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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧
ニコラス刑事さんのページへレビュー数324件
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コン・ゲーム小説の傑作と評価の高い本作。それはつまり、ただ単に相手を騙して金を巻き上げる内容に終始していないからでは無いだろうか。舞台も歴史あるホテルやウィンブルドンのテニス試合、モンテ・カルロのカジノ、アスコットにある競馬場でのクイーン・エリザベス・ステークスのレース、オクスフォード大学等を背景にした彼らのプランが遂行される。騙された四人が組んで百万ドルを取り返すわけだが、一ペニーも多くなく、一ペニーも少なくなくを合言葉にそれぞれが計画を持ちより実行する。ワンダウン残りは三つ、ツーダウン、残りは二つ、スリーダウン最後は・・・。この最後がとても愉快で洒落たオチと相まってこの本が愛されている理由が解かる。サクセス・ストーリーを絡めたポーランド人の移民の子に生まれたハーヴェイ・デーヴィッド・メトカーフ。彼のプロスペクタ・オイル社の株に関して巧妙な手口で人々を騙して結果四人を破滅の危機に陥らせる。大学教授、医者、画商、貴族らが専門を生かしたプランでメトカーフを騙す訳だが、汚い引っ掛けではなく相手が喜んで満足のうちに金を出すようなプランであるところがこのストーリーのミソでもある。だから読んでいても楽しく笑いも生まれる。カラスの親指も確かに面白い。だが、これを読まずしてコン・ゲーム小説は語れない。
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これは作者なりのいろんなメッセージが込められた物語なんだろうねきっと。医療事故とか、猟奇的な異常犯罪を犯した少年への国として、法としての在り方とか。裁判員裁判の在り方とか。とにかくいろんな問題を含めて、ひとりの弁護士の姿と集中治療室での出来事に問われる被疑者の裁判が描かれている。豪雨の翌日橋げたに引っかかった死体の身元を追う「連続殺人鬼カエル男」にも登場した古手川刑事と渡瀬刑事。それぞれの視点からストーリーは進むが、少年院で氏名を変える、そういった事実にもちょっと驚かされる。広く世間に知られた重大事件の犯人の更正に妨げとなるからと氏名を変えることは普通のことのようだ。弁護士となった彼の少年院での生活も描かれているが、この辺はありきたりのストーリーにも感じるが最後への伏線とすれば仕方ない。裁判での逆転、さらにその後の真犯人と新事実。こういったミステリー要素を絡めたストーリーだけれど、贖罪の意味は犯した罪の埋め合わせという教務官の言葉がこの本のすべてなのだろう。
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彼は、計画したすべてを遺漏なく完璧に仕上げた。
何の物証もない。だから城田理会警視は見抜いた真相を彼に話すときに一個人の立場で会った。 彼を名指して犯人とする推理は完璧で、西澤保彦はその過程を遺漏なく読者にも示して、間違っても読者から不満の声が上がらないように二重に傍証の補強に努めている。犯行に至る動機も、その経緯も彼の姉と云う存在を示し、姉弟ならば似通った性質でもあり、そう違和感もなく納得させられる様に計算されている。不可思議な犯行の意味も最後の城田警視の指摘で納得がいくが、さらに彼の思いもしなかった結果を警視に知らされる。それが「彼女はもういない」と云うこと。タイトルの意味はそこにあった。これは西澤保彦らしいすべてが計算された話で、とても巧妙なストーリーでありミステリーとしてのエンターティメントを追及した作品である。もっと多くの人に読まれるべき作品であると思う。西澤保彦のファン以外の人にも是非読んでみて欲しい。ただ、映画で云えばR-15の内容なので若い人や女性の方には注意していただきたい。彼の云う謎と論理のエンターティメントを味わって下さい。 ゴメン、ちょこっとネタばらし。木を隠すなら森の中だねワトソン君。 |
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ヴァルター・プラスキーは妻に先立たれ、娘と過ごす時間を優先した為に州刑事局からライブッイヒ刑事警察の機動捜査官になった。
エヴェリーン・マイヤースは、中小企業を相手にしない法律事務所の弁護士だが、暗い過去の出来事を引きずっている。人間的な魅力のある二人がそれぞれの案件を追っていくうちに、バラバラだつたピースが一つになり事件の全容が見えてくる。発端となる舞台での出来事も事件を追う二人が出会う手法も目新しさは無いが、展開がスピーディで訳も良いためにサクサクと読み進める。ただ、情報を得て先に進む過程で都合のよい協力者が現れるのには苦笑する。もう少しもたついた方が先の展開への興味が増すと思うが・・・。例えば先に読んだ「連続殺人鬼カエル男」の場合、猟奇的な殺人事件の被害者を結ぶ線は中々見つからず、犯人の真の狙いが捜査当局には解らずに通り魔的な犯行と考えられていたが・・・。と云った展開で読者を飽きさせなかった。でも、この二人の行動力ある活躍と、自分を信じ周りの意見に妥協せずに突き進む姿は共感を呼ぶものだ。喘息持ちの警部と家族を失った金髪の美人弁護士にはラストでの微笑ましいエピソードが用意されていて読後感も気分が良かった。点と線、事件はこれを解明することにある。そんなオーソドックスなスタイルのストーリーだけれど読ませる実力を持った作家だ。 |
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【ネタバレかも!?】
(2件の連絡あり)[?]
