■スポンサードリンク


本売る日々



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
【この小説が収録されている参考書籍】
本売る日々

本売る日々の評価: 4.64/5点 レビュー 11件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.64pt


■スポンサードリンク


Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全11件 1~11 1/1ページ
No.11:
(4pt)

(2023-80冊目)「さかしら」を排し、「まこと」の心を失わずに「すなほ」に生きる(83頁)物語

.
 江戸時代後期、書肆「松月堂」を営む平助は三十半ば。本を売るだけではなく、いつの日か、自らの力で書を出版することを夢見ています。彼が一人称で語る連作中編3作を集めた一冊です。

◇『本売る日々』
:文政の御代、藩校がひとつもないような鄙の地で、書肆「松月堂」の平助は名主の家を回っては本の行商もしている。最近、上得意の名主・惣兵衛がわずか十七という孫娘のような年齢のサクを後添えに迎えたと聞く。サクは女郎上がりだとか。惣兵衛は若い新造が求めるものを見境なく買ってやっているとの噂を耳にして、「松月堂」は惣兵衛が今後は本など買わなくなるのではないかと不安を抱きはじめるのだが……。

「松月堂」は惣兵衛との商売が立ち行かなくなるのではないかと、大いに不安神経症気味です。心配の底なしスパイラルに陥っていくその胸のうちが、滑稽に、そして延々と描写されていくので、この物語は書を読む喜びを謳い上げる重厚な時代小説だと思いこんでいた私の当初の期待は大きく裏切られ、これは単なる軽妙な喜劇小説なのかと、まさに私自身が不安になっていきました。
 ところが物語の後段になって、惣兵衛とサクの間に横たわる祖父と孫ほどもある年齢差と、素封家と女郎上がりという経済格差を抱えた夫婦関係の実相が立ち現れてくるようになると、俄然物語が重みを増し始めます。不安を前にして人並み以上に神経を擦り減らしていたはずの「松月堂」が、経済力も経験知も自分より上回っている上顧客の惣兵衛相手に、人生の真実を立て板に水の如く説いて聞かせる場面が圧巻です。
 「松月堂」の諭しの後に、惣兵衛とサクの人生が悟りを得たかのように大きく動きだす結末が、実に爽快な物語です。

◇『鬼に喰われた女』
:文政五年の師走、書肆「松月堂」は東隣の国に八百比丘尼の伝説が残ると聞かされる。事情通と思われる杉瀬村の名主・藤助に噂の真相を尋ねると、神妙な顔をして藤助は50年にも渡る、ある話を聞かせてくれる……。

 この『鬼に喰われた女』は第一編『本売る日々』に比して、幻想の度合いがぐっと増します。なにしろ八百比丘尼伝説ですから。私はこのあやかしの伝説に『 火の鳥 異形編 』で触れたことがあります。

 和歌の流派に保守伝統の堂上派とそれを超克せんと始まった小沢蘆庵の新風派があるという日本文学論を織りまぜながら、身分違いゆえに実ることのなかった恋と、長年月の用意周到な準備のもとに恨みを晴らしていく復讐譚です。
「『さからしら』を排し、嘘偽りのない『まこと』の心を失わず、『すなお』に生きる」―――このことばのとおりに生きた女の物語が妖しい光を放ちます。

 そういえば、『火の鳥』も復讐譚でした。

◇『初めての開板』
:書肆「松月堂」の平助の弟夫婦には喘病もちの11歳の娘・矢恵がいる。最近、かかりつけ医を変えたのだが、その医師・西島晴順の評判を平助が周囲に聞いてみると奇妙な噂があることを知る。何年か前、西島は診立てを始終変えていたのだが、ここ最近は名医との評判が立ち、まるでどこかの時点で人が入れ替わったかのようだという……。

 西島晴順という医師の素性をめぐるちょっとしたミステリーが展開すると同時に、医学をめぐる複数の学派間の対立問題、そしてやがては、医療を発展させて次世代に引き継いでいくための手立ての話へと、物語は徐々に深みを増していきます。
 健康と読書――この二つがあれば、人は豊かに幸せに生きられるのではないか。そんな気にさせてくれる佳作です。

.
本売る日々Amazon書評・レビュー:本売る日々より
4163916687
No.10:
(4pt)

