■スポンサードリンク


方舟を燃やす



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
【この小説が収録されている参考書籍】
方舟を燃やす

方舟を燃やすの評価: 4.00/5点 レビュー 31件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.00pt


■スポンサードリンク


Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全31件 1~20 1/2ページ
12>>
No.31:
(5pt)

日本人の甘えの精神構造を断罪する佳作

地方出身のバブル世代の公務員、境界知能の団塊世代の専業主婦──もし彼らが現代に生まれていたならば、おそらく社会的弱者として扱われていただろう。だが、当時の構造に守られたことで、自らを「一人前の人間」と信じて疑わずに済んだ。そしてその甘えた自己認識に安住するために、自分が全体の中の一部に過ぎないという現実を拒絶し、他者との関係性の中に居場所を築く努力を放棄し、やがて偏った思想に傾倒していく。

その精神構造こそが「方舟」であり、本作はそれを燃やすこと──すなわち、日本人に蔓延する“甘え”の構造そのものを断罪する試みである。

では、希望はどこにあるのか。
それは、誰かが与えてくれるものではない。自らの内から、意思の力で捻り出すしかない。
希望とは、完璧に構築された制度や信頼できる共同体が与えてくれるものではなく、不完全であっても人間が本来持つ善意を信じ、勇気をもって他者との関係性に飛び込み、自らの居場所を築いていくことによってしか成しえない──本作はその事実を、静かに、しかし確かな力で語りかけてくる。

現代の日本に生きる私たちにこそ突きつけられた、重くも鋭い必読の佳作である。
方舟を燃やすAmazon書評・レビュー:方舟を燃やすより
410434608X
No.30:
(5pt)

家族って何なのか?そして、どう生きていくのか

著者による『八日目の蝉』『紙の月』が代表作。原作を読まず、この二つの作品はドラマとして見た。この本を読みながら、ぼんやりと自分が生きてきた時代が浮き上がってくる。そういえば、あの時は、と思い出させる。雑誌の文通、口さけ女、ノストラダムスの大予言、連続幼女誘拐殺人事件、宗教団体のサリン事件、阪神淡路大地震、福島の東日本大震災、コロナ禍と続いていく。

 本書の主人公は、柳原飛馬、1967年生まれ。山陰地方に生まれる。生まれたところは、銅山があり、赤い川が流れていた。その後、引っ越し、鳥取の砂丘の近くの小学校に通う。兄、忠士は優秀で、無線機(ハム)を自分の部屋に設置して、交信していた。父親は、おじいさんを尊敬していた。おじいさんは、地震を予言して、逃げることを勧め、本当に地震が来たのだった。人を助けて死んだ英雄だった。

 「1999年に恐怖の大王が降ってきて、世界は滅亡する」という噂に、飛馬は興味を持っていた。
 卒業旅行で、歩いているうちに吐いた女子生徒、美保が気にかかる飛馬。美保は、小学校では、ケロヨン、中学ではコックリさんとあだ名がつけられている。美保は、サリン事件が起きる前に、水道水を飲むなというメッセージをくれた。
 飛馬の母親は病気で倒れ、入院し、手術を受ける。飛馬は、病院で噂を聞き、それが母親のことではないかと思い、母親の前で、泣いてしまうのだった。そして、母親は病気を悲しんで飛び降り自殺をする。飛馬は母親を亡くしたことの喪失感、心の空洞。さらに、自分の行動での罪悪感を抱えることになる。

 1967年 高校を卒業し、製菓会社に勤め、結婚した望月不三子。子供はコト(湖都)ちゃん。ワクチンを受けたらいいのかどうかを悩む。不三子の進んでいく心の軌跡がわかりやすく丹念に書かれている。不三子は戦後生まれ、子供を授かったことで、マクロビオックの食事を教える講師、勝沼沙苗の食養論を信頼する。不三子は「幸福のおおもとには食がある」と納得したのだ。玄米食を実践し、白い食べ物を減らし、野菜を食べ、肉や魚を減らし、保存料や着色料にも注意する。夫にも健康であってほしいと玄米食を勧めるが、ほとんど箸をつけない。義母から、息子には「白米を食べさせて」と懇願される。免疫は食事から作られると思い、ことちゃんのワクチン接種をやめる。また、ことちゃんには、小学校の給食をやめ、弁当を持たせた。湖都の修学旅行がシンガポールで、麻疹にかかった。湖都はワクチンを打ってなかった。

