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(短編集)

夜に星を放つ



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【この小説が収録されている参考書籍】
夜に星を放つ

夜に星を放つの評価: 3.65/5点 レビュー 43件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.65pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全25件 21~25 2/2ページ
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No.5:
(5pt)

喪失を抱えてそれでもなお生きていかねばならない、そんな激しくは無いが深い痛みをテーマにした短編集

何かを永久に失うというのは失った瞬間や直後よりも、暫く経って日常が戻って来てからの方が痛みを覚える様に思う。失った直後の激しく感情が揺れ動いている時よりもある程度気持ちが落ち着いて何か大切な物を失った世界を生きていかねばならない事を認める時に初めて得る痛みの様な物が間違いなくある、自分はそう思う。

本作はそんな痛みを抱えて生きる人々を描いた短編5作から構成されている。

各章で主役を務めるのは老若男女の差はあれども、共通して言えるのは大切な「何か」を失った、あるいは失おうとしている点だろうか?喪失といっても死別とは限らない訳で、一生に一度得られるかどうかの機会を逸するといった経験も喪失と言って良いかもしれない。

ともあれ、かれらの背景は多様ではある。結婚を間近に控えていた双子の妹を喪った三十路の女性であったり、夏休みを過ごす祖母宅で年上の女性と出会った少年であったり、母の幽霊と過ごすいじめられっ子の女子中学生だったり、妻子が遠いアメリカに去ってしまった男であったり、両親の再婚により実母と別れて生きねばならない小学生であったり……まことにヴァリエーション豊かである。そしてその豊かなヴァリエーションがこの痛みはこの世に生きる誰にでも生じ得るものであるのだと雄弁に物語っている。

読者にとって分かりやすい喪失は死別の痛みであり第一章の「真夜中のアボガド」がそれに当たるだろう。双子の妹を喪って3年が経つにも関わらず、妹が結婚する筈の相手だった村瀬と月命日に会い続ける綾のどこか妹の死を受け容れる事が出来ないままでいる様な姿は何とも居たたまれない。

明確に受け入れられないでいる村瀬に「早く忘れちゃいなよ」「また良い人探しなよ」と言いながら自身も婚活アプリに縋った結果、手ひどい裏切りに遭った事で喪失の痛みがぶりかえし、村瀬に八つ当たりする様な姿は喪失の痛みというのはかくも受け入れ難い物なのだと如実に読者に訴えかけてくる。

しかしその一方で第三章の「真珠星スピカ」は中学生の女の子が母親を喪いながらもその幽霊に見守られる形でいじめを受けながらも一人ぼっちの世界を生きていこうとする姿を描いているのだから死の受容をテーマにしながらも大分色合いが異なる。むしろラストシーンで描かれる仕事に打ち込む事で妻の死を忘れようとしていた父親が流す涙にこそ「受け容れがたい喪失」は凝縮されているのかもしれない。

死別でなくても「おそらくは二度と巡って来ない機会」というのも人に喪失の痛みを与えてくれると訴えてくるのは第二章の「銀紙色のアンタレス」や第四章の「湿りの海」だろう。一期一会の様な出会いでありながら強い思い入れを抱いたにも関わらず想いを伝えられないまま、あるいは伝えても叶えられなかった形で自らの元を去られるというのは年若い読者でも身に覚えがあるのではないだろうか?

「銀紙色のアンタレス」の主人公である男子高校生・真が夏休みに祖母宅で出会った女性・たえに想いを伝えながら叶えられなかった顛末は読者に対して何の説明も無いのだけど無言のうちに「ああ、この少年は一生こ喪失を抱えて生きていくのだな」と悟らせてしまう辺り、作者の筆力を嫌でも思い知らされる。

物語構成上のテクニックという点を感じさせてくれるのは「真夜中のアボガド」や「湿りの海」の様に物語の開始時点で喪失の痛みを抱えていた主人公がその痛みを産み出す欠落を埋めてくれそうな出会いを得ながら結局は再びの喪失を経験するタイプの物語だろうか?

