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心の砕ける音
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心の砕ける音の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.91pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全8件 1~8 1/1ページ
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本書は、トマス・H・クックが『記憶』シリーズ4作品の次に書き、日本では「このミステリーがすごい!」の’01年海外編で第5位にランクインした作品。 1930年代後半、舞台はメイン州の小さな港町。性格こそ対照的だが、穏やかな中流家庭に育った仲のいい兄弟がいた。ある日、どこから来たとも知れぬドーラと名乗る若い女性がこの町に住みつく。やがて彼女をめぐり、ふたりの兄弟の運命は大きく揺れ動き、弟は血とバラの花の海の中で絶命し、兄はその死と、そして同時に失踪したドーラの謎に取り憑かれる。 物語はこの兄‘ぼく’がそれらの謎を解くため、ドーラの足跡を追うというかたちで語られる。この探索は、ドーラの過去へと伸び、ついにニューヨークからカリフォルニアへ、彼女の出生地までさかのぼる。そこでかつて起こった悲惨な事件が明らかになる。そして物語の真相(ドーラの素性と弟の死の謎)は予想もつかない、本格謎解きミステリー並みの意外なものだった・・・。 <現在>の‘ぼく’のドーラ探索行の合間、知らないうちに、この1年、ドーラが現れてから失踪するまでに‘ぼく’の周りで起こった<過去>の事件やエピソード、それらについてドーラと交わした会話などが交錯する。このあたりの表現手法は『記憶』シリーズでみせたクック独特の情緒が漂う、ミステリアスな作品世界である。それゆえ、事件の薄皮が1枚めくれるたびに、ドーラや弟や‘ぼく’の人生の薄皮もめくられていくような不思議な感じがするのである。 またエンディングは『記憶』シリーズとは異なり、温かい余韻をはらんでいるのが特長的である。 本書は『記憶』シリーズを超えたクックの名作である。 | ||||
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最愛の弟が殺されて、彼が愛した女性が姿を消した。必死に彼女の行方を追う兄の脳裏には、彼女がふらりと町に現れてからの日々が走馬燈のようにめぐり…。 T.H.Cook お得意の、謎が多く強く惹きつけられる「運命の女性」登場です。例によって過去と現在を行き来しながら、思わせぶりともいえる主人公の一人称で、 少しずつ真実が明らかにされていきます。またかーと思いつつ、その卓越したストーリーテリングの罠にかかると、読み始めると止まりません。 ミステリーとしても逸品で、油断していると、最後にはやられたーと思い知らされてしまいます。夢中になって読む楽しさを味わうには格好の一冊といえるのではないでしょうか。 それにしてもwowowドラマ(見てないのですが)のキャストはまたしても鈴木京香でした。うーん、確かに謎の女っぽいけれど。薄幸そうな小雪あたりでは、どうでしょうか? | ||||
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とある田舎町の兄弟、そしてそこに現れた女性の物語。 謎の多い女性。彼女はどこからきた、何者なのか。そんなことを気にせずに、彼女への愛を貫く情熱的な弟と、他人への不信感のかたまりのような兄。ところどころちりばめられる、終局への予感。兄弟それぞれの愛情、ねたみが交錯しながら、兄による一人称の文章は進んでいきます。このあたりは、クックの他作品にも見られる独特の「暗さ」がありました。で、またこのパターンか、と思ったら大間違い。 四部構成の物語、三部を過ぎてから、物語は急速に濃密さを増し、すべての要素が凝縮していきます。すべての謎が解けるその瞬間まで、真実を知るものは誰もいません。 物語の先が読めない心地よさ。ストーリーに裏切られる爽快さ。どきどきどきどきして、一気に最後まで読んで、眼はうるうるで、本を読むことがこんなにも幸せなんだと感じるのです。ああ、読んでよかった。 | ||||