 飛馬と不三子の心の軌跡が丹念に描かれる。
 不三子は、湖都から反発を受けることで、ショックを受ける。おとなしくいい子に育ったはずなのに、ファーストフードの店の前で、ポテトを食べたいと大泣きしたり、小学校の友達の家に行ってはお菓子を食べ尽くしたりしていた。不三子は、湖都の体のためを思って、食生活をマクロビオテックを実践していたはずなのに。そして、湖都は自立し、音信不通となる。
 不三子は、ワクチンに対して疑問を持っていた。色々な噂が飛び交っていた。湖都はワクチンを打ったせいで、妊娠できない体になったと訴える。
 息子の亮も成長し、そして結婚するが、ほとんど不三子のところには来なかった。不三子は孤独を感じていた。そこに、子ども食堂の催しに参加することで、やっと自分の居場所を見つける。
 
 情報が溢れ、噂や正しくない情報が乱れ飛ぶ。そして、コロナ禍となり、ワクチンの問題がクローズアップされる。不三子は「夫の給料でのうのうと暮らしてきた、世間知らずのバカだと思っているんでしょう。こういう人がころりと騙されるんだろうな。」という。この言葉が、一つの重要なキイワードとなる。自分のやっていることが、正しいのか?それとも騙されているのか?その迷いの中に、人々は生活している。非科学的なことにさえも、惹きつけられてしまう状況。なんとも、不確かな時代に生きている。自分たちの既存の生活である『方舟』を燃やすしかないのかもしれない。

 読みながら、家族って何なのか?そして、どう生きていくのかを考えさせられた本だった。
方舟を燃やすAmazon書評・レビュー:方舟を燃やすより
410434608X
No.29:
(4pt)

ノスタルジック

ここに書かれている1960年代から現代までの流行とかウワサ、社会現象、出来事は50歳代くらいのが経験してきたもので、取るに足らない出来事だけど、「あー、あの頃こんなことがあったなあ」と懐かしく感じるかもしれません。
すごいことが起きるようなストーリではありませんが、あの頃なんであんなものに夢中になったんだろう、でも楽しかったよなあ、と人生を思い返したい人には良い本だと思います
方舟を燃やすAmazon書評・レビュー:方舟を燃やすより
410434608X
No.28:
(4pt)

偽情報の問題を扱った小説

偽情報を見破る難しさと、偽情報のために夫婦や親子の関係が悪くなってしまった家族が描かれていて、おもしろかったです。
偽情報か否かを知るためには、情報源が信頼できるか確認するとか、同じ話を複数の情報源で確かめるとかといった方法があります。
また、この小説では夫婦や親子の関係が疎遠になる原因の一つが偽情報ということですので、できるだけ正確な情報を知ることを心がけるとともに、夫婦や親子間で何でも話しやすいようにしておく必要があると思います。何でも話しやすくするためには、この小説でも描かれているように、相手の言うことをよく聞くことに努め、自分の考えを相手に押し付けないように注意したいと思います。ただ、どうしても譲れない場合には冷静に、また丁寧に話すしかないですね。
方舟を燃やすAmazon書評・レビュー:方舟を燃やすより
410434608X
No.27:
(5pt)

信じるものを捨てて方舟に乗って生き延びようとすることが正解なのか

"信仰"と言えば、考えや行動を全てそこから導き出すようなイメージですが、"何を信じる"のかと少しトーンを抑えると、誰もが経験したことのあることだと思います。
2人の主人公は生まれも育ちも全く違うし、言ってしまえばただ交わっただけの全く異なる2つの人生なのですが、共通して軸としてあるのが「信じる」というテーマです。
何を信じてもいいのに、何を信じるかで周りの態度は変わり、歩みゆく人生も変わっていくのがじわじわと感じられる2つの人生を一気に生きた気持ちになる小説でした。
方舟を燃やすAmazon書評・レビュー:方舟を燃やすより
410434608X
No.26:
(3pt)

文章繊細

まどろっこしくもなるかな
方舟を燃やすAmazon書評・レビュー:方舟を燃やすより
410434608X
No.25:
(2pt)

読ませる魅力が足りない

『方舟』『ノストラダムス』『信仰』などのキーワードが気になって珍しく文庫化される前に買いました。
しかし、退屈な日常の話しが続くばかりで読み進めようという気がしません。3分の1ほどで諦めました。
最後まで読めばカタストロフィーが有るのかもしれませんが、その瞬間を得るための労力と時間が長すぎて付き合っていられない。
方舟を燃やすAmazon書評・レビュー:方舟を燃やすより
410434608X
No.24:
(1pt)

