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(短編集)

壊れた世界の者たちよ
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壊れた世界の者たちよ



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【この小説が収録されている参考書籍】
壊れた世界の者たちよ (ハーパーBOOKS)

壊れた世界の者たちよの評価: 9.50/10点 レビュー 2件。 Sランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点9.50pt
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これぞウィンズロウ劇場!

ウィンズロウの本邦初となる中編集。デビュー以来ウィンズロウはナイーヴな私立探偵ニール・ケアリーシリーズを皮切りに多種多彩な作品を著してきたが、本書はそんな彼の多彩ぶりが存分に発揮された作品集となった。

まず開巻の幕を開けるのは表題作だ。

警察官一家の凄まじいまでの復讐譚。警察官の弟を、我が子を殺されたとき、秩序を守る警察官も憎しみの炎に巻かれ、皆殺しの決断を下す。

本作の原題は“Broken”。先に警察官を殺すというルールを「壊した」のは二流の麻薬売人の元締めだった。そしてルールが壊されたとき、警察官の中で法の番人としての意識が「壊れ」、法によって裁かれることを良しとせず、自らの手によって処刑を行う。

それを知りつつも警察官たちは敢えて仲間の暴走を止めなかった。警察官は身内が殺されることに異常に執念を燃やす。彼らは仲間の復讐を是としたのだ。いや彼らも法の番人である前に人間であることを選んだのだ。

しかし事件の後の荒廃感は勝者のない戦いの虚しさを助長する。この世界は真面目にまともに生きていてはもはや壊れてしまうのだ。

さて表題作は警察官が主人公だったが、次の「犯罪心得一の一」は一転して高級宝石専門の強盗が主人公だ。

ハイウェー101号線を縦横無尽に走り、疾風のごとく現れては高価な宝石を盗んで金に換える宝石強盗デーヴィス。彼は盗みの前に念入りにターゲットをリサーチする。数か月前からターゲットのメールのアカウントをハッキングし、家族構成に至るまで情報を手に入れ、相手のルーティンを把握し、そしてベストのタイミングを狙って盗みに及ぶ。その手口は実に鮮やかで1分もあれば事を成す。

そして彼は定宿を持たない。リゾート地特有の富裕層が所有する夏季にしか使わない、貸し部屋に出されている高級コンドミニアムの部屋を借りて部屋から部屋へと渡り歩く。決して足を掴まれようとしないよう常に移動することを心がけている。

そして彼の犯行は年に1,2回しか行われないから同一犯による強盗事件であることに気付かれることはない。

…はずだったが、そこにルーベスニック警部補という切れ者の刑事が一連の事件の繋がりを見出すのだ。

この2人、実に対照的である。

宝石強盗のデーヴィスは女性の目を魅くいわゆるイケメンで、己に課した犯罪心得1の1という教義に従い、常に念入りな調査に基づいた隙のない犯行計画を立て、そして決して足がつかないように犯行現場を分散させるなど、用意周到で用心深い性格だ。

一方の事件を捜査する刑事ルーベスニックは典型的な腹の出た中年オヤジで美しい妻は弁護士との浮気を悪びれもせず、別居することを止めもしない。唯一過去10年間に起きた高級宝石強盗が単独犯による犯行だと見抜くが周囲はそれを聞き入れもしない。刑事として優れてはいるもののなかなかその能力を認められない不遇の人物だ。

しかしそんな彼が妻と別居して偶然デーヴィスと同じ海岸沿いの高級コンドミニアムに住むことで人生観を変える。

今まで仕事一辺倒だった彼が周囲に感化され、ボディボードやヨガといった趣味を持ち、余暇を楽しむことになる。それはまさに彼にとって180度人生観を変えることになる。

これはまさにレナード張りのツイストの妙だ。

サーファー、スムージー、カフェでの朝食、美しい女たちと男たち。そんなものが集うカリフォルニアの海には刑事さえも人生を楽しむことを覚える良さがあるのだろう。

人生を楽しむことを選んだ刑事ルーベスニックの車のナンバープレートが最後に明かされるに至るまで最後の最後まで気の利いたウィットに富んだクライムノヴェルの快作である。

レナードを彷彿させる作品だと宣っていたら、次の「サンディエゴ動物園」にはエルモア・レナードへの献辞が捧げられていた。

いやはやこんな面白い幕開けの警察小説がかつてあっただろうか?
なんとパトロール警官が受信した通報は動物園から銃を持って武装したチンパンジーが脱走したという知らせだ。

