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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧
ニコラス刑事さんのページへレビュー数324件
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世の中には無愛想と評される人がいます。目は口ほどにものを言い、と云うことわざがありますが、現実には胸の中の想いは口に出さなければ中々人には伝わりません。ですからあの時母が一言でも漏らしていればお互い誤解したまま長い年月距離を置いた関係とはならなかったはずです。つまり物語を構築している世界そのものが崩れ去ることになります。そんな危うい世界ではあるのですが、さすが道尾秀介でありましてそういったところは露ほども感じさせず読者を手元に引き寄せて思うがまま手の上で踊らさせます。
そして、これが真相です、と安心させておいて更に次の仕掛けのタネ明かしを見せて悦に入っています。 あんぐりと口をあけて二の句を告げずに居る読者を悪戯坊主のよな顔をしてにニヤニヤと見つめているのです。愛すべき悪戯小僧なのです。 |
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とてもクラシックな探偵小説の体裁を纏った物語である。それはつまり根本的なトリックを成立させるためには現代社会ではありえないからであり、時代背景を昭和の時代で戦後間もない頃にしたのはそのせいである。
とは云え、双子の兄弟、顔の整形、弟からの兄殺害予告、といった懐かしさを覚える古き良きミステリーの装いで幕を開けるストーリーは面白さを予感させる。ただ、残念なのは登場人物のキャラクター造形があっさりしていて平坦な文章と相まって物語りに深みが無いと云う事である。悪く言えば推理クイズの問題編を読んでいるような感じである。だが、本編はなかなか良く出来ていると思う。謎めいた現象も犯人からすれば必然でありそれを指摘する探偵の論理展開も見事であるが、いかんせん探偵役の思考の道筋がさっぱり読者には見えないことに不満が残る。伏線はきっちりしているがそれだけですべてを解き明かすのはちょっと無理だろう。物語の中の探偵と読者は対等ではないと云う事になる。そのへんがどうもネ。しかし、昭和の香りのする探偵小説を味わえるのは悪くない。 |
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初、辻村深月としては選んだのが拙かったか平凡な作品だった。この人のはどれもタイトルが洒落ていて、そういったセンスからも好ましいのだけれど、この本はありきたりの内容に終始しただけで特別この作家らしい
オモシロさは無かった。地方の村とそこに住む少年。多感期特有のオトナへの不信と軽蔑。未来へのあやふやな憧れと意味のない恐れ。揺れ動く気持ちとはうらはらな怠惰な日常。やがて芸能界に身を置くひとりの女が出身の村に帰ってきた。母親は亡くなり親族は誰一人居ないと云うこの村に。フトしたきっかけで知り合うが彼女が帰ってきた理由は村への復讐のためと知る。そんなストーリーだけど、二人の関係と村の有力者たちが行ってきたひとつの便宜に対する少年の子供らしい怒りが波紋を広げていく展開になる話である。しかし、こういった内容の作品は他にも色々あり、狭い村社会に閉塞感を持つ少年の心の葛藤などが描かれたようなものはありきたりとしか云えない。ミステリー要素もさほど無くこの作家らしい色合いも無いとなると平凡な作品と思わざるを得ない。予備知識なしでタイトルで選んだがこちらの選択ミスだったのだろう。 |
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夜ゴミ出しに行ったまま消えた息子。必死で探す母親。警察に届、学校の担任にも相談しクラスメイトにもあたるが行方不明のまま時間が過ぎる。この辺は母親の不安な気持ちや焦燥感がこちらにも伝わってくるが残念ながらサスペンス感はあまりない。別れた夫にも相談して探すうちに少しづつ二組の家庭のもつれた人間関係が見えてくる。浮気相手の教習所の教官が駅のホームから転落し死亡する事故がおきたり、元夫の娘が消えた息子と会っていた事実を掴んだり、その娘が転落事故の男とホームで口論していた事実などを知ることになる。元夫は精神科医で再婚相手は、ある事件の被害者であり二度に渡って被害者になるなど異常な体験をした女。暗く焦燥感ばかりが募る展開をみせる物語だが、ホラーサスペンス大賞の作品としては、その括りは違和感がある。特異な愛と歪んだ愛の物語と感じた。ただ、文章は引きこむ力があり最後まで中だるみなく読み終えた。