和本に関する蘊蓄が難解でした

●本を愛し知識を愛した名主や医者たち。主人公は彼らの心の奥を洗いざらい掬い取るように聴き
出す。涙する大仰な感動言葉ではなく、ジワッとしみてくる温かいものが伝わって来る。富も名声
も得た男も好きな女性にはとことん奥手のよう。そんな男が心の奥に隠し続けたものは、不器用な
までの恋心か。古書を引用して己を語る様子は胸に迫るものがあった。
 医を志す者たちの高潔な心に触れたが、今の時代も実際にそうあって欲しいと願うばかり。

★一つ減じたのは、核心に触れずわざと焦らしてみたり、古本関連の蘊蓄に衒学的な匂いが感じら
れ少々鼻についた為です。
本売る日々Amazon書評・レビュー:本売る日々より
4163916687
No.9:
(5pt)

江戸時代の文化事情

江戸時代の出版状況がよくわかりとても興味深く読みました。
歴史ものといえば大体大名間の紛争が取りざたされることが多く政治面から
みることが多いと思いますが。この本は出版状況がよくわかり又裕福な農民の知識や
当時の医学の状況がよくわかりとても面白く勉強に鳴りました。
本売る日々Amazon書評・レビュー:本売る日々より
4163916687
No.8:
(5pt)

豊かさとは…

近頃の世相につられてしまい、チャカチャカと日々を過ごしていましたが、久しぶりにゆったりした気持ちになれました。
やっぱり本はいいなぁ、と再認識。
登場人物たちと一緒に、本の世界に浸れます。
本売る日々Amazon書評・レビュー:本売る日々より
4163916687
No.7:
(4pt)

読売新聞の日曜版で紹介されていました

最初の出だしの貝原益軒の楽訓の所に惹きつけられたのですが、あとはそれ程面白い内容ではありませんでした。文章の流れは時々、途切れた感じを受けました。時代の中に現代っぽいところを感じます。これは私の捉え方が幼いのかもしれません。他の方は、また違う捉え方をするでしょう。しかし、「鬼に食われた女」の途中から面白くなってきます。初めての開版では,医書に興味がありましたので一気に読みました。
本売る日々Amazon書評・レビュー:本売る日々より
4163916687
No.6:
(4pt)

私的に新しいジャンル

このような題材の物語も作者も初めてなので新鮮であった。またよ見やすかったし前後に矛盾もなかった。こういう物語に出会えるのも読書の醍醐味である。その読書の喜びについて引用で書かれた部分もありその通りだと思った。
本売る日々Amazon書評・レビュー:本売る日々より
4163916687
No.5:
(5pt)

紙の本をおすすめします

青山先生の新刊発行のお知らせがAmazonから届きました。
いつものようにKindleで購入する予定でしたが発売日にふと立ち寄った書店で手に取ってみると、美しい扉絵と珍しい装丁(仮フランス装と言うそうです)に惹かれてそのまま購入してしまいました。
今までになく(良い意味で)サラッと読める内容で、「半席」同様今後もシリーズ化していただけると嬉しいですね。
読了後扉絵のカバーを外すと現れる演出も発見できて楽しい。「本」というモノについて改めて思いを馳せる一冊でした。
本売る日々Amazon書評・レビュー:本売る日々より
4163916687
No.4:
(5pt)

正確な時代考証を背景としているので、話に齟齬がない。

愛読している青山文平氏の最新刊である。この人の小説は、深い時代考証を背景にして、その舞台の上で人の動きを語る、という特徴がある。これまでに、「跳ぶ男」では大名が好む能をつぶさに語り、「底惚れ」では女郎屋に布団を貸し出す男の話とか、武家の妻女による元主人の殺害事件に絡めての越後の葬儀の風習とか、或いは「やっと訪れた春に」では老人の生理的な悩みとか、小説の背景に使わない様な、人の思い付かないものを使うことが多い。恐らくは、図書館や博物館などを調べ回って江戸時代の風俗・風習をしっかりと調べ上げて、それを発表するにあたって、ある人物を登場させて自分の調べたことを語らせることに心地よさを感じているのだろうと思う。私は登場人物が語る(実は著者だが)その背景に新鮮な思いを抱きながら、同時に筋書きに没頭する。

