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二度死んだ女



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【この小説が収録されている参考書籍】
二度死んだ女 (創元推理文庫)

二度死んだ女の評価: 4.20/5点 レビュー 5件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.20pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(3pt)

老練なユーモアと考え抜かれたミステリーという骨子に支えられた物語

北欧ミステリーのジャンルの広さを示すようなベックストレーム四部作の完結編。当初、ガラスの鍵賞を獲得した『許されざる者』でこの作家が気に入ったものの、本書のベックストレーム警部は、腕利きではあるものの酒と美女をこよなく愛するモラルの少し欠如したお笑い系キャラクターである。

 ちなみに『許されざる者』はふざけたところなど一切ない心打つ傑作であり、その主人公ヨハンソンのキャラクターは、忘れ難い。しかも同名の名作映画もぼくは好きである。バート・ランカスター&オードリー・ヘップバーンの1960年版の映画は特に。クリント・イーストウッド監督主演の1992年のもの、それを開拓期の北海道を舞台にリメイクした李相日監督の渡辺謙主演版日本映画作品も、それぞれ忘れ難い映画である。ペーションの日本デビュー作品は、それらとは同名にして全く異なるシックな警察小説であった。

 しかし本シリーズは、ミステリを主体にした警察小説でありながら、ベックストレームという経験豊富な警部による、実に快楽主義的な生活の日々と、優れた捜査感覚という相いれない二つの特性を持つ主人公を据え、それにも増した個性豊かな捜査スタッフたちによる執念の捜査が実を結んでゆくコミカルかつ熱心な模様が軽妙と重厚をクロスさせてなお面白い。何だか趣味じゃないなあと思いつつも、とうとう全四作読まされてしまったリーダビリティと、小説の核となるミステリ部分が優れているところがこの作家の個性である。

 何を隠そうペーションという独自なこの作家は、長年に渡りリアルな捜査畑にいた経験豊富な警察人生の後半より作家デビューした人である。なので捜査のリアリティ、捜査チームの持つ活気のような独特な気配をこの作家は活き活きと描くのだ。

 さて本書では、少年が無人島で見つけた古い頭蓋骨を警察署に持ち込むところから始まる。ベックストレームはふざけたなまけ癖のある男でありながら、周囲の人間に好かれるところがあり、少年との交流シーンや、真剣に頭蓋骨の主を捜査しようという姿勢にはとても好感が持てる。頭蓋骨を調べるうちに、タイのプーケットの大津波で犠牲になった女性のものであることがわかる。

 プーケットに旅行に出ようとした矢先に津波の情報を得て腰を抜かしていた元の職場の同僚の顔をぼくは想い出した。悲惨な津波による被害者は少なくなく、あの時の犠牲者が北欧ミステリーに登場するなんて思いもよらないことである。でもリアリズムとユーモアを混然とさせるこの老練な元警部であり実績のある作家ペーションの筆でその不思議な頭蓋骨の正体を探ってゆく、本作の骨格は驚くほどしっかりしている。地道な捜査による地味な本で、ベックストレームという特異なキャラを描くための寄り道も多い小説であるが、何となく読まされてしまうのだ。

 時にはにやりと苦笑いを交えながら、老練なユーモアと考え抜かれたミステリーという骨子に支えられたこの物語は、ぼくの日常に交錯する奇妙な香辛料のように、印象的に刺さってくるのだった。
二度死んだ女 (創元推理文庫)Amazon書評・レビュー:二度死んだ女 (創元推理文庫)より
4488192114

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