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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧
ニコラス刑事さんのページへレビュー数210件
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少女が消えたとはいえ初動捜査が難しい。事件か事故かそれとも単なる家出なのか。
大量に人員を投入しても全方位の捜査では情報が錯そうする。そんな難しい捜査の中で一人の警部補を主人公に した物語が始まる。少女が消えて24時間、そして二日たち三日たっても見つからず何の手掛かりも無い。 捜査と家族の苦悩が描かれるが中々読ませる。主人公の警部補のサイドストーリーも良い。 離婚し親権を争っていた両親、警部補の家族の問題。守るべき家族の絆とは?そんな問題にスポットを当てて少女の行方を追う 展開が読ませる。中々楽しめた一冊。 |
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あの杉村三郎を主人公とした短編集。
東京北区の北東部に私立探偵事務所を構えた彼のもとにやって来る依頼人たち。 四つの短編が収められた本書はどれも宮部みゆきらしい物語が展開する。やって来る依頼者の相談事は 日常の謎的なアプローチだけれど、調べ始めるとこれがけっこう重かったりするのがどうも違和感を感じてしまう。 これはどうしてかというと、彼の周りにいる人たちは皆人情味たっぷりで落語の世界の住人のような善人ばかりであり、 杉村三郎という人間と彼らとの関わり合いが微笑ましく描かれているから。 だけど持ち込まれる相談事の奥には殺人という凶悪な事実があり、その陰と陽の落差が大きくて読んでいるこちらは ちょっと気分が沈んだりするのだ。杉村三郎というキャラクターから言えば殺人などのないコージーミステリーでいいのではないかと思う。 彼のキャラクターとしては、人が人を殺すという出来事などのない、普通の暮らしの中で起きるちょっとした謎めいた現象を解き明かすという 探偵の方が向いていると思うのだが。 とはいっても相談事を調べていくと意外な真実に行き当たるというパターンではあるがそこは宮部みゆき。 物語を作る才能がしっかりと発揮され、どれも展開の妙と意外性が楽しめる。 つまりはいつ読んでも宮部みゆきは安心して読めるということ。 |
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後妻業を読んでからこの作家にハマった。
つまりはこの人の文章が自分にはぴったりくると言うこと。大げさでなく地味でもなくどちらかというと簡潔ともいえる 書き方で物語が進むのだけれど日常が上手く書かれていて読み進むのが楽しい。 どの作品でもそうだけれど登場人物が酒や食い物に金を使うことには頓着しないところがあって、ある意味こちらには そこが小気味よくてストレスの解消になるところもある。女に関してもそうで自分には出来ない生き方が読んでいて痛快と 感じるのがこの人の作品の本筋だろうと思う。一課ではなく薬対課の二人の刑事の遠張りという何気ない日常から始まる この物語はある意味淡々と進む。しかし、オマケのような拳銃発見という事態から思わぬ方向に二人の刑事も振り回される 事になる。和歌山の刑事もキャラ的には面白く三人での特捜捜査も和歌山の刑事の云う通り捨てられた三人であるのは 間違いないだろう。そんな三人がじわじわと足を踏み外していく様が読んでいてとても分かり易い。 下っ端刑事の心情と思惑がストレートにこちらに響く。書き方の妙とセリフの面白さ。やくざ社会や企業の裏の顔と言ったところは この人の独壇場ともいえるほど的確で物語に馴染む描き方だ。何冊か読んだけれど例の刑事コンビとは違う二人の刑事の物語だが 好き嫌いでいえばこっちの方が自分は好きだと言える。ラストもまぁそんなところだろうと納得して読み終えた。 この人の作品をもっともっと読みたいと思うが意外と高齢の方なので新作が出るのか分からないが期待はしたいと思う。 |
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話題になっている本ではあるけれど、ネットのレビューとか一切見ないで予備知識なしで読みました。
