わすことを約束させられる。

しかしよくもまあこれほど面白い設定と行動原理を考え付くものである。全くいつもながらコナリーの発想の妙には驚かされる。

しかもこのチーム、実にチームワークがいいのだ。
ボッシュはそれまで培った刑事の勘を存分に発揮し、24年前の事件関係者を次々と捜し出す。マギーは女性ながらの心遣いとベテラン検事のスキルで以ってミッキーをサポートし、ミッキーもまた百戦錬磨の弁護士生活で培ったノウハウを検察側に持ち込み、裁判を有利に持ち込むことに腐心する。
お互い我の強い性格でイニシアチブを取るのが通常の3人であったので、自分の主張を通すことに執着し、常に意見が割れて反発ばかりするかと思いきや、実にバランスよく裁判の準備が進んでいく。この過程は読んでいて実に面白かった。

刑事弁護士であるミッキーが慣れない検察側の立場で振る舞うとき、元妻マギーのサポートが心の支えになる。第1作目ではこのマギーとミッキーの2人の物語が大半を占めていたが、第2作目では2番目の元妻で秘書のローナとのやり取りがかなりのウェイトを占めており、マギーはほとんど出なかったが、ミッキーとの相性はどちらも甲乙つけがたい。奇数巻と偶数巻でコナリーはミッキーの相棒を今後も務めることを考えているのだろうか。

また本書では我々一般市民に馴染みがない法曹界や警察の業界裏話を知ることも読みどころの1つとなっているが、本書で特に印象深かったのはボッシュとマギーが飛行機で被害者の姉セーラの許へ向かう際、キャビンアテンダントからファーストクラスへのアップグレードを促されるシーン。これには驚いた。警察関係者や検事はその正体が知られると実際にこのような優遇措置があるのだろうか。なかなか興味深いシーンだった。

しかしなんといってもやはり本書の読みどころは上述のように共通して子を持つ親、娘を持つ親であるところだろう。従って通常ならば被告人の弁護側の人間であるミッキーが少女殺しの疑いのある依頼人を娘を持つ身でありながら無罪を証明する立ち位置を強いられるのに対し―それはそれで大いなる葛藤を呼び、ドラマとしては面白いのだが—、特別検察官として雇われるというアクロバティックな設定ゆえに原告側の代理人となり、検察官の元妻マギーと異母兄弟のボッシュと同じチームとしておぞましい犯罪者の手から娘を守ると云う強い意志を共有しているところが読んでいて非常に楽しく、面白いのである。

しかしボッシュも変わったものだ。メカ音痴であったのに、今では娘に習ってパソコンも使い、検索機能で行方知れずとなった被害者の姉を捜し出し、そして娘には定期的に携帯でメールを送って会話するようになっている。

ただ前作の終わりに懸念したように、本書は『ナイン・ドラゴンズ』の事件から4ヶ月が経過しているとの設定だが、既にボッシュとマデリンとの生活はギクシャクしたものを覚えており、ボッシュは忙しいながらも娘といる時間を増やそうと腐心している。もう夜中に暗い部屋でただ1人でジャズを聴きながらベランダで黄昏るようなことはしないのだ。

そしてそれは前作を読了後に懸念したように更にボッシュにとって足枷となる。護る者を持ったボッシュはそれまでのように自分1人だけを護ればいいのではなく、娘マデリンも脅威から護らなければならなくなったからだ。

連続少女殺人鬼と目されるジェイスン・ジェサップ。彼がDNA鑑定の結果で一旦釈放された後、ボッシュを含めミッキー達は必ず刑務所に戻すことを誓う。悪人はすべからく罰せられなければならないと常に思うボッシュは自分の娘が同じ目に遭わされることを思うとその思いも一入で、ジェサップに対して明らさまに攻撃的な態度を取る。

