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東京自叙伝



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【この小説が収録されている参考書籍】
東京自叙伝
東京自叙伝 (集英社文庫)

東京自叙伝の評価: 3.68/5点 レビュー 28件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.68pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全19件 1~19 1/1ページ
No.19:
(4pt)

饒舌な語り口で一気に読ませるエンタメ作

「純文学」と言う視点でどうなのかはわからないが、作者特有の饒舌な語り口で一気に読ませるエンタメ作。

 これも「地霊」と言う視点で学術的にどうなのかはわからないが、実在した人物を含め地霊が実態化したものとして同一の私として語られる「東京」の自叙伝とは斬新で、タイトルでは全く予想も付かなかった。内容は現代史の実録ルポみたいなものではあるが、とても楽しく読ませてもらった。地霊であるから人間の道徳など無関係と言う免罪符を持ち、自分勝手に暴れ回る無責任ぶりは、ある意味痛快。

 もともと太古から東京に存在し動物でもあった地霊が、福島原発事故を鼠として体験し、原発作業員となる最終章は、分量は乏しいが、東京が繁栄の影で実は滅んでしまうと言う、未来予言のような内容で、オリンピックが延期となった今読むと、暗示的で実に興味深い。ただ、エンタメ作としては尻切れトンボな感は否めないと思う。
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4087455858
No.18:
(4pt)

卓越した発想

こんな視点で書かれた小説は初体験でしたので、あえて説明しません。終わり方が良ければ★5にしたのに。
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4087455858
No.17:
(4pt)

壊れるところを見てみたい

登場するのは6人の人物。1人1章で、明治維新から平成23年の東日本大震災までの歴史を語り継ぎます。といってもこの作家の場合、一筋縄ではいきません。
実は語り手である「私」は、東京の「地霊」。「地霊」が6人の登場人物に憑依(?)して、それぞれの半生を語るわけです。しかもこれ、Aさんが死んだら次はBさんへ憑依~みたいな輪廻転生・リレー方式ではなくて、Aさんである「私」とBさんである「私」が同時に存在するんだからややこしい。おまけにこの「地霊」、鼠やら猫やらカゲロウにだってなります。
この「私」なんですが、かなりテキトーで、利己的、人間的な温かみというものがほとんど感じられない。安易に感情移入できないヤカラなんですね。
「鳥類学者のファンタジア」あたりから作者のトレードマークとなった講談調の語り口は健在です。ユーモラスな語り口は、「桑潟幸一」など作者お得意の情けないけど憎めない中年男にどハマりだったんですが、本作では逆に、語り手の非人間性(「地霊」だから当たり前か)、得体の知れない不気味さを際立たせています。
圧巻は最終章。ラストを飾るにふさわしい荒れっぷり・壊れっぷりです。原発作業員の「郷原清士」は、福島原発事故に際し、「他の者がなんとか原子炉の暴走を押しとどめるべく懸命な努力を繰り返していた傍らで、むしろ一層の破滅を熱望しつつ、お祭り気分の有頂天で」(p.435)ではしゃいでいた。防護服も作業服も脱ぎ棄てて下着姿でいたところで捕まります。なんて不謹慎なんでしょうか。狂ってます。素敵です。
さらに郷原は、原発事故の結果廃墟となった東京を見出します。
「あれは個人が見た幻覚ではなく、いわば東京と云う街そのものが見た夢であり、東京が想起した記憶であり、その意味でリアルな東京の現実である」(p.457)。
薄皮一枚剥けばこういう世界が現実に起こっている、と言います。確かに非常にリアルで、暗い気持ちになります。しかしここで作者は、安易な希望を口にしたりはせず、さらに読者を突き放すのです。
「心配するとしたら、壊滅後の東京の行く末。しかし壊滅したからと云って東京の地がなくなるわけでもないから、これも全然心配は無用。(略)なにもかもが崩壊し、人間が去った後にも、廃墟には鼠が走り、放射性物質まみれの土中でミミズや蛆虫は蠢く」(p.458)
そりゃ、人間に束の間憑依していただけの「地霊」からすれば、人間がどうなろうと、痛くも痒くもない。この非情さ。この作品は、安っぽいヒューマニズムを完全に放棄してます。
こんな世界は嫌だ。絶対に。でも、こんな風になった世界を見てみたい気もする。
普段は抑圧されている、破滅願望を刺激します。文学はかように危険なものなのです。

