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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧
ニコラス刑事さんのページへレビュー数324件
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
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医療ミステリということなので、一般読者としては業界用語には説明が必要ですよね。その点を最後のページにある選者の人のコメントではセリフが説明的で面白くない、なんてことを言っています。どうしてこんなことを言うんだろうと思います。
そんなことは言わずもがなのことでしょう。難解な医療用語がずらずらと出てきて何の説明もない、巻末に一括して用語解説してあるからそこを参照してくれ、そんなミステリ本を誰が読みますか? 物語の性質上セリフのやり取りでストーリーが進むのは理解できます。この点も選者は指摘していますが読んでいる私は気になりませんでした。文章も未熟さが見えるなんて云っている選者がいますが其処も私は感じません。 むしろテンポの良い会話と描写で、謎めいた現象に戸惑いながらも真相の解明に立ち向かう彼らの行動がすんなりと胸に入ってきます。人物の書き分けも出来ていると思います。そういった面で稚拙さは感じません。 挟み込まれる医療に関してのエピソードや人体の不思議さが書かれたところは興味深く読みました。今さらですが人間の身体の良く出来たデザインとプログラミングの凄さが分かります。本当に神が作り給うと思わざるを得ないほど一つ一つの細胞の素晴らしさに驚きます。がんが消える謎。どんなトリックが用意されているのかと思ってページを捲る手が止まりません。湾岸医療センターの野望は正直イマイチ分かりませんでした。ちょっと話を広げ過ぎなのではと思ったりもします。 しかし、クライマックスから最後の一ページの衝撃は楽しめました。動機に対しての二転三転の裏切りも中々です。私個人としては楽しく読めたミステリということになります。 |
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ついて行けるかどうかが問題ですね。私は普通についていくことが出来ました。繊細な人や純粋無垢な人は嫌悪感で最後まで読めないかも知れません。ということは私はちょっと変だということでしょうか? いや、人生長くやっていれば清濁併せ呑む
ようになるのです。それが大人になるということです。決してオカシナ人物ではありません。トリッキーな世界と人物たちですが話を形作っているのは紛れもなくミステリの構図です。グロっぽさでミステリを書かれているのはあるでしょう。 その意味で云えばこの本は新鮮です。着想というか視点というか、賞に応募するのであればこのぐらいのImpactが無ければダメでしょう。散りばめられた伏線もキチンと回収され謎が解明されます。。ミステリ以外の何物でもありません。 その世界観が凄いというだけです。暗黒面を隠さず普通に生きている、都会というカオスにはそんな人たちがいっぱい蠢いているんでしょう。舗道にはゴミひとつなく明るい日差しに溢れた通り、そんな道ばかり歩く生活の人達には縁のない世界でしょう。 でも、ひとつ道をそれると暗くジメジメした日の当たらない世界があるんです。昼間でもカーテンを閉めて寝ていて、暗くなってから起きだし鎮痛剤をボリボリと噛み砕きながらビールで流し込む、そしてふらつく足で夜の闇の世界に出ていく。 決して勤め人がいっぱいの朝の満員電車などには乗らない違った世界に住む人たちの物語です。そのダークさがこの物語のウリなんです。その世界感に合ったトリックと登場人物の行動原理。良く描けていると思います。 |
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やっていることは分かるんですが、如何せん長い。もっとまとめて書いても良いのじゃないですか? いわゆるムダに長いという印象です。時系列を無視した色んなエピソードを本筋に挟み込んでくるのは良いのですが、どうも読者が置いてけぼりになっていく気がします。後半も半分過ぎたあたりから、今度はいきなり刑事たちが登場して何か事件の捜査の様子が描かれた章が挟み込まれます。それまでは何か事件があったという記述は一切ないので唐突感が拭えません。何だこれはと思うばかりです。
