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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧
ニコラス刑事さんのページへレビュー数324件
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トマス・H・クックの「緋色の記憶」が好みの人にはこの本もお気に入りとなるでしょう。語り手が四十年前のひと夏の記憶を回想する形で書かれたミステリです。丹念に生活の様子や土地の風土と当事の社会情勢
などが描かれ、少年フランクの心の内や弟と過ごす田舎町の毎日が読み手の心に沁み込んで来ます。ミステリといっても、ひとつの家族の物語となっています。父と母のちょっとした感情のすれ違い。吃音で友達のいない弟。芸術家肌の母に似た 姉。ひと夏に三人の人の死に13歳の少年フランクは遭遇し、これまで知らなかった大人の世界を垣間見ることになります。他のレビューにあるとうりもうひとつの「スタンドバイ・ミー」として見る事も出来る上質な物語です。 秀逸なのはエピローグだと思います。過ぎ去ったひと夏、その時間の経過と共に去っていった人たちの様子を語りながら、フランクと弟と父が会うシーンがとても良い余韻となって物語を締めくくっています。 最後の明らかになる真実の様子も無理が無く、地方の小さな町の人間模様がきめ細かな筆致で描かれていてどの人物も確かにそこに生きていた、そう実感できるヒューマンな物語でもあります。 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
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単行本で上・下巻に分かれているボリュームだけれど、途中退屈することなく読み終えた。それは作者の筆の確かさ、上手さ所以の賜物だろう。映画「パルプ・フィクション」のように時系列をシャッフルした書き方と
あり得たであろう現実を虚構として主人公(もと直木賞を取った作家)が小説風に書き綴った内容が交互に読者に示されるからだ。ワザとシャッフルしているので通して読めばそう意外でも何でもない出来事もミステリアスな 事のように思えてくる。読み進むに従ってあった事実と主人公が書くあり得たであろう事実(虚構)が交差する面白さ。そこがこの本の狙いでありウリになっている。タイトルの意味もそこにある。会話文が長いというかきめ細かく綴っているのでページ数が増えていると云えるが、その部分がこの作家の面白さを表わすところでもあるように思う。吹き出したり、ポルノ風に興奮したりいろいろな面を見せながら物語の進行を追っていく読ませ方は上手い。 結局二月二十八日には何があったのか、消えた人物は何処に行ったのか、偽札はどうしたのか、いろいろな夢を見せてくれる物語だった。初めて読んだ作家だけれど文章の上手さが際立っている印象だ。 |
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相変わらずのクワコーの大学准教授生活ぶりだ。文芸部の面々も新たなメンバーを加えてさらに異質な部活となっている。日本一の下流大学たらちね国際大学を舞台にしたクワコーのダメ生活ぶりと遭遇する不思議な事件が抱腹絶倒のユーモアを交えて描かれている。著者は現在近畿大学文芸学部教授で2012から芥川賞の選考委員を務めている。その確かな文章力と的確な語彙を使った美しい日本語とも言える物語の中で、文芸部の連中や他の大学生たちが話す若者言葉がまったくそのままに書かれていてそのギャップからも爆笑を誘うことになっている。よくもまあ観察しているなと思うほどにいまどきの若者が話す言葉が次々と多少の誇張を持って描かれ吹き出してしまう。そしてその文芸部の連中に振り回されるクワコーのしみったれた大学准教授とは思えない哀れな日常生活が笑いのベースになっている。謎を解く探偵役のジンジンこと神野仁美も相変わらずのホームレス生活で、クワコーや彼らの食事風景やらが食リポのように面白可笑しく描かれているところも楽しい。
コテコテの本格ミステリにちょっと疲れたらこの爆笑ミステリにコリをほぐされるのも良いと思う。効能は絶大とおススメできる。 |