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猟奇殺人を扱ったミステリーと思い読み始めましたが、こちらの思惑とは少し違ってました。読んでいて
かなりバイオレンス・シーンがキツイので身体に痛みを覚えるほどです。(笑) 犯人逮捕のあとの二転三転する真相には整合性がとれてますが、ラストの皮肉なオチはさてどうでしよう。 刑法第39条をウンヌンするならば、彼の当真勝雄の人間性を貶めている様な気がして余り気分が良くありませんが。渡瀬刑事の云う因果応報で真犯人に罰を与えるつもりの作者でしょうが、少し筆が走った印象を持ちます。回復はするが完治はしない、それがラストの当真勝雄だとしたら39条への作者の答えがこれだと誤解を生むと心配します。ただのサイコ・サスペンスから二転三転する真相への持って行き方は、ミステリーのツボを得ていて楽しめます。ただ、痛い描写が多いので女性の方にはどうでしようか。 |
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凄いですね。何かハリウッド映画的なストーリーと展開で、ほとんど一気読みのような感じで読み終えました。この作家はこんなものも書けるのかと云うのが素直な感想です。フィクションとこれまでの人類の歴史を上手く混ぜ合わせた独特の世界で、常に緊張を用意した傭兵と若い研究者のストーリーを交互に見せて、テンポ良く進む波乱に満ちた物語。新種の生物とは?死んだ父からの謎のメールの意味は?リアルな関係者の言動。世界のリーダーと思い上がった某大国の政治的陰謀。等など資料を駆使した圧倒的なスケールで読ませます。偏っているとも取れる内容ですが、間違ってはいません。人類はまだ完成型では無いってことです。淘汰されるのは自然の掟です。今日と云う日を最大限に生きようと思いました。
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父の親友の別荘がある六甲に遊びに来た少年のひと夏の想い出。文芸作品のような上質な文章で綴られた親友と一人の少女との交流。微笑ましく懐かしさも感じる二人の少年とひとりの少女との夏の日の物語。夏休みの中のゆっくりと過ぎていく時間を追って、父とその父の親友がまだ若く独身でいた頃の出来事やエピソードが抽入されていく。日本が戦争前の昭和10年、父とその親友がドイツにて出会った不可思議な女性。そして、日本の戦時下のころ起きたひとつの殺人事件。これらが三人の楽しく甘酸っぱい感情を育んだ夏休みが終わりを告げて、少年が六甲を去るときに全てが繫がって真相が読者に示される。ミスディレクションのさりげなさ。最後のページでの衝撃。初恋の女性を思い出しながら読むとぐっと心に沁みます。
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コン・ゲームと云うジャンルがあり、有名な映画ではヘンリー・フォンダの「テキサスの五人の仲間」。ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォードの「スティング」。ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピットの「オーシャンズ11」など。小説ではジェフリー・アーチャーの「百万ドルをとり返せ」。94年海外ミステリー1位の「シンプル・プラン」小林信彦の「紳士同盟」。道尾秀介の「カラスの親指」等など。読む方とすれば騙される爽快感が楽しみで読むのであり、そのカタルシスの高い作品ほど面白い本と評価されるのでしょう。これはトランプのポーカー・ゲームの勝負で、自分達を騙した相手を逆に引っ掛けて10億円を騙し取ろうとする話しだが、ラストのオチはさてどうだろう。万人がなるほどと唸る様なオチは中々難しいと思うが、「カラスの親指」にしたって自分的にはあのオチはそれほどでもない感じだし。しかし、ポーカーの達人と自負する相手、しかも非情な男という設定の人物との対決は中々読ませるところである。場を読む、相手の手を読む事に驚異的な実力を持った男。表の顔はビジネスマンだが裏の顔はヤクザで冷酷な男と云う、主人公にとって絶対的な敵の造形が良く出来ていてゲームのシーンは面白い。とっかかりの始めに主人公たちが騙されるところは、入試をカンニングで突破するというプランそのものが「そうか?」と云う感じを持つが全体的にはまぁ、良く出来ているとは思う。でも主人公の人間性にあまり魅力がないせいで6ポイントとした。このジャンルは最初から敷居が高いので生半可なオチでは評価を得られないと云う特質があるが、全体とすればラストのドンデン返しまで読ませる内容だ。ただし「カラスの親指」のような人情的な爽やかさのオチではないので、「カラスの親指」が好きと云う人にはどう採られるか。コン・ゲーム小説が好きな人には読んで見るのも一興と思う。