強いて言えば農場に現れた男が記憶を失くしたと言っているので、この男の過去に何かがあったのかと想像するだけです。しかし、だらだらといろんなエピソードを挟み込んだ部分にはそんなことを思わせることは書かれていません。 誰かに追われていると思わせるところがチラッとあるだけです。ですからもう少しそれらしいことをチラチラと見せておくべきでしょう。農場主の女と(過去に傷のある女)、突然現れた男とのギクシャクした関係から、だんだん好意を寄せていく女の心情を長く見せておいて、急に異常な展開に入っていくのは戸惑うばかりです。 伏線らしいところも弱いので、ああ、そうなのかと納得する事が出来ません。ひと言でいえば粗削りで独りよがりです。文章は上手いです。薫り高い文学の匂いがします。ですから男と女のお話かと思って読み進んだのです。 そういうサイコパスのお話とは知りませんでした。しかも、その人物の言うことも意図も良く判りません。ラストも実験的で消化するのは読者だというのはどうなんでしょうか。この手の話しは日本のミステリでも他にあります。 残念ですが好みではありませんでした。 |
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本というのも趣味嗜好品なので、ここで私がおススメの高評価をつけてもあなたには何の価値もないかも知れません。しかし、同じアンテナを持っている人であれば必ず楽しんで貰えるはずです。
最近読んだ中では間違いなく面白かったと言えます。物語が始まる空港のバーでの二人の会話からも面白さを予感します。女は本を閉じ、バッグのそばに表を上にして置いた。『殺意の迷宮』パトリシア・ハイスミス。 フフフ、と頬が緩みました。スリリングな展開が続くストーリーですが、それをきちんと書き表して読者を引っ張っていく文章力が魅力です。交互に一人の人物による視点で書かれて物語は進みますが、漠然とした予想は第一部までです。 第二部からは予想外の展開が続きます。この先どうなっていくのかまるで読めません。最後の第三部から始まる刑事の視点で進むところも良いですね。緊張がどんどん高まります。この構成の上手さがこの物語を面白くしている 一番の要因でしょう。それと重要なのは無理がないということです。書く側に沿った独りよがりな言葉を並べて物語を進めるのではなく、素直な気分で人物に感情移入出来るように書き込まれているのです。危ないぞ、気を付けろ、用心しろよと人物に入り込んでのハラハラ感が続く第二部などは堪りません。あと、小道具の使い方も中々どうして。サラっと読んだ駐車違反の切符のくだりも・・・・・・ね( ´艸`)。展開に繋がっていくひとつのキーになっているんですから侮れません。 著者の経歴など詳しいところは分かりませんが、これからも書き続けてくれるようなので他の作品も楽しみたいと思います。 うん、とにかく予想外の美味しさと量も大盛りだったのでお腹がいっぱいになり充分に満足しました、ということですね。 !(^^)! |
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まず初めに、この本はミステリではないのですが中々読ませる内容なので取り上げたということを了承していただきたい。もっとも読ませる内容といっても、まず女子供向きではないだろうということですが、
ハードボイルドや冒険小説が好みという人には十分楽しめるであろうとは思います。30年に及ぶ麻薬戦争の闘いを描いた物語ですが、残虐さや非常な暴力をリアルに描いています。 国境警備隊、FBI、DEA、州警察、連邦保安局、CIA、入国帰化局、アルコール煙草火器局、北米貿易自由協定、国家安全保障局、とキーワードはたくさん出てきますがすべての組織を動かしアート・ケラーはアダン・バレーラを追いつめます。しかし、「銀か鉛か」の囁きで汚職警官が生まれ政治家も一国の大統領さえも巨大麻薬カルテルと癒着するという現実に、その説得力あるリアルさが圧倒的なスケールで描かれ ていて文庫本上・下の二冊のボリュームですが読み疲れるというようなことはありません。特に下巻のアート・ケラーとノーラとバレーラ兄弟との対決に向かうラストに至る後半はとても興奮しながら読みました。犬の力とは誰の心の奥底にも潜む邪悪な牙。アート・ケラーでさえも正義の名のもとにその犬の力をもって麻薬カルテルに立ち向かっていく。そんな物語であるのでこのタイトルはとても意味深で良いタイトルであると思います。 |
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さよなら妖精に登場していた太刀洗万智を主人公にしてネパールを舞台にした物語。著者があとがきに記しているように、さよなら妖精の続編ではないので前作を気にすることなく読めます。