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さて、この死体どうする?ミステリ作家と編集者の二人が考えた解決策は・・・。出だしから伏線いっぱいの書きようで、ミステリファンと真っ向勝負といった内容のストーリー。アイテムを散りばめ密室殺人の解決が各人から語られるなんて凄すぎる。呼ばれた探偵役も推理を重ねて犯人を指摘する。どれもがなるほどと頷く名推理であり読んでいる読者は密室殺人の講義を受けているようなものだ。ポーの見立て、ドイルの見立て、数々のアイテムとギミック。これはミステリ入門書であり
少なくとも中級者以上の人向けのミステリと云えます。しかし、すべては最後の仕掛けのための工作です。そして本当のラストはブラックジョークのようでホラーなオチが用意されているといった手の込みようです。 変化球なしの直球勝負の著者と対決することをワクワクした気分でバッターボックスに入れる。そんな気になる一冊です。 |
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サラリと読めます。でもだからといって薄っぺらい内容のどうってことないミステリとは思いません。まぁ多分にそれは氏のファンである部分が大きく作用している所為と思いますが。しかし、ガチガチの本格的なハードボイルドスタイルの本を読むよりはこの方が楽しめる、自分としてはそのように感じました。相変わらず登場するキャラクターの魅力と会話の楽しさ、そして嫌味の無い人間的な身上やモノへの価値観の公平さ。金持ちが集まるパーティには一着だけ持っている上等なスーツを着ていく、趣味の問題ではないようするに、そういった防具なのだ。こういった言葉がとても気持ち良い。全てがこういった調子で語られる氏の価値観がとても好きだ。先に二作目の暗闇・キッス・それだけでを読んだので主人公の頸城悦夫という探偵の過去や人となりも把握していたので還って読み易かった。周りの取り巻く人物たちとの距離や温度などもここからスタートしているので違う意味で楽しめた。ラストはチョッピリセンチメンタルだけれど探偵にはこれが丁度良いと思う。
二作書かれた、次も期待して良いのだろう。楽しみにしている。 |
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横溝正史+初期の島田荘司といった味付けのミステリ。機会的なトリックって良く考えるものだと感心するが名探偵が解説するところはやや苦しいといった印象。この人の特徴とも云える一件落着と思ってもさらに意外な事実が暴露される
二度びっくりの構図は今作も健在。神話的な言い伝えや土地に伝わる不思議な現象、お約束の双子の姉妹など盛りだくさんの内容で読者を煙に撒く作者のサービス精神の旺盛さには敬意を表する。惜しむらくは名探偵の創造がイマイチなところ。 もう少し魅力のある人物を作り上げて欲しいと思う。ちょっと狙いすぎて破天荒なキャラクターを登場させる作品があるけれど、そっちの方向には行かずにもう少し個性的で魅力的な人物を創造してもらいたいと思う。あまり自分で名探偵と云うような人物設定はどうかなと思う。手を変え品を変え物事を複雑にして読者を引っ張り最後に探偵が鮮やかな推理を披露して一件落着。安心して読める王道のミステリ展開であるこの人の作品は面白いと思うので次も読んでみようと思う。 |
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消息を絶った一人の少女。通報を受け捜査を開始する地元警察のフォード署長は勤続三十三年の高卒。そして部下のキャメロンは大卒で十三年勤続の私服刑事。この二人の辛らつな言葉のやり取りと信頼で結ばれた様子を見せながら