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ヴァン・ダインの本作はファイロ・ヴァンスのシリーズ四作目として1929年の春脱稿された。この本についてはいろんな賞賛があるが、どれもがそのとうりと認められる。ミステリーとして計りしえない魅力をもった作品である。歴史的な一冊であることは間違いない。マザー・グースの童謡にならった連続殺人事件。その恐ろしくまた魅力的な犯人。犯行ごとの緻密な見取り図と関係者の動きを時間割にしたリストと綿密なシチュエーション。巧妙な伏線とミスディレクション。どれをとっても素晴らしい。
ペダントリー溢れる数々の引用と言葉。ヴァン・ダインの素顔が見れるその才能。 もし、この文を見ているミステリーに目覚めた若い人は肝に銘じて欲しい。金田一耕介も御手洗潔も亜愛一郎も古書堂の栞子までもすべての主人公がこの後に生み出されていることに。 未読の方は必ず読んでみるべきです。決して後悔はしないでしょう。 |
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ヴァン・ダインの処女作として知られている。今読み返してみると、なるほど後世に与えた影響の大きさが良く解る。つまり、どこかで読んだような設定とかキャラクターの造形とかの原型をここに見ることができる。ぺダンチックな文体なんて大元はこれなんだ。名探偵ファイロ・ヴァンス誕生の「ベンスン殺人事件」だが、友人のニューヨーク地方検事ジョン・F・X・マーカムへの辛辣な言葉、ほとんど暴言に近いような言葉のやりとりのなかで、アリバイにこだわる検察当局の主張を片っ端からはねつけ、彼の独自の心理分析を駆使したやり方で真犯人を指摘する彼の探偵としての姿に、当時のミステリーファンは拍手喝采したことでしょう。今読むと事件そのものはベンスン殺害事件のみで、大勢の容疑者に悩まされ進展しない捜査の様子と、多彩な登場人物の動きがいろいろと綴られるところが長くて少し退屈な部分もある。しかも、ファイロ・ヴァンスは最初に死体現場を見た段階で犯人像をある程度絞っていたと語る始末で、その辺のことは何度もマーカム検事に話すシーンもある。マーカムも君は何を知っていると問い詰めるが、ファイロ・ヴァンスはまだ話すべきではないとはぐらかす。このへんはお約束とも云える常套手段で読者を煙に巻くやり方だが、、この辺も今のミステリーの定石として受け継がれている。これ一冊でいろいろ楽しめる部分がありベンスン殺害の真犯人を指摘するラストまで楽しく読めた。たまには古典も読み返すと面白い。
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密室の中から消えた夫。失踪事件から五年後に、妻とその友人達たちの間で続けて起きる密室殺人事件。プロットには興味が湧きます。物語りも読ませる筆力があり、六人の人物たちの大学からの友人としての係わり合いから、現在の境遇や身の回りの事情を汲んだ一定の関係なども解かり易く語られながら話は進みます。人物たちの何気ない仕種やセリフも読み返せば伏線としてあったことが解かります。探偵役は誰なのか、失語症の少年真之助かと思っていたがこの辺は見事に裏切られました。始めの密室とその後の密室。図を示したりしてかなり本格的ですが、最後の種明かしではこれまでのパターンのものと同様で独自の斬新さは有りません。密室にする意味と意図はつまり犯人の復讐であったわけですが、それらを見せない人の心の内と秘密があって、そういったことは友人として付き合っていても気付かなかったという現実。そこがキーポイントとして作用したストーリーであったのですが、謎が散りばめられた割にはあっさりした裏側で主人公の麻美の凡庸さが苦笑を誘います。第14回鮎川哲也賞受賞作品ですが、それなりには読めます。
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このミステリーがすごい!大賞の大賞受賞作「弁護士探偵物語 天使の分け前」に続く第二作目の本書。前作は未読ながら本作を先に読んでしまいました。完全黙秘の女。傷害事件の被疑者である女はなぜ何も喋らないのか。長いものには巻かれない、しがらみや組織のルールなどに縛られない、はみ出し弁護士と新人女性弁護士のコンビが謎の女と放火事件などを調べていくうちに過去のある事件が浮かび上がってくる。DNT鑑定など法律用語や知識なども解かり易く使われていて、洒落なのかある程度マジなのか弁護士業界のとりまく環境なども愚痴っぽく語られていてクスリとさせられる。最後の法廷のシーンなども現役弁護士ならではのリアルさで読ませる。いろいろな謎が最後に一本の線で結ばれ、完全黙秘の女の正体も明かされる展開は良くまとめられていると思う。主人公のキャラクターも嵌まる人には嵌まるだろう。会話なども多少ハードボイルドぽくて、ヤワで湿っぽくないトーンの描写など一味違った探偵物語でこのあともシリーズとして書かれるのだろう。