実際に合った出来事などを背景に使い、主人公の太刀洗万智がジャーナリストとして成り立っていく様子が描かれます。カトマンズの安宿トーキョーロッジ。そこに泊り客としている人々との邂逅から ひとつの殺人事件に直面し、王家殺害事件の取材も絡めて万智の記者としての在り方、その根本的な問題に思い悩み答えを得て成長する姿がこの物語のメインです。殺人事件は王家殺害事件の取材の 過程で遭遇した予想外の事件です。死体に刻まれていた言葉から王家の事件と関連があるのかと思われますが、ミステリとしてはこの著者にはそんな単純さはありません。解明する過程もキチンとした 伏線回収で最後の真相に至ります。ホテルも外からは遮断されている状況だったりと、サラリとしてますが手が込んでいます(笑)。万智の人間的にも記者としても成長する姿を主に遭遇した殺人事件を 冷静な分析で解き明かすという、ミステリの味付けをした物語ですが根本的には一人の女性の生きる姿を描いた内容です。王とサーカス、このタイトルも秀逸と感じるジャーナリスト魂の物語と私は感じました。 |
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中学、高校まではクラス一番の成績で皆から注目されていた。しかし、大学に入ると平凡で目立たない学生になってしまう。これってよくある話ですよね。デッカーはこのパターンでフットボール選手として
プロに入ってからはその他大勢の一員でした。しかし、努力して大きな体を生かした選手として試合に出る機会がそこそこありました。だがある試合中の事故によって脳がこれまでとは違った能力を持った 人間として瀕死の状態から蘇生します。日々の生活の中で見るもの聞くものすべてが脳内に記憶されます。決して忘れるということがありません。これはキツイ話です。人間は忘れる動物です。嫌なこと 辛い事を忘れるからこそ生きていけます。しかし、すべてが頭の中に記憶され決して忘れられなかったらどうでしょう。警察官から刑事になり妻と娘を持ち任務に励んでいたデッカー。ある日帰宅すると 家には義兄と妻と娘の死体がありました。その時のデッカーの記憶はすべて青い色で再生されます。この異常ともいうべき能力を持った探偵のデッカーという人間の内面もしっかり表されておりその人格も 読む側にすんなりと伝わります。事件は迷宮に入り警察を辞めたデッカーは落ちるところまで落ちます。薄汚れたホームレスからようやく探偵としての仕事をこなし日々の糧を得るまでに精神が回復します。 そんな時に元同僚の刑事から知らせを受けます。デッカーの家族を殺したと自供する男が現れたと。ここから物語が動き出します。文庫本上・下巻に別れたボリュームですが読み疲れるということはありません。 この特異な脳力を持った探偵を主人公にしたミステリですが良く書かれていると思います。事件の真相と犯人は無理のない設定でラストもそれ以外の解決では中途半端になってしまうでしょう。予定調和と云えば そのとうりですが残虐な話からすればむしろその方が効果的と云えます。二転三転する展開からデッカーがすべての記憶を再生してピースを嵌め込むようにし犯人に迫っていく過程は読ませます。そして、デッカーの脇を固める人物たちも魅力あるキャラクターとして登場し活躍します。ボリュームの割にはスラスラ読めるので通勤の電車に乗っている時間などは頭を空っぽにして楽しめるでしょう。 |
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著者らしい仕掛けを施した青春ミステリです。犬をつれて散歩中の少年が事故にあい亡くなります。舗道から突然犬が車道に走り出し、リードを持っていた少年は引っ張られてしまいトラックに轢かれたのです。その事故現場にはメインの登場人物大学生四人がいました。一人は主人公でロードレーサーを使った荷物の配達のアルバイト中の秋内静という青年です。そして向かい側にあるファミレスから出てきたのが友人である友江京也と彼女である巻坂ひろ子。そして主人公の静が思いを寄せる羽住智佳。この四人のキャラクターが上手く書かれており物語を動かすための装置としては十分に成功していると思います。つまり端的に
云えば舗道にいた少年と散歩中の犬。その犬が何故急に車道に飛び出したのか?このミステリの謎はこの一点です。しかし、主人公の友人である友江京也には不可解な一面があります。そこに主人公はこの事故とのなにか繋がりがあるのだろうかと苦悶します。何故事故は起きたのか?そう考える主人公の行動や友人たちとの会話でもって物語は進みます。その中で張られていく伏線。いくつもの伏線が最後には明らかになるのですが、犬の習性ということで私自身は「そこだけ」を使ったトリックというか扱い方は少し強引な印象を持ちます。ですがこの犬の行動の謎解きだけがこの物語の全てではありません。もうひとつ大きな 仕掛けを施しています。それが著者らしい仕掛けを施した青春ミステリと紹介した所以です。主人公もお約束の奥手で初心な男という設定です。この方が読む者の共感を得て彼が思いを寄せる相手とこの先がどのようになっていくのかとヤキモキとホンワカとした気持ちになり青春物らしい味が加味されます。二人の行く末と事故の謎。それを語り合う喫茶店での四人。ただ単純に騙されるのが心地よい読後になるのです。 |