園花はなんだったのか?モヤモヤが残る

尻切れトンボのように物語終了。

全編を通じてみて、「デマや社会通念のようなものと、それを信じてしまう人の愚かさ、どうしょうもなさ」がテーマなのかなとは思ったが、物語としてみると園花についてあれだけ長々と引っ張ったのに、彼女の境遇については最後まではっきりと明らかにされず、消化不良だった。

最後の台風避難の時も、猫がいると木造の空き家に行くシーンを挟んだ意図がわからない。
ページを増すため?
なぜ空き家を訪ねるこのシーンを書いたんだろうか・・。アパートに園花を迎えに行って、そのまま避難所に行き、母親が後でひったくるように連れていった・・という流れで良い気がする。
木造空き家に寄り道するくだりで、私はてっきり園花の母親が産んだ赤子(見届け)なんかがそこから出てくるのかと思ったよ。。
方舟を燃やすAmazon書評・レビュー:方舟を燃やすより
410434608X
No.23:
(4pt)

信じるものを手放すことの難しさ

構成力のすばらしさ。
母親や子供や家族など、周囲の人物描写が地味に全体に聞いている。

時代的に昭和を知っている人はストーリーに入りやすいけど、若者としてはとっつきにくい部分がありそう。
何を信じて、どう判断するかということを問いかけている。
面白かったけど、万人受けするにはわかりにくいだろな。
方舟を燃やすAmazon書評・レビュー:方舟を燃やすより
410434608X
No.22:
(5pt)

生きるとはこういうこと

望月不三子の方により共感しました。一つの方針を持って生きていくことの困難さ、その先にあるものがよく描かれています。
方舟を燃やすAmazon書評・レビュー:方舟を燃やすより
410434608X
No.21:
(5pt)

小説に引き込む力がさすが

角田さんの小説は読み始めると止まらなくなる。本作も引き込まれました。
ふみこに感情移入して「うまくいきますように」と応援しながら、「根拠のないものに騙されやすい人」とうっすらバカにする気持ちが自分自身の中に存在していたことに、後半のセリフで気付きました。
おそらくニュースにはならない2人の人生を、ここまで面白く描けるの、すごいです。
方舟を燃やすAmazon書評・レビュー:方舟を燃やすより
410434608X
No.20:
(5pt)

正しいこと、信じること

子育てをしてる立場から、望月不三子に共感することが多かった。その時は良かれと思ってしたことが、本当に良かったのか省みる瞬間が多々ある。
コロナ禍の狂騒も、つい最近のことでもありだいぶ昔のよう気もする。アベノマスク、ソーシャルディスタンス、一斉休校等…
自分で考え正しいと思ったことも、時代や状況で変わってしまう。本当の正しさ、真理自体が幻想のようなもので、日々迷いながら思考停止にならず自分にとって信じるべき出しさたと向き合うしかないのだろう。
方舟を燃やすAmazon書評・レビュー:方舟を燃やすより
410434608X
No.19:
(5pt)

普通って悲しいけれど、悲劇じゃない。

日本の高度成長期、バブル、昭和、平成、令和、__。
主人公二人が生きた、もしくは背負ってきた”普通”の幸せと、”普通”の不幸。それぞれの人生の交わりに、大きな意味はないけれど、描写を丁寧に多層的に重ねて、”普通”が活写される。だからこそ、大差なくあれは僕だ、僕らだった。そうであるから、登場人物たちをもれなく愛おしく思う。
普通って悲しいけれど、幸せなことでもあるのかもしれない。

--今日、読後二日目。この本を反芻するうちに、この本のおかげで、人に優しくなれそうな気がしている。
方舟を燃やすAmazon書評・レビュー:方舟を燃やすより
410434608X
No.18:
(1pt)

設定が現実的ではない

1970年代のお話とは思いますが、患者さんの個人情報が病室でささやかれることは、さすがになかったですね。患者さんに個人情報が漏れるような設定ですが、医学・看護学教育では20世紀初頭から厳密に漏らさない事が教えられていました。
方舟を燃やすAmazon書評・レビュー:方舟を燃やすより
410434608X
No.17:
(5pt)