難があるとすれば、冗長に過ぎる面と、とくに陸軍将校「榊幸彦」と戦後日本で暗躍した「友成光宏」の章の記述が、参考文献の引用のようで、彼らが絡むリアリティが薄いこと。しかし、大事件を取り上げては、これも「私」がやった、あれも「私」がやった、と言い続ける「私」の語り口にはテキトーさ、胡散臭さが溢れており、語り手の「誠実さ」を無邪気に信じる読者を嘲笑っているのではないか、と言えば穿ちすぎでしょうか?
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4087455858
No.16:
(5pt)

おもしろい

ほかの方のレビューにもありましたが一気に読めます。 確かに後半は拡散しすぎて焦点がぼけた感はありますが、大変おもしろい視点で書き進められています。
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4087715590
No.15:
(4pt)

 過去の東京・今の東京

東京に居たので、過去の東京・現在の東京の様子がわかり懐かしく読みました。
今度の東京オリンピックを目標に元気で過ごしたいと思います。
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4087715590
No.14:
(5pt)

凄い!

ここまでやれば文句はない! 次回作品が、待たれます。純文学だよね!
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4087715590
No.13:
(4pt)

主人公がみんなイヤな奴。でも読むのをやめられない。

6人の主人公がでてくる連作小説。
これがまあ、読んでいて笑っちゃうようなイヤな奴ばかり。姑息、卑怯、手前勝手、無責任…小汚い悪徳にまみれた6人の主人公が、明治維新から3・11大震災までの各時代を生きているさまを、ひとり語りする。とぼけた、独特の小狡さを感じさせる語り口なんだけど、読むのをやめられない。作家の芸です。
実はこの6人は、東京の地霊が憑依したものたちで、いわば同一人物の転生ともいえる、という設定。「東京自叙伝」というタイトルは、そこからきている。

第1章は柿崎幸緒(さちお)という旧幕臣が主人公。上野寛永寺にたてこもり、脱走者を成敗するほどの熱烈な反官軍なのに、勝ち目がないとみるとスイと転身して新政府の役人に。
第2章は榊春彦という陸軍参謀。ノモンハン事件など、無能・無責任な作戦に狂奔して多大な犠牲者をだしてもテンとして恥じることなく、「つまり勝てる戦争じゃなかったわけです」と口をぬぐい、日本人の島国根性なるものに責任転嫁する。もう、小説の主人公としてだってむかつくようなイヤなやつです。
しかし、小説としては、この2章までがバツグンに面白い。
第3章からは戦後で、焼跡・闇市の愚連隊・暴力団、曾根大吾。第4章、右翼フィクサーの参謀で「原子力の平和利用」の仕掛け人、友成光弘。第5章、バブルに踊るディスコの女王、やがてギャンブルに狂い、保険金殺人に走る女、戸部みどり。第6章、派遣の原発ジプシー、3・11の福島原発事故に遭遇する郷原聖士(きよし)。

各時代の「典型的東京っ子」を、こういう人物像に仮託したわけです。
しかし、残念なことに、だんだんパワーダウンしてやや退屈と感じ始めます。評者が生きてきた時代だから新味を感じないせいかもしれない。それぞれの時代相を浮かび上がらせようとして、あれもこれもてんこ盛りにする書き方に食傷したようにも感じる。
最終章は、暗鬱です。福島原発事故現場と東京が重ね合わせられ、薄皮一枚を剥ぎとればメルトダウンし収拾不可となった事故現場そのものが東京だという暗喩。
放射能を浴びて喜び興奮するネズミたち、富士山噴火、終末の絵図が描かれます。