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設定だけを見ると昔の赤川次郎の世界だけれど、スピーディな展開と明るく軽妙な文体で書かれた内容はミステリとしてもしっかりしており読ませます。あり得ない設定の二人が恋に落ち結婚に至るまでの
プロセスをドタバタ調で描かれていて、そこに一つの殺人事件が絡んでくるのですが、事件の推移は展開が二度、三度とひっくり返る意外さも用意してあります。事件の謎の解明にあたるところは小出しにする伏線の妙もあって先行きが不透明です。事件の裏側は推測できる部分もあれば、何故なのかという所があったりと充分読む側の心理を計算した書き方でコチラをけっこう本気で 読ませます。ユーモアミステリの範疇ですがこういった系統のものが嫌いではない方には楽しめるでしょう。それぞれの家族の中でも、特に泥棒一家の方には特異な性格の人達が出てくるのですが、それらが上手く書かれており物語にあった良い味を出すキャラクターとして成功しています。漫画チックな設定なのですが二人の結婚への紆余曲折と殺人事件の謎が二人の家族の問題へと広がっていく面白さは練り込まれた プロットの良さと云えます。ただ一点、五十年もの間・・・・・というところが引っかかりますが、それを言っちゃあお終いなのでそこはスルーということに。そこのところ以外は全体として面白いお話を書かれたと評価できると思います。他の作品は知りませんがこういった路線で行くのがこの著者には合っているように感じました。この二つの家族をメインにした次のミステリがあれば又読んでみようかと思います。 設定だけを考えればチープな内容と思ってしまうかもですが、読んでみれば意外と拾い物の一冊だったのではないかと、そう思えるミステリです。 |
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ひと言でいうと面白かったと言えます。つまりは私の好みの範疇の作品であったということです。美術品、あるいは美術界を舞台にしたものでは前に読んだ原田マハの「楽園のカンバス」があります。
あれはあれでとても面白く読みました。しかし、これは最初のページに「ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードに捧ぐ」とあります。これを読むだけでニヤリとします。実際にこの本に関しては なんの知識もありませんでした。でも、この一文を目にして読まずにはいられませんでした。まんまとハマったことになります。( ´艸`)このポール・ニューマン、ロバート・レッドフォードに捧ぐという意味 が分からない人は、まぁ平成生まれの人でしょうね。とにかく、すべり出しから読ませてくれます。地方の素封家の長男と銀座のホステスの二人がそれぞれ追いつめられていく日常が描かれており、ある人物と 出会うところまでが前半の胆でしょうが、ヴァン・ゴッホの人物像をあれこれと紹介しながらの話しの流れはとても面白く読み進みました。絵画とは何ぞやという問いにこの著者の姿勢が表れているともとれる 全体のトーンとラストのエピソードが私には好感が持てました。人物の動かし方も的を得ていて多彩な人物が登場しますが良く描けていると思います。嫌味のない文章も好みで略歴からとても興味を惹かれる 著者です。 |
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エンターテイメントだね。1962年にこのプロットを思いついた著者の勝利でしょう。あとは手にしたものがどう読むかで良いのではないですか。ミかドか答えがハッキリしなくては落ち着かない人には
これは辛い書き方ですね。一つ一つ拾って当てはめていくと誰を指しているか分かるでしょうが、それでも決定的ではありませんね。そこが良いのでしょうね。ラストに明らかになる本のタイトルの意味。 上手いなぁと思います。記憶喪失ネタはこれ以降沢山書かれたんでしょうね。でも、先に書いたものの勝ち。これ以上のものはあるんでしょうか?記憶にないなぁ。多分「さよならドビュッシー」もここからの発想なんだろうね。このようなオリジナルがなければ、あのようなプロットは生まれないだろうし。いろいろ影響を与えた作品なのは間違いないですね。語り継がれる作品であるからには一度は手にしておかなくてはいけないでしょう。満足するかどうかは別にして。( ´艸`) |