正しいことが何かなんて私たちには分からないときがある。いいことをしようと心から思っていたって間違うこともある

方舟と聞いて思い出すのは、旧約聖書の『創世記』に登場するノアの方舟伝説。
 堕落した人々を亡ぼすため引き起こされた大洪水から唯一助かったノアの一家、彼は神を信じ神の命じられるまま巨大な船をつくり、自身の家族とつがいの動物や鳥たちとともに避難する。
 本書のタイトルは、そんな方舟を燃やす、というのですから意味深なタイトルです。
 角田光代の作品からは『笹の舟で海をわたる』とか『八日目の蝉』など、いずれも深みを感じさせるタイトルが多いと感じますね。

 本書の構成は、高度経済成長期にあった1967年からコロナ禍の2021年までにおける二人の視点(一人は鳥取出身の柳原飛馬、もう一人は飛馬よりひとまわり年上の望月不三子)が交互に語られてゆく形がとられています。
 柳原飛馬の年齢は私に近いこともあり、本書で語られている各時代の出来事は私自身が記憶したり体験してきたことがらとほぼ一致します。
 雑誌に「文通コーナー」があったり「ノストラダムスの大予言」や「くちさけ女」に恐れおののき、中学時代には「こっくりさん」が大流行、ユリゲラーの超能力番組や心霊番組に目が釘付けとなっていました。また、アマチュア無線に夢中になっている友達も確かにいました。
 学生時代における「原理研究会」の存在や、バブル期における就職活動事情、世間を震撼させた連続殺人事件、阪神淡路大震災、オーム真理教によるサリン事件、そして新型コロナ発生当時における混乱した状況、その時代時代に自身がその当時考えていたことなどが思い起こされ、懐かしさも感じながら読み進めていくと、次第に本書の「方舟を燃やす」のタイトルに意味が見えてきます。

 ふと冷静になると「わたしが信じていたものは何だったのか」と思うことがあるかもしれない。
 SNSやネット上でのフェイクニュースの氾濫、コロナ拡大期における陰謀論、更に、生成AIの驚くほどの進化により、何が正しいのか増々見分けることが難しくなっていくのではないでしょうか。
 でも心配ばかりしていても始まらない。
「正しいことが何かなんて私たちには分からないときがある。いいことをしようと心から思っていたって間違うこともある」のだから。
 人間の世界は神の世界のように何もかもが秩序だっているわけではないのだから。
方舟を燃やすAmazon書評・レビュー:方舟を燃やすより
410434608X
No.16:
(5pt)

数ある選択肢のなかから、自分が信じる道を。

1967年から始まる、昭和、平成、令和の今。
形を変え、多岐に亘って様々な情報や推測・憶測などが入り交じってきた。
戸惑う。
いったい何を信じていいんだろうかと。
社会の中でいったい何の情報を選択していったらよいのかと。
問いかける”正しさ”。
正しいと思うことを信じてほしいと。
英雄でなくてもいい、近くの人を助けてほしいと。
方舟を燃やすAmazon書評・レビュー:方舟を燃やすより
410434608X
No.15:
(4pt)

信じることの意味

この物語の中に「悪い人」は出てこない。にもかかわらず読み終わるまで居心地が悪かった。
オカルト、宗教、デマ、噂、フェイクニュース、SNS。誰もが何かを信じたいこの世界で…。
私は「何を」信じているのだろうか?
方舟を燃やすAmazon書評・レビュー:方舟を燃やすより
410434608X
No.14:
(3pt)

親って何

角田さんの作品はいつも読み応えがあるので、ほとんど読んでいます 今回は読後感が良くなく、消化不良といったところです 不三子と飛馬の最後の掛け合いがすっきりせず、不三子が子供のためとやってきたこともある種の支配で、不快で 、昨今の宗教二世を想起させられました 結論を提示しないことが問題提起になっているんですかね
方舟を燃やすAmazon書評・レビュー:方舟を燃やすより
410434608X
No.13:
(5pt)

なぜ、見知らぬ人とかかわりたいという気持ちは変わらずあるのだろう

1967年生まれの柳原飛馬と、同じく1967年生まれの望月不三子。二人の半生を淡々と追っていく。飛馬も不三子も作者がこの二人を主人公に選んだのはそれゆえのことだろう。飛馬は小学校6年で母親を、不三子は高校生のときに父親を、ともに病で亡くしている。二人の共通点はそのくらいで、二人ともその後大きな事件に巻き込まれたり世間から注目されるような活躍をしたりすることはなく、進学、就職、結婚、子育て、離婚・・・と人生の定番メニューをこなしていく。しかし角田光代の暖かくも鋭いまなざしと精緻な筆が、ありきたりに見える人生を普遍性と時代性の糸が織り込まれたその人だけの人生の美しいタペストリーに仕上げている。

