■スポンサードリンク


ニコラス刑事 さんのレビュー一覧

ニコラス刑事さんのページへ

レビュー数29

全29件 1~20 1/2ページ
12>>

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
 閲覧する時は、『このレビューを表示する場合はここをクリック』を押してください。
No.29: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

透けて見えるストーリー

『砂の器』が頭に浮かんだのは読み始めてすぐの事。
プロットとしてはそれだろうと思った。そんなところが評価できない。
刑事二人もキャラクターづけがいかにもって感じでため息が出る。
ただ、読ませどころはある。それは真剣師と呼ばれる賭け将棋で生きる男たちの世界を見せること。
このあたりの描写は見事だと思う。 母親父親との関係性が芯になっているのだけれど最後のサプライズ的な事実の暴露は
どうなんだろう。幼いころからのエピソードと合わないのじゃないだろうか。ちょっと疑問に思った。
起業家として成功するプロセスも曖昧で良く分からない。実際そんな立場なら守ろうとすると思う。
関わり合っていく心情が読んでいて理解できない。そうすると話が続かないというご都合主義にみえる。
全体に底の浅い物語で賭け将棋の世界をもっと掘り下げて見せてくれた方が面白かったりしたのではと思う。
盤上の向日葵
柚月裕子盤上の向日葵 についてのレビュー
No.28:
(6pt)

密室殺人のトリック

トリックを成立させるために特異なシチュエーションを当てる。そのやり方はOKです。
ゾンビが街を徘徊する世界。どの生物もゾンビウィルスが体内に入り込んでいて、死ぬと発症してゾンビとなる世界。
そんな世界で、ある建物の中で起きる密室殺人。その事件を警察とは別に調べる私立探偵。
理屈を突き進めればそうなるだろうと云う世界観。その構築は納得です。
しかし、ほとんどセリフだけで物語が進行するのは如何なものかと思います。そういえば『アリス殺し』もそうでしたね。
「それが俺のスタイルだ」ということなんでしょうか。
パーシャルゾンビなんて発想は面白いですが、如何せん会話だけでは中身が薄くなるようですがどうなんでしょうか
編集者はどうしたのでしょうか気になります。

わざわざゾンビを殺す人間なんていない。
No.27:
(6pt)

湿地の感想




▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
湿地 (創元推理文庫)
アーナルデュル・インドリダソン湿地 についてのレビュー
No.26:
(6pt)

ホテル1222の感想

シチュエーションとしては紛れもなく「雪の山荘」もので、これはもう期待して読みます。今さらながらこの難しいジャンルに手をだそうという姿勢に感心します。が、しかし、本書はこういったジャンルにおいて成功例として認めるかと問われるとう~ん、と唸ってしまいます。あ、個人的にはってことですが。まず冗長だと思います。もっと切り詰めてサスペンス感を盛り上げるべきでしょう。犯人は意外でもなく何となくそうだろうなと読んでいて感じてしまいます。クリスティに対してのリスペクトでしょうが、すこし幅を広げ過ぎたのではないでしょうか。それよりもこのページにある外部リンク、アンネ・ホルト/枇谷玲子訳『ホテル1222』ここだけのあとがきWebミステリーズ!の方がよほど楽しめます。こちらをクリックしてぜひご覧になってください。なるほど『スターウォーズ』のねえ・・・・・・。
ホテル1222 (創元推理文庫)
アンネ・ホルトホテル1222 についてのレビュー
No.25: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

邪馬台国はどこですか?の感想

歴史上の人物や史実のあいまいな部分を別の解釈で解き明かすというスタイルで書かれた内容です。このやり方は他にも義経=ジンギスカン伝説とか写楽に関してあれこれ想像を逞しくした物語などがあって、それほど目新しいわけではないと思います。
バーの常連客が激論を交わすという設定で読ませる内容ですが、目からウロコといった斬新さは感じられず(宮田六郎の話し)史実の隙間を自由に解釈したという程度で、それほど彼の話しに引き付けられる様なことはなかった。
「講釈師見てきたようなウソを言い」という言葉があるように、広げる風呂敷はもっと大きくリアリティーをもって書かれなければ説得力は生まれない。単なるこじつけ程度では新解釈とは言えないし小話程度に収まってしまう。
まぁ、軽く読めるところは良しとして話題性があって著者の名が売れたのは成功と言えるだろう。
邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫)
鯨統一郎邪馬台国はどこですか? についてのレビュー
No.24:
(6pt)

