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さよならドビュッシー



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【この小説が収録されている参考書籍】
さよならドビュッシー
さよならドビュッシー (宝島社文庫)

さよならドビュッシーの評価: 7.74/10点 レビュー 19件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.74pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全6件 1~6 1/1ページ
No.6:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

さよならドビュッシーの感想

ハンデを克服してコンクール入賞を目指すスポ根音楽小説と遺産相続絡みのミステリーが並行しているようで,読んでいる印象としてはだんだんスポ根側のウエイトが増していっている感じでした.

▼以下、ネタバレ感想

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マー君
S2HJR096
No.5:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

戦いの音楽よ、高らかに響け!

どんでん返しの王と云えば現代の海外ミステリ作家ならばジェフリー・ディーヴァーだが、日本では最近中山七里氏の名が挙がるようになった。実際「どんでん返しの帝王」という異名もついているらしい。
本書はそんな彼がデビューするに至った第8回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作である。

まさに新人離れした筆致とストーリー展開であれよあれよという間に物語に引き込まれる。
主人公は不動産会社の社長を祖父に持ち、ピアノの特待生として高校の音楽科に入学した香月遥。このように書くと遥はいいとこのお嬢様のように思えるが、彼女の一人称叙述で展開されるその内容からはどこにでもいる普通の女子高生のようにしか映らない。
突然の火事で全身大火傷を負うが、医者の必死の大手術の末、ほぼ全身に亘って皮膚移植を施されるが、火事の影響で気管を焼かれ、しゃがれ声しか出せなくなる。懸命のリハビリと岬洋介という名ピアニストという師を得て、不可能と思われたピアノの演奏をたった二週間で弾けるようになるという驚異的な回復を見せる。しかしそれが全く絵空事のように思えず、この岬というピアニストの指導の許であれば可能であると納得させられるような説得力のある説明と描写。

またそれ以外にも登場人物を取り巻く色々なエピソードに纏わる情報や知識がしっかりとしており、単なるモチーフになっていない。スマトラ島沖地震の詳細、高校進学に必要な経費の公立高校と私立高校との差、火傷に関する情報にその治療に関する細かい内容、相続税対策を考慮した遺産相続の方法など我々の実生活に直接関係のある事柄がつぶさに書かれており、一つとしておざなりに書き流されていない。

また描写と云えば本書に織り込まれたクラシックの曲調に対する描写が実に絵的で美しく、頭の中で音が奏でられるように錯覚する。
私はクラシックには疎いのだが、それでも聞いたことのある題名から知らない曲名までもがなぜかその描写によって曲が自動再生させられていく。音の躍動感、またきらびやかさが粒のように空気に舞い、弾け、そして溶け合い、人々の耳に余韻として残る。それら一つ一つの音符やメロディに感じるのは中世・近代の名のある音楽家たちが譜面に込めた情熱や美、そして常に新しい技を生み出そうとする研鑽の姿だ。
そしてそれらを譜面を通じて理解し、どうにか再現しようと、そしてそのメッセージと喜びを観客と共に分かち合おうとする演奏者の思いが神々しいほどに美しい描写に込められている。常に頭の中で音楽が奏でられ、思わず眼前にリサイタルが成されているかの如く錯覚に陥ってしまった。
後でその題名でググって実際の曲を聴いてみると全く違っているのが常だが、中には合っているものもあったりして、この作家の表現力の豊かさを頭ではなく心で感じる思いがしたものだ。

そんな物語である本書はミステリというよりもなんとも清々しい青春小説、いやビルドゥングス・ロマンなのだろうという思いで読んだ。

やはりなんといっても主人公香月遥が全身大火傷という重傷を負ってから学校代表としてピアノコンクールに出場するまでの岬洋介との血のにじむようなレッスンの様子が非常に読ませる。特に常に包帯を巻き、松葉杖を突いて学校生活を営む彼女に対して周囲がそれぞれの立場で好奇心、功名心、そして妬みや嫉みを彼女にぶつけてくる様が生々しく、単なる不具者の美談となっていないところがいい。
学校の校長は障碍者としての彼女がピアノコンクールに出場するまでになったことを自分の高校のいい宣伝材料として彼女を客寄せパンダとして利用しようとして隠さないし、金持ちの家のお嬢さんでその上に同情心を買おうと勝手に思い込んでいるクラスの同級生の悪意ある言葉など障害者が取り巻く世間の厳しさをまざまざと見せつける。
そんな現実があるからこそ彼女の強さが引き立つわけだが、むしろ障碍者の人々への社会の理解が十分になされてなく、登場人物の岬の言葉を借りれば、世界はまだ悪意に満ちているのだ。

