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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧

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レビュー数324

全324件 301~320 16/17ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.24: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活の感想

『シューマンの指』の作者で、先に読んだこの本と、今回読んだこの本のタイトルから正統派のミステリーで
森 博嗣の犀川教授のような深い洞察力の持ち主の大学教授が謎を解くスタイルの物語かも、と思っていたら・・・。まるで違った。(笑) 有り得ないほどの爆笑をもたらす痛快さで、ダメ准教授の桑潟 幸一ことクワコーの日々の生活と、大学で起こる不思議な出来事に振り回される姿を描いたものだった。顧問の文芸部の面々も爆笑ものだが、中の一人ジンジンと呼ばれる神野仁美の名推理で驚くべき真相が最後に用意されている筋立てだ。A館の409号室の窓から転落した国語教授、20年前の首吊り、そして霊が出るとの噂に隠された真相の物語である『呪われた研究室』。そしてポーの名作と同じタイトルの『盗まれた手紙』。さらに文芸部員とクワコーが出入り口を見張っていたにも関わらず人が消えるトリックの『森娘の秘密』の中篇三作が収められている。いまどきの大学生の生態と云うか、はなし言葉などがリアルに綴られていてそこだけでも爆笑だがさらにクワコーこと大学教授の姿が、世の中の人達から見る「大学教授」という概念をまるでぶち壊す有り様で、笑いっぱなしで読み進む事となる。そして著者は山形出身とあるが千葉の県知事からヒットマンが密かに送られているのではないかと本気で心配するほど千葉を馬鹿にした記述があちこちにみられる。とにかく、ユーモア・ミステリーは知っているが爆笑ミステリーは知らなかったので、これはある意味読むクスリといえる。お疲れ気味の人にはおススメしたい。
桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活 (文春文庫)
No.23: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

撓田村事件 ―iの遠近法的倒錯の感想

著者のプロフィールに横溝 正史を尊敬しているとある。そして2000年横溝 正史賞を受賞してデビューした。受賞作は『葬列』。これは先に読んだがクライムロマンと言ったところで、横溝 正史とは相反する内容だった。でもこの本は内容的には尊敬しているとある横溝 正史の世界に似たもので、岡山県のある地方の寒村を舞台にした殺人事件と、それを調べ犯人を明らかにする探偵の物語。横溝 正史を尊敬しているとアドバルーンを上げるのは、例えそれが作家としての足固めの手段の一つとして利用しているとしても、自分のスタンスを明確にしているので、読み手としても収支選択が取りやすいので不都合は無い。つまり同好の志は集まれと手を上げて居る訳だから。さて、この作品は丁寧に散りばめられた伏線と探偵が読み解く真相が破綻無く書き込まれ、主人公的な中二の男子 阿久津 智明の多感な時期の心情がきめ細かく描写されていてとても物語の世界に入り込み易い。事件の三日前から物語が始まるが、じっくりと村とそこで暮らす人々を書き込んでいく。事件の背景となる過去の出来事なども人物描写と絡めてうまく書かれている。個人的な話だがミステリーを読むときに、さあ名探偵よりも先に謎を解いてやろうと一言一句見逃さずに目を皿のようにして読む・・・。そんな読み方は私はしません。むしろ騙される楽しみを味わいたくて読むほうです。ですからハイこれが伏線ですよとミエミエな書き方のものは作者の力量が無いのだなと切り捨てます。上手く読者を騙してくれる作品を愛してやみません。これはそう云った意味からも合格点を付けられるものです。複雑な人間関係とその人物の想いなどがキチンと描かれていて、猟奇的な犯罪の意味もなるほどと合点がいくものです。ただ、隠された部分をもってアンフェアだと言う読者もいるかもしれませんが、そう何もかも明らかにしていてはミステリーは成立しません。足りないピースは推理で補うしかないのです。
昭和の時代の地方の静かな村を舞台にした、思春期真っ只中の少年と仲間。そして起きた哀しい事件。
清々しい読後感も気に入りました。

撓田村事件―iの遠近法的倒錯 (新潮ミステリー倶楽部)
小川勝己撓田村事件 ―iの遠近法的倒錯 についてのレビュー
No.22:
(5pt)

