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ヒューマン・ファクター
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【この小説が収録されている参考書籍】
ヒューマン・ファクターの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.14pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全35件 21~35 2/2ページ
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元MI6のオフィサーであったグリーンが、元同僚でありソ連の二重スパイであったフィルビーをモデルに描いた傑作。スパイものといっても007のような安っぽい派手さはまったくなく、二重スパイが追い詰められていく様が見事に描かれている。主人公のカースルは、グリーンがモラリストと評したフィルビーそのものだ。二重スパイは自分の国家を裏切らなければならない。しかし国家とまではいかなくとも、家族や友人を裏切ったことのある人間とフィルビーはどう違うのか―グリーンの主張はこのあたりにあったのではないだろうか。 | ||||
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解説で、脚本的と評されているように、淡々とした、しかし画面に常に緊張感が溢れているような映画を見ているような感じで読ませられる小説です。淡々とした描写、大きなことが当初、特に何も起こらないストーリー、しかし一人一人の登場人物の描写が端的で、象徴的であって、一場面一場面、何か大事なものが見落とされているのではないかという不安感と緊張感が支配しています。一気に読みました。後半は動きが加わり、場面展開も早くなるのですが、ここはここで、くるくると凄いスピードで場面が変わり、息つく暇もありません。そして一気にクライマックス。秘密の組織で生きる人々とその家族の模様が描かれていて、その人間模様が悲しく、興味深いです。 | ||||
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【フィルビーとグリーンの職歴について】1930年代、スペイン内戦時、英国情報部は自国の元コミュニストを大量採用した。ファシズムを共通の敵とするソ連と連絡を円滑にする為である。便利な存在だが場合によっては二重スパイになりえる場合もある。裏切りモノの処置は通常、以下となる。前回盗難情報の信頼性を落とす為、まず処刑を脅迫に三重スパイとなる事を強制される。敵が応じて四重になれば、さらに味方は五重スパイとして利用する。裏切りは借金であり、債権者は自殺は赦しても破産は赦さない。その惨めさは多重債務者のそれに似て、債務の増加は人間性を破壊し廃人に追い込む。1944年初頭、当時、上記事情で英国情報部に雇用済みのオックスフォードの元左派学生、グレアムグリーンは、直属上司ケンブリッジの元左派学生キム・フィルビーから「もっと偉くなり、上席を追い出して所属課を乗っ取ろう、僕らにはその才能がある」と誘われる。グリーンもフィルビーも互いの共産シンパの経歴は知り抜いている。だが英国情報部とは・・・英露100年戦争の元締め、ロシア革命を死産に終わらせようとしたソ連の敵の親玉である。課をのっとる事は、戦後、ソ連と戦うことであり、自身の青年時代の理想主義を完全否定することにつながる。論理的には、当時、以下(A)(B)の疑問がグリーンに生じると思う。(A)目前のフィルビーは理想を捨てた出世目当ての安い男なのか、(B)青年時代の理想の追求と、理想に敵対する英情報部内の出世が矛盾しない「共通解答」なのか。グリーンがいずれの解答を、友人の肌感覚で得たか不明だが、44年6月4日グリーンは情報部をキャリアの絶頂で突如辞職する。その19年後、フィルビーは亡命(1963)、「解答(B)英国情報部に潜入のソ連のモグラ」だとモスクワで記者会見を開く・・・。【本書について】いかに作者が否定しようと本書(1978)は、フィルビーをモデルにしていると思われる。主人公の婚歴は、1934年、逮捕寸前の女共産主義者を偽装結婚で、ウィーンの反共警察から救い出したフィルビーの義侠心を連想する。その仲間の縁故で、ロシア情報部管理官に雇用される過程もそのままに見える。なら小説のラストで、自身の正義の証であった妻子を英国に抑留人質に取られる孤独、主人公が亡命先でロシア人から示唆される「君はもっと大きなスパイゲームの駒に過ぎなかった」は、何らかの実在の歴史の反映ではないのか。例えばサタデイイブニングポストが1964年2月15日号で私見した「(彼は最後までスパイを自認しなかったが)フィルビイの正体は1951年に暴露された。以降、彼は情報部を馘首され、家族も養えぬぎりぎりの貧困のなかで英情報部の何らかの復讐的情報戦に利用された。その恐怖に耐えられず1963年にソ連に亡命した」などではないかと、評者は思う。本作で描かれるのはル・カレ風の「祖国を裏切った怪物」ではなく、青年時代の理想と侠気から危険なスパイゲームに手を出し破滅していった個人の記録である。グリーンもフィルビーも二重スパイの末路は、<実務者>としてよく知っていたはずである。