動物が動物園や牧場から逃げ出すというのは我々はニュースで目の当たりにするが、なんとウィンズロウはそこに武装しているというツイストを仕掛ける。そしてこの何とも珍妙な事件が主人公のパトロール警官クリス・シェイの人生を変えることになる。

この実に魅力的な導入である事件は20ページ弱で解決するが、その後クリスが銃の出どころを探るところが実は本作の読みどころなのだ。

とはいえ最初の武装したチンパンジー脱走事件の顛末も面白く、チャンピオンという名のチンパンジーが脱走したのは求愛したメスのチンパンジーに相手にされなかったからかもしれないという動機やマスコミ、SWATまで駆け付ける大騒動になり、そんな衆人環視の中でクリスが麻酔銃を手にしてチンパンジーを追い詰めた時に、明らかにテレビで学んだであろう降伏のポーズを取って、銃を取り落としてそれがクリスの顔面に直撃し、落下するという映像がYouTubeで流れ、バズるという展開は現代の世相を強く反映していて面白い。

従ってクリスはその後銃の出どころを独自で捜査するのだが、行く先々でモンキーガイと揶揄される、不名誉な有名人となってしまう。特に仲間の警察官には一介のパトロール警官である彼がテリトリーを侵して事件を解決したこと、あまつさえ警官に恥をかかせるような映像を世界中に流したことで彼にとって冷たい態度を取る。誰も彼に協力的になろうとしないのだ。

そんな彼の支えとなるのが動物園の霊長類部門の美しき担当者キャロリン・ヴォイトだ。お互いが惹かれあっているのになかなか本心を打ち明けられず、やきもきする付き合いが続く。

本書では2作目に登場した優秀ながらもうだつの上がらない刑事ルーベスニックが皆の憧れの伝説の刑事として登場することだ。本作の主人公クリスも人生を好転させたがルーベスニックもまた変えた人生をうまく送っているようだ。

またクリスの捜査の過程では奇妙な犯罪者が数々登場する。そんなスパイスも含めてこんな珍妙で軽快で楽しい警察小説はウィンズロウ以外誰が書けると云えようか。

しかし何といってもウィンズロウ作品読者にとって最高のご褒美となるのは次の「サンセット」だ。

ウィンズロウ作品シリーズキャラクター夢の共演である。
デビュー作でウィンズロウの名を不動のものにした『ストリート・キッズ』に登場し、初期作品のシリーズキャラを務めたナイーヴな探偵ニール・ケアリーと『夜明けのパトロール』のサーファー探偵ブーン・ダニエルズが登場する。そしてそれに本書で2作に登場するサンディエゴ警察伝説の刑事ルーベスニックが絡む。

いやはや何とも心憎い演出ではないか。まるで懐かしい友と再会したかのような嬉しさに包まれてしまった。

特にウィンズロウ読者ならば誰もが続編と再会を待ち望んだニール・ケアリーに逢える喜びはこの上ないものだろう。実際私がそうだっただけに。

ニールは既に65歳になり、カリフォルニア大学サンディエゴ校の文学部の教授になって教鞭を執っている。そして妻はなんとカレン。一度別れた2人はニールが探偵業を辞めたと同時に復縁して夫婦になり、今に至っている。

そんな彼らが一堂に会して事に当たるのは伝説のサーファー、テリー・マダックスの行方だ。麻薬所持の容疑で拘留された彼は保釈金30万ドルを払った後、失踪してしまう。

テリーは今では誰もが一目置くサーファー、ブーン・ダニエルズ憧れの人物だ。そして身持ちを崩した彼を懲りずに世話してきたのもブーンである。

本作の題名が「サンセット」なのは象徴的だ。伝説のサーファーとして皆に慕われ、そしてヒーローだったテリー・マダックス。しかし麻薬に溺れ、身持ちを崩し、かつてのようには波に乗れなくなった堕ちた英雄。つまり人生の黄昏を迎えた彼こそがサンセットだ。

それをドーン・パトロール、つまり夜明けのサーファー、ブーン・ダニエルズが捕まえに行く。ターゲットはかつて彼が憧れ、面倒を見てきたヒーローだった男だ。人生を下る者と未だ上る者の追跡劇。
何とも物悲しい。

そしてサンセットが訪れるのはテリーだけではない。

ニールももう探偵の真似事をすることはないと仄めかされている。

そして依頼人のデューク・カスマジアンもまたサンセットが訪れる。

本作はレイモンド・チャンドラーへ献辞が捧げられている。テリー・マダックスは『長いお別れ』のテリー・レノックスがモデルだろう。そしてあの物語がそうであったように本作の結末も甘くほろ苦い。最後にデュークが飲むワインのように。