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五年前に不意に姿を消した女性と偶然再会した主人公。しかし、翌日には事件の被害者として殺害されたことを知る。弁護士の主人公には、父の自殺という出来事がありそれも自分のせいではないかと云う
心の負担が彼を悩ませていた。事件そのものは痴情のもつれといった形で終止符が打たれそうな感じだったが、犯人が暴力団関係者であり夜遅く彼女のマンションの部屋にどうして入れたのかといつた疑問から 主人公は彼女がなぜ黙って自分の前から消えたのかも知りたくて事件を調べ始める。しかし、調べを進めると名乗っていた人間とは別人である可能性が浮上する。彼女はどこの誰だったのか、事件の起きる前日に留守電に入っていた頼みたい事とはどのような事だったのか。あのウイリアム・アイリッシュと同じタイトルをして同様に序盤から読者を物語の中に引きずり込む展開はこの先を期待させてくれます。 でも、全体の構図としては産廃業者、市の役人との癒着、陰にうごめく暴力団、といったありきたりのパターンで書かれていてその分興醒めになるところがあります。もう少し違ったプロットで書かれていたらと 残念に思います。それは、この著者を初めて読んだのですが思いの外筆の立つ人で、主人公の屈折した心情もとにかく理屈っぽく多角的に説明していたりと予想外の筆の確かさに驚いたからです。全体においても各人物のセリフや生き方とそのポリシーもしっかりと書き表し、ぶれない人物像の人達が話の展開にもその役割として上手く作用しています。浮ついた描写や軽い雰囲気になることなく、むしろハードボイルドタッチで事件の背後と殺された女の実際の素性を探る主人公の姿が描かれています。やくざに手ひどくやられ満身創痍の身体でも調べを止めない主人公に先の展開が気になって読み進むことになります。 主人公の過去とその影響を受けた生き方。それらを描きながら女の謎を追う展開のミステリとしては上出来でしょう。ただ、残念なのは背景のありきたりさとだと云えます。 |
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最初は意味すら分からない犯罪に思える。どしゃ降りの夜にドアを叩く音で眠りを覚まされたソレンスキー。異様な恰好の男はロベンズの家はどこかねと尋ねた。この先を400メートルほど行った先の
最初の家だと教えた。そして一時間ほどした後またドアを叩く音で玄関に出ると先ほどの男がまたやって来ていた。ロベンズの家に行ったが誰も出てこない。ブリッジボートから来たがロべンズに肥料代50ドル を貸してあるがまだ払ってくれないんだと云う。怒りをこらえて庭に車があれば居るはずだと教えると男は姿を消した。そして二時間後またドアを叩く音で玄関に立つと、ロべンズの妻マータ・ロべンズが ポーチに立っておりヴィクが撃たれたという。こうして不可解な事件が幕を上げた。コネティカット州の小さな町、ストックフォードで起きた奇怪な事件。フェローズ署長とウィルクス部長刑事の捜査が 始まる。緊急配備にも引っかからない正体不明の男。事件の背景がまるで分らず困惑する警察。動機は何か。そこから手探りであらゆる方向から調べ始めるフェローズとウィルクス。こつこつと一つ一つの 可能性を消していく捜査。地道な捜査の様子を丹念に描くウォーの筆。五里霧中の捜査の行方。読み終えてみれば大胆な伏線があったことに気づくがまるで眼中になかった。ウォーの代表作と評される このミステリ。楽しませてくれました。 |
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国名シリーズの二作目にあたります。衝撃的なデビユー作から、それを上回るような、もしくは同等のレベルの二作目を書けずに消えていった作家は数多くあります。そういった意味では
エラリー・クイーンはやはり並みの作家ではなかったと言うことがこれで証明されます。センセーショナルな事件の始まり。動機は?アリバイは?関係者の証言と動き。閉じられた部屋が幸いして 手つかずの遺留品が山ほど。ともすれば見過ごしがちな品々をひとつひとつ吟味してその意味を考えるクイーン。暗号までも使ったパズルゲームに堪能させられます。何故そこに死体が? 調べたことをすべて繋ぎ合わせるとある一点を差す。論理的帰結の妙味。今の感覚で読むとこんな親子は鼻に付きます。時代の差ですからしょうがありません。でも、クイーンの思考の道筋を追っていくのは 楽しいです。関係者を一堂に集めて「さて、皆さん・・・・・・。」古き良き探偵小説を楽しみましょう。 |