 今回の背景は、江戸時代の本屋である。その時代にすでに多くの読書愛好者が江戸の様な大都会でなくても、地方の都市や農村にも居たということは、日本の文化と教養の高さを表していて、改めて祖先の皆さんの教養・文化に感嘆しているのだが、そういうことも調べ上げた上で話を創作しているのだと思う。

 この本は三つの短編からなっているが、いずれの作品にも同じ人物が登場する。ややもすると背景となる江戸時代の本屋や出版物の話が前面に出過ぎる感もあるが、それでも知的好奇心を満足させてくるものがある。専門的な解説にならず読者の興味をそそるのは、著者の筆力によるものだろう。いつもながら、良いものを読んだ、という感想を抱いた。
本売る日々Amazon書評・レビュー:本売る日々より
4163916687
No.3:
(5pt)

印刷が木版の時代、

うーん、さすが。としか言えません。
今もどこかの町でこんな本屋、書林があったらなぁ、と心に温もりが広がる一冊です。ご一読を。
本売る日々Amazon書評・レビュー:本売る日々より
4163916687
No.2:
(5pt)

ちょっと物足りなかったかな

3編で割ると1話600円。いきなり無粋な話だけど、本屋の物語なので金を出して新刊を購入した立場から述べることとします。好みは2話目。これだけが幻想譚で趣が違います。どちらかと言えば、この方向で統一してほしかったです。1話目はほぼ会話で構成されていて、400円くらい。彼女の背景が薄すぎました。2話目は1000円、3話目はやはり400円で、元は取れたけど、武家社会の辛抱我慢、そして爆発を描く長編に比べると、ちょいと食い足らない感じですね。著者の作品では、いつも主人公が飲み込んだ言葉を地の文で語るのですが、3話目は会話文で語りすぎた気がしました。時代小説を電子書籍で読むことに、いつも少しの抵抗を覚えつつの、勝手な感想です。
本売る日々Amazon書評・レビュー:本売る日々より
4163916687
No.1:
(5pt)

「本売る日々」をKindleで読む。

著者の本を読むのは、「やっと訪れた春に」(2022/7月)以来になります。「本売る日々」(青山文平 文藝春秋)を読み終えました。
 本を売る「松月平助」(私)に纏わる物語が3篇収録されています。
(1)本売る日々
 物之本と草子屋物。小曾根村の惣兵衛を訪ねようとする私に玉井村の小右衛門が話を伝えます。七十一歳の惣兵衛は十七の後添えを貰ったらしい。彼女は女郎上がり。よって、惣兵衛には本に使う財布の持ち合わせはないかもしれない。(中略)。ミステリアスに進行する物語。猫のヤマがいる惣兵衛宅での私と惣兵衛との対話が或る一点の真実に向かって続きます。その真実もそこへと至る経過も見事なものだと思います。そのあわいと揺らぎ。
(2)鬼に喰われた女
 貝原益軒による「八百比丘尼伝説」。私の国学。「群書類従」。
 「三つの言葉を覚えておくだけでいいんです。『さかしら』『まこと』『すなほ』。これだけです。『さかしら』を排し、噓偽りのない『まこと』の心を失わずに『すなほ』に生きる、です。」(p.74)
 それでも尚、人は惑い、答えを出すことができない。
(3)初めての開板
 村の者たちが医の不安なく暮らせるということ。この国で一番の医者と見立てがくるくる変わる「もう一人の医者」。弟の喘病の娘、矢恵の回復を気遣う私とその「もう一人の医者」との医書を通したやり取りがあって、この世のよきものが伝わる圧倒的な終わりを迎えます。これもまた見事なものです。

 著者による「本」についての蘊蓄に溜息をつきながら、3篇それぞれが「本」の持つ大いなる役割と「本」への愛情を語り尽くしています。

 (私事になりますが)かつて郷里の書店で本を購入するとそのカバーに英国の社会思想家ジョン・ラスキンの言葉が書かれていたことを思い出しました。「人生は短い。この本を読めばあの本は読めないのである」
 本を読むということは選択することであり、選択は常に或る<導き>によってなされるものだと思います。「本売る日々」を読めたことは本当にしあわせな経験でした。ありがとうございました。
本売る日々Amazon書評・レビュー:本売る日々より
4163916687

スポンサードリンク

  



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!