『ギロチン城』殺人事件の感想

大仕掛けのトリックもの。遊園地のような家が実際にあるのか、とツッコミを入れたくなるような類の物はそれ自体の是非はともかくどう読ませるかが肝心だと思う。要は物語が面白ければそっちはまぁいいだろうとなる訳だ。
周木 律の「眼球堂の殺人」シリーズなどもそうだけれど建物に大仕掛けのトリックを施したものは物語がつまらなければ興醒めでしかない。どこまで許容できるかは物語次第だ。物理の北山と云うフレーズは自称か他称か知らないけれど
「アリスミラー城殺人事件」はbravo!だけれど(動機は苦しい)、これは個人的にはイマイチな印象だ。どうも殺人の動機が良く解からない。そんなことで大勢の人間を殺すか?無理が多いな。シチュエーションも変だしバランスが悪いのが
目立つ。やはり私は心理トリックのものが好みだ。
『ギロチン城』殺人事件 (講談社文庫)
北山猛邦『ギロチン城』殺人事件 についてのレビュー
No.23:
(6pt)

人間の尊厳と八〇〇メートルの感想

初めて読む作家です。始めに短編って難しいと思うんです。作家のなかには短編の名手と呼ばれる人もいますが・・・。タイトルが意味深で面白かったので手にしました。五つの作品が収められていますが、テーマは旅とのことです。表題作の
人間の尊厳と800メートルは推理作家協会賞受賞作だそうですが、自分としてはそれほどの作品だろうかと言った感想です。妙な話を持ち出しズーっとその話でああだこうだと引っ張ってオチはそれなのかといったところです。残念ながら短編集なら他にもっと面白い本があります。ミステリ色が唯一強い「完全犯罪あるいは善人の見えない牙」にしても倒叙ものとしてはそれほどのインパクトを感じません。むしろ「北欧二題」のほうが自分的には面白かったです。
近年のもので短編の面白さが抜群なのは北村薫の「空飛ぶ馬」などの女子大生と円紫師匠のシリーズものが最高だと思います。
人間の尊厳と八〇〇メートル (創元推理文庫)
深水黎一郎人間の尊厳と八〇〇メートル についてのレビュー
No.22: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

衣更月家の一族の感想

三つの事件が起きるが、その裏には悪意を持った人間の巧妙な犯行が隠されていた。そんなストーリーである。廣田家の殺人が発端で殺意は否認したが犯行は認めた男の逮捕で一件落着の簡単な事件と思われた。小さな齟齬があるが刑事も
読んでいるこちらも気づかずスルーしてしまった。そこから第二、第三の事件が起きるがタイトルとは無縁の事件のように見える。何故か?それは事件を調べていた興信所の探偵によって明らかにされる。一本の線によってつながりをみせる時
タイトルの意味が解かってくる。まぁ手の込んだ構成とは云えるが話そのものに余り面白みがないようにも感じる。女性らしからぬ男性的な筆致で書かれているが、発端がジャンボ宝くじの3億円というのもなんだかなぁと云う感じで、物語に
ロマンがないって気がしてしまう。弁護士から齢60歳を過ぎてからの執筆とのことですが、刑事コンビのやり取りとか証拠調べや事件を追う様子の描写は経験の裏打ちなのかリアルさがあり読ませる部分ですが、肝心の『物語』がいまひとつと云った印象でした。
衣更月家の一族 (講談社文庫)
深木章子衣更月家の一族 についてのレビュー
No.21: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

神のロジック・人間のマジックの感想

うーん、タイトルから面白そうな予感を持って読み始めたが、全体的にもラストの意外性もイマイチって感じだった。特殊な環境を構築するデボラ・シウォード博士の言葉も説得力が無いように感じられる。部分的な記憶を失くしている少年マモルは、他の仲間たちと自分たちの居る施設≒学校についてあれこれと推理を巡らせるが、そう謎めいた雰囲気も無く少々退屈だ。それは最後への伏線であるからで本格的な謎解きの様相を呈していないせいだろう。起きる殺人もそう不可思議な状況ではなく読んでいてワクワク感もない。途中言葉や表現などにオイオイと思ったが、それはそれで周到な計算だったわけだ。だがしかし西澤流のレトリックは不発だったと云う印象だけれど、他のレビューにあるように仮にアノ作品を読まずにこっちを先に読んでいたら、それはそれで違った感想になったと思う。そういったところでは少し残念な気もする。
神のロジック 人間(ひと)のマジック (文春文庫)
No.20: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