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古典です。沢山のミステリを読んできて、豊富な読書量を持って今このミステリに挑んだとしたら、作者には失礼ですが肩透かしを食うでしょう。それほどトリックが古典過ぎるということです。
これは作者の責任ではありません。時代の所為です。これと同じ手を使ったミステリはいっぱい有りますし、いっぱい読みました。その本のタイトルを書くだけでこのミステリのネタバレになります。 時は残酷です。当時のミステリファンはこのトリックにどれほど驚かされたことでしょう。二重殺人という言葉が使われていますが、今では普通の殺人事件で被害者が二人いる、そういうことですね。 探偵小説らしい言葉ですが当時はそのように使ったのでしょう。一室で男女二名が殺害されていた。これは二重殺人だと、そう呼んでいたんですね。時効寸前に現れた恐喝者。被害者の遺族と犯人に同時に証拠の品を買い取れと競りにかけるくだりは面白いです。両者が金策に走るところはブラックユーモアですね。この辺はフランスミステリらしい味わいです。そして、最後の真犯人の顔が分かるところは、う~ん何度も書きますが 当時は衝撃だったでしょう。ただ、今読んでもこの作品の評価を下げることは有りません。キッチリと計算された書き方で最後の衝撃に至ります。これは見事です。 併録されている「連鎖反応」も面白いです。ま、ダルマさんが転んだって意味合いのミステリですが、笑いながらもギクッとするオチが用意されていて楽しめます。一人称で語る人物のテクニックに騙されたって ことですね。(笑) 読んでおくべき古典の一冊に間違いはありません。 |
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「最後の一撃」を楽しむ本です。若いミステリファンが今この本を読めば、最近こんなミステリを読んだことがあるぞと思うでしょう。そういったところはしょうがありません、古典なんですから。いま巷に
溢れるミステリは歴史に残る古典のアイディアやトリックのアレンジに過ぎません。パターン化されたトリックをいろいろと組み合わせて使っているといっても過言ではないでしょう。斬新なアイディア、誰も 考え付かなかったトリック、そんなミステリが現代に果たしていかほどあるでしょうか。内容的には大人向けです。精神を病んだ人物。レイプ魔。この二つのキーワードで物語は展開します。 断っておきますが作者は読者を騙そうとして書いています。そう簡単に騙されるかと目を皿のようにして読んでいくタイプの人は、ハッキリ言ってこの手のミステリには手を出さない方がお互いのためにいいんじゃないかと思います。お互いとは作者と読む人です。騙される快感を求めてこういったスタイルのミステリを探す人には、もう無上の喜びを与えてくれる本と云えます。騙されまいと読む人と、騙されたと気付かされない騙しを求めて読む人とでは視点が違うでしょう。最後にそう来るんだったら、あの部分はアンフェアではないのかとみるのと、あのところはちょっと危ないな、うっかり気付くところだったと作者よりに見るのとでは180度違ってくると思います。つまりアラ探しをするのと騙しのテクニックを味わうのとでは読み方が違うと云いたいのです。で、結論としては読むスタンスによって作品の評価は違ってくる、そう云いたいのです。始めの何でもない情景に絡めた主人公の心の奥底の心理を表しているようなエピソードから物語は始まりますが、そこからして重要なファクターとなっているんですね。そして最後の一行。 多少くどくどしいところはありますが、きめ細やかな描写と心理を表すための文章ですから其処らへんはじっくりと読んでいかなくてはと思います。読んでおくべき古典の中の一冊。その評価に間違いはありません。 |
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以前読んだ「黒龍荘の惨劇」が楽しめたので本書を手にしました。伊藤博文公の書生をしていた二人が、一方は探偵となり片方は役所に勤める身分となったが、親友であるがゆえに