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始めに記しておかなければいけないことは、好き嫌いの判れる内容であり作家であろうと云う事。有り体に言えば横溝正史プラス京極夏彦の世界なのだけれど、自分とすればこういった世界を舞台というか背景にした探偵小説は好きなので楽しみながら読み終えた。憑き物落としとして神々櫛村に根ざした谺呀治家の次女紗霧の周辺で起こる怪異と連続殺人。その犯人を指摘するのが小説家で地方の民話などを取材のため全国を放浪する刀城言耶と云う物語。神隠しに遭ったように消える子供や、得体の知れない何かに尾けられる少女。生霊を見たという村人達。禍々しい不可思議な出来事がそれ自体が起こりうると信じられている憑き物筋の村。憑き物とか憑き物落としといった伝承についての薀蓄なども村の医者や和尚などから語られ、プチ京極夏彦なところもオモシロイが、なんといっても色々な怪異を描写する作者の筆の巧みさと物語の世界観を捉えた文体の良さがありこの物語をミステリアスな世界に仕立て上げている。殺人のトリックとか動機とかそういった面はそう重視せず不可思議な物語を楽しむべきと思う。ホラーとミステリーの融合といった文句もあまり気にしないほうが楽しめる。すべて科学的に白黒付けられたら世の中つまらない。曖昧な謎の部分が世の中には有っても良いと思う。そういった意味からも面白い題材を選びミステリアスな物語を書いているこの作家の創作の姿勢は私自身は好みである。
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「館」シリーズ第9作目にあたる本作品だが、この「奇面館の殺人」もどこをどうとっても「推理小説」である。ひとつの事実が真実に至る道しるべであると同時に、ミスリードの役目をも併せ持つ非常に手の込んだ内容で、「吹雪の山荘」で起きた殺人事件の犯人を指摘する鹿谷門実の推理には圧倒される。いろいろなファクターがすべて合理的に示される彼の推理。ひとつひとつの事柄が全部意味のある仕掛けであり、真実の絵を完成させるピースであるわけで全く持って感心する以外に無い。ただ一点、読後の印象は少し軽いと云う事。それはオドロオドロした連続殺人ではない所為なのだろうか。ともあれ質を落とすことなく「館」シリーズをここまで書き続けられる綾辻行人氏に拍手を送りたい。読了2013年2月17日。
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まず始めに、評価を高くしたのは好きな作家だからです。(笑)。
あらすじはこのページに載っていますので参照して下さい。 さて、閉鎖空間で起きた殺人。純粋なフーダニットの世界です。読み進むのが楽しい。残ったメンバーが意見を述べ合い推理を繰り広げる。誰が・・・。何故?そして謎の組織。テロリストグループの本当の目的が明らかになるラスト。一粒で二度美味しい作者のサービス精神が遺憾なく発揮された良質のミステリーでした。 食事係の男が実は本部の人間であり、彼の示唆により出来事を整理して考えを進めていくと見えてくるもの・・・。一度目の殺人と、二度目の殺人の意味するところは・・・。それはアリかそうでないか、そんなことは瑣末なことで単純にミステリー小説を楽しむべきです。3時間ちょっとで読み終えました。 楽しいひと時でした。ラストの彼女の予定とは?ちょっとブラックで怖いですネ。 |
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「硝子のハンマー」の二人、防犯コンサルタントと称する榎本 径と天然ボケの弁護士青砥純子が登場する、密室殺人を題材にした短・中篇四編が収められた本である。
「佇む男」は死体の口に蛆がいたことなどからトリックを暴いていく過程が描かれている。 「鍵のかかった部屋」は自殺をする理由がないという肉親の訴えから背景を調べ動機を確認して、その後思考を重ねトリックを見破るまでを描いている。 「歪んだ箱」は欠陥住宅を施工した業者の社長を殺害した犯人と現場で密室の謎をやり取りしながら犯行方法を暴いていく内容になっている。 それぞれ背景や舞台を工夫して密室トリックを構築しているが、読んでいて退屈になってきた。 何故だろう・・・。すごく手の込んだトリックを考えて犯行を成し遂げた犯人に対して、榎本の思考のプロセスがどうも良く分からない、その為じゃあ無いのだろうか。まるで始めから答えを知っていたような解答の出し方をするそんな違和感がある。 もっと物語が読みたい。綾辻行人や有栖川有栖を読んでいるとき北村 薫の「空飛ぶ馬」は新鮮だつた。 そんな「新鮮」にもっと触れたい。 四編目の「密室劇場」は読む気が起きず本を閉じた。 |