しかしそのジェサップが自分の家の前にいたことを知るとパニックに陥る。なぜならそこには娘マデリンがいるからだ。
つまり常に狩る側にいたボッシュが娘という護るべきものを得たことで狩られる側にもなることになったのだ。
それはある意味初めてボッシュが得た弱さかもしれない。
犯罪者どもを相手に心を、魂をすり減らす仕事の中で娘との電話やメールのやり取りは癒しであるが、同時にそれを喪う怖さを得たことになったのだ。ジェサップが自宅に来たことを知ってからのボッシュの戸惑いと疑心暗鬼ぶりは尋常ではない。一匹狼で我が道を行く無双のボッシュを我々はこれまで見てきたが、親としての弱さを持つようになった新たなボッシュの今後が気になるところだ。私は同じ子を持つ親として彼に今まで以上に親近感を覚えるようになった。

この同じ価値観を所有する3人は実に絶妙なチームワークを見せ、手練手管で迫る練達の弁護士クライヴ・ロイスの攻撃を一歩一歩クリアしていく。

このコナリーが描くリーガル・サスペンスはロジックや裁判での検察側、弁護側そして判事たちを取り巻くロジックと巧みな人心操作術による天秤の傾きを愉しむだけでなく、評決間際で突然アクションの味付けが濃くなるところに特徴がある。

そしてそこからはボッシュの独壇場だ。悪を野放しにすることを許さないボッシュは獲物を追うコヨーテと化す。
娘のことを案じながらも絶対悪と信じていたジェサップにプレッシャーをかけ、そしてその正体を現せばその心理を読み解き、地の底まで追いかける。ミッキーとマギーが知の戦士ならばボッシュはまさに力の戦士だ。

そんな柔と剛を併せ持つチームが辿る結末はしかし苦いものだった。

奇妙な縁で結ばれた3人は再びそれぞれの道へと歩む。ボッシュは犯罪者を追いかけ、マギーは犯罪者に引導を渡し、ミッキーは被告人を無罪にするためにリンカーンで奔走する。

しかし再びこのチームはまた戻ってくるに違いない。それぞれの立ち位置は本書とは異なるかもしれないが、今やお互いの娘を引き合わせた縁で結ばれた絆はそう簡単には断ち切れないだろう。

悪が成敗されたのにこれほど爽快感がない物語も珍しい。コナリーはアメリカ法曹界が孕む歪みを巧みに扱って我々読者を牽引しながら、最後は渇いた地平へと導いた。

しかしそれでも本書は清々しい。それは子を持つ親たちがそれぞれの立場で最大限に尽力し、真摯に悪に立ち向かった物語だったからだ。

父親と母親は子を護るためなら必死になる。子供たちの知らないところで親たちはこんな戦いをしているのだ。
同じ娘を持つ親であるコナリーはもしかしたら自分の娘にこの話を届けたかったのかもしれない。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

悪の代理人リンカーン弁護士が検察官に?

マイクル・コナリーの22作目の長編で、リンカーン弁護士シリーズとしては第3作だが、悪の代理人として知られるリンカーン弁護士・ミッキー・ハラーが、今回は特別検察官として被告と弁護士をやり込めるという異色の設定。さらに、ハリー・ボッシュもダブル主役として重要な役割を果たすという豪華版である。
24年前の少女殺害事件で出された有罪判決が破棄されて、服役していた男ジェサップは再審を受けることになった。被害者のワンピースに付いていた精液が、最新のDNA鑑定によってジェサップとは別人のものと判明したのが、判決破棄の理由だった。再審にさいして、検事長はなんとハラーに特別検査官になるように依頼してきた。まったく勝ち目が無いと思われる裁判だったが、正義感にかられたハラーは、元妻のマギーと異母兄弟のハリー・ボッシュをチームに加えることを条件に、依頼を引き受けた。
圧倒的に不利な条件下でも、得意の法廷技術で奮闘するハラーを、ベテラン検事であるマギーがサポートし、さらにハリー・ボッシュが調査官として走り回って助け、ついには劇的なクライマックスを迎えることになる・・・。
ハラーを主役にした法廷ミステリーとしても、ハリーが主役の刑事ものとしても一級品。マイクル・コナリーの二大人気キャラクターが共演するのだから、面白くない訳が無い。普段、リーガル・ミステリーを敬遠している方にもオススメだ。

iisan
927253Y1

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