Fakeの感想

コン・ゲームと云うジャンルがあり、有名な映画ではヘンリー・フォンダの「テキサスの五人の仲間」。ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォードの「スティング」。ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピットの「オーシャンズ11」など。小説ではジェフリー・アーチャーの「百万ドルをとり返せ」。94年海外ミステリー1位の「シンプル・プラン」小林信彦の「紳士同盟」。道尾秀介の「カラスの親指」等など。読む方とすれば騙される爽快感が楽しみで読むのであり、そのカタルシスの高い作品ほど面白い本と評価されるのでしょう。これはトランプのポーカー・ゲームの勝負で、自分達を騙した相手を逆に引っ掛けて10億円を騙し取ろうとする話しだが、ラストのオチはさてどうだろう。万人がなるほどと唸る様なオチは中々難しいと思うが、「カラスの親指」にしたって自分的にはあのオチはそれほどでもない感じだし。しかし、ポーカーの達人と自負する相手、しかも非情な男という設定の人物との対決は中々読ませるところである。場を読む、相手の手を読む事に驚異的な実力を持った男。表の顔はビジネスマンだが裏の顔はヤクザで冷酷な男と云う、主人公にとって絶対的な敵の造形が良く出来ていてゲームのシーンは面白い。とっかかりの始めに主人公たちが騙されるところは、入試をカンニングで突破するというプランそのものが「そうか?」と云う感じを持つが全体的にはまぁ、良く出来ているとは思う。でも主人公の人間性にあまり魅力がないせいで6ポイントとした。このジャンルは最初から敷居が高いので生半可なオチでは評価を得られないと云う特質があるが、全体とすればラストのドンデン返しまで読ませる内容だ。ただし「カラスの親指」のような人情的な爽やかさのオチではないので、「カラスの親指」が好きと云う人にはどう採られるか。コン・ゲーム小説が好きな人には読んで見るのも一興と思う。

Fake (幻冬舎文庫)
五十嵐貴久Fake についてのレビュー
No.19:
(6pt)

密室の鎮魂歌の感想

密室の中から消えた夫。失踪事件から五年後に、妻とその友人達たちの間で続けて起きる密室殺人事件。プロットには興味が湧きます。物語りも読ませる筆力があり、六人の人物たちの大学からの友人としての係わり合いから、現在の境遇や身の回りの事情を汲んだ一定の関係なども解かり易く語られながら話は進みます。人物たちの何気ない仕種やセリフも読み返せば伏線としてあったことが解かります。探偵役は誰なのか、失語症の少年真之助かと思っていたがこの辺は見事に裏切られました。始めの密室とその後の密室。図を示したりしてかなり本格的ですが、最後の種明かしではこれまでのパターンのものと同様で独自の斬新さは有りません。密室にする意味と意図はつまり犯人の復讐であったわけですが、それらを見せない人の心の内と秘密があって、そういったことは友人として付き合っていても気付かなかったという現実。そこがキーポイントとして作用したストーリーであったのですが、謎が散りばめられた割にはあっさりした裏側で主人公の麻美の凡庸さが苦笑を誘います。第14回鮎川哲也賞受賞作品ですが、それなりには読めます。
密室の鎮魂歌(レクイエム) (創元推理文庫)
岸田るり子密室の鎮魂歌 についてのレビュー
No.18: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

ゲームの名は誘拐の感想

氏の作品は最近はあまり読まない。「秘密」が98年、「白夜行」が99年。このあたりから作風が少し変わったように思う。自分の好みから少しずれていった感じのせいだ。去年「聖女の救済」を読んだが面白さは感じなかった。さて、これは2002年の作品。驚くほどの軽い文章と云うか、文体が今とまるで違う。他の誰かの本を読んでいる様な気がした。トリックというか、メインの仕掛けは直ぐ推察されたけど、物語の進行が犯人の視点のみというのは少し変わっている。でもね、結局最後はどうなるんだろう。あの後二人の関係はどうなるのか、何か腑に落ちない。警察が本格的に捜査したらどうなるのか?完全犯罪成立?そうだろうか・・・?まぁ誘拐物としては身代金受け渡しが最大の見せ場で過去に名作が色々あるが、本作も知恵を絞ったやり方で金を奪うという方法を考えている。しかし、読後感がどうもすっきりしない。何故だろう。

ゲームの名は誘拐 (光文社文庫)
東野圭吾ゲームの名は誘拐 についてのレビュー
No.17: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

