白夜に沈む死
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ノルウェー北部。北極圏を舞台にした『影のない四十日間』に続くトナカイ警察シリーズ第二弾が登場した。個性という意味ではこれ以上ないほど珍しい舞台設定。観たこともない大自然の環境。入り組んだフィヨルドと沈まない太陽。辺境ゆえの捜査の困難さ。アイヌ民族やエスキモー同様、同和政策により絶やされようとしている先住民族サーミ人の血脈。あまりにも独自な材料を溢れるほど携えて、新鮮この上ないミステリーを展開してくれる圧巻のシリーズである。 前作では、太陽がまったく昇らない冬の四十日間を背景にしていたのが驚愕であった。本作では、春を迎えた同地域を舞台に、太陽が沈まない白夜の季節を背景にして、またまた物語世界の辺境性に興味を注がれることこの上ない。しかも石油開発景気に沸く海辺の小村を背景に、潜水夫という極めて特殊な作業に携わる男たちの宿命に焦点を当ててゆく物語。ページを開いた途端、強烈に引き込まれるのは、登場する人物たちの個性でもあり、石油景気という異常なまでの状況ゆえでもあろうか。 ノルウェー南部から派遣され、同じ国内でありながら極めて異質な日照時間や生活環境に圧倒されるニーナ。彼女とペアを組むトナカイ警察のクレメットはサーミ人の血を引く先輩警察官。二人の主役コンビは、スノーモービルで、氷が解けかけた危険な水辺や雪原を疾駆しつつ、辺境の仮野営設備の小屋を拠点に、日々を過ごす。あまりにワイルドな職場環境に圧倒されながら、彼らならではの活躍に胸躍らされるのが、本シリーズの個性でもある。 今回は、石油開発を背景にした海辺での事故を探るうちに、思いがけぬ過去の暗闇や亡霊の存在が浮き彫りにされてゆくという内容である。原作者がそもそもノルウェー駐在のフランス人ジャーナリストであるゆえに、彼の取材活動から浮上してきたであろう様々な事実が、作中でも生々しい。先住民のサーミ人は国境や私有地を持たず、トナカイを放牧させて暮らしてきたのだが、開発や同化政策が進むにつれ、土地の私有化や企業誘致が進む北辺の村では、古い歴史と新しい文明との利害が様々な形で衝突し合うようになった。 中でも石油開発が端緒に着いたばかりの近海では、巨大資本をバックにした企業と、町の政治家たち、先住民と新住民との文化的対立、その他ノルウェーが現実に山積みにしてきた問題が、様々な階層で浮き彫りになりつつあった。本書の凄みは、ミステリーとしての構造を確立させながら、知られざるノルウェー北部の現実を読者に突き付けてくるところである。登場人物たちの個性も素晴らしく、町そのものが良く活写されて見える点も好ましい。 我々は、ノルウェー南部育ちのヒロインであるニーナの眼を通して、改めてこの国の地理的、経済的、民族的問題を驚きや発見とともに体感してゆくことになる。ちなみに人口がノルウェー540.8万人、北海道が528.1万人。面積は、ノルウェーが385㎡、日本が378㎡。如何にノルウェーの人口密度が低いかがおわかりかと思う。一部が北極圏という特異な環境も大きく影響しているのだろう。 この国の北部。その暗夜と白夜と、二つを、作品で示してくれたこの作者。本書では潜水夫に課された驚くべき過酷な労働環境、後遺症などに関しても徐々に記述されてゆく。本書は、ジャーナリスト魂の十分にこもった、熱血作品でもある。作者の怒りや公平な視線を存分に感じながら、過去と現在を去来する壮大な物語と、二人のトナカイ警察たちのバイタリティ溢れる活躍とを、思い切り楽しんで頂きたいと思う。 | ||||
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ノルウェー北部。北極圏を舞台にした『影のない四十日間』に続くトナカイ警察シリーズ第二弾が登場した。個性という意味ではこれ以上ないほど珍しい舞台設定。観たこともない大自然の環境。入り組んだフィヨルドと沈まない太陽。辺境ゆえの捜査の困難さ。アイヌ民族やエスキモー同様、同和政策により絶やされようとしている先住民族サーミ人の血脈。あまりにも独自な材料を溢れるほど携えて、新鮮この上ないミステリーを展開してくれる圧巻のシリーズである。 前作では、太陽がまったく昇らない冬の四十日間を背景にしていたのが驚愕であった。本作では、春を迎えた同地域を舞台に、太陽が沈まない白夜の季節を背景にして、またまた物語世界の辺境性に興味を注がれることこの上ない。しかも石油開発景気に沸く海辺の小村を背景に、潜水夫という極めて特殊な作業に携わる男たちの宿命に焦点を当ててゆく物語。ページを開いた途端、強烈に引き込まれるのは、登場する人物たちの個性でもあり、石油景気という異常なまでの状況ゆえでもあろうか。 ノルウェー南部から派遣され、同じ国内でありながら極めて異質な日照時間や生活環境に圧倒されるニーナ。彼女とペアを組むトナカイ警察のクレメットはサーミ人の血を引く先輩警察官。二人の主役コンビは、スノーモービルで、氷が解けかけた危険な水辺や雪原を疾駆しつつ、辺境の仮野営設備の小屋を拠点に、日々を過ごす。あまりにワイルドな職場環境に圧倒されながら、彼らならではの活躍に胸躍らされるのが、本シリーズの個性でもある。 今回は、石油開発を背景にした海辺での事故を探るうちに、思いがけぬ過去の暗闇や亡霊の存在が浮き彫りにされてゆくという内容である。原作者がそもそもノルウェー駐在のフランス人ジャーナリストであるゆえに、彼の取材活動から浮上してきたであろう様々な事実が、作中でも生々しい。