捜査が始る。描かれているのは警察の地道な捜査の様子だけ。登場人物のサイドストーリーとかそういったものは一切無い。しかしノンフィクション的な要素を取り入れたフィクションという手法がとても面白い。読んでいる途中で退屈とか そういったことは有り得ない。こつこつと聞き込みをして100の情報を集めても何も得られなければまた歩き回り話を聞く。そういったフォードたちの捜査の様子がじっくり描かれているが、読んでいる方も少女が消えた理由が分からないので 気持ちはフォードたちと同じだ。証言を集めれば集めるほど、少女の人物像が浮き彫りになっていくほどフォードたちには少女が何故消えたか分からない。事故か事件かそれすらも分からない。そして物語が半分ほど進んだところで川から死体が見つかる。捜査を進める上で重要なアイテムの使い方がとても上手いと思う。そしてその秘められた謎を解き明かすヒントが少女の人間性であり性格でもあるという点が面白く、そこに着目するフォードの推理力もまた優れている。 地道な捜査の過程だけを描いた内容だけれどミステリとしても読み応えがあり、死体が見つかった後の後半部分は一気に読み終えた。ミステリ史に残る一冊というのも納得の面白さだった。 |
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久しぶりの氏の作品。氏の作品はどれもそうだけれどお話自体が楽しめる。ミステリ度がどうのトリックがどうのという話ではない。それが氏の作品に対する自分の認識。軽妙で洒落た文章、多少ハードボイルドチックで楽しい会話。
楽しい夢を見させてくれる数少ない作家だ。「ゾラ・一撃・さようなら」と同じ探偵・頸城悦夫が主人公の物語。彼を取り巻く連中も面白い人物ばかりで、その他の作品も全部がそうだけれどキャラクターの造形が上手い。 読んでいて楽しいのは一番に登場人物たちの面白さだ。この主人公の人物像もフワフワと生きているような感じだが、古い記憶の底に沈殿しているものは若さが作った苦々しいものでちょっと影がある人物といった設定。ハードボイルド・チックにしている関係上このような人物が好ましいとしても、とりまく女性たちとの距離が絶妙だ。それは頸城悦夫という探偵のキャラクターの良さが上手く機能し、またそのように書く氏の筆の確かさ故だろう。 二作書かれた。この後も探偵頸城悦夫の物語を期待してよいのだろうか。そうだとしたらとても楽しみだ。 |
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本音がズバズバと書かれ人間の胸の内、心の中の本当の思いなど赤裸々に語る主人公のモノローグなど辛口の人間批評に溢れたお話である。これを読んでどう受け止めるのか、人それぞれだろう。
著者のメッセージはどこにあるのか理解に苦しむ人もいるかも知れない。しょせん皮一枚。だがそれが大きく作用する現実もある。きれいごとではすまない現実がある。心の美しさは初対面では解からない。 指標となるのは外見だろう。こざっぱりした服装で場にあった物腰で穏やかに話す人。こんな人は無条件で好ましいと受け止める。そんな人間の感情を左右する皮一枚を徹底的に突き詰めた本音の女の言葉で綴られた 物語である。シビアでシニカルな中でラストはありきたりの恋愛ドラマのような姿を見せて幕が下りるのも面白い。是か非か本音満載の生き方のバイブルといえなくも無い。形を変えたイソップ童話だ。 自分が女だったら、躊躇せず和子の生き方を推す。幸せか不幸かそれは二次的なものだ。どうせ人はみな死に塵となる。どう生きたか、だ。 |
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著者の工学部建築学科卒というフィールドを生かしたミステリだ。名古屋が舞台であるビルの建築中で起きる殺人事件だが、死体消失と目撃した人影も密室内で消えるというトリックで読者を引っ張る展開だ。
著者の持つ学識を充分に使ったトリックで確かにこれまで例の無いトリックだろう。つまり死体消失についてだが。だが、全体を見渡せばそのストーリーにはどうも無理を感じてしまう。意図も動機も理解できない。 話の流れが偏っている。トリックありきのストーリーだからだろう。人間を描くよりも本格としてトリック重視で書くといっているが、それにしても人の心の内が作者の都合で決まるのは勝手すぎると思う。 しかし、セメントもコンクリートもモルタルも良く解かっていなかった自分にしてみればこのプチ知識は勉強になった。ビル建設についての工法、工程などこれまで知らなかったことがいろいろと知れて面白かったので そういった面からは読んで良かったといえる。しかし、自分の得意分野から外れたところでどれだけ書けるかが作家としての資質を問われる事になるわけで、その意味ではこの後の作品が真価を問われることになるので 鮎川哲也賞の名に恥じない作品を出して欲しい。 |