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怖いです。あらゆる意味で怖いです。しかし、最後のページを読み終えて涙がジワッとなってこぼれ落ちそうになりました。美紗子と父の旅に出る別れのシーンにはそれまでの様々な事柄がすべて消え去るような、そんな気になる良いラストでした。まるでホラー小説のような内容と展開にページをめくる手が止まりませんでしたが、母の意外な正体というオチも相まってきわどい話しから一転して家族の愛を綴る内容に変化する魔法のような物語とは・・・。主婦、僧侶、会社経営から2004年、50代になってから作家デビューとは沼田まほかる氏とはどの様な人物なのか・・・。しかし、この「ユリゴコロ」にはやられた。まったく脱帽です。私自身はこういった作品にはガツンとくるんです。好みの問題でしょうけど・・・。
偶然見つけた謎めいた手記。その恐ろしい内容。異常な心と行ない。誰が書いたものなのか・・・。母かそれとも父か・・・。亮介の心は乱れ疑心暗鬼に陥り記憶の一部とも合致する部分があり手記を読む手が止まらなくなる・・・。未読の方にはここまでの前知識にとどめて読んでいただきたい。おススメです。 |
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評判の良い「退出ゲーム」の続編にあたる四つの短編からなるこの本は、いわゆる青春ミステリーなのだけれど、このジャンルもいろんな書き手がいていろんな作品があるし、日常の謎を扱ったものも数多くある。しかし結局読み手との感性の相違が作品を選ぶことになる。自分としてはこういった作品は◎で米沢穂信の「古典部シリーズ」と同じぐらい気に入った内容の本である。話の作り方が素晴らしく物語の世界がとても素敵だ。過去の記憶のなかにある話から当時の隠された真実を明らかにする、ありきたりのある意味手垢のついた手法であり話だがプロセスが面白い。それを担う役が初恋ソムリエとはとてもユニークで面白い発想だと思う。ハルタとチカのコンビや他の仲間たちみんながしっかり青春しているなと清々しい気分になれる作品である。ひと月に三度も席替えが行われた謎。市内のミニFM局から流れる番組と地学研究会が絡む謎。音楽室に忍び込む謎の人物。初恋の記憶に隠された犯罪など、軽いタッチだが中味は本格派といったところで楽しめる一冊でした。
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児童養護施設・七海学園に勤める北沢春菜を主人公にした物語。私自身は不勉強で行政面でのこういった機関の縦や横の繫がりとかまるで解からないのだけれど、登場人物のなかに児童福祉司で児童相談所に務める海王さんと云う人物がいて、そのずば抜けた洞察力で子供たちの抱える様々な謎や不思議を話すと見過ごしていた些細な手がかりから隠された真実を解き明かしてくれるという探偵役の設定になっている。前作の「七つの海を照らす星」は未読だけれど多分この海王さんと春菜の探偵物語なんだろう。事情のある子供たちが暮らす養護施設を舞台にする、古書店でも駅前の便利屋でもないその作家独自の世界を構築する意味ではとても良い視点といえる。だが、子供たちを描いていけば当然内容は暗く重くなるわけでそういった雰囲気を払拭するキャラクターも用意してあるが、真正面から子供の抱える事情に向き合った内容とかストーリーになっているので胡坐をかいて読んでいたのが気付けば正座して読んでいたといった気分になるほどだ。春の章・夏の章・初秋の章・晩秋の章と繫がっていくが文化祭の日に起きた校舎屋上からの転落事件が最後の晩秋の章で明らかになる構成だ。それぞれの章に物語があり消えた人物や母親の隠された意図、出口に固まっていた子供たちの前に姿を現さずスタジアムのグランドから消えたサッカーチームのメンバー10人などミステリアスな出来事を絡めて最後の章に至る。しかし、最後の章のドンデン返しは予想していなかったので正直驚いた。全体を見渡しても良く出来たミステリーと云える。テーマはハナミズキとアルバトロス。初めて読んだ作家だが読み始めは会話の部分で誰が誰に話しているのかちょっと解かりずらく感じて自分とは合わない作家なのかと思いながら読み進めたが、読み終えてみるととても魅力的な資質を持った作家であると認識した。この本は未読のひとにはぜひおススメしたい。
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【ネタバレかも!?】