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読み終わった後、数日たってもまた思い出し考えてしまうようなずっしりとした読後感を残す物語を生み出す作家はそう多くない。翻訳物になるともっと数が少なくなる。描かれる文化や生活習慣がやはり日本と異なっており、翻訳者の翻訳というフィルターがかかることも影響しているだろう。そうしたハンディを乗り越えて、重厚な読後感を残す作品を提供する作家。クックはそうした海外ミステリー作家のひとり。本作も例外ではない。物語は弟の死の真相を追うため、職を投げ打った兄が女を追いはじめるところから始まる。女を追うストーリーに、過去の回想シーンをカットバックのように織り込んでいくクック得意の表現。幾重にも織り込まれるストーリー。やがて迎える予想を越える結末・・・。印象深いラストシーン。謎めいた女を追うというストーリーは宮部みゆきの「火車」を思い出させた。心にぽっかりと空いた暗い穴の、ぼろぼろと崩れ落ちる淵を歩くような感覚・・・描かれる心象風景がずっしりと心に残る。また、結末近くの文章からとられたと思われる日本語題名がすばらしい。 | ||||
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読み終わった後、数日たってもまた思い出し考えてしまうようなずっしりとした読後感を残す物語を生み出す作家はそう多くない。翻訳物になるともっと数が少なくなる。描かれる文化や生活習慣がやはり日本と異なっており、翻訳者の翻訳というフィルターがかかることも影響しているだろう。そうしたハンディを乗り越えて、重厚な読後感を残す作品を提供する作家。クックはそうした海外ミステリー作家のひとり。本作も例外ではない。 物語は弟の死の真相を追うため、職を投げ打った兄が女を追いはじめるところから始まる。女を追うストーリーに、過去の回想シーンをカットバックのように織り込んでいくクック得意の表現。幾重にも織り込まれるストーリー。やがて迎える予想を越える結末・・・。 印象深いラストシーン。謎めいた女を追うというストーリーは宮部みゆきの「火車」を思い出させた。心にぽっかりと空いた暗い穴の、ぼろぼろと崩れ落ちる淵を歩くような感覚・・・描かれる心象風景がずっしりと心に残る。また、結末近くの文章からとられたと思われる日本語題名がすばらしい。 | ||||
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ミステリー、恋愛小説としても上質。兄弟と謎の女の三角関係、というと陳腐な設定のように思えるが、巧みな構成と全編をおおう悲哀。とても文学的。文章が美しくてスキがない。「私の心が骨で出来ていたとしたら、砕ける音が聞こえただろう」というところは震えた。芸術的なバットコントロールで三塁線を抜く三塁打。 | ||||
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この著者の文章力には驚く。主人公の意識の流れを追いかけ過去と現在とを何度も入れ替えながら、主人公が事件の真実にたどり着こうとする様子を、雄弁であるが落ち着いた文体で描ききっている。複雑だが関連するような内容は、かなりの長文で処理をしているが、読みにくくはない。この文章に触れるだけでも読む価値がある。ストーリーは静かに進むミステリーである。荒々しくはないし、どきりとするところもない。しかし、結末がどうなるのかが妙に気になる作品である。心理的描写を中心に進むミステリーといったところだろうか。ミステリーなのでこれ以上種明かしをしないが、面白さは保証できる。ペーパーバックを読むのに慣れていない人はことばの点で難しいだろう。しかしある程度のペーパーバック経験者には強くお勧めする。 | ||||
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クックの"記憶"シリーズは、過去の記憶に縛られる人間の切なさが心に残る作品だった。本作は「~の記憶」とは銘打たれてはいないが、その語り口は"記憶"シリーズと共通している。やはり過去に暗い陰のある人物をめぐる物語だ。内省的で現実的な性格の主人公と直感的でロマンチストな性格の弟。弟は母に愛され、自分は愛されていないとて感じている主人公。なにもかもが対照的な兄弟の前に一人の女が現れる。どこか陰のあるその女は、2人にとって「運命の女」となっていく。ミステリとしては「運命の女」の過去の謎とそれを明らかにしていく過程がメインとなるのだろうが、本作の読みどころは主人公の内面を細やかに丁寧に書いているところだろう。現実的と自分では思っていた主人公が、「運!命の女」との出会ったことで心が変化していく様子が描かれていく。ミステリの重点を"人の過去"から"人の心"に移している点が、"記憶"シリーズとの違いになっている。そして、クライマックスの主人公が「心が砕ける音」を聞く場面。それまで丹念に描いていた主人公の内面を、ここではあえて描かず情景描写にとどめている。読者に様々な受け止め方ができるようにしているわけで、このラストシーンについて他の誰かと語り合いたくなった。最後にこうした場面をもってきたのも、前作までとの大きな違いだろう。じっくりと味わって読みたい一冊だ。 | ||||
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