そう、これは戦いの物語なのだ。
突然業火に包まれ、全身大火傷という重傷を負い、皮膚移植をされた上に他人に成りすますことを強いられた一人の女子高生が、ピアノを通じて松葉杖を突き、5分以上の演奏ができない不具の身体でコンクールを勝ち抜く。社会の障害者に対する偏見と好奇の目に晒されながらも敢えてその逆境に挑み、岬洋介という素晴らしいピアニストを師に迎えて音楽という雄大に広がる宇宙を具現化させることに執着し、そしてその世界観を一人でも多くの聴者に届けようと苦心する一人の女子高生の戦いだ。

そしてまた彼女の師、岬洋介もまた戦う男だった。
法曹界にその名を轟かせた凄腕の検事正を父に持ち、また自身も司法試験でトップ合格するほどの頭脳と適性を持ちながらピアノの夢を捨てられずに片耳が不自由とハンデを持ちながらも再び音楽家の道を歩み、新進気鋭のピアニストとなった男。ハンデを持つがゆえに世間の残酷さを知っているからこそ、障碍者の遥にも甘い言葉を掛けず、社会の厳しさを教え、その覚悟を常に問う。お坊ちゃん風の穏やかな風貌をしながらも心の中に太くて強い芯を持つ男だ。
彼は音楽を究めんとしようとする者を後押しし、援助を拒まない。

本書はこの2人の音楽の求道者がそれぞれ抱えた肉体的ハンデと戦い、そして世間と戦う物語なのだ。
そして最後の一行として掲げられる本書の題名は再出発するための手向けの言葉なのだ。

音楽用語で模された各章題を並べてみよう。

~嵐のように凶暴に~
~静かに声をひそめて~
~悲嘆に暮れて苦しげに~
~生き生きと高らかに響かせて~
~熱情を込めて祈るように~

これらはまさに主人公香月遥が本書で辿った生き様を見事に表しているが、と同時に突然障害者となった人々がその後の人生で辿る生き方をも示しているように思える。

障害者となる事故や事件はまさに嵐のように凶暴に自身に降りかかってくるだろうし、その後静かに息をひそめて今後のことを考えつつ、悲嘆に暮れて苦しみながら己の身に降りかかった不幸を嘆き悲しむことだろう。
しかしそれが逆に新たな人生を生きるチャンスを、健常であった頃よりももっと一日一日を大切に生きることを教えてくれたと思えば生き生きと高らかに生きていることの喜びを響かせ、そして“今この一瞬”を熱情を込めて祈るように大切に生きていくことだろう。

本書が殺人を扱いながらも実に清々しいのはこの章題に込められた作者の障害者への思いゆえだ。
これほどまでに犯人に対して憎しみどころか潔さや気持ちの良さを感じたミステリはない。
本書の本当のどんでん返しはこの気持ちよさにあると思う。
全くなんというデビュー作なのだ、本書は。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.4:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

記念すべき岬シリーズ第1番『さよならドビュッシー』

有り難う岬!
これは大賞に選ばれて当然だわ。
伏線の張り方がとっても上手で、有り得ない結末は無く、タネを明かしてくれるので、誰にでも読めます(要するにわかりやすいという事)‼︎他のミステリ小説ではなかなかみられないって信じてる。
他の作品もそうですが、作者・著者の哲学が素敵だ、というのも僕がこの作品を愛せる理由の1つ。また何度も岬に逢いたくなる。
とにかく面白い。是非読みましょう。

フェルマーを愛する一人
BQY6QLCN
No.3:5人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

さよならドビュッシーの感想

こういう作品好きです。
ピアノの世界を舞台にした青春スポ根物語+ほんのりミステリー仕立てといった作品でしょうか?
専門的知識がほとんど無いのにも関わらず演奏の描写等の音楽シーンはかなりの迫力を感じました。
読みやすいライトな文章は玄人受けは良くないかもしれませんが、
私個人としては面白ければ何でも良いので素直に楽しめました。
音楽を題材のスポ根として読んだ方が楽しめると思います。
私もミステリーであることを忘れていたので楽しめたと思っています。

歌舞伎蝶
LMC3R9P9
No.2:3人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

さよならドビュッシーの感想

読み始めていきなり全身大火傷。予想外にヘビーな始まりで不安になりました。
しかし、徐々に、ピアノの世界に引き込まれます。
何より、演奏中の曲や指運びに関する表現が秀逸。
ミステリーとしては、マニアからみれば初歩的なものなのでしょうけど、
ミステリーということを忘れさせられるくらいに、ピアノの世界に引き込まれました。
残念なのは、自分が全くピアノを弾けないし、曲も知らないこと。
解かる人が読んだら、更に評価は高いのでしょうね。

Hidezo
GX0TU62Y
No.1:5人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

二度見してしまう


▼以下、ネタバレ感想

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とくさん
675DF9RE

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