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う~ん、微妙だなぁ。ラストのドンデン返しの衝撃度はそれ程でもないし、けっこう読める範囲内とも云えるけど・・・。結末が読めるからつまらない本とする気はないものの、この内容ならばちょっと長すぎると云う印象だなぁ。構成と文章は岡島二人のティストそのままで、非常に読みやすい。奇形のストーカー男の恋と独白、そして殺人事件の様子を事情聴取に答える形で読み進めていく展開だが、ある意味アンフェアな部分がある。そこを隠しておいてどうですラストのドンデン返しには驚いたでしょう?と云われても納得できない。印象から受ける心理の逆をつくトリックと云うかプロットは良いけれど、もう少し捻りがあっても良かったんじゃあないだろうか。少しストレート過ぎると思う。
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多分、読んでおくべきミステリーと云ったカテゴリーのなかに収まっているだろう「イニシェーション・ラブ」と似たような趣向の第二弾という内容で知られている本だが、先の本を読んでいれば仕掛けの内容が読めるので生半可なものでは難しいだろうと想像していた。春香の行動は半分は理解できるがもう半分はちょっと理解できない。時の総理の名前とかヒット曲の具体名が出てくるとオヤと思わせるが最後を読み終えると成る程と思う。しかし結局最後の二行が無ければ普通の恋愛小説の体裁であり、仕掛けの多様さから考えれば前作のほうが勝っていると思われる。まぁ読み易い文章でサクサク読み進めるが、恋愛関係にある男女の心の機敏のようなところは上手く書かれていると感じる程度で、それほどのインパクトもないのでこれといった感想も書けない。
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【ネタバレかも!?】
(3件の連絡あり)[?]
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文章が際立って美しい。形容する言葉が美しく深い。老弁護士が回顧する少年時代の頃とひとつの事件。チャタム校の校長を父に持ち生まれ育った少年ヘンリー。 あの八月の午後バスから降り立ったミス・チャニング
やがて悲劇の起こることとなる美しい田園の村。回顧の中から時折関係者の当事の言葉、裁判の様子などを織り交ぜながら物語は語られる。最後まで伏せられた真相。移り行く季節のなかで15才の少年ヘンリー自身の心の内や未来への思い。 黒池で起きる悲惨な事故。あの日黒池でほんとうは何があったのか。 ナイフ・ロープ・瓶入りの砒素。 ゆるやかな時間の流れのなかで、ある季節のおぼろげな記憶を思い起こす老弁護士ヘンリー。 トマス・H・クック 素敵な作家だ。この本に出合えて良かった。 読み終えてから多島斗志之の「黒百合」を思い出した。共通項が何点かあるからだ。 それは幼い頃の記憶、池、秘密、そして最後のページの衝撃。 |
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たまには冴えた頭で作者と知恵比べでも楽しもうか、という趣旨の本である。後半のところに読者への挑戦と宣戦布告するページがあり、これはもう本格推理小説以外の何者でもない。東大文学部卒の作者の頭脳に勝てるか否か。登場人物たちのミステリー談義や密室談義など楽しい趣向を織り交ぜながら、ひとつのビルそのものが外部から遮断され密室と化したなかで起きる殺人事件。さて、犯人は? これはもう論理の積み重ねで特定していくしかない。ハウダニットではない純粋にフーダニットを追求する内容である。手がかりはすべて提示した。あとは貴方の探偵としての能力しだいというフェアな書き方で読者に挑戦している。1997年 鮎川哲也賞の最終候補に残り、島田荘司の高い評価を得た「眠れない夜のために」を改稿改題した作品だが「真っ暗な夜明け」でデビューする以前の作品としては良く出来ていると思う。土曜の夜に夜更かしを楽しみながら読む本としてたまにはこんな本も賞味しては如何でしょう。