ゆえに44年6月、グリーンは元共産シンパとして危険性を察知し、冷戦前夜の情報部を辞職したかと評者は想像する。作中、情報部の残酷なスパイ狩りに憤り、辞職を考察する大佐の心境がある。あるいはその描写に一部合致すると思う。さらに論理的には・・・44年初頭、グリーンは「知っていた」のではないか。上席人事部への<告戒義務>を避ける為に、罪の覚知前、共犯前、リクルート前、カソリックらしく辞職したのはないか・・・とも思うが無意味な憶測か。この小説はグリーンの友人への慰撫であり、鎮魂である。大変個人的な小説で、あるいは亡命直後の1963年中には書き上げたが、78年まで出版を見送ったとする風聞もある。本当かも知れない。86〜88年、ゴルバチョフの許可でモスクワで2人が再開し、代わらぬ友情を保てたのと、内容的には矛盾しないと思う。 | ||||
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週刊文春1979年 総合6位イギリスの諜報機関に勤めるカッスルは、前任地南アフリカからつれてきた妻セイラと息子サムとともに、変化の乏しい、つつましやかな日々をおくっていた。あるとき、上層部で情報漏洩事件が見とめられ、 徐々に同僚のディヴィスが疑われることに・・・62歳の老境にさしかかったカッスルの日々の行動を中心に、ストーリーは淡々と進んでいく。派手なアクションは無縁だが、登場人物の心情が細やかに描かれていて、作品の世界に入っていきやすい。翻訳がすばらしいということなのだろうが、場面、場面を、まるで絵を見るかのように想像することができる。ジョン・ル・カレのスマイリー三部作も、一般的な職業人としてのスパイを扱っているが、本作品の方が、登場人物の悲哀を感ずるところが大きい。特にラストの唐突ともいえる終わり方は、ミステリーというより文学作品を読了したような、強い印象を残す。カッスルの”釣り合いをとる”という人生観は、個人的にも共感するところがあるんだよなぁ。 | ||||
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罪とは何か。本書を読了して考え込まずにはいられなかった。この小説のなかで、二重スパイの母親は息子のことを吐き捨てるように言う。「あの子は祖国を裏切ったんです。」対して、スパイの妻は言う。「彼は一度、わたしが彼の祖国だと言ったことがあります−息子も含めて」。この主人公はダブルバインドを負っている。しかしそれは、帯にあるような「祖国と、妻の祖国」ではない。言うならば、個人が自由に幸福を追求して生きるうえで、祖国への忠誠から逸脱せざるを得ず、その結果、最優先していたはずの「幸福」を失うことになるという複雑な二律背反を描いたものである。東西冷戦の時代の二重スパイを描いてはいるが、東西どちらの陣営をも肯定・否定はしない。モスクワの生活の厳しさが描かれるが、スパイの母が暮らす「リベラルで、礼儀を重んじるサセックス州」の冷たい描かれ方を見れば、グリーンがこのテーマをいかに慎重に扱っているかがわかる。罪はどこにあるか。何を侵せば罪人となるのか。法か、国家か、家族か、己の良心か。そのテーマを中心に、ストーリーは丁重に展開する。ラスト近くには、主人公が行った諜報活動についてのあるどんでん返しが待っている。刮目すべきは、個々の描写の巧みさだ。人物の小さな動きを記すことは、時に、千言万語をつくして心情を述べるよりも印象に残る。スパイ小説ではあるが、放縦なセックスやバイオレンス、ゴージャスなブランドネームは出てこない。作中、「イアン・フレミングは暴力的すぎる」というセリフがあるのがちょっと笑えた。 | ||||
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本書では情報機関で働く人間達が主に登場するので、本書は「スパイ小説」として位置づけられているが、これは不適切であろう。確かに本書はスパイ小説としても楽しめる。徐々にプロットが明らかになっていく様は見事で、主人公が二重スパイであることが分かったり、意外な人物がソ連との連絡役だったりするなど、最後まで読み物として楽しませてくれる。 しかし、本書は文学としての性格をより強く持っている。家族と国家への愛、信仰の問題など、本書の主題は明らかに文学的なものなのである。特に家族と国家の狭間に立たされた筆者の葛藤の描写は見事の一言に尽きる。 また、本書は訳も優れている。じつに自然で、こなれた和訳である。 | ||||
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体裁は追いつめられていく二重スパイを描いたスリラーですが、濃密な心理描写と運命を案じさせる余韻に満ちたエンディングは、娯楽を追及した作品では味わえないものです。勧善懲悪のスカッと楽しめる小説や、息抜きとして肩の凝らない読み物を探している場合、この作品はお勧めできません。その手の目的ならこの作品より優れた小説がいくらでもあります。この小説を読めば、裏切りとは何か、あるいはその他色々なことについて考えさせられると思います。いわゆる文学全集にのるような作品ではないかもしれませんが、少し腰をすえて、じっくりと読んでみることをお勧めします。 | ||||