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最後にそうだったのか、と解かるとうーんと唸るストーリー構成。この内容で最後のオチをそのような形で用意するのは物語の性格上とても良いと思う。でなければ一般的に云えばただ暗い内容の話だけで終わってしまう危険がある。
文体も自分のものとしての個性が出ていて好印象。週刊誌記者の生き方というかブレない姿勢やポリシーもしっかり描かれ、それが物語の芯をなす訳でこの記者の存在がひとつの出来事を誰も知らない世間の片隅に追いやることなく 意味のあるひとつのストーリーとして出来上がるわけだ。死を誘う謎の人物と、生と死の間で揺れ動く一人の女性の物語が徐々に盛り上がっていく過程も上手く描かれていてドラマチックな内容が一気読みを誘う。 ラストのドンデン返し的な騙しにはフーンと素直に感心した。この様な手もあるんだなと云うのが正直な感想。この人の他の作品にも興味が出たのでぜひ読んでみたい。 |
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久しぶりの東野圭吾の本。本格ミステリを好んで読んでいる者にとっては、やはり彼の本は通俗小説のように映る。殺人事件は一件。殺された老人の孫が知り合った男と二人して老人の周囲の不可解さを追求していくストーリー。
しかし、いろんな人物が登場していろんな角度からひとつひとつの謎を解いていくと黄色いアサガオに繋がっていくようになっている。この辺の構成というか物語の作り方はベテランらしい上手さで読者を魅了する。 謎の中心が自然界に存在しない黄色いアサガオという設定が良い。だから自分も興味を惹かれて読んでみたわけで。ファンには申し訳ないが他の作品には興味が湧かない。 でも、この作品はベテランらしい筆致で安心して読めるがどうもテレビの2時間ドラマのような印象も持ってしまう。それは謎解き以外の部分の人間関係にいろいろと盛り込む所為だろう。 こういったスタイルを好む人が大多数だろうけれど、「読み易い文章と人間ドラマの面白さプラス謎解き」のミステリは自分は今は距離を置きたい。 ただ、この本は面白かった。それは黄色いアサガオの着想の良さに尽きるけれど・・・。 |
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ミステリ専門の流行作家ではなく、東大の助教授時代に書かれた作品で専門は英米文学という学者さんが書かれたミステリです。でも、こういった切り口のミステリは新鮮でとても面白かったといえます。
見立て殺人が続きます。その見立てこそがポオの作品そのものです。ボルティモア市警察警部補、ナゲット・マクドナルド(この名前が可笑しい、登場人物の名前はすべてこんな調子で笑える)の父と何十年もの親交があった 外交官の更科氏。三年ぶりに会う彼を迎えにボルティモア・ワシントン空港に出向いた彼の前に現れたのは更科氏と娘の更科丹希。彼女がこの事件を解決する名探偵で通称ニッキだ。こまかなその場面の様子をキチンと把握していけば 読んでいる人も犯人に辿り着けるように書かれた正統派のミステリで、第4章『ユリイカ(われ発見せり)』を読む前にニッキよりも先に犯人を指摘できれば貴方は名探偵です。 ポオへのオマージュと『アッシャー家の崩壊』を新たな考察で見せるこの一冊はミステリファンには堪らない贈り物です。 著作は少ないですが、既存の作家では無い人が書くミステリには意外と名作と呼べる物が数多くあるものです。坂口安吾しかり、筒井康隆しかりです。 『アッシャー家の崩壊』、『ベレニス』、『黒猫』とポオの作品に見立てた連続殺人、その真相はひとつひとつの手がかりを組み合わせていく正統派の探偵に相応しい事件です。 |
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ミステリとしての謎解きの楽しさはあまり感じられない。警察小説とキャプションがついているのは多分正解だろう。国の違いは文化の違いで警察官としての規範もかなり職業的で、日本の感覚からすると
