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【島田荘司】
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涙流れるままにの評価:
7.50/10点 レビュー 2件。 A ランク
書評・レビュー点数毎のグラフです
平均点7.50pt
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吉敷、男泣き
吉敷竹史シリーズの第一部完結編とでも云える本書、その中でもとりわけずっと謎めいた存在で登場していた元妻、加納通子との関係への総決算的作品となっている。加納通子の生い立ちから述べられる本書は今までの『北の夕鶴2/3の殺人』、『羽衣伝説の記憶』、『飛鳥のガラスの靴』、そして『龍臥亭事件』全てを一貫して補完する形で、これらの作品の間に隠されたサイドストーリーを余すところなく、描いている。摑み処のない悪女といった感じの加納通子という女性が、今回ではじっくりと描かれる。その描写は、「業」と表現されるある種呪われた血が流れている途轍もない生い立ちを以って語られるが故に匂い立つほどの存在感を醸し出している。この通子の物語は島田作品らしからぬあまりに世俗的な表現を多用しており、駅の売店やコンビニなどで売られている三流官能小説のテイストを備えており、正直辟易はした。一方、吉敷側のストーリーは反りの合わない上司がある女性と食堂で話していることを偶然見かけたことをきっかけに、40年前の冤罪事件を自分の性に従い、解明しようとする物語である。これは当時島田氏が手がけていた『秋好事件』の経験を活かしたもので、吉敷が冤罪事件の捜査で出くわす関係者の反応、やり取りは多分に自らが行った秋好事件の再調査での体験がそのまま反映されているのだろう。現実の世界での秋好事件が再審にならなかった無念をこの小説内で語られる恩田事件で晴らしているかのように感じた。加納通子がこの恩田事件に冤罪であることを証明する決定的な証人であるという設定は結構盛り込みすぎだという印象が拭えなかった。というのも今まで島田氏が語った吉敷シリーズ3作と御手洗シリーズ1作に関わっている通子がさらに40年前の冤罪事件にも関わっているというのがいかにも作り物めいていて一人の人物に設定を詰め込みすぎだろうという印象が強くなってしまった。恐らく作者もその辺を理解していたのだろう、通子の生い立ちに費やした筆はかなりのもので今まで日本各所に点在していた通子についてそれらを結ぶ線を無理なく仕上げようと腐心しているのが解った。最後に通子が鶏肉が苦手である理由がこの恩田事件によることだというエピソードはかなり秀逸で、これを持ってきたがために、通子が語られた当初から作者はこのストーリーを想定していたのではないかと思わされた。そして吉敷。この男はシリーズを重ねるたびに存在感を増しており、しかも言葉遣いも心なしか変わってきているようだ。登場当初は単なる刑事に似つかわしいダンディという設定以外、何の特徴もなかったが通子の登場、上司との軋轢、殺人課での孤立という状況変化を経て、その人と成りがヴィヴィッドに浮き上がってきている。今回、この600ページ前後の上下巻では島田氏の語りたいテーマがかなり網羅されているように思う。冤罪事件、組織改革、記憶もしくは脳に対する研究。これらをモチーフに通子と吉敷のストーリーを仕上げる手腕は相変わらず凄まじさを感じる。人物を語ることに重きを置いたこともあり、不可能犯罪的要素は薄められてはいるものの、やはり最後で切断された首の問題、殺人現場の不具合を論理的に解明するあたりは島田本格面目躍如といった感じだ。 ▼以下、ネタバレ感想
島田荘司らしいヒロイン
里美といいレオナといい通子といいどうしてこう島田荘司という人は業を背負った美女というのが好きなのか。通子の元旦那を主人公にしたシリーズは読んだことが無いのだが、この2人の離婚の原因は多分旦那が自分が思っていたほど妻を理解していなかったというか、性欲の強さや本当の姿に気づいてあげられなかったことなんじゃないかと思った。
吉敷竹史シリーズの第一部完結編とでも云える本書、その中でもとりわけずっと謎めいた存在で登場していた元妻、加納通子との関係への総決算的作品となっている。
加納通子の生い立ちから述べられる本書は今までの『北の夕鶴2/3の殺人』、『羽衣伝説の記憶』、『飛鳥のガラスの靴』、そして『龍臥亭事件』全てを一貫して補完する形で、これらの作品の間に隠されたサイドストーリーを余すところなく、描いている。摑み処のない悪女といった感じの加納通子という女性が、今回ではじっくりと描かれる。
その描写は、「業」と表現されるある種呪われた血が流れている途轍もない生い立ちを以って語られるが故に匂い立つほどの存在感を醸し出している。この通子の物語は島田作品らしからぬあまりに世俗的な表現を多用しており、駅の売店やコンビニなどで売られている三流官能小説のテイストを備えており、正直辟易はした。
一方、吉敷側のストーリーは反りの合わない上司がある女性と食堂で話していることを偶然見かけたことをきっかけに、40年前の冤罪事件を自分の性に従い、解明しようとする物語である。
これは当時島田氏が手がけていた『秋好事件』の経験を活かしたもので、吉敷が冤罪事件の捜査で出くわす関係者の反応、やり取りは多分に自らが行った秋好事件の再調査での体験がそのまま反映されているのだろう。現実の世界での秋好事件が再審にならなかった無念をこの小説内で語られる恩田事件で晴らしているかのように感じた。
加納通子がこの恩田事件に冤罪であることを証明する決定的な証人であるという設定は結構盛り込みすぎだという印象が拭えなかった。というのも今まで島田氏が語った吉敷シリーズ3作と御手洗シリーズ1作に関わっている通子がさらに40年前の冤罪事件にも関わっているというのがいかにも作り物めいていて一人の人物に設定を詰め込みすぎだろうという印象が強くなってしまった。
恐らく作者もその辺を理解していたのだろう、通子の生い立ちに費やした筆はかなりのもので今まで日本各所に点在していた通子についてそれらを結ぶ線を無理なく仕上げようと腐心しているのが解った。最後に通子が鶏肉が苦手である理由がこの恩田事件によることだというエピソードはかなり秀逸で、これを持ってきたがために、通子が語られた当初から作者はこのストーリーを想定していたのではないかと思わされた。
そして吉敷。この男はシリーズを重ねるたびに存在感を増しており、しかも言葉遣いも心なしか変わってきているようだ。登場当初は単なる刑事に似つかわしいダンディという設定以外、何の特徴もなかったが通子の登場、上司との軋轢、殺人課での孤立という状況変化を経て、その人と成りがヴィヴィッドに浮き上がってきている。
今回、この600ページ前後の上下巻では島田氏の語りたいテーマがかなり網羅されているように思う。
冤罪事件、組織改革、記憶もしくは脳に対する研究。これらをモチーフに通子と吉敷のストーリーを仕上げる手腕は相変わらず凄まじさを感じる。
人物を語ることに重きを置いたこともあり、不可能犯罪的要素は薄められてはいるものの、やはり最後で切断された首の問題、殺人現場の不具合を論理的に解明するあたりは島田本格面目躍如といった感じだ。
▼以下、ネタバレ感想