文庫本上・下の二冊になっていて、読み始めると上巻は面白かったんです。階段の上から掃除機のコードを足に絡ませて 転落したように見える家政婦の死体。館に入るには窓を割って入るしかない状態。その家政婦は詮索好きでいろいろと人の秘密を知っていた様子。 出てくる人物は誰もが思わせぶりなモノローグで怪しさに満ちている。そして館の主の殺人事件が起きる。雰囲気といいバラエティに富んだ登場人物たちといい 読みながらのワクワク感はどんどん膨らんでいく。しかし、下巻になるとそのカササギ殺人事件を書いた作者が死亡する。自殺か事故かそれとも・・・・・・。 といった展開で作者の死と作品の中の犯人捜しの双方を読者は追っていくことになるという趣向。 ミステリのネタはいろいろとバラ撒かれており手が込んでいる。しかし、ネタそのものが本国ならともかく日本の読者ではちょっと付いていけないと思う。 人名のことやらなんやら英語に詳しくないこっちにはそんなことはピンと来なかった。ミステリとしてのお遊びが言語の違うこちらにはダイレクトに響かないのがもどかしいとなるんですよね。 作者の人となりも周りの人物が云うように好人物とはいいがたい人間のように作られているのもどうなのかと思う。 そんな人物では自殺なのか事件なのか熱を持って調べるのもおっくうになる感じで、下巻では一言一句目を凝らして読み進むということがしんどくなってきた。 つまりは上巻のまま物語が進みミステリとしての醍醐味を味わいたかった。 仕掛けそのものはミステリファンには受ける趣向だろうけれど、個人的にはちょっと違っていて残念な感じが大きい。 |
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『そしてミランダを殺す』のあのワクワク、ドキドキ、ハラハラが染みついている私はどうしても期待してしまう。
まぁ、悪くはないんです。著者らしさは十分に出ています。物語の組み立て方などミステリファンの心をガッチリと 掴んだお膳立てで書かれています。出てくる人物も誰を信用してその視線で読んでよいのか迷います。 文章も『そしてミランダを殺す』のように物語に入り込みやすく、それでいて下品でなく洗練された胸に沁み込む文章です。 余談ですが、フランスでもっとも人気のあるミステリ作家と言われているギヨーム・ミュッソの『ブルックリンの少女』をいま 読んでいますが、物語は面白そうですがどうも文章がつまらないというか、浅い感じであまり楽しみながら読み進むという感じじゃないんです。 この人に比べればピーター・スワンソンの文章は段違いに素敵です。良く情景が分かるし人物の息遣いまで感じ取れます。 ただ、迷わせて結局それか、と感じさせる内容のお話では『そしてミランダを殺す』以上にはなり得なかったと言えます。 コチラが大きくハードルを上げているので、そうなるのでしょうが残念です。 でも、楽しめるのは間違いありません。過去の出来事で心に傷を負っている女性とシリアルキラーのような男との対決。 ありがちな構図にちょっと捻りを加えた物語ですが、ミステリファンを飽きさせることなく最後まで引っ張り読ませるのは流石です。 |
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単行本上・下巻に別れた圧倒的ボリーュムの本。
ある場所で出会った少年二人と一人の少女。 そして17年後ふたたび出会う三人。一人は刑事、もう一人は弁護士、そして少女は看護師になっていた。 そんなところから物語は始まる。17年前と現在を交互に見せながら展開する物語はしかし暗い。この三人はどうしようもなくネガティブだ。 そこが読んでいてイライラする。ハッキリ言ってこんな話は読みたくない。親が子供への虐待や育児放棄は今やすっかりおなじみだ。 子どもの心に深く傷をつける。それは分かる。理解できる。父親に殴られたことから窃盗症となり万引きが止められないという人物のニュースも見た。 他人には到底踏み込めない心の深い奥底にはどんな感情が渦巻いているのか分からない。 でも17年も経っている。刑事や弁護士に看護師になっているだろう。その間に過去はどうあれ社会の中でいろんなことを見て経験して身に付けて来たものがあるはずだ。 