だいぶズレているようだけれど、他の国の実情が知れるのはこういった機会でなければ余り無いので面白く感じる。真相はどこにあるのか、読者を引っ張っていくエピソードの数々は複雑に絡み合っているようで 捜査に当たる刑事コンビも中々先に進めない。むしろ脇役的な感じで登場したアメリーという少女が探り出した真実の欠片が読者に示されて刑事コンビがその後を追うという展開で読者の気を揉ませる書き方をしている。 村人等彼の周りにいる人間はすべて敵のような状況のなかで彼女が調べ始める11年前の事件の話は並行して読者に知らされるが、逮捕され刑に服し事件は解決した形になっていることに警察は積極的には動かないのは 何処も同じで、彼女が邪魔になった人間の意志で彼女が失踪してから本格的に刑事コンビが動き出すまでが少し長い。物語り世界の周りの淵を色々な登場人物のエピソードで見せていくやり方は有効だけれど、これもまた 念が入りすぎていてページ数が多いのはこのためだ。複雑に絡み合った糸が解れていくと悪意を持った人間が浮かび上がってくるわけだが、そこを単純にしていないところがこの作者の良いところなのかも知れない。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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サム・ホーソーンものの初期の作品12編を集めたものにボーナストラックとして不可能犯罪の名作「長い墜落」が収録された一冊だ。1974年の作品から連続して不可能犯罪の数々を解決したサム・ホーソーン医師自身が、
誰かと酒を飲みながら当事を回想し事件の顛末を語る、そんな設定になっているので一話完結のストーリーではあるが連作ミステリとなっている。全篇不可能犯罪を扱っていて、もちろん現代の科学をもってすれば 成立しない話もあるけれどそんな野暮は言いっこなしで純粋にパズルとしてのミステリを味わうべきである。密室や消失がほとんどで手を変え品を変えていろいろなバリエーションを見せてくれる。プロットを思いついたら すぐに書きたいタイプのようで短編が多く長編は少ない作家だと解説にあるけれどそうなのかも知れない。少なくとも「どんどん橋落ちた」などよりはよほど楽しめる。例えば新幹線などの車中で読めば退屈など吹き飛んでしまうだろう。 個人的には「ロブスター小屋の謎」、「十六号独房の謎」、「農産物祭りの謎」、「水車小屋の謎」と好きだけれど、一番は特別に収録された「長い墜落」が面白かった。類似したものを読んだ記憶があるけれど、これのアレンジだったのだろう。 部屋の窓ガラスが割られ人が飛び降りた、しかし、下には死体が無い。交通整理していた警官がいて何事も無いと証言する。何処にも部屋に入った人物はいない。でも三時間四十五分後にはビルの下に死体が現れた。 このサム・ホーソーンものではない一編が一番良かったというのも皮肉だけれど、しかし、どの物語もアイデアの良さは光っているので楽しめる一冊というのは間違いない。 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
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敬愛する作家の昭和62年の作品。ミステリ作家であると同時にプロ級のマジックの腕を持っていた。有名な話で本名の厚川昌男のアナグラムで泡坂妻夫のペンネームになっている。こうした稚気とも言えるユーモア精神溢れる人物で
読者へのサービスぶりはどの作品を読んでも実感できる。この本も奇術のネタ的なトリックが使われている。メンタルマジックで使われる読唇術がそれだ。通常のミステリとして楽しんだ後さらに読者を驚かす仕掛けが この本にはある。そう、本の内容そのものの読唇術のネタが仕込まれているのだ。ただし本にも書かれているように読者の幸せのために未読の人に「しあわせの書」の秘密を明かさないで下さい。それがこの本を楽しむためのルールです。 ミステリとしても楽しめるストーリーで伏線の回収の鮮やかさに目を見張ること請け合いです。氏の実力をこの本でお試しあれ。 |