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「このミステリーがすごい!」第9回の大賞作品。 こういったバックボーンがあると読む人も大勢居ると思う。私自身もそのうちの一人だ。さて、読後の感想は面白かったか否か?単純な比較で前年の大賞作の「さよならドビュッシー」と比べると、100%私個人の好みと感想だが「さよならドビュッシー」の方がミステリーとして面白かったと思う。この「完全なる首長竜の日」は作者としてのセンスの良さは解かる。読み易い文章で読者を引き込む筆力は並ではないと感じる。植物人間のような意識のない人と会話が出来るインターフェースが開発され、自殺を図った弟と会話をしてその真相というか自殺の理由を探り出そうとする姉。プロローグでの島の出来事との関連とか、あやふやで謎めいた昔の話などがどう絡んでくるのかと思い読み進む。だが、「胡蝶の夢」の話しを主人公から語られるのはどんなものか。そのあたりから興味が半減する。何故それを口にするのか?ストーリーの核心を突く言葉は要らなかった。このためにミステリー要素が消えてしまった。犯人探しのミステリーでは無い以上もっと読者を謎めいた世界に彷徨い続けさせて欲しかった。日常や会話など筆力のある文章で期待させる人と思うが、この作品では今一歩と云った印象だった。
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映画で云えばクライム・アクションと云ったところか。悲惨な棄民の様子が説得力ある描写で語られる、第一章のアマゾンでの暮らしと放浪の様子はページを捲る手が止まらない。「星の流れに」と云う歌があるが、まさに国家によって人生を狂わされた男たち。捨て犬のような生活から身を起こし、勝手の移民仲間の息子たちと日本政府に復讐を企てるストーリー。しかし、あくまでも政府と外務省に過去の過ちを認めさせる言質を取る事が目的であり、誰も傷つけず殺しもしない。綿密な作戦の実行と警察、マスコミとの攻防やニュース・キャスターとの絡みなどが波乱を呼ぶ展開で面白い。それぞれのキャラクターも魅力的に描かれていて入り込みやすい。首都高の疾走シーンなど中々読み応えがある。エピローグも物語の最後を締めくくるにはとても良いと思う。力のこもった作品で初めて読んだ作家だが、このサイトのレビューが読む後押しをしてくれた。その批評は的確だったと思う。読んで損のない一冊だ。
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イリュージョンとは単なる物理的トリックではない。イリュージョニストは観客心理を学び観客を騙す為の
トリックを考案する。観客の目だけでなく心も欺こうとする。演技の目的は25セント硬貨を消して観客を笑わせる事ではない。現実とは正反対の物を見せ、信じさせ、それが現実であることを欠片も疑わせないこと。絶対に忘れてはいけないことは誤導・・・ミスディレクションがイリュージョンの核となすものである事。 捜査協力のマジシャン修行中のカーラの言葉。相手は変相、早変わり、脱出と変幻自在の魔術師。リンカーン・ライムのチームはこの難敵にどう立ち向かうのか。興味は深々。この作ではライムは徹底した現場からの微細物証拠採集を科学的分析で解明して犯人を特定していく。解明された事実をリストにして思考を重ねる。天才的な閃きによる推理ではない。いわば地道な捜査だ。だが、相手はイリュージョンの達人。ミスディレクションにより翻弄される捜査陣。犯人の本当の狙いは? ストーリーにはとても興味を惹かれるが読み終えてしばし黙考。プロローグを派手にして読者を惹きつける狙いは解かるがあれこれと盛り込みすぎなのもどんなものか。かえって捜査陣の眼をひきつける結果となるだろう。結局本当の狙いとは何か、そこの攻防が描かれただけの話しとなっている。その割にはあれこれ横道に逸れる印象で魔術師とライムの頭脳戦を期待したがそれすらも薄い感じ。 エフェクトとメソッド。プロットそのものが歪んでいるようなそんな印象の物語。 長編なのでひと月ほどかかって読み終えたが、ちょっと残念な感想となった。ヒューマンなサイドストーリーもイマイチの感じだ。 |
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多彩な登場人物。誰が死に誰が生き残るのか先の読めない展開。重厚なそしてリアルに機知に富み視点の確かさを示す美しい文章。一人のモンスターと云える恐ろしい男。その陰の男を追い詰めていく特命チームのわずか六人の刑事。銃撃戦の描写や各人の思惑をリアルに生きた言葉で語り展開していくストーリー。面白かった。純粋に面白かった。こんな確かな文章で語られる物語は最近では久しぶりだった。それぞれの視点で語られるストーリーと動きがリンクしていきクライマックスに至る。男も女もそれぞれの人生を生きた。最後の静かな余韻のような出来事にも心惹かれる。汚れた英雄と執念の男。壮大なロマンさえ感じる物語だった。
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