心の奥底にあるものに蓋をして生きて来たというけれど、ちょっと違うのじゃないかと思う。孤児同然の暮らしで虐げられた子供はみんな他人を寄せ付けない性格となりチンピラや 半グレからヤクザになるとでも言うのだろうか。まったくこの三人の思考や行動にはついていけない。そういう物語だと思っていても読んでいてイライラが募る。 奈緒子の死には憤りを感じる。梁平、お前は刑事だろう。最低な奴だ。過去なんでどうだっていい! 現代で起きる二件の殺人事件。そして17年前の山での秘密。すべてが明らかになるまでの暗くウジウジした話。大勢の登場人物をキメ細かく描き丁寧に描写するその筆力で物語世界に取り込まれる。 だが疲れる物語だ。こんなうっとおしい物語は勘弁して欲しい。土橋という医師にもイラつく。優希が私には構わないでオーラ全開でバリアーを張っていることに対して 何の手立ても講じない。学識と経験を積んだ医師だろう。山に行くことに関して普段とは違う様子で議論を吹きかけている姿にも何も感じないぼんくら医師だ。 これはつまり作者の考える方向に沿った喋りや行動をするように動かされている人物だからだ。作者が動かす操り人形感がスケスケなのがイライラを募るわけだ。 仔への虐待やネグレクトへの啓蒙の書として書きたかったのだろうか。しかしウンザリする内容のこの物語は個人的には読みたくない。精神衛生上良くない。ストレスが溜まるだけだ。 |
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血と暴力とsexが描かれた内容。陽の当たる真っ当な社会で生きる人物は一人もいない。チャイニーズマフィア、香港マフィア、日本のヤクザ、悪徳警官、それらのごった煮の世界。
誰も信用できない世界で情報を金で買い隠された思惑を探る。この事態はいったい誰が仕掛けた? 殺し屋と元刑事の二人が黒幕を探しながら破滅への道を進む様子がハードに語られる。 毒にも薬にもならないお子様ランチ的なミステリに飽きた時は、この本のような毒がたっぷり入った味の濃いこだわりの一品も食欲をそそる。 この他に新堂冬樹の『ろくでなし』もおすすめ。いつもの日常からまったく別の世界を安全な場所から覗き見るのは楽しいものだ。 破滅願望は誰にもあると言うが、それを叶えてくれるのはこういったノワール小説を読むこと。一時の清涼剤にもなりうるこういった本を毛嫌いするのは勿体ない。 暑い夏の夜エアコンの効いた涼しい部屋で違った世界にトリップしよう。 |
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例えれば近藤史恵の「シャルロットの憂鬱」などと比べれば180度違う世界のお話なので、キツイ描写のスプラッター映画などが苦手な人は手を出すのは控えた方がいいかも知れません。
警察などの動きとかその辺の無駄は一切省き、主人公の何日間の動きだけを描写したストーリー構成です。連続乳児誘拐事件とか訳の分からない連続殺人事件などの出来事や登場人物などが みんな最後にはつながっていく様はたいしたものです。ただ、内容がぷっ飛んでいてモラルもくそも無い暴力描写が痛いのですが、それでいて引き込まれる魅力はあります。 社会の陰の部分を舞台にしたものはいろいろありますが、この主人公の過去の出来事に引きずられるようにして彼を取り巻く世界が噴き上がる模様がスピード感ある書き方で描かれます。 原付に乗り深夜市内を走り回る彼の焦燥感とフラッシュバックが効果的に作用して先の読めない展開が読む者を一層闇の世界に引きずり込みます。 メフィスト賞受賞作だけれど二作目は出ていないようで単なる一発屋だったのかどうなのか気にはなる人です。 「さあ、地獄に堕ちよう」を読んでこんなのもアリだと思った人には楽しめるでしょう。 |
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探偵としてのアイデンティティの喪失に苦しむエラリー・クイーンに、ニューヨーク市長から特別捜査官に任命されたのは、今ニューーヨークを震撼させている連続絞殺魔の事件を解決するため。