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私の読解力不足かもしれませんが中盤までは、諜報員である主人公の「立場」がいまいち把握できず、終盤で明確になる「立場」を全く予想できませんでした。ああそうだったのか・・・と映画「シックスセンス」のような、尤も本書の方が古いのでしょうが、ドンデン返しを受けてしまいました。物語が優れていますし、主人公の精神的な苦悩・動揺が読み取れて本当に手に汗握る状態となります。スパイ小説ファンなら満足できるのではと思いました。おすすめです。 | ||||
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最初はル・カレの作品のようなものか、と思って読み始めましたが、実際は、文学的なレベルが非常に高く、読み進めるに従い、読書の喜びを久々に堪能する作品でした。ストーリーの面白さはもちろんですが、登場人物が、この人物なら次にはこういう台詞を言いそうだと思えるほどに、精緻に活写されているのですが、しかしその表現には驚くほどに少ない文字数しか要していないのです。40歳を過ぎてからグリーンを読み始めましたが、もっと早くに読んでみたかったような、いや、この歳になってやっと判るようになったのかもの想いもあり、何れにしても、大人の文学書にして、上質のエンターテイメントでもある、不思議な作品でした。グリーンがお好きなら、お読みにならないのは損だと思います。 | ||||
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新手のスパイ小説。と言うよりはスパイを主人公にして人間性を描こうとした文学作品と言っても良い。英国諜報部は秘密が漏れていると疑う。その場所はアフリカ支部だ。支部には部員は二人しかいない。そのうちの冴えない二重スパイの老部員と英国諜報部とのやりとりを通じて、スパイ、そして人間の悲哀を描いた秀作。通常のスパイ物とは一線を画そうとする意識が作者に強く働いているようで、ワザとのように二重スパイがどうしてそのような境遇に落ちて行ったのかを淡々と語る。銃撃戦やカー・チェイス等一切出て来ない。諜報員の悲哀を人間性の悲哀に昇華させ、エンターテインメント小説に織り込んだ傑作。 | ||||
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新手のスパイ小説。と言うよりはスパイを主人公にして人間性を描こうとした文学作品と言っても良い。英国諜報部は秘密が漏れていると疑う。その場所はアフリカ支部だ。支部には部員は二人しかいない。そのうちの冴えない二重スパイの老部員と英国諜報部とのやりとりを通じて、スパイ、そして人間の悲哀を描いた秀作。 通常のスパイ物とは一線を画そうとする意識が作者に強く働いているようで、ワザとのように二重スパイがどうしてそのような境遇に落ちて行ったのかを淡々と語る。銃撃戦やカー・チェイス等一切出て来ない。諜報員の悲哀を人間性の悲哀に昇華させ、エンターテインメント小説に織り込んだ傑作。 | ||||
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文学が小説よりエライというわけではないのですが、スパイ小説でも暇つぶしに読むか……なんて読んだら大やけど。ただただ感激。村上春樹が芥川賞も直木賞もいらないように、グレアム・グリーンにはノーベル文学賞はいらない。授与しなかった方が恥。それくらいの大作家による傑作。 | ||||
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文学が小説よりエライというわけではないのですが、スパイ小説でも暇つぶしに読むか……なんて読んだら大やけど。ただただ感激。 村上春樹が芥川賞も直木賞もいらないように、グレアム・グリーンにはノーベル文学賞はいらない。 授与しなかった方が恥。それくらいの大作家による傑作。 | ||||
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「第3の男」のグレアム・グリーンによる地味なスパイ小説。南アフリカのアパルトヘイトに絡む英国諜報機関と二重スパイの駆け引き。派手なアクションなどはいっさいない腹試合。登場人物に「007はセクシーすぎる」などといわせているように、このスパイ小説が描くのは美女やドライマティーニなどが出てこない、役人スパイの日常だ。やるせない物語で、泣ける。スピードボールのないベテラン投手が投球術を駆使して完封勝利。 | ||||
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「第3の男」のグレアム・グリーンによる地味なスパイ小説。南アフリカのアパルトヘイトに絡む英国諜報機関と二重スパイの駆け引き。派手なアクションなどはいっさいない腹試合。登場人物に「007はセクシーすぎる」などといわせているように、このスパイ小説が描くのは美女やドライマティーニなどが出てこない、役人スパイの日常だ。やるせない物語で、泣ける。スピードボールのないベテラン投手が投球術を駆使して完封勝利。 | ||||
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