九月が永遠に続けばの感想

夜ゴミ出しに行ったまま消えた息子。必死で探す母親。警察に届、学校の担任にも相談しクラスメイトにもあたるが行方不明のまま時間が過ぎる。この辺は母親の不安な気持ちや焦燥感がこちらにも伝わってくるが残念ながらサスペンス感はあまりない。別れた夫にも相談して探すうちに少しづつ二組の家庭のもつれた人間関係が見えてくる。浮気相手の教習所の教官が駅のホームから転落し死亡する事故がおきたり、元夫の娘が消えた息子と会っていた事実を掴んだり、その娘が転落事故の男とホームで口論していた事実などを知ることになる。元夫は精神科医で再婚相手は、ある事件の被害者であり二度に渡って被害者になるなど異常な体験をした女。暗く焦燥感ばかりが募る展開をみせる物語だが、ホラーサスペンス大賞の作品としては、その括りは違和感がある。特異な愛と歪んだ愛の物語と感じた。ただ、文章は引きこむ力があり最後まで中だるみなく読み終えた。
九月が永遠に続けば (新潮文庫)
沼田まほかる九月が永遠に続けば についてのレビュー
No.16:
(6pt)

密室は眠れないパズルの感想

たまには冴えた頭で作者と知恵比べでも楽しもうか、という趣旨の本である。後半のところに読者への挑戦と宣戦布告するページがあり、これはもう本格推理小説以外の何者でもない。東大文学部卒の作者の頭脳に勝てるか否か。登場人物たちのミステリー談義や密室談義など楽しい趣向を織り交ぜながら、ひとつのビルそのものが外部から遮断され密室と化したなかで起きる殺人事件。さて、犯人は? これはもう論理の積み重ねで特定していくしかない。ハウダニットではない純粋にフーダニットを追求する内容である。手がかりはすべて提示した。あとは貴方の探偵としての能力しだいというフェアな書き方で読者に挑戦している。1997年 鮎川哲也賞の最終候補に残り、島田荘司の高い評価を得た「眠れない夜のために」を改稿改題した作品だが「真っ暗な夜明け」でデビューする以前の作品としては良く出来ていると思う。土曜の夜に夜更かしを楽しみながら読む本としてたまにはこんな本も賞味しては如何でしょう。
密室は眠れないパズル
氷川透密室は眠れないパズル についてのレビュー
No.15: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

トラップ・ハウスの感想

始めに記しておかなければいけないのは、やはり「扉は閉ざされたまま」のようなキレが足りない
と云う事。他の二番煎じ、三番煎じのような印象を持ってしまう事。シチュエーションから導き出される
内容はこれまでの他の作品とダブってしまうのは避けられない。そこを打破するには斬新な眼で常識破りの
プロットを工夫しなければいけない。こういった観点からみればスタートの出来事が弱い。閉じ込めて当事の状況を吐き出させようとする(犯人)の意図もあまり共感を呼ばない。しかし、相手がAと間違えてBに何故あの時あんな事をしたんだと詰め寄ってもBには何のことかさっぱり分からない。そんな状況下でBに該当する男女9人が仕掛けられた罠に隠されたメッセージを読み、論理的に思考を重ねてジワジワと(犯人)の狙いとこういった行為の動機を探り出していく過程は読ませる部分だった。トレーラー・ハウスの中で男女9人が会話のみで白紙の状態から過去の出来事と今の状況、そして当事居た影の第三者まで特定していく推理の積み重ねはミステリーとしては及第点だと思う。しかし、この手のシチュエーションで書くならもっとこれまでにないあっと驚く仕掛けと斬新な手法が欲しい。もっと読者をうーんと唸らせることが出来る作家だと期待しているのだから。
s

トラップ・ハウス (光文社文庫)
石持浅海トラップ・ハウス についてのレビュー
No.14:
(6pt)

名探偵はもういないの感想

この人の『開かずの扉研究会』シリーズ四作を読んでいる。これは、そのスピンオフと云える作品。
孤立した雪の山荘、怪しげな客達、そして起きる謎めいた事件。解決するのはアノ人だった。最後の探偵の謎解きの前に「読者への挑戦状」がある、もうミステリーの王道を貫いた体裁のこの作品。たまには作者に挑戦とデータを整理して暫し一考。結果、池で発見された死体の意味は正解だったが、ひとつ大事なファクターを忘れていて一連の流れにはならず正鵠を射たとは云えないためにこちらの負け。いろいろな手がかりをキチンと見せ、そのうえで物語を作り上げなければならないので、こういった趣向のモノは書き上げるのには骨が折れることだろう。ともすれば技巧にばかり神経が行き物語りがおざなりになるが、これは多様な登場人物がいてその辺のところは回避されていると思う。こういったゲームが好きな人には楽しめる一冊。
名探偵はもういない (講談社文庫)
霧舎巧名探偵はもういない についてのレビュー
No.13:
(6pt)