同じ手口で何人もの人が殺されるのはどう見ても同一犯の仕業。しかし、被害者にはなんのつながりも見いだせないためクイーン警視は苦慮していた。 ミッシングリンクを埋めるものは何か? 犯人にとって一見無関係に見える人たちを連続して殺害するのには何かしらの法則があるはず。そこをこれまでの事件のデータを精査し推理を加えて犯人像に迫るエラリー。 というのが今回のお話。雲を掴むような作業をクイーン警視と共に調べを進める探偵エラリー・クイーン。そこを読ませていくにはどうするか、いろいろと趣向を凝らせて読者を引っ張る手腕は流石です。 そして犯人像を掴めたときこれで決まりかと思わせておいて最後にひっくり返すサプライズ。 だがこのドンデン返しはどうなんだろう。 精神医学のアレコレなどを持ち出して補強しているように見えるが、個人的には真犯人の犯行動機がちょっと薄まったように感じる。 それはアリなんだろうか? それで九人も殺すか? 一人二人は理解できる。だが九人となるともっと強烈な動機があるべきじゃないのか。 個人的にはこの真犯人にはこの動機は少し弱いと思います。 ですから、ひっくり返さずにまったく犯人像が掴めない事件をコツコツと調べるエラリーの捜査の過程を楽しみたかったと思うのです。 お疲れ、エラリー。 |
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ハードボイルド小説の先駆け的な作品。
物語を行動によってはじめ、行動によって語る作風である。 興味深いのはこの作品が発表されたのが1929年であること。この年にヴァン・ダインは第四作「僧正殺人事件」を発表し、エラリー・クイーンは 処女作の「ローマ帽子の謎」を発表している。 ずぶずぶの本格ミステリが世の中を席巻している時にこの作品が発表されたわけだが、ある意味当然というか 当時の評価はそれほどでもなかったようだ。著者は貧しい家庭に育ったため初等工業高校を14歳で中退しいろいろな職業を転々としたそうだ。 最後にアメリカ随一のピンカートン探偵社に入り私立探偵としておよそ8年ほど働いた経験があるとのことだ。途中第一次大戦に従軍したが結核に感染し除隊後も 再び探偵としての仕事に就いたが身体が仕事に耐えられずに辞めたあと実体験をもとにこの本を書き上げたという。つまり事実をもとに書き上げた小説だということ。 内容は黒澤明の「用心棒」を彷彿とさせる。ほとんどの人物が殺されていく荒っぽい話だけれど嫌味は無く、主人公の行動が次々起こる事件の展開に 流されつつ立ち向かうところが面白く読んでいける。この後にレイモンド・チャンドラーが登場することを思えばダシール・ハメットの役割も大きかったと言える。 |
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事故か他殺か判然としない人たちの死に関与を伺わせる声明文を記者に送ってよこすHOGと名乗る人物。
連続殺人なのか? しかし、犠牲者たちを結びつける材料は何もない。紆余曲折の捜査陣に対して名探偵と言われる教授が登場する。 金にはシビアな教授と言われる人物。魅力的とは言えないキャラクターだけれど弟子になる私立探偵の青年が推理を展開するという内容。 お話自体は面白いんだけれど、どうも文章が読んでいて楽しくない。個人的にはこういった文体のものは好きじゃない。 私立探偵の青年と心理学者の恋のお話は良いけれど、その他はどうかすると退屈になってしまう。伏線はキチンと貼られているが 読み終えて良く考えればかなり危ない話だと気付く。でも要は料理の仕方の話しでこれはこれで一品としての価値はあると思う。 著者はクイーンに心酔してミステリを書きだした人物と紹介されている。たぶん後世に残るであろうこの一冊を書いたことでクイーンへの思いは成就したのではないだろうか。 |
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1986年と2016年が交互に描かれる。2016年は大人になった主人公の視点で語られて、1986年はその主人公が12歳のころの出来事が語られる。小さな町に暮らす仲間たち。