先住民のサーミ人は国境や私有地を持たず、トナカイを放牧させて暮らしてきたのだが、開発や同化政策が進むにつれ、土地の私有化や企業誘致が進む北辺の村では、古い歴史と新しい文明との利害が様々な形で衝突し合うようになった。 中でも石油開発が端緒に着いたばかりの近海では、巨大資本をバックにした企業と、町の政治家たち、先住民と新住民との文化的対立、その他ノルウェーが現実に山積みにしてきた問題が、様々な階層で浮き彫りになりつつあった。本書の凄みは、ミステリーとしての構造を確立させながら、知られざるノルウェー北部の現実を読者に突き付けてくるところである。登場人物たちの個性も素晴らしく、町そのものが良く活写されて見える点も好ましい。 我々は、ノルウェー南部育ちのヒロインであるニーナの眼を通して、改めてこの国の地理的、経済的、民族的問題を驚きや発見とともに体感してゆくことになる。ちなみに人口がノルウェー540.8万人、北海道が528.1万人。面積は、ノルウェーが385㎡、日本が378㎡。如何にノルウェーの人口密度が低いかがおわかりかと思う。一部が北極圏という特異な環境も大きく影響しているのだろう。 この国の北部。その暗夜と白夜と、二つを、作品で示してくれたこの作者。本書では潜水夫に課された驚くべき過酷な労働環境、後遺症などに関しても徐々に記述されてゆく。本書は、ジャーナリスト魂の十分にこもった、熱血作品でもある。作者の怒りや公平な視線を存分に感じながら、過去と現在を去来する壮大な物語と、二人のトナカイ警察たちのバイタリティ溢れる活躍とを、思い切り楽しんで頂きたいと思う。 | ||||
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『影のない四十日間』の続篇。前作は冬季で太陽が出ない極夜明けだったが、今作は4月下旬~5月上旬で白夜に突入するまでの日々が舞台となっている(ちなみにこの年は5月12日~7月29日が白夜とのこと)。 この時期、トナカイは本能で海を渡って島へ集団移動を始める。それを追い管理する先住民族サーミ人。 これは大昔からのこの地の伝統だ。しかしヨーロッパの人々が入植し町を開発、さらに近海で原油や天然ガスが埋蔵されていることが発見され、1970年代頃から工業開発が盛んに進められる。それらによりサーミ人たちは迫害され、現在も本来の暮らしをどんどん奪われている。 そのような中でトナカイ所有の青年、数日後には市長が死亡する事件が発生し、さらに続発する。 背景には何が潜んでいるのか? トナカイ警察のクレメットとニーナが捜査を開始する―――。 全体的に多少冗長だと感じる反面、前作とはまた違った面からこの最北の地の文化や生活等が詳細に記述されているため、興味深く読むことができる。 潜水作業するダイバーのことも語られるが、及ぼされる健康被害の事実には驚く。わが国では昨年春に起こった知床遊覧船事故の後、船舶を引き上げるときにダイバーの身体管理についても話題になったことが記憶に新しい。 終盤、説明が不十分で繋がらないと思うところが2か所ほどあったが、まあ些細なことだ。 本作も読み応えがあった。 シリーズ化されている作品で、前作あとがきに本国では4作目まで発表されているとの記述があった。 1作目のアスラクはどうなったのだろう。個人的にまた登場してほしいと思うのだが…。 | ||||
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2018/8月に読んだ「真夜中の太陽」(ジョー・ネスボ)を想いながら、「影のない四十日間」に続くシリーズ第二作「白夜に沈む死〈トナカイ警察〉シリーズ(上・下)」(オリヴィエ・トリュック 創元推理文庫)を読み終えました。少し読むのに時間を要しました。 舞台はノルウェー、ハンメルフェストの町。夥しい数のトナカイの群れ。餌場がある対岸の鯨島へ泳いで渡ろうとするトナカイと見つめるトナカイ所有者。溺れ始めるトナカイ。いったい何が起こったのか?結果、狼湾で一人のトナカイ所有者が溺死してしまいます。その後、ハンメルフェストでは不審な死亡事件が相次ぎます。トナカイ所有者たちの場所でもある土地は、天然ガスと原油の採掘により利権が蠢き、或る種の陰謀が横たわっているように思えます。 〈トナカイ警察〉の警官、クレメットとニーナ。トナカイ所有者たち。石油産業で働く無双のダイバー、サーミ人でもあるニルスの存在。就中、夫・エリックを失ったアネリーの存在がこの物語の持つ<霊性>を象徴しています。 蔑ろにされる先住民、サーミ人の生活の中、「この歴史はわたしたち自身の歴史。あなたたちには教会や記念碑、博物館なんかがあるでしょう。わたしたちには岩がある。自然の民なのよ。こういう岩にわたしたちの魂を伝えていく。近寄ればあなたにも、岩のひびを伝って歴史が流れていくのが聞こえるはず」(上巻p.226)とアネリーはニーナに応えます。 スリラーとしては、後半に於いてシーンを小気味よく切り替えながら伏線がしっかりと回収されていきますが、特に大きな仕掛けが存在しているわけではありません。しかしながら、少数民族の大いなる歴史とニーナの家族に纏わる苦しみ、哀しみが溜息を誘い、その厳粛なノルウェーの自然を美しく描写した物語は深い余韻を残して終わりを迎えます。次作の翻訳もまた期待したいと思います。 「鳥は丘の形にそって飛ぶの。美しいと思わない?」 (上巻p.141). それは何とも美しい。 | ||||
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