パーフェクト・プランの感想

身代金ゼロ、せしめる金は5億円。誰も傷つけない誘拐ミステリー。 う~~ん。面白そう。しかし、問題は先に読まれた諸兄氏のレビュー。なぁ~に、読解力の問題だろう、と思ってたのも事実。だがしかし、読み終えて時間を置いて考えると、未完成さが目に付いた。特に人物の造形が浅い。単にプロフィールを記しただけの印象なのでその人の人間性が見えない。例えば「小田切 良江」。代理母を生業にしている中年女。若い頃は美人でどうのこうのと仲間が話していたが、どの様な人物なのかさっぱり掴めない。登場人物はみんなそんな感じなので共感出来ない。そして、不可思議なのはJoshuaと名乗るハッカーにしてクラッカーという人物。何故こんな人物が事件ではなく出来事、(誘拐事件とはならないようにしている計画のため。)の中に入り込んでくるのか?意味が不明。オーソドックスでありきたりでも、日本ジェノックの裏の顔の部分から危ない連中が彼らを追い詰め襲う、としたストーリーの方がベターだと思うが。Joshuaが絡んで物語に起伏が生まれると計算したのなら違うと思う。
何か焦点が無く拡散したような印象の物語だった。
パーフェクト・プラン (宝島社文庫)
柳原慧パーフェクト・プラン についてのレビュー
No.21: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)
【ネタバレかも!?】 (11件の連絡あり)[]   ネタバレを表示する

追想五断章の感想

伯父の営む古書店に居候する大学生。とはいっても休学中で鬱屈した毎日を送り怠惰な気分の日々。ある日若い女性が店に現れ、生前の父が書いた五つの掌編を探して欲しいと頼まれる。いってみれば大学生と若い女性ふたりの一時期の挫折感から立ち直る様子を絡めたミステリといえます。五つの掌編を探す理由。過去の事件を探る意味もあるのですが、真実と向き合える年齢になった自分の背中を押してくれるきっかけが欲しかったのでしょう。高額の報酬が動機としても大学生も今の生活には後ろめたさもあり、一歩踏み出すきっかけとして彼女の依頼を受けます。幼いころのおぼろげな記憶が五つの掌編に込められています。両親の愛情を再確認する彼女ですが、その道筋が手の込んだ掌編というアイテムを使ってミステリに仕立てる作者のセンスの良さといえます。小市民シリーズなどとは一味も雰囲気もトーンも違う作者の違った一面を見れる内容です。
追想五断章 (集英社文庫)
米澤穂信追想五断章 についてのレビュー
No.20: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

葬列の感想

世の中の片隅に住む、負け犬4人が出会って無茶苦茶な計画を企て実行して大金をせしめるが・・・。
簡単に書くとそんな話だ。うだつのあがらないヤクザ。妻に逃げられ小さな女の子と二人暮らし。夫が障害者で必死に働く中年女。その障害は自分が原因だった。何をやっても上手く行かず家族に見放されて、ねずみ講のマルチ商法に嵌まり更に転落していく女。自分の存在にリアルさを感じられない帰国子女の若い女。その過去には家族を惨殺され自身もレイプされた暗い出来事があった。ひとつのきっかけで動き出した計画。
だが、最後の最後で思い込みをひっくり返される別なエピソードが明らかになる。
横溝 正史賞を受賞したデビュー作だが文章は上手い。「これは戦争だ」と言い武装した4人がヤクザの幹部の別荘を襲うところは、銃の細かな説明の描写など大藪 春彦のハードボイルド小説を思い起こさせる。
選評にもあるように最後の一行がこの話の全てで結局彼女の物語だったということか。テンポのよい展開とスピーディさで一気に読み進めることが出来る面白さはある。
葬列 (角川文庫)
小川勝己葬列 についてのレビュー
No.19: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

晩餐は「檻」のなかでの感想

密室物の変形だが、細かい点は問わずの姿勢を保つため架空の制度を設定している。この辺はアイデアの良さを感じる。つまり合法的な復讐である、あだ討ち制度が設けられている社会という設定だ。だが、これも売れない作家が担当者に言われてミステリーを書くために考え付いた作中作という体裁をとっている。メインは売れない作家の独白や、周りの人物が絡み合って思いがけない方向に展開する日常が描かれている。でも、出版業界の内幕や作家としての苦労などが妙にリアルに書かれていて面白い。作中作の事件と作家の現実とが交互に綴られ終盤に交差すると読者はフェイクに引っかかっていたことを知る。悪くはないが、そう驚きもしない。そんな程度のトリックだろう。軽い文体と軽妙な語り口の、例えは適切か分からないが赤川次郎の本を読んでいるような感覚がある。密室殺人もこの設定だから可能なものであるが、まぁ肩の凝らないミステリーとして読んで見るのもいいかも。メフィスト賞でデビューした人である。
晩餐は「檻」のなかで (ミステリー・リーグ)
関田涙晩餐は「檻」のなかで についてのレビュー
No.18: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