何でも話し合い、時には感情のままにぶつかり合ったりする仲間たち。そんな彼らたちの毎日と冒険。トラブルと悲惨な事故。こういったところが情感豊かな筆致で 描かれていて否が応でもスタンドバイミーを思い出す。それぞれの家族とその生活。きれいごとだけではない生活の様子も丁寧に描かれていて物語に入りやすい。 大人になった主人公もそのまま育った町で教師の職に就いている。とはいっても明るく爽やかでしっかりとした人物とはなっていない。40歳を過ぎても独身で 古い家に一人暮らし。酒を飲み過ぎる時もあり決してカッコいい男ではない。それはやはり少年時代の事を引きずっているせいでもあると描かれている。 そんな彼のところに届いた一通の手紙。それがすべての始まりだった。そして一人の旧友が合いに現れあの時の真犯人を知っていると告げる。 その旧友もそのあと死体となって発見される。登場人物すべてが生き生きと描かれ物語世界を作り上げている。ちょっと掘り出し物と思わせるミステリだ。 最後のオチは罰の意味もあってそう書いたのだろうが物語を締めくくるエピソードとしては最良だろう。一気読みに近い感じで読み終えたので面白くなかったとは言えない。 |
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冒頭、刑務所所長から検事総長あての書簡が見せられる。内容は深夜の田舎道を全裸でさまよっていた男について。
前科も未解決事件にかかわった様子も見られないが、名前もなにもかも否認するため四か月の懲役に処された男。 この男が房内で異常に潔癖な様子をみせるとの報告。自然に落ちる髪の毛や体毛をひとつ残らず拾い集め、食器や便器を使用のたびに 完璧に磨き上げる男。ただの潔癖症かと思われたが、その異常さに自身のDNA鑑定などの材料となるものを徹底的に排除しているのではないかとの 疑いを持ったとの報告だった。この謎の人物から一転、舞台は森の中で少女の腕が発見される現場に変わる。行方不明の少女は五人。 見つかった腕は六本。未知の行方不明者がいることになる。さて肝心なのは人を遠隔操作できるものなんだろうかということ。 そういえば、町で空き店舗を短期で借りて自然食品の店などと宣伝し、いろいろな日用品を100円で配ったりして年寄りを多く集め最終的には高額な商品を買わせる 業者がいる。あれも催眠商法と言われているから案外こちらが思うほど難しいことではないのかも知れない。 遺留品の分析や検死などについてもきちんと文献をあたり正確な表現で書かれているのでチャラいミステリのような雑さはない。 展開も上手く途中ダレルと言うことはない。ただ、個人的には失踪人捜索のエキスパートだという主人公のミーラ捜査官にはあまり思い入れが出来ない。 捜査チームも遊園地から子供が消えたらあらゆる仮説を立てるだろうに、簡単なことに気付かないなどちょっといただけないところがあり作者のご都合主義が みえてしまうところが残念だ。しかし、まあ読みごたえはある。最後まで引っ張る筆力はたいしたものであると思う。 |
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始めにこのシリーズを読んだときには「三津田信三」なんてパッとしない名前の作家なのでそう期待もせずに読んだ。
確か「首無の如き祟るもの」だったと思うけれど、すっかりやられてこれぞ探偵小説と思ったものです。 その後何冊か読んだあと、久々に刀城言耶シリーズの新刊と言うことで手に取った。 地方に伝わる怪異の話しは、やはり続くと裏が透けて見える様になってくるのはしょうがないと思う。 つまりパターンとしてこちらが学習しているから。 時代を経た四つの怪談話を読ませた後にその地に赴くところから本編のスタートだ。 結局、村の四人の人間が殺されるが事件は複雑な様子で密室だったりといろいろ手が込んでいる。 この辺は作者のサービス精神が旺盛ということでその努力に拍手を送りたい。 ただ、やはり長く続くと質を高めたまますべてが良く出来ているというのは難しくなると思う。 つまりミステリのコアの部分の強度のことです。 ちょっと私としては首をかしげるところです。 とはいえ、一冊の本。物語としては十分大人の読み物として楽しめます。 刀城言耶と祖父江偲のコンビのやり取りとか関係性などは個人的には可もなく不可もなくなんだけれど 物語の語り部としてはこのやり方は良いのでしょう。 |
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名探偵ポアロシリーズの初の公認続編の作家に選ばれた著者によるシリーズ第二弾となるもの。