「なるようにしかならぬ」ー主調音のように響くことば。成り行きにまかせ、滅びるまで流される。それが東京であり、東京っ子でしょという批評でもある。
ウーム。希望なさすぎ。わたしにとってはホームラン性の大ファールという作品でした。
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No.12:
(5pt)

2014年ベスト

これ以上ないというくらいの痛烈な批判。圧巻。2014年のベストでした。
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No.11:
(5pt)

物語として書かれた究極の日本人論、もしくは、東京論。

日本人の持つ危うさを見事に描ききっている。
小説の形はとっているが、日本人について、もしくは、東京について、深い考察が見える。

東京の地霊としての「私」。
鼠がキーポイントといえるか。

小説という事で、著者は、自由に、日本人を、東京を捉え書くことができている。
いわゆる東京で起きてきた事々を、揶揄するような、描き方が面白かった。

拡張していく東京、現代に近づくにつれ、膨張し、勝手に増殖していく。
果ては制御を自分自身できなくなっていく様は圧倒的で、緊張を強いられた。
江戸なのか、東京なのか、それとも、日本そのものなのか。
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No.10:
(4pt)

日本人の無意識を支配する"日本の神様"の視点が斬新/秀逸でした。

縄文時代に野川に棲み、平将門でもあり、数々の大地震や富士山噴火を経験し、八百屋お七として火をつけた"東京の地霊"の自叙伝。総体として、東京に生きる鼠や猫でもあり、ずるくて、調子のいい、破滅的な特定の人だったり、クウキと一体化するゾンビのような大勢だったり、メディアを使って、時代の勢いを参謀として煽り、「東京が世界を支配する」と、陸軍叛乱未遂/ノモンハン事件/東南アジア侵略/日米開戦/ガダルカナル玉砕/インパール作戦を企画し、戦後は暴力団/政商/宗教団体の形で、TVの普及/原発導入/岸内閣打倒デモに暗躍。再び「東京が世界を支配する」とバブルに酔って、ジュリアナ東京で集団動物のように踊り狂い、新宿の雑居ビルに火をつけ、秋葉原などで無差別殺人をし、派遣労働者として福一で被爆します。

 丸山眞男さんが日本の古層/執拗低音として見つけた「なる」/「いきほい」と、加藤周一さんが日本の伝統文化から見つけた「今・ここ」/「大勢順応主義(conformism)」とを小説にすると、この小説のようになるのではないでしょうか? 短い歯切れの良い文章に惹き込まれながら、日本の(原始的/無責任)ファシズムの伝統/歴史を、"日本の神様"の視点で見られる斬新/秀逸な本だと思います。
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4087715590
No.9:
(5pt)

エンタテインメントを装った大胆不敵な傑作

「私」がそこらに遍在する、こういう手があったのかと作家の着想にびっくり。
東京の地霊を装っているけど、端的に言えば日本そのものの自画像なんですね。
長いもの(権力)に巻かれ、なるようにしかならぬ、建国以来の庶民の生き方です。
全体を読まず部分的に切り取れば、あらゆる方面から矢が飛んできておかしくない。
右からも、左からも、匿名クレーマーからも、「オレを茶化しやがったな!」って。
だって鼠だもの、エンタテインメントなんだよ、今は風流夢譚の時代じゃないよ。
ユーモアがわからないの?って言ったって、それが分かるなら矢を放たないし。
先日ラジオで作家のフルートを聴きました。
ちょっとウディ・アレンと重なりました。
民主主義陣営のはずの現代日本で、言論が一色に統制される前に(もうそこまできている)、この作品のことをみんなに知ってほしい。
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No.8:
(4pt)

地霊という奇想天外な発想に脱帽!