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交換殺人がテーマのミステリーです。良いタイトルですね。でも、本を手にした時からすでに作者の術中に嵌まっている事に後で気がつきます。とても読みやすい文章で書かれていてサクサク読み進めます。でもそれが武器になっているんです。さりげない伏線も何気なく読み流してしまいます。交換殺人を目論む4人と綸太郎と法月警視の親子による推理。そのつばぜり合いがこの本のすべてです。まさに「謎と論理のエンターティメント」です。ちょっとした綻びから4人の計画が危うくなり、逆転を賭けて奇策に出るのですが・・・。この本に限って、たら、れば、のつまらない無粋な粗さがしは止めましょう。
綸太郎の名推理を堪能すべきです。 ただ、重厚なミステリーといった印象はありません。そういったところで8ポイントとしました。 でも、法月綸太郎のファンの人も、そうでない人も充分楽しめる一冊であることは間違いありません。 |
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文庫版で読んだが、600ページを超える厚さで少々読み疲れた。やはり翻訳本特有の持って回った文章と緻密な描写のせいで、やたらとページ数が多くなる。この点が海外ミステリーをあまり多く読まない第一の理由となっている。さて、小児性愛のモンスターはこの地元の人間で、まだ外にいて殺し続けている。行方不明になった二人の少女と、捜索に当たる特捜班に入ったルージュ・ケンドル。彼の双子の妹も十五年前に行方不明になり死体となって発見された。当事の事件の犯人として逮捕された神父のポール・マリーはまだ刑務所の中。
ではいったい誰が犯行を・・・。冒頭、謎の女が登場する。顔に傷のあるアリ・クレイ法心理学者。彼女の言葉がルージュ・ケンドルを過去に引き戻す。少女たちの脱出の様子に絡ませてそれぞれの人物たちとの関わりにより少しずつ真相に近づくケンドルとFBI捜査官のアーニー・パイル。もの哀しいラストまで読み込ませる巧みな人物描写と飽きさせない展開をみせる筆致。真相と謎の女の真実にはそういった思いがあったのかと納得する。驚愕のドンデン返しと云うほどではないが上手く読ませるミステリーとして水準以上の出来の作品と評価したい。 |
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このページにある「BOOK」データベースよりのあらすじを読むと、食指が動き手に取ってみようかと思わせる内容だが、読み終えた感じはどうもいまいちの感想になる。最初にこの作家と波長が合わない。物語に入り込めないし人物たちにも感情移入できない。浅い文章。警察も見放した謎って・・・。格好は本格ミステリーを気取っているが、そのトリックにしても陳腐。「館」ものとしては評価しているものを目にしたことがあるが自分としてはそれ程でも・・・。
数年前の作品と云う事を割り引いても低評価になる。 |
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五つの話が収められていて、ジャーナリストの斎木という人物を主人公にしたミステリー集となっている。始めに収められている「砂漠を走る船の道」が高い評価を得て第五回ミステリーズ!新人賞を受賞して作家デビューを果たす結果となった。
アフリカ大陸のサハラ砂漠やスペイン、南ロシア、アマゾンなどを舞台にしたジャーナリスト斎木が遭遇する出来事が新人離れした文章で綴られている。思い込みや価値観の違い、それらを上手く扱ったミステリーに仕上げている印象を受ける。つまり、料理は同じでもレシピが違うと云ったところか。 個人的には二話目の「白い巨人」が一番好きかな。これも読み手の思い込みを逆手にとって爽やかにうっちゃるオチをみせる物語で友人達の行動も清々しい。こう云うハッピー・エンドの物語は読んでいて気持がよい。とにかく視点と文章に惹かれる。今後も注目していたい作家だ。 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
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ある女性が書いた殺人鬼フジコについての記録小説。これを読み進む形で物語りは始まる。小学生の頃からの生活の様子からスタートするが、思ったことを口に出せずクラスメイトに引きずられるネガティブな性格などが表わされている。一人の男子にいじめられる標的になるが何も抵抗できない。家庭は最悪の状態で家族と呼べる状態ではなかった。そして、踏み切りでの出来事。いじめっ子Kに追いかけられたフジコは・・・。
