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頰に哀しみを刻め



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【この小説が収録されている参考書籍】
頰に哀しみを刻め (ハーパーBOOKS, H187)

頰に哀しみを刻めの評価: 4.07/5点 レビュー 28件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.07pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全22件 21~22 2/2ページ
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No.2:
(4pt)

頬を流れる「剃刀の刃」のような涙よりも・・・

典型的なアメリカン・クライム・ノヴェルでありながら、新しかった「黒き荒野の果て」(2022/2月)以来になります。S.A. コスビーの新しい翻訳「頰に哀しみを刻め "Razorblade Tears"」(ハーパーBOOKS)を読み終えました。
 ヴァージニア州、リッチモンドで起きた銃撃事件によって黒人のアイザイアと白人のデレクの同性婚夫婦が無惨に殺害されます。誰の犯行なのか?ジャーナリストのアイザイアには以前から脅迫状が届いていたらしい。
 主人公たちは、殺害された二人の父親、庭園管理会社を経営するアイクと無職のバディ・リー。彼らにはそれぞれ埋めることのできない過去が横たわっていますが、またそれぞれが息子が同性愛者であることを受け入れられないまま時が過ぎていました。激しい憤りと後悔と共に。
 しかしながら子供たちを失うことによって、アイクとバディ・リーはその悲劇に連なる心の軌跡を辿りながらも停滞する心から飛び出すことができません。何故なら、息子たちの幼い娘のアリアンナが残されていたことにも起因しているかもしれません。進展しない警察捜査。犯人は誰なのか?刑務所を出て15年。正しく生きようと志し地道な努力を積み重ねてきたアイクは或る事件をきっかけに葬儀から二カ月後バディ・リーと共闘することを決意します。
 とてもシンプルなストーリー展開ですから物語が何処に向かうかはおそらく想像の範囲内(サム・ペキンパー映画?)でしょう。相変わらずのテーマでもあるレイシズムと格差。同じような差別に晒されているLGBTQ問題。世界が、社会が変わろうとする中、いつまでたっても変わろうとしない男たち。親父たち。じじいたち。既得権益者たち。そこへの突破口として、それらを受け入れられない構造としての米国「国家」に対して徒手空拳の戦いを挑む二人の「暴力装置」の在り様を私が受け入れられるのかどうか?
 スリラーとしては、2点の仕掛けがありましたが、まあアベレージでしょう。
 私は学ぼうとしながらも空転する主人公たちの苦悩を受け入れつつ、二人の会話の中で繰り返し語られる言い訳ともつかない「嘆き」にはいささか辟易としました。それは頬を流れる「剃刀の刃」のような涙よりも戦いの雨の中で静かに流れる涙のほうがより強いと意識しているからに他なりません。

 約30年前、米国の大西洋岸沿いのハイウェイをドライブしながら、道を逸れてローカルなレストランで食事をしようとしてすごすごと引き返したことを思い出しました。レストランのドアを開けた瞬間、それまで和気あいあいと談笑していたように思えた店内の客たちから向けられた厳しい視線に耐えられなかった。気のせいかもしれませんが「ふつう」ではない<東洋人>二人に向けられた排他的な視線の中には「憎悪」のようなものが隠れていたように感じられました。現在の米国ローカルはどうなのでしょうか?もう一度その同じ場所を訪問すればわかるのかもしれませんね。期待に応えられるよう精進したいと思います(笑)。
頰に哀しみを刻め (ハーパーBOOKS, H187)Amazon書評・レビュー:頰に哀しみを刻め (ハーパーBOOKS, H187)より
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No.1:
(5pt)

ふたりのオヤジたちの死闘

『黒き荒野の果て』を描いた著者による次の力作。
前科のある黒人男性が出所後堅気になって生活していたところに、事件が起こる。最初は引き込まれまいと抗ったが、次第に眠っていた荒くれ者の血が覚醒する―――というところは前作と共通するが、それ以外の内容は全然異なる。
今回の主人公は中高年であり、LGBTQ+を絡めており、同年代の貧乏白人のパートナーが存在する。
アメリカ南部が舞台なのでなおさら黒人差別が強いこと、さらにアメリカといえどLGBTに対していまだに偏見が残っていることがわかる(日本がG7の中でもたいそう社会的受容が遅れているのは、先日の首相秘書官の発言でわかる。私はこれは表向き対処で、根はもっと深いと思っているが)
息子たちの生前、彼らを理解せず受け入れなかった父親たちの、強い悔恨がひしひしと伝わってくる。
極道バイカー連中を相手に死闘が繰り広げられるが、主人公たちが中高年のオヤジというところから、応援する気持ちがなおさら高まった。

「できるものなら取り下げたい馬鹿なことを言ったりやったりした。人生のどこかの時点で、自分はひどい人間だったってことがわかれば、そこからはいい方向に進める(P260)」
「遅すぎたが、(人生は)まだおわってない(P261)」
個人的なことだが、自分が後悔することがいくつもあるため、この文章を読んで共感するとともに気持ちを新たにする機会となった。

退屈しないスリリングな展開で、情緒にも溢れたいい内容だった。
この作者の著作は二作ともとても優れていると思ったし、好きだ。すっかりファンになってしまった。
次作を楽しみにしている。デビュー作が邦訳出版されていないようだが、こちらもぜひ読みたい。
頰に哀しみを刻め (ハーパーBOOKS, H187)Amazon書評・レビュー:頰に哀しみを刻め (ハーパーBOOKS, H187)より
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