水の時計の感想

退出ゲームなどが評価が高くて最近名前を知った作家である。この本はファンタジーとするレビューを目にしたが私はそうは思わない。逆にとてもリアルな話しだと感じた。自分の身体を難病や過酷な運命にさらされ、死を待つだけの絶望の淵にいる人たちのため臓器提供を願う少女。その臓器を届ける役目の少年は世間の荒波に飲まれた孤独なライダー。しかし、本人も気付かないところで少女との接点があった。各章で臓器提供を受ける側の人たちの悲惨な、あるいは愛に溢れた心と行動の物語を紡ぎ、警察や族の仲間たちに追われる少年を絡ませてひとつのストーリーを見せる。普段表舞台で語られることはそう多くない臓器移植の問題。待つだけの人々。ドナー登録はあっても適合の問題や費用の問題。あまりにも過酷な現実。生と死の重いテーマに暗くなりがちだが、少年の再生への希望とピュアな心情に触れるストーリー展開とに依って読後の気分は悪くない。これがデビュー作だが文章もこなれていて読みやすく感情移入もしやすい。他の作品も楽しみだ。
水の時計 (角川文庫)
初野晴水の時計 についてのレビュー
No.17:
(6pt)

サウスポー・キラーの感想

このミステリーがすごい大賞受賞作。洒落たセリフと魅力的な主人公を上手く書いているので、その作品世界に入り込み易い。ディック・フランシス的なタッチのストーリー展開で、登場人物がみんな大人であるため落ち着いた感じがする。試合のところの描写も充分資料を研究して書かれており、迫力と緊迫感があり楽しめる。単なる野球バカでない主人公の思考と行動に共感してページをめくる手が止まらない。つまり、それだけ文章が巧みと云えるのだろう。いまどき野球ミステリーとはちょっと古い、と選評にあったが確かにそうかも知れないが、この作品に限って云えば面白く読み終えた。センスのある作家と思う。他の作品にも触れてみたい。
サウスポー・キラー (宝島社文庫)
水原秀策サウスポー・キラー についてのレビュー
No.16: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

灰色の虹の感想

冤罪をテーマにした物語だ。気弱で内気なタイプの男が殺人者として逮捕され、過酷な取調べに負けて自白してしまい裁判で無実を訴えても状況を覆すことが出来ず刑が確定する。昨日まで平凡な一市民だった人間が刑事事件の犯人として逮捕、起訴されるとどうなるか。世間はその家族までも容赦しない。例え冤罪と訴えても誰も聞く耳を持たない。大勢の人の人生が滅茶苦茶になる。このあたりの残酷さを作者は徹底的に描く。壊れた人生、壊れた家族。やがて主人公は決意を胸にただ一人の味方である母の元から姿を消す。そして刑事、弁護士、裁判官と事故や事件に合って死んでいく。一本の線で繫がることに気付いた一人の刑事。その彼も恋人をわずかな金を取る目的のために襲った男達に殺された過去を持っていた。復讐は是か非か。ラストの意外性はミステリーとしては弱い。つまりミステリー要素のある犯罪小説と云うところだろう。
むかし、上前 純一郎氏の書いた「支店長はなぜ死んだか」を読み冤罪の怖さを実感したことがあるが、この作品もその辺のところはうまく描かれており読み応えがあった。心情を表わす文章の使い方がうまい作家といえる。
灰色の虹 (新潮文庫)
貫井徳郎灰色の虹 についてのレビュー
No.15: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

ユグノーの呪いの感想

ヴァーチャル記憶療法士という職業がある。仕事は精神的なことがらが原因で身体の疾患等を抱える人たちを治療のため、そのトラウマとなった心の傷を取り除き新しい記憶を植えつけること。本人の記憶の中に入りそのトラウマを排除し記憶を上書きすることが任務となる。主人公は以前の任務中に危うく現実世界に戻れなくなる事故に合い仕事から遠ざかっていた。だが、勝手の相棒 長谷川礼子からの連絡で高額報酬の誘いに自分自身の再起を賭けて挑む決心をする。だが、被験者の記憶世界には恐ろしい罠が仕掛けられていた。
メディチ家の末裔アントニオ・メディチ。その娘ルチア。彼女の記憶の中は16世紀のフランス。1572・8・24サン・バルテルミーの虐殺とユグノーとの宗教戦争をバックにしたその世界。二人の活躍と謎の出来事。そして明かされる意外な犯人。ちょっと毛色の変わったミステリーとして、そう、梅原克文の二重螺旋の悪魔などを読まれた人には楽しめると思います。人物描写や全体の構成が良く作品世界に浸れました。
ユグノーの呪い (光文社文庫)
新井政彦ユグノーの呪い についてのレビュー
No.14:
(5pt)