芥川賞受賞「石の来歴」でも感じましたが、基本的に大変に饒舌な文体の作家さんです。自分のテンポに読者を引きずり込んでいく、テクニックは正にプロの作家であると感心したものです。
この大作も、著者の面目躍如といった感じの奇想天外なお話が続き、あっという間に読ませてくれます。日本史の流れの中を、東京という土地に住む(?)地霊が虚実取り混ぜて渡り歩くという着眼点がすごいです。それも、妙に説得力にあふれているから、不思議。「え、ほんとう?」なんて思わず独りごちたりして・・・・・。
この夏お勧めの1冊ですね。

ただ、個人的には文末の敬体と常体の混在は、最後までなじめませんでした(これは、私の仕事の影響もあるかも、ですが・・・・)。
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No.7:
(4pt)

東京自叙伝

以前奥泉光氏の本を読んだことがありますが、次から次に読み進み、飽きませんでした。この『東京自叙伝』も、最後まで読み進みました。後半になって次第に意味不明な迷路に入っていきますが、前半の物語をしっかり読んでいると、何事にもうなずけます。なるようにしかならない。という言葉が出てきますが、戦中戦後の世相のありさまなど、興味が尽きない語り物でした。
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No.6:
(5pt)

圧倒的完成度の総合小説 ※ただし日本人に限る

「どちらにしたところで東京は、と申しますか、日本はいずれ天変地異とともに滅び去るわけだから、あまり深刻に考えても仕方がありません。」(第四章、245ページより)

奥泉光といえばなんといっても冴え渡るのは流麗なる筆致と眩惑するようなメタフィクションの構造。しかし作中で惑うのはあくまで登場人物(=個人)であり、ともすれば顕微鏡で拡大された自意識のようなものじゃないか――そんな誹りを受ければ成る程仰る通りなわけで、スケールという点で見れば幾分見劣りするじゃん、というのが一般の評価かもしれない。まあ、クワコーシリーズだけで評価されれば「なんだ胡乱な、なんちゃってミステリーか」と判断されるかもしれないが。
しかし本作の主人公は東京という地霊(のようなもの)であり、遡るは縄文弥生、大陸が大和と呼ばれていた頃にまで遡る『東京』の一代自叙伝だ。

地霊がついた人間は要領がよく即物的で、驚きのスピードで悪行に手を染める。そしてその結果知り合いが死んだとしてもまったく心を痛めず、「マア、そういう運命だったんでしょう」「その方が世の中のためになったのです」などと嘯き、平気の平左で夜遊びに繰り出したりする。さながら試練と必然性のないピカレスクロマンのようでもあり、テンポよく悪事と成功、立身出世を繰り返していく。だがそれも混乱と闘争の世だから許されたことであり、つまり平和と錯綜の21世紀では……とまあ、時代時代の事件の連続、まるで日本の近代史の総決算のようで、読書中はただひたすらにオモシロイ。幸福な時間が続くことだろう。

鼠、漱石、軍国主義、天皇、竹槍、ゲイ、などなど過去の作品でも使われてきた単語や知識が、今作の中でもちらほらと散見される。しかしメインではない、あくまで添え物のパセリみたいなものだ。この作品は総合小説であり、メタフィクション小説でもあるが、今回そのターゲットなっているのは我々読者だ。奥泉光は隙あらば我々を鼠人間にしようとしている――というか、読み終えてから、「自分、ネズミ人間じゃないッス。真人間ッス!」と胸を張って宣言できる人間がどれだけいるだろう?

彼、東京はところどころでこう宣言している。「歴史には残っちゃいませんけど、それは私です」と。なるほど東京、というか日本という国家は「なるようにしかならない」の思想とともに発展してきたのかもしれない。
本書の最後は、彼の抗弁、というよりか予言で終わっている。もし「なるようにしかならない」が蔓延し続ければ、『東京』の読みどおり、最後にはネズミが踊り狂う世の中が待っているかもしれない。それが笑い飛ばせない、不気味なリアリティを持っているのだから、まったく奥泉光は恐ろしい。自分の知る範囲じゃ2014年で出た中で一番の、鳥肌ものの小説です。
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4087715590
No.5:
(4pt)