二人して事件に巻き込まれるというスタイルで書かれているミステリです。生涯の友の月輪龍太郎が探偵となり事件の記録者の杉山潤之助がワトソン役で彼に付いて回ることになっています。 この二人の設定は悪くなく微笑ましくもある二人ですが、今回の事件は手口が大胆で、その割には成功と云えるかどうか微妙な感じがするのも否めないと思うのです。 しかし、上海に向かう船内が舞台で催しとして仮面舞踏会があったり(ああ、入れ替わりトリックね、と想像するとそのままだった。)(笑)など一応趣向が凝らしてあるけれど、やはりメイントリックに 大胆過ぎるが手口が使われているので、少し引いてしまうというか、ちょっと気に入らなかったのは隠せません。明治のころを舞台にしているので文章も当時を思わせる言葉使いで書かれていて、 この辺は別に読みづらいとかいうことは無くて、逆に雰囲気を出すためには不可欠なところであると思います。事件そのものは動機が分かれば犯人も指摘できるという単純なものですが、その動機に当たる エピソードが最後の方で関係者から語られるというのも、ま、物語の性格上仕方がないといえますが、こういった点からも全般的に平均点の内容と云わざるを得ない内容のミステリでした。 |
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ゴシックロマンスと嵐の孤島での連続殺人ミステリ。エキゾチックな島。生きているかのような気配の古い家。性的抑圧。禁断の恋。三角関係。浮気。裏切り。
愛憎相半ばの関係。不意打ちのキス。女同士の争い。嵐によるパニック。そして大胆な伏線。 ~訳者あとがき~ より。 大胆な伏線、はホントに凄いです。まさかと思います。今じゃこのようには書けないでしょう。もし書いたら十中八九作者の負けでしょうね。それほどの大胆さです。 二人の秘密をいつ打ち明けるのか、ハラハラドキドキで読み進めます。アメリカのミステリ作家、メアリー・ロバーツ・ラインハートが先鞭をつけたといわれる、「もし知ってさえいたら・・・・・・。」と 主人公に語らせることで読者に迫りくる恐怖を予感させる手法は、後に「H・I・B・(Had-I-But-Known)」と呼ばれるサスペンス小説の一つの型として多くの作家に影響を与えました。 この著者もこの手法を得意としていてこの「嵐の館」もそのスタイルで書かれています。 孤島が舞台ですから登場人物も当然限られてきます。この中に犯人がいる、と分かってはいても始めからアッサリと分かるようではお話になりません。 しかし、何度も言うようですが伏線は大胆です。(笑) 諭より証拠一読してみてください。楽しめるのは間違いありません。ノーニとジムに乾杯。 |
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古書の鑑定家で保存修復家のハンナ・ヒースが、1996年サラエボでサラエボ・ハガダーと呼ばれる有名な希少本に出合うところから物語が始まります。
500年の歳月を生き延びた一冊の本。中世のスペインで作られた、ヘブライ語で書かれたその本はそれまでの通説を覆し美術史の教科書が書き換えられたほどだった。 その理由は、出エジプト記にある戒律 “汝、いかなる偶像も造るなかれ” によって、中世のユダヤ教徒は宗教的な美術品を一切作らなかったと考えられていたからです。 しかし、このサラエボ・ハガダーは全ページに細密画が描かれいてたのです。物語の進行によってこのような紹介がありますがこの辺は多分事実なんでしょう。1992年サラエボが包囲され 博物館や図書館が戦闘の標的になってから、その後はその古書が行方不明になったとのことで、こういった事実にフィクションを絡ませて書かれた物語です。 ハンナの鑑定によって、小さな染み、ワインのような茶褐色の染みと塩化ナトリウム、一般的な塩のようなものと半透明の翅脈のある昆虫の羽が見つかります。 この見つかった三つのものに関して時間が遡り当時の時代を背景にしたエピソードが展開されるという内容です。 しかし、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教などの関連した歴史的な部分は大陸で生まれ育った民族ならばともかく、島国の排他的な農耕民族である日本人には肌で感じるような点は無いのではないかと 思います。この辺はただ、ストーリーを読むという感じで、その割にはドラマチックさにやや欠けるようなエピソードのような気がしました。もっとドラマチックで波乱に満ちたストーリーが良かったと 思うのは私だけでしょうか。充分過酷な目に合う主人公が描かれてはいますが個人的には多少物足りなさがあるんです。その反面、現代を舞台にしたハンナの行動を追う展開の部分は中々面白く、母との確執や謎だった父のことが分かって来る後半は楽しみながら読み進みました。 たかが一冊の本。しかし、科学的に分析すれば使われている顔料ひとつをとっても非常に興味深い話が聞けるこの本は やはり、読んでみる価値はあったと思いました。 |
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