前作「モノグラム殺人事件」の続編であるが物語としては独立しているのでどちらから読んでも構わない。 古式ゆかしいミステリの体裁そのままに書かれているのでじっくりと読書を楽しめる。 館にいる人物は手紙で招待されたポアロと相棒のスコットランドの刑事と使用人を含めて14人。 ひとりの人物が殺されるが各人の証言が錯綜する。さあ、ポアロと一緒に事件の解決をするのはあなたです。 手掛かりはすべてポアロと共有しているのですから。 最初から最後まで登場人物の喋ることを一言一句聞き逃してはいけません。 そこにほんの少し想像力を働かせれば良いのですから。( ´艸`) ちゃちな内容なら公認として出版されませんよ。そこはお墨付きです。 動機、方法、ミスリード、仕掛けは納得できます。 私は楽しめました。 |
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独特の雰囲気がある文章が好みです。プロローグだけ見るといかにもっていう出だし感満載のミステリ小説と思います。
森で消えた弟はいったいどうしたのか?一人帰って来た兄はどうしていたのか? これだけで最後まで引っ張ります。ガチガチの謎解きミステリじゃあないんですね。しかし、私はこういうのはアリだと思うので最後まで楽しめました。 途中退屈しないのは雰囲気たっぷりの文体です。その文章を楽しみながら読んだので退屈はありませんでした。 多彩な人物が登場します。そんな彼らの言動を追っていくのが面白いです。狭い地域での大人と子供。いろんな感情がごちゃ混ぜになっているのですが となり近所の人たちはある部分は推察しある部分は自分勝手な想像で色や形を作り周りを見ている。それが世間というものですね。 登場人物でとても面白いのが家政婦のハンナです。このキャラクターは良いなと思います。彼女を主人公にしてオーレンを脇にした方がより面白かったのではと思います。 多彩な人物が登場してそしてその人たちに決着がついていく。そんな物語ですから単純な事件解決への一直線の物語と思ってはつまらなかったとなるでしょう。 兄弟で森に行き弟は消え兄だけが帰って来た。そんな出来事があった家族とそこに住む人たちの生き方と暮らしがミステリを生むということですね。 |
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時効になった事件を警察を退いた男が個人的に調べ直す。このような設定は他にもいろいろあるでしょう。
それほど斬新な設定でもないのだけれど、これが読ませます。それだけ物語が面白いということです。登場人物もみんなキャラクターが立っており魅力的です。 だからこそ読み進められます。時効になって手が出せない事件にどう立ち向かうのかそこがキモでしょう。この解決の仕方は凡庸といえばそうですがしかし納得は出来ます。 事件に携わるきっかけとなる部分も上手く考えてあり、そこに意外な関係も用意してある周到さです。 些細な手掛かりから徐々に犯人に近づいていく過程はミステリとして大事なところですが甘さも都合のよさも感じられません。 当時とても大きな事件があり国民すべてがその事件に注目していたことで、この少女殺害事件の捜査が手薄になったという経緯が作用しているからです。 確かなツボを押さえた構成というところはベテラン作家の所以でしょう。主人公と周りに係わる人たちも許せない犯人という一点でまとまっており 主人公のキャリアに敬服しながら手足となって動くところは読んでいて気持ちの良さを感じます。 小児性愛者という異常者に断罪をもって挑むというのはある意味強引だとも思いますが(結局こういった人物は病気でしょう、それらを全部抹殺するという思想はどうかなと) 単純に罪のない少女の無念を晴らすという思いで調べを進める彼らの様子がミステリとして面白く読めるということです。 主人公ひとりではジグゾーパズルの一片をぴたりと収めることが出来ない、そういったところがこの物語の面白さです。 みんなとても気持ちのいい奴らです。読後感の良さはそういったところでしょう。 |
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映画を観たんです。面白かったですね。あれから何年経ったでしょうか?