読み進むにつれてより面白くなる小説

第一章から不思議な世界に自然と入り込んでしまう面白い小説。
自分の前世が人間以外の生き物だったのではないかと思ったことが有る人は多く居ると思うが、そういうことではなくて「私」が東京の自霊で様々な生き物に取り憑くというか、そのものになってしまい、しかも、同時に生存するという設定が面白い。読み進むにつれて、タイトルの意味が分かってきた。
「私」は主人公に取り憑いた?上で、歴史上の様々な政治経済事件と関わり、戦中戦後、そして、現在の社会の裏側も見せてくれる。ダイナミックな場面展開がまた「私」を通じて、様々な時と場所に飛び込ませてくれる。それぞれの「私」が関連して物語が進むところも複雑ながら想像力を掻き立てられる。
後半になると、様々な「私」が入り乱れて来て、ごちゃごちゃになる感じが、鼠の生態と合わさり、混沌とした東京の姿を表しているような感じがする。それまでの話からすると、最後の無差別殺人の部分が何と無く中途半端な感じで残念に感じたが、全体としてはとても面白く、一気に読み終えた。
自分も「私」の可能性があると、感じさせるのは自分だけではないだろう。。。
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4087715590
No.4:
(5pt)

風刺の効いた卓越した日本人論

すごい小説が現われた。主人公は人間ではない。東京である。正確に言うと東京の地霊である。太古の昔から東京に住む地霊がネズミや蛆や猫や人間に姿を変えてこの都市を影で動かしてきたのだ。ここでは幕末から明治、大正、昭和、15年戦争を経て、戦後の混乱期、高度成長期、バブル経済期、そして3.11および福島第一原発事故までの間、東京の地霊は自分がどのように考え行動したのかを歴史的事実をふんだんに示しながら物語っている。まさに東京自叙伝。奇想天外、抱腹絶倒、虚実取り混ぜたパロディであり、壮大な実験小説なのである。

地霊は特定の人物に憑依するが、時代と共に次々に人物を乗り換えていく。その地霊に乗り移られた6人が順に自叙伝を語る。そして、それぞれの人物は関係し合うという展開になる。たとえば陸軍参謀の「私」が隠匿した物資を後年に別の「私」が掘り出して大儲けする、という具合である。しかし、後半になると地霊は複数の人物に同時に憑りつくのでややこしい。そのために「私」が「私」を殺すという事件まで起こる始末だ。最終には地霊は大量のネズミの群れになっている。ネズミなら東京が廃墟になっても生きていける。

地霊が姿を変えた「私」は揃って、わがままで計算高く、無責任で、無反省、そして自己愛だけは過剰である。繰り返される火災、地震、戦争の中で人が死のうが不幸に陥ろうが「気の毒なことをしました」「仕方がなかった」と片付ける。思想も善悪も道理もまったく気にしない。視野が狭く、自意識過剰で思慮深くないから物量ではるかに勝るロシアやアメリカに戦いを挑み、コテンパンにやられる。その経験は蓄積されず、経緯から学ばず、過ちは繰り返す。作者は毒のある言葉で日本人の姿を風刺しているのである。

最初の章から5章まではすべて最終章の「事件」への伏線であったと言う。その「事件」とは2014年3月11日の福島第一原発の事故である。「私」は原発作業員として事故対応に当っている。この原発も「私」がアメリカにそそのかされて「正刀杉太郎」に命じて「原子力の平和利用」を掲げてつくらせたものだ。ここにも思慮の浅さで目先の利益に飛びついた過去がある。福島原発から東京に戻った「私」は原発事故によって廃墟になった東京でネズミの大軍を幻視する。この大事故があっても懲りない日本人は無節操、無反省から滅びていくのだ、とのメッセージが読み取れる。日本人の「なるようにしかならない」とのいい加減な特質は変わらないからだ。奥泉氏の描くこの醜悪な未来図はもちろん「そうであってはならない」という私たちへの警鐘である。この作品はパロディの体裁をとっているが、壮大な構想に基づいて濃密、洒脱な文体で説得力のある日本人論を展開している。多くの人々に読まれるべき傑作である。
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4087715590
No.3:
(4pt)