この作品ではとくに「時代性の糸」が強く意識されている。ノストラダムスの大予言、カルト宗教、震災、原発事故、感染症、ワクチン、SNS、子ども食堂など、時代全体を覆う空気の背後にある事件や事象が個人の心理に深く影を落としていることが二人の「普通の日本人」の人生をクローズアップにして撮ることで克明にされる。それが同時代人を生きる者たちの人生の通奏低音であるとしたら、日常での出来事や出会いから形成される思い込みや信念は、一人ひとりが奏でる人生の旋律や曲調である。病室で漏れ聞いた噂話、たまたま誘われて行ってみた料理教室、遠巻きに見ていた事件、子どもの家出……そうしたものが重なって、自分の価値観や姿勢が固まっていく。しかしこの小説はその当たり前のことを描きたかったわけではなく、その逆のこともまた人生には起きているのだということがテーマなのではないだろうか。日常での出来事や出会いによって思い込みが解かれ、新しい扉が開くということ、そして自分自身も他者にとっては新しい扉でありうるということ。

タイトルの「方舟を燃やす」は、自分がいままで慣れ親しんだ世界との決別を示唆している。飛馬の幼馴染で、大学生時代にカルト宗教にはまっていた狩野美保が、教団を離れた理由をこんなふうに語っている。

「ノアの方舟って話あるでしょ?・・・自分と家族と動物を雌雄一頭ずつ載せるの・・・私だったら、家族だけ生き残るなんていやだと思っちゃって。洪水がきて、みんな死んで、乾いた陸地に降り立つのが自分だけって、どう?うれしい?私だったらみんなと流れる方を選ぶ・・・」

飛馬は自分が作家にかわって書いた人生相談の回答に救われたという人に出会い、言葉にできないほど高揚する。「自分で書いた文章をだれかが読んで、励まされたり、行動を起こした……かもしれないので。そんなことは、自分の人生に、一度だってなかった」。不三子はボランティアを始めた子ども食堂に初めてて料理を持っていったときに泣き出してしまう。「四十年以上、もっとも心を砕き、手抜きをせずに作り続けてきた料理を、おいしい、かわいい、コツは何かとはじめて言われた。そのことがうれしいというよりも、不三子には衝撃だった」。

400ページを超える作品の最後のほうで、飛馬のこんな独白がある。「自分が大人になるまでに、ポケットベルができて兄弟電話ができてパソコンができて今はみんながスマホを持っている。あのころには考えられなかったスピードで他人とやりとりできるようになった。これほど大きく世界が変わっているのに、なぜ、見知らぬ人とかかわりたいという気持ちは変わらずあるのだろう」。そのひとつの答えが、見知らぬ人とのかかわりによって解かれる呪縛や、もたらされる新たな地平ではないだろうか。
方舟を燃やすAmazon書評・レビュー:方舟を燃やすより
410434608X
No.12:
(5pt)

助けを求めて手をのばしてきたら、手をさしのべることができるか

「神さまは人間をだますし人間はすすんでだまされる。」「いったい何が信じられる情報なのか?」という作者の問いかけが全編を貫いています。そしてそれを伝達する手段は「狭い地域での直接の呼びかけ」「手紙による文通」「出版物」「固定電話」「ポケットベル」「携帯電話」「ネット」「スマホ」「SNS」と通信手段は格段の進歩を遂げていますが、最終的な判断は個々人にのみ可能です。

情報も「口さけ女」「ノストラダムスの大予言」「UFO」「地震予知」「新宗教」「自然食品」「添加物」
「共助生活サークル」「ワクチンと副反応」「コロナ」など様々で個人としての『信仰』に直結してゆきます。

そして最後の最後に交わるはずもなかった全く価値観の違うふたりの主人公がほんのすこしだけこころをかよわすのですが、けして甘いハッピーエンドにしないところが逆に希望と前向きな人生を感じる読ませどころになっていました。

2024年ここまでの小説部門で個人的な第1位とさせていただきました。
方舟を燃やすAmazon書評・レビュー:方舟を燃やすより
410434608X

スポンサードリンク

  



12>>
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!