宙色のハレルヤ
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| 「他人とどう関わるかよりも自分自身にどう向き合うかという問題の方にこそ向き合うべき」とはしばしば言われる事であるけれども、地味に難しいと思う。 歳を取れば自然と他人との関わり方や接し方、あるいはやり過ごし方も身についてくるものだけど自分自身との付き合い方は歳を取ってもそう簡単に身に付かない。むしろ変に社会との折り合いの付け方みたいなものを身に付けた分、自分自身が遠くに行ってしまい人によっては見失いっぱなしという事もあろうかと。 この度窪美澄が発表した短編集となる本作はどうもそういった自分自身との向き合い方が分からない困惑をテーマにした様に思われた。 収録作品は全6篇。直木賞を受賞した「夜に星を放つ」も主人公が女子中学生から妻子を抱えた男性まで非常に幅が広かったのだけど、今回はさらにヴァリエーションの幅が広い。卓球部で汗を流す高校生から寒さの厳しい地方都市で子育てに追われる女性、70歳に手が届きそうな清掃員の男性まで主役に据えてそのどの主役の視点を通しても(全作品が一人称スタイル)破綻が無いのは流石と唸らされる。 ただ、各作品の主人公に共通するのは彼らが一様に「嘘つき」であるという事だろうか?嘘つきといっても政治家やある種のインフルエンサー、職業的詐欺師みたいな明確な意思の下に他人を謀り続ける手合いもいるのだけど、本作の主人公たちが騙し続けているのは自分自身に他ならない。 ……いや、自分自身に対して吐き続けている嘘を貫き通す上で他人を巻き込んでいる部分もあるから純粋に自分だけを騙し続けているとも言い難いのだが、ともかくも彼らは自分自身の想いに蓋をし続けた存在であると言える。 例えば本作には同性愛者を主役に据えた作品が二作ほど含まれているのだが巻頭の「海鳴り遠くに」の主人公で三十代半ばを喪った夫の別荘で過ごす恵美も定年退職後を名門中高一貫校の清掃員として過ごす「赤くて冷たいゼリーのように」の宏もかつては結婚していた事が語られている。 同性愛者が結婚したとて男女の性が成立するかどうかの問題はさておくとして作中で偽装結婚の様な意にそぐわない夫婦としての時間を過ごした彼らは自分に、社会に嘘を吐き続けている存在だと言える。物語は彼らの前に「正直になれよ、お前が本当に望んだ相手はこれだろう?」と神の悪意の様な形で入れ込んでしまう相手が現れる事で転機が生じる。 LGBTQが盛り上がってもまだまだ一般に受け入れられたとは言い難い関係に溺れていく事で目を逸らし続けて来た自分自身と向き合う彼らの惑いにこそこの短編集を通じて作者が見せたかった部分があるのかな、とそんな事を想ったりもする。 こう書くと妙に堅苦しい作品と思われてしまうかも知れないが……窪美澄、意外と濡れ場を描くのが上手いんだな。特に「海鳴り遠くに」で未亡人である恵美が思わぬ形で付き合う事になった画家の絹香の身体に溺れていく描写は「ほおー、これはなかなか」と大いに興奮するものがあった。 自分自身を解き放つという意味ではもう一本の同性愛者を主人公にした「冷たく赤いゼリーのように」は清掃員という仕事を失わないために名門校の中での生徒間のあれこれに「見ざる言わざる聞かざる」を貫いてきた老人がかつての想い人を思い出させる少年との関りを通じて蓋をし続けて来た自分を解放する「自己救済」の物語として成立していた様に思う(主人公自身は解雇を予期しているが満足感を得ているのだから救済と言っても良かろう?) 無論「生々しいのはちょっと」という方もおられると思うので「風は西から」のような男子高校生の失恋と年上のお姉さんの出会いと別れを描いた爽やかな作品もあるよ、と申し上げておく(この年上の女性との出会いと別れというのは「夜に星を放つ」でもやっていたし、作者お気に入りのテーマなのかな?) しかし極めつけは性欲の強過ぎる彼女と別れた(というか捨てられた)冴えないサラリーマンがいきつけの焼き鳥屋の従業員の女性をひょんな切っ掛けからストーカーから守るために自宅に住まわせる羽目になってしまう「パスピエ」だろう。かつては青森から出てきてバレリーナを目指していたという素性が次第に明らかになり男女としての仲も深まっていくので「どうなっちゃうの、この二人?」と思っていたらまさかのオチが! ……いやー、これは本当にアゴがカコンと落ちた。何かが解決するようなオチではないのだけど「こんな結末があるんかい」と暫く呆然とさせられた事だけは間違いない。男は女性の嘘を見抜くのが下手な事は否定できないが、ここま一から十まで綺麗に騙されると思わず拍手がしたくなるというか。 どの作品から読んでも良いし、どの作品を読んでも「自分自身に対して吐き続けている嘘」というものに対して考えさせられる所が大きい短編集。サクサク読めてしかも食べ応え十分なので手に取りやすさだけは保証付き。 | ||||
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