最近食指の沸く本が無いのでこれを読んでみました。すべてが分かっているのに本を読むのってどうだろうと思ったりもしました。 でも楽しめました。映画は映画、本は本ですね。 仕掛けが上手いと思います。そして重いテーマもあって単なる茶番のお芝居ではないというところが著者らしいと言えます。 少し前にセバスチャン・フィツェックの「治療島」を読んでました。「治療島」のほうはラストが個人的にはいただけないと思いましたが このシャッターアイランドはラストにゾッとする思いです。いろいろな不可思議なことに答え合わせをする四日目の船乗りのなりそこないは もうミステリの醍醐味です。クリストファー・ノーランの「インセプション」はここからのインスピレーションでしょうか? そんなふうにも思ってしまいます。映画も知らない、この本も知らなかったという人にはおススメの一冊です。 |
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上手く書かれている。でもなんていうか文体に重さが無いせいか痛みや辛さがこちらに伝わらない。上っ面を撫でているだけって印象を持ってしまう。
ストーリィは込み入っていて登場人物も的確なポジションで良い動きをする。これは作者の計算が確かということで、その辺もどうかすると鼻に付く。 ミステリとかサスペンスというよりもエンターティメントな小説だと思う。舞台装置と芯にある問題。これらを使って上手く書き上げてあると言えるけれど 余りこちらには響かない。事件解決と見えたさらにそのあとの仕掛けはそう驚かなかった。結局ゲームを遊んだような感じなのでそう感じてしまうんだろう。 深みが無いとこういうことになるのかも知れない。ドイツではベストセラー作家だということだけれどどうも小手先の小説という感じで残念だ。 もっとも読む人によってはこれは面白い、と興奮しながら読む人もいるかも知れない。豪華客船という閉鎖空間での失踪事件を調べる話なのだから。 |
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登場人物や物語の背景に深みがないとかその辺の批判めいたものはこの作家には当たりません。ほとんどの作品が推理ゲームに特化したものだからです。
ハウダニット、フーダニット、ホワイダニットを究極に突き詰めているお話ばかりです。ですから人間的な深みなどを描写することなど始めから捨てています。 結婚式の二次会出席のため数年ぶりに集まった大学の仲間。三次会の後、渋谷駅で別れた八人。それぞれが違う方向に別れ見事に散り散りになった八人。 住むところが違うため利用する鉄道が全員違ったせいです。乗り入れ路線の多い渋谷駅ならではの偶然でしょう。 大学時代に事件があり一人の女性が皆の前から消えました。社会人になれば今の人間関係を優先するため、いくら仲の良かった大学時代の友人たちとも疎遠になるのもごく普通の事です。 皆の前から消えた女性がその二次会に現れました。大学をやめ郷里に帰っていた女性が現れたのです。そして、久しぶりのためまた翌日に全員で会おうと約束をします。 だが待ち合わせ場所に彼女は現れません。三次会の後渋谷駅で彼女は渋谷のホテルに戻り他の八人は駅で散り散りに別れました。待ち合わせ場所で4人が残りあとの4人がホテルまで様子を見に行きます。 何故かケータイが繋がらないからです。ホテルの近くまで来た時、路上に置かれた段ボールの下に彼女の死体があるのを4人は発見します。 首にひもで絞められたあとがありました。八人のうちの一人が密かに彼女と連絡を取り二次会に呼んでいました。物取り等流しの犯行ではない模様です。 となると容疑者は八人なのか。全員が理系大学出身のためここから論理的な考察に入ります。推理ゲームの始まりです。 読者向けと探偵役向けに手掛かりを晒します。普通そんなことは言わないだろうという一言が語られます。それはあくまで読者と論理展開する探偵向けの言葉です。 それが無ければ推理は進まないでしょう。だからそこは目をつぶるところです。一般的に考えれば変です。言わなければ悟られないことを言うのですから。 そういったところがあるのがバカバカしいととる読者もいるでしょう。でも、あくまでもミステリのロジックを楽しむためのお話ですから重箱の隅を楊枝でほじくるのはよしておきましょう。( ´艸`) ただ、妙なタイトルで少し損をしているのではないかと心配します。軽いと言えば軽いです、しかし、妙な重たさがある海外ミステリを読んだ後はちょうど良い口直しとなります。 石持ファンであれば楽しめる一冊でしょう。 |
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