リスの窒息の感想

新聞社に誘拐の身代金請求のメールが届く。何故新聞社に?理由は始めに読者に示してある。
この辺はいい。読み流す。だが、新聞社の対応が何かおかしい。理詰めでの各人の思惑で社の意思を決めて対応する事になっているが、ちょっと甘くないか?新聞社がひとり勝手に踊っている印象である。
ありきたりの常識的な対応をされてしまえば、そこでこの身代金請求も何もかも終わってしまう。
そうさせない為に新聞社を縛る仕掛けが施されているが、あくまでストーリーを成立させるためのご都合と見えてしまい、ストーリーに乗っていけない。好きな作家だがちょっと残念な結果の作品。
リスの窒息
石持浅海リスの窒息 についてのレビュー
No.13: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(3pt)
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悪の教典の感想

う~ん何だろう、サイコ・ホラー? これが2011年版このミステリーがすごい!第一位とは正直がっくり。
我孫子 武丸の「殺戮にいたる病」のようなオチもなく、綾辻 行人の「殺人鬼」のようなトリックもなく
それでもってあのラストはないよネ。
「悪人志願」のような爽快感もなく、ただのスプラッター・ホラーと云ったところか。

悪の教典 上
貴志祐介悪の教典 についてのレビュー
No.12: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

犬はどこだの感想

ミステリーとして、いろんなピースがひとつになる時、思いもしない結末になる。こういった手法は常套だが、この紺屋探偵が受けたふたつの依頼もラストで重なるときの意外性は中々楽しめる。探偵も身体の不調から田舎に引きこもり、やっと再起を目指して心と身体が目覚めたとき、生きていく上での糧を得るために選んだ仕事が犬さがし専門の調査事務所とは面白い。だが、思惑どうりには行かず妙な依頼が舞い込む。
探偵とその妹のキャラクターが楽しくて続編があっても良さそうと思うほどである。
この人の「インシテミル」は余り評価できないが、これと「さよなら妖精」はとても良いと思う。
犬はどこだ (創元推理文庫)
米澤穂信犬はどこだ についてのレビュー
No.11: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

サクリファイスの感想

評判は聞き及び知っていた。さて、実際に手にとって読み進むと、ロードレースのことは何ひとつ知らない自分でも物語に引き込まれる。簡潔な文章でも主人公の心のうちや思いなどがちゃんと伝わってくる。
エースとアシストの関係。勝利に純粋に貪欲であるがゆえに陰で誤解を受ける部分。そんな伏線ともいえる話からレース場面を描き、事故が起きてしまい隠された真相が見えてくる時、主人公は本気でレースをアシストとして生きる気持ちを固める。清々しい読後感のあるスポーツ小説にちょっと意外性を絡ませた読み物として楽しめた。
サクリファイス (新潮文庫)
近藤史恵サクリファイス についてのレビュー
No.10: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

クドリャフカの順番の感想

古典部シリーズのなかの一冊。古典部というよく訳の分からない部活動のメンバー4人の高校生活と、遭遇する不思議な事件?の謎解きと、それぞれの今向き合っている事柄や、人との関わりなどに対しての自身の心の内とそれぞれの行動を描いている。メンバー4人のキャラクターはまぁ、ある種のパターン化されたものと同類といった印象を受けるが。しかし、性格付けはうまくそれぞれ魅力的だ。
文化祭の各教室からひとつづつモノが無くなる。訳の分からないメモを残して。どうやら、誰かが盗んで持って行くらしい。ホームズ役の動かない男が中々面白く、不思議な能力を発揮して事態の答えを示すあたりは楽しめる。学園ものではあるが、チャラチャラした浮ついた所が無く、真摯な高校生活を送るメンバーの生活と日常のちょっとした謎。そういった描き方が好感が持てる。
クドリャフカの順番 (角川文庫)
米澤穂信クドリャフカの順番 についてのレビュー
No.9:
(6pt)

パズラー 謎と論理のエンターテイメントの感想

この作家はアクロバットな視点と手法でミステリーを書く作家で、ハリイ・ケメルマンの「九マイルは遠すぎる」を意識した「麦酒の家の冒険」など何点か読んだが、これも色とりどりのミステリーが収められた短編集で中々面白かった。些細な手がかりから思いがけない結論を導き出す論証過程を描いたものが、この人の得意とするものではないだろうか。「卵が割れた後で」や「アリバイ・ジ・アンビバレンス」とか「時計じかけの小鳥」などがとりわけ面白かった。あまり長い厚い本を読む時間が無いときには丁度良い本と思う。この人の書く短編もなかなか味がある。
パズラー (創元推理文庫 M に)
No.8: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