わたしを離さないでの感想

ヘールシャム出身のキャシーの回想で物語は始まるが、テーマと云うか内容の割には少し長いと思う。
へールシャムでの生活と出来事を淡々と綴り、少しづつキャシーやその仲間たちとの勉強と生活を見守る保護官との会話で裏側にあるものが見えてくる。彼女たちの存在意義が浮かび上がってくる書き方だが、初めに出てくる提供者という言葉に違和感を覚えるがこれは無かったほうが良いと思う。ほとんどすべてが明らかになっても、キャシーと仲間たちはその運命を受け入れ提供者と看護人として全うする様子が描かれていて、最後のページのキャシーのモノローグには胸打つものがある。個人的にはもう少し切り口を変えてまとめれば面白かったのにと思うところで、さて、これはミステリーなのかと問われると少し違うと云わざるを得ない。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)
カズオ・イシグロわたしを離さないで についてのレビュー
No.12: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)
【ネタバレかも!?】 (11件の連絡あり)[]   ネタバレを表示する

追想五断章の感想

伯父の営む古書店に居候する大学生。とはいっても休学中で鬱屈した毎日を送り怠惰な気分の日々。ある日若い女性が店に現れ、生前の父が書いた五つの掌編を探して欲しいと頼まれる。いってみれば大学生と若い女性ふたりの一時期の挫折感から立ち直る様子を絡めたミステリといえます。五つの掌編を探す理由。過去の事件を探る意味もあるのですが、真実と向き合える年齢になった自分の背中を押してくれるきっかけが欲しかったのでしょう。高額の報酬が動機としても大学生も今の生活には後ろめたさもあり、一歩踏み出すきっかけとして彼女の依頼を受けます。幼いころのおぼろげな記憶が五つの掌編に込められています。両親の愛情を再確認する彼女ですが、その道筋が手の込んだ掌編というアイテムを使ってミステリに仕立てる作者のセンスの良さといえます。小市民シリーズなどとは一味も雰囲気もトーンも違う作者の違った一面を見れる内容です。
追想五断章 (集英社文庫)
米澤穂信追想五断章 についてのレビュー
No.11: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

葬列の感想

世の中の片隅に住む、負け犬4人が出会って無茶苦茶な計画を企て実行して大金をせしめるが・・・。
簡単に書くとそんな話だ。うだつのあがらないヤクザ。妻に逃げられ小さな女の子と二人暮らし。夫が障害者で必死に働く中年女。その障害は自分が原因だった。何をやっても上手く行かず家族に見放されて、ねずみ講のマルチ商法に嵌まり更に転落していく女。自分の存在にリアルさを感じられない帰国子女の若い女。その過去には家族を惨殺され自身もレイプされた暗い出来事があった。ひとつのきっかけで動き出した計画。
だが、最後の最後で思い込みをひっくり返される別なエピソードが明らかになる。
横溝 正史賞を受賞したデビュー作だが文章は上手い。「これは戦争だ」と言い武装した4人がヤクザの幹部の別荘を襲うところは、銃の細かな説明の描写など大藪 春彦のハードボイルド小説を思い起こさせる。
選評にもあるように最後の一行がこの話の全てで結局彼女の物語だったということか。テンポのよい展開とスピーディさで一気に読み進めることが出来る面白さはある。
葬列 (角川文庫)
小川勝己葬列 についてのレビュー
No.10:
(6pt)

サウスポー・キラーの感想

このミステリーがすごい大賞受賞作。洒落たセリフと魅力的な主人公を上手く書いているので、その作品世界に入り込み易い。ディック・フランシス的なタッチのストーリー展開で、登場人物がみんな大人であるため落ち着いた感じがする。試合のところの描写も充分資料を研究して書かれており、迫力と緊迫感があり楽しめる。単なる野球バカでない主人公の思考と行動に共感してページをめくる手が止まらない。つまり、それだけ文章が巧みと云えるのだろう。いまどき野球ミステリーとはちょっと古い、と選評にあったが確かにそうかも知れないが、この作品に限って云えば面白く読み終えた。センスのある作家と思う。他の作品にも触れてみたい。
サウスポー・キラー (宝島社文庫)
水原秀策サウスポー・キラー についてのレビュー


12>>