フジコの視点で書かれている小説を最後まで読んでいくと、この小説を持っているひとりの女性の「あとがき」がある。そこには書かれていた事以外の隠された真実が資料と仮説によって示されている。それを確かめるべくある人物に会うことにしたことを記して「あとがき」は終わっている。次のページには新聞記事の小さな切り抜きがある。その記事は「ある人物」に会おうとした女性の遺体の一部が発見されたとの報だった。 と、こういった仕掛けの凝った物語だけれど、どうも内容が暗く重苦しい雰囲気で読んでいて楽しい気分にはなり得ない。その辺で読者はどうするか、最後まで読み進めるか本を閉じるか分かれることだろう。 でも、私自身はこういった仕掛けのある話は好きなのでラストでの意外性も楽しめた。 本当に悪いやつは影に隠れている。 |
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まぁ、次々と殺されますね。探偵どもしっかりしろよと云いたいですが・・・。クローズド・サークルの定番メニューのストーリーで、読む方としては楽しみながら読み進むわけですが。根底にあるのは壮大なイデオロギーでこれがアリかそうでないかは別として、トリックの使い方が普通とは逆の理由で使われているなどある意味新鮮で面白く感じました。限定された人数でストーリーが始まるので犯人を予感させる部分があり、そのあたり微妙なところがあったのですが、うまく話をすり替えて誤魔化してました。誰が犯人か話し合っていて当然話題にしなければいけない問題をまったくしないのは不自然ではありますが、そう感じさせない巧妙さがあるのでその辺には目をつぶりましよう。島に10人いて、全員殺害されれば残った人物が自動的に犯人となるわけですが、その辺のところの着地はどうするのかと思いながら読んでましたが。フム、一応納得させられましたので良しとしましよう。探偵たちも個性豊で最後の二人のキャラの設定など中々凝った登場人物を創造していて、この辺も物語に奥行きを与えていて好感が持てました。ミステリーのトリックとかのウンチク話や泡坂妻夫の本のことなども出てきてニヤリとさせられました。事件そのものは残酷ですがクローズド・サークルものとしては及第点の出来でしよう。他は好みの問題でポイントが高くなるかそうでないかの違いと思います。ずっと未読で気になっていたのですがやっと宿題を終えた気分です。
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作者はホラーとか、サスペンスとかそういった色合いでこの作品を書こうと意図したわけでは決してないと思う。僧侶の経験もある氏の現世感や仏教の世界感を多少交えながら、人の世の無常や何でもないことが歪んで広まったり、悪いことが連鎖して起きたりするが、そんなことは特別なことではなく普通にあることでそんな中を人は生きていくのだと云っている気がする。自分を見失っている、何かに囚われている者も結局救ってくれるのは愛する人であり、愛する人がそばにいるからこそ人は再生出来る。いろいろな因縁やしがらみに振り回されず本当に自分に必要な人、その人は外見や過去や学歴や家柄などといった物差しは陳腐でただ本質をみてその人だと気付くべきだと教えてくれている。そんな気がしたラストだった。安っぽいホラーではない深い意味の物語である。氏の作品はこれで三作目だ。「ユリゴコロ」で衝撃を受けてからますます気になっていく。
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氏の作品は最近はあまり読まない。「秘密」が98年、「白夜行」が99年。このあたりから作風が少し変わったように思う。自分の好みから少しずれていった感じのせいだ。去年「聖女の救済」を読んだが面白さは感じなかった。さて、これは2002年の作品。驚くほどの軽い文章と云うか、文体が今とまるで違う。他の誰かの本を読んでいる様な気がした。トリックというか、メインの仕掛けは直ぐ推察されたけど、物語の進行が犯人の視点のみというのは少し変わっている。でもね、結局最後はどうなるんだろう。あの後二人の関係はどうなるのか、何か腑に落ちない。警察が本格的に捜査したらどうなるのか?完全犯罪成立?そうだろうか・・・?まぁ誘拐物としては身代金受け渡しが最大の見せ場で過去に名作が色々あるが、本作も知恵を絞ったやり方で金を奪うという方法を考えている。しかし、読後感がどうもすっきりしない。何故だろう。
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