特に「湿りの海」の主人公・沢渡なんかはアメリカ人男性に惚れてしまった妻が娘と共に去ってしまった灰色の時間に色彩を与えてくれそうなシングルマザー母娘に出会いながら結局はその縁も失ってしまうのだから余計に喪失感は強くなる。

より強く主人公を叩き落すのであればまずは高く持ち上げる、というのは物語作りの基本ではあるのだけど第一章の主人公・綾が巻き込まれた交際相手の裏切りも含めて「救われた」と思わせておいて叩き落すのだから作者さんもなかなか良い性格をしておられる。

かように各章の主人公は厳しい経験を突き付けられるのだけれども、それでも重い気分で読み終えずに済むのは各章にちょっぴりの救いが用意されているからかと。「真珠星スピカ」のラストシーンで父娘を見守る様に飛ぶ蛍や最終章「星の随に」の老婦人の遺した空襲の夜に見上げた空の絵は喪失を抱えていきる彼らを見守る存在もいてくれるのだと励ましてくれるような気にさせられる。

世間の誰にでも喪失経験は起こり得るし、その喪失を抱えて生きる人生を強いられる事もまた同様。ただそれでも人生は続いていくし続けていかねばならない。そんな大切な何かを喪って一人残された状態でも歩いていく群像を描いた悲しく切ないけれども、最後にどこか希望の欠片みたいな物が残る短編5作。コロナ禍などで何かを喪った人たちも多いであろうこの時代だからこそ読まれるべき一冊と言えるかもしれない。
夜に星を放つAmazon書評・レビュー:夜に星を放つより
4163915419
No.4:
(5pt)

心に傷を負って生きている人に読んで欲しい

心にできた傷にそっと塗り薬を塗ってもらっているような、そんな感覚になりました。傷口がまだ新しい人には刺激が強いかもしれないけど、傷をもうずっと抱えて生きている人にはいい薬になる気がします。
夜に星を放つAmazon書評・レビュー:夜に星を放つより
4163915419
No.3:
(4pt)

各短編のクオリティーにかなりのばらつきがある

主に、うまくいかない恋人関係や夫婦関係を軸に、生きていくやるせなさと何とか折り合いをつけていく短編5編からなる。それぞれの物語に、似たような境遇の人物が登場もするが、おそらくは人物等の重なりも無い。
 どれも、悪くはないんだが、少しとっ散らかった印象もある。「真珠星スピカ」には母の幽霊が登場して一番シュールだが、私には一番まとまりのない印象だった。対して「湿りの海」は、中心視点人物が男性のせいかもしれないが、私にとっては一番しっくりきた。「湿りの海」のレベルで5編がそろえば、もう一段優れた短編集になっただろう。
 全体を通して私には、「晴天の迷いクジラ」ほどの迫り方をしてこなかった。
夜に星を放つAmazon書評・レビュー:夜に星を放つより
4163915419
No.2:
(4pt)

別れの不条理さ

正直に言えば読後感はあまりよくない。
私自身が子供なのかも知れないけど。
登場人物の誰一人も幸せになれず、誰かの幸せはほかの人の不幸とのバランスになっていて、これが大人の世界とワケ知り顔で納得することはやっぱりできない。
夜に星を放つAmazon書評・レビュー:夜に星を放つより
4163915419
No.1:
(4pt)

著者らしさのドロドロ感が薄まった読みやすさ

女性の内面を描くイメージが強い作家であるが、本作はどれも心に優しさが灯る良い作品の数々。

今までの著者らしさをイメージすると物足りなさはあるかもしれないが、万人受けするいい作品に仕上がっていると思う。
人生の中で傷ついた出来事があっても、それを乗り越えられる光が見える希望が見え心穏やかに読める。
辛いことがあるけど前向きに少しづつ進もうとする今の時代に沿った内容である。

今後この手の作風で行くのか分からないが、こういう作品ももっと描いて欲しい。
夜に星を放つAmazon書評・レビュー:夜に星を放つより
4163915419

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