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旧友に頼まれコインロッカーから取り出したスーツケースには裸の少年が入っていた。ニーナ・ボーウ、看護師でこの物語の主人公。病院で意識を取戻したシギータ。脳震盪と左前腕の骨折。ほとんど酒を飲まないのに意識不明になるほど
飲んで階段から落ちたと説明されるが血中アルコール濃度の高さがその話を裏付けていた。そして息子ミカエルが居ないことに気づく。この二人の行動がストーリーを広がらせる二つの軸となって物語りは進む。スーツケースを開けたら子供が入っていた。普通この展開なら何故 警察に届けない?不自然だろうとツッコミが入るところだ。しかし、キチンとニーナの行動原理が説明されているので違和感はない。もちろん国による事情などの違いなどもそのひとつの要因として書かれている。 そして旧友の死体発見。コインロッカー付近で見た大男。ニーナの方を見て睨みつけていた正体不明の大男。子供は何故スーツケースに?子供を追うシギータ、子供を連れて逃げるニーナ。劇的に急展開が続くような書き方ではないけれど じっくり書き込まれたストーリーは眼が離せない。真相はさほど意外性などは薄いだろうけれど、登場人物たちの心理的な内面もセレブといえる男と底辺に生きる男の思惑などが絡み合うところがクライマックスに生きており、丹念な書き方が この物語を構築するすべてにおいて成功していると思う。ラストの面白さも良いと思う。ホッとさせてニヤリとさせるラストは次回作への序章だろう。 |
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先に選評を読んでしまった。ここを先に読むと妙な先入観を持って読んでしまうので気をつけていたのだがうっかり読んでしまった。
ほとんどのレビューにあるとおり、選評にもあったように伊坂幸太郎のイミテーションと感じてしまう。内容、ストーリー展開、登場人物、会話、すべてがそうだ。 ただ、素人がまったくのゼロからこれだけの物語を作り上げた、その努力と云うか感性と云うかセンスは評価できると思う。 文体が有名作家に似ているとはいってもその読みやすさは心地よい。 会話も決まっていてツボにはまる人には気持ちよく読めることだろう。 しかし、やはり小説は自分の言葉で書かなくてはいけないと云うことだ。 いろんな本を読んで引き出しを多く持つことは重要だけれど、自分の言葉で物語を書かなければ誰も読んでくれない。 そう再認識した一冊だった。 |
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基本的にミステリの世界に性的な事柄を入れたストーリー展開にして欲しくない。「イニシエーション・ラブ」もそうだけど、あのようなラブシーンは必要ない。あの部分をカットしてもストーリーは充分成立する。なのにあの描写、著者の
意図が掴めない。動機の問題で男女間のもつれとしての要因とした書き方は充分納得できる。しかし、金田一耕助のベッドシーンなど読みたくない。そう云うことです。福祉施設で暮らす弱者を描くのは良いが、そこに性的な問題を絡めた ストーリー展開はどんなもんだろう。真犯人も気持ち悪いし女主人公の臨床心理士の対処方もいくら危機とはいえ気持ち悪い。監禁されたあの部屋での逃げ道がないのは分かるが、ちょっと他に手が無いのかと考えてしまう。 でも、読ませる力はある。引き込む文章力は認める。話す言葉が色で見えると云う共感覚保有者の青年が、少女の自殺は殺人だと云う話を半信半疑に受け止め、高校時代の同級生で警官になっている男と調べ始めるストーリーだ。 ここで良いのは安易な訳知り顔の妙に親切な協力者の設定にしなかったこと。女臨床心理士と考え方も生き方も違う人間に設定して、心理士としての彼女との言葉のやり取りのうちにまんまと協力させられる羽目になる彼、と云う事にしてあるのが良い。ご都合主義の100%彼女の言い分を信じ何でも協力する人物として登場してないところが好感を持てた。多いんだよねこういった無条件で主人公を助ける人物設定が。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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