巫女の館の密室の感想

密室ものは、あまり堅牢な密室を構築すると作家自身の首を絞めかねない。しかし隙間だらけの密室では読者から首を絞められる。つまりそれだけ最初からハードルの高いジャンルと云える。これは密室にする動機もトリックも残念ながら今一歩。タワンティンスーユ帝国の物語を読者に示しながら、それを側面にして現実の世界での事件の動きを読み進む構成になっているが、実はこのタワンティンスーユの物語が重要な意味を持っていることになる。タワンティンスーユ帝国、つまりインカ帝国のことだが十三世紀始め、アンデス地方に成立した帝国で、首都はクスコ。十五世紀後半には現在のエクアドルからペルー、チリに至る一帯に大統一国家を建設したが、一五三三年スペイン人の征服者ピサロによって滅ぼされた帝国。この帝国の不思議な歴史を舞台に語られる物語が密室殺人の謎を解くキーになっている趣向だが、このへんは大変面白いのだが、やはり肝心の事件の謎を構成する部分が脆弱で犯人も、その意図もいまひとつの感が強い。それと刑事に同伴して館を訪れるのが美少女探偵となっているが、このへんはいまどきの読者に迎合した作者の姿勢が見えてシラケる。美少女探偵って何?西之園 萌絵はそんな風に描かれていないがとても魅力的だ。
この辺もマイナス評価の一因でもある。ともあれインカ帝国の話は面白かったのに残念な結果だ。
やはり、密室物はもうネタ切れでトリックも出尽くしたのか・・・。
巫女の館の密室―美少女代理探偵の事件簿 (光文社文庫)
愛川晶巫女の館の密室 についてのレビュー
No.7:
(6pt)

五番目のコードの感想

ジェレミー・ビールドとヘレン・ローズの関係がとてもうまく描かれていて、ミステリー小説としてまた別段の味わい深い物語になっている。作者はこのへんの人間心理やキャラクターに沿った話し方、言葉使いなど作家として流石と思う描写力である。さて、ミステリーとしてはスコットランドの地方都市で帰宅途中の女性教師が襲われる。この件を発端として連続殺人が起こる。現場には棺のカードが残されており同一犯の犯行と思われる。新聞記者ビールドは容疑者とみなされながらも犯人を追う。謎の絞殺魔の正体とその真意とは・・・。とこういったストーリーだが探偵役のビールドの人間臭いキャラクターが秀逸で読み進むのが楽しい一冊である。
五番目のコード (創元推理文庫)
D・M・ディヴァイン五番目のコード についてのレビュー
No.6: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

あのトリックをアレンジして。

むかし、むかし『夏と冬の奏鳴曲』を読んで気に入ったので、この作家の本を探して読んでみたのがこの『あいにくの雨で』だった。タイトルは叙情的な感じがするが、このタイトルこそが真相を見破るヒントの役目になっている。ミステリーの王道、密室殺人を扱ったものだがトリックは、あのジョン・ディクスン・カーの名作のトリックをアレンジして使っている。しかし、それがこの作品の評価を下げる要素には当たらない。青春ミステリーとして読み応えのある内容だ。作者が示す謎にあなたはどう応えるか?お試しあれ。
あいにくの雨で (集英社文庫)
麻耶雄嵩あいにくの雨で についてのレビュー
No.5: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

神男と名探偵

昭和二十年代。地方の山村。言い伝えと因習の村。そう、これは横溝正史の世界。いまどきこういったスタイルの作品を書く作家は貴重だと思う。北村 薫、以降の日常のちょっとした謎を扱ったミステリーも素敵だが、もう少し濃い味のものが読みたいと思ったらこういった作品がベストではないだろうか。その地方独特の風習。村の出来た歴史と等しく祀られる神の社。村の実力者たち。民話と古来の言い伝えの融合。子供を捉え監禁し助けたければ事件の謎を解けと迫る神男。大雨で孤立した村。村の警官は神男の手下となっている現状で作家の刀城言耶は必死の推理を巡らせる。だが、余りにも手がかりが乏しく逆に誰でなければ犯人になり得ないかと考えた時・・・・。人の心が作り出す怪異、それに獲り憑かれた人。感じる力を持った人。閉ざされた村での連続殺人。二転三転する真相。怪奇ロマンとミステリー。
水魑の如き沈むもの (講談社文庫)
三津田信三水魑の如き沈むもの についてのレビュー