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江戸一新



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【この小説が収録されている参考書籍】
江戸一新 (単行本)

江戸一新の評価: 3.50/5点 レビュー 4件。 -ランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.50pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(3pt)

松平伊豆守信綱を主人公にして、明暦の大火後に「大江戸」が成立した過程を描く、門井慶喜の新作。読後感に揺らぎが生じてしまった

私は、門井慶喜の新作の登場をいつも楽しみにしていて、このAmazonのレビューには、①「銀閣の人」(KADOKAWA、2020年)、②「なぜ秀吉は」(毎日新聞出版、2021年)、③「地中の星」(新潮社、2021年)、④「信長、鉄砲で君臨する」(祥伝社、2022年)についての私の感想を書いてきて、この「江戸一新」が5番目のレビューになる。

因みに、全ての門井作品を読んでいるわけではないが、私の門井作品のベスト3は、江戸の成り立ちを描いた「家康、江戸を建てる」(祥伝社、2016年)、直木賞を受賞した「銀河鉄道の父」(講談社、2017年)、辰野金吾を描いた「東京、はじまる」(文藝春秋、2020年)である。この3作品は☆5つを上回る価値があると思っている。

さて、このように一連の作品を並べてみると、門井作品が江戸と東京がどのように成立したか、その物語を描くことをライフワークにしてきていることが浮かび上がってくる。「家康、江戸を建てる」から始まり、今回の「江戸一新」が挟まって、近代に入り、日本銀行や東京駅を建築した辰野金吾を描いた「東京、はじまる」と、東京の地下鉄建設の物語を描いた「地中の星」がある。この作品群は、将来的にどのように広がり、現代を生きている私たちにどのような色彩をもたらすのだろうか、同時代を生きている私はワクワクしているのである。

長い前置きを書いたが、この「江戸一新」は、明暦の大火後、松平信綱、阿部忠秋、酒井忠清の幕閣にある老中が、江戸城天守閣の再建を断念し、再びの火災を避けるため、建物が稠密している江戸を改造し、御三家の屋敷を江戸城から追い出し、また旗本や御家人の屋敷を府内から府外へ移し、いまの向島・本所・深川・築地が開かれ、新吉原が成立し、商家の庇を短くする、と言った改革を行ったことが取り上げられる。こうした一連の改革の結果、「明暦の大火をきっかけにして、江戸は大江戸になったのである」(361頁)。そして「江戸はまた、火事のおそれも減った」(362頁)。

この改革を縦糸に、松平信綱の生涯の事跡をたどりながら、幕閣の会話、信綱の姉のおあんと弟子のおときの行動、町奴と旗本奴の対立、信綱と町奴の頭である花川戸の長兵衛との交流などを横糸にして、物語は軽妙に進んでいく。特に、信綱と長兵衛が交流し、信綱が市井に出て行って、世情を知り、政策を練るさまは、「暴れん坊将軍」や「遠山の金さん」を彷彿とさせるであろう。史実そのままではないだろうが、こうした物語の飛躍は読み手にとって楽しいものである。ただ、物語が「発散」し、求心力を失った箇所がある気もした(「討ち入り」の描写は冗長な気がした)。

こうした物語のなかに、作者の史眼が挟まれる。それは、松平信綱が極めて近代精神の持ち主であり、観念ではなく、具体に即して行動した人物だったことを強調しているように思う(特に261頁あたり)。そして、そのような具体の人である信綱にこう語らせる。

「わかっておる。街には焼け出されたままの者もある。以前の暮らしを取り戻せぬ者もある。われら仕事はまだつづく。が」
信綱はつづけた。それはそれとして、心の区別はつけねばならない。 復興に終わりはないとしても、ときに「終わった」ことにはしなければならない。死者への哀悼は哀悼として、うしなったものへの追慕は追慕として、人はこの世にあるかぎり前を向いて生きるほかないのである。
「だからわしは、 来月の上様のお成りをもって復興の仕事を終戦(しまい)としたい。 わかるな、 忠秋」(366-7頁)

ただ、私はこの文章を、そのまま素直に受け取れなかった。それは、この小説を読み終えた日が阪神淡路大震災からちょうど28年目であり、そして、東日本大震災から10年以上経ったとは言え、それらの記憶は生々しくある。そんな短い間に「終戦(しまい)」と言い切ることに、いかなる意味があるのだろうか。何度も、この文章を反芻して考えたが、共感できなかったのである。この文章を読者に共感させるには、もっと複雑な物語の展開、違った文体のスタイル、人間の心の機微を描く必要があるように思う。門井慶喜の文体は軽やかで、このような重いことを書くことには向いていない気がする。あまりにも唐突で、冷淡さを感じるのである。

以上のような共感できない箇所もあり、読後感は揺らいでしまった。そのようなことから、評価は標準点としての☆3つとした。これは私の書いた54番目のレビューである。2023年1月17日読了。
江戸一新 (単行本)Amazon書評・レビュー:江戸一新 (単行本)より
4120056090

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