東京と云う名の日本人論

本書は、複数の人間また数多の動物として意識を共有する「私」を通じた、幕末から3.11に至る日本の歴史を描いている。
とはいえ、虚虚実実というか、有名無名・有象無象の出来事・人物を巧みに換骨奪胎した架空の歴史であり(なにせ、歴史的出来事の多くが「私」の仕業となっているのだから)、むしろ、歴史の中心にいた人物の自叙伝をパロディにしたものだろう。

本書はパロディであるとともに、無責任で何事も反省せずに諦念にも似た形で受容していく日本人論でもある、自意識の拡散を繰り返し人格崩壊から犯罪へと踏み出していき、ラストでは「私」の妄想ではあるが福島原発事故で焦土と化した東京と重ね合わせることで、成り行き任せの日本人の行き着く果てをシニカルかつ破壊的に描き切ったストーリーは大変読み応えがある。

著者が、いわゆる日本人論を核としたのか、それすらもパロディの素材としたのか、見極めづらいところだが、私としては、架空の名前(正刀杉次郎のように分かりやすいものはわずかで、昭和史をよく知らないと多くの出来事がモデル的にはあったことに気付かない人も多いのではないだろうか)と巧みに組み替えられた出来事によるパロディを多く評価したい。
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4087715590
No.2:
(4pt)

奥泉光、堂々の新境地。

東京の「地霊」の一人称という奇抜なスタイルで、今そこにある日本を描く、
ヴォネガットの『ガラパゴスの箱船』を彷彿させる痛快風刺小説。

「私」こと東京の地霊は、ボディスナッチャーよろしくくるくると宿主を替えるのだが、
その中でもメインとなる語り手が6人いて、それぞれが独立した一章をなしている。
あえて名前をつけるならば、幕末編、第二次大戦編、戦後混乱期編、
高度成長期編、バブル経済期編、2000年代編、といったところだろうか。

近現代の日本の大きな出来事をダイジェスト的に追いながら、
史実と虚構を緻密に織り交ぜ、時空を股にかけた壮大なパノラマとして
再構築してみせた著者の力量は見事と言うほかない。

本作の終盤、現実の風景の向こうに透けて見える廃墟と化した東京の光景は、
著者のデビュー作、『地の鳥、天の魚群』中で、いささか唐突に挿入される、
鳥の足にびっしりと埋め尽くされた荒野のイメージとぴたりと重なる。
破滅の予感と隣り合わせの笑いは、氏が一貫して扱ってきたテーマであろう。
実力はありながらも、引き出しが少ないというか、端的にワンパターンな作風が
難であった奥泉氏だが、本作で一歩突き抜けた感がある。

将門公から某有名ネズミキャラまで、徹底的に茶化してみせる氏の筆致は
まさに怖いもの知らず。人を選ぶ作品ではあるが、気になったならばぜひ一読を。
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4087715590
No.1:
(5pt)

これは間違いなく傑作だ

3.11を出発点にして書かれた初の奥泉作品。
自らの虚栄心を満足させるために国民を騙し続け、
一切反省せずに邁進してきた「東京」の地霊が主人公である。
彼は、地震や火災が大好きで、高層ビルや道路でオシャレして、
高いところからその姿を眺めることに狂喜するナルシストである。
明治維新、太平洋戦争、高度経済成長、バブル経済などが
そんな無責任キャラ「東京」の地霊によって引き起こされたことが
乗り移られたさまざまな人物の証言によって饒舌に語られる。
そして、「東京」は、福島原発事故でもあいかわらず反省しないし、
その経験から何も学ばない。そのことを述べた最終章が
分量的に乏しく、失速感があるのは残念だが、これは間違いなく傑作だ。
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4087715590

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