さてここまでウィンズロウ作品のシリーズキャラが出てくるならば当然あいつらも登場する。次の「パラダイス」は副題にも書かれているように『野蛮なやつら』、『キング・オブ・クール』に登場した麻薬売人ベンとチョンとOが登場する作品だ。

あの4人組のうち、チョン、ベン、Oの3人がハワイでひと悶着起こすのが本作。物語の舞台はハワイのカウアイ島。
ハワイといえば一大リゾート地で日本人にも人気の高い観光都市。私も2回旅行に行ったが大好きな都市だ。しかしそんな温暖湿潤な気候はサトウキビ、パイナップル、米、タロイモの産地として適していたが、大麻もまたそうで、実入りのいい大麻の栽培が増えているとのこと。この辺は複雑な心境で読んでしまったが実際カカオやバニラといったあまり高価に取引されない穀物よりも大麻やマリファナなどを栽培する後進国も多いらしい。

本書は陽気な3人が新たなビジネスを展開するためにハワイを訪れるのだが、ハワイアンのいわゆる島国根性気質が邪魔をし、外部の者との取引を許さない連中との抗争が始まり、彼らと彼と取引相手ティム・カーセン一家が否応なくその渦中に引き込まれてしまう。

で、このティム・カーセン。実は『ボビーZの気怠く優雅な人生』に登場したボビーZの替え玉ティム・カーニーなのだ。彼はあの事件で一緒になったエリザベスとキットと共にハワイに逃れ、いろんな職業を経て大麻栽培で生計を立てていることが判明する。

そしてキットは17歳にして既にスポンサーがつくほどの凄腕サーファーとなっており、よそ者ながらそのサーフィンの腕で周囲の仲間入りを果たし、一目置かれる存在となっていた。

さらにはキットが大事に作り上げていたツリーハウスが地元の麻薬組織<ザ・カンパニー>の一味であり、彼の友人でもあったゲイブに放火された現場に現れる保険会社の男は『カリフォルニアの炎』の主人公ジャック・ウェイドである。彼はハワイ火災生命の社員となっていた。

チョン、ベン、パク、Oの彼らがまだ生きていた頃のおそらくこれが最後のエピソードか。彼らが変わらぬ陽気さと優しさのままでまた会えて本当に良かったと思える作品だ。

そして最後の「ラスト・ライド」はトランプ政権が生み出した膿に対するウィンズロウ怒りの物語だ。

本中編集最後の物語はメキシコとアメリカの国境で起こった、ある警備隊のたった1人の戦いの物語だ。

しかし彼キャルが戦うのは捜査陣の連中ではない。彼が戦うのはアメリカが生んだ忌むべきシステムだ。
トランプ大統領が設定したメキシコとアメリカとの国境に建てられたフェンスを隔てて裂かれた親子の絆を取り戻すために孤軍奮闘する。

彼がシステムとの戦いに臨むようになったのはアメリカの杜撰な移民管理システムとそれによって娘の捜索を妨害された親と、強烈な印象を残す少女の熱い眼差しだ。

そしてそんな杜撰な管理で犠牲になった娘の親を見つけたキャルが直面するのはかつての親友で今は密入国者の手引きをして悪銭を稼ぐ“渡り屋”ハイメの魔手だ。

密入国者を取り締まる国境警備隊のキャル、その捜査の目をかいくぐって密入国者を渡米させる渡り屋のハイメ。かつての親友は今では利害関係にある敵同士。そして目の上のタンコブであるキャルをハイメは殺したがっていた。そこに迷い込んできたのがキャルが捜していた娘の母親。

これはいわばもう1つのアート・ケラーとアダン・バレーラの物語とも云えるだろう。
そしてウィンズロウはこの作品に彼ら2人のもう1つのエンディングを授けたのではないかと思える。

一方でキャルに少女の素性を調べる手助けをしたトワイラは容姿はそれほどいい女ではないが、キャルが自分に気があることに気付いている。しかし彼は軍隊にいた頃に爆弾に吹き飛ばされ、人工股関節を入れられ、除隊して国境警備隊に入隊した女性で自分が負った醜い傷跡と一生背負っていかねばならない不細工な歩き方にコンプレックスを抱き、キャルへの想いに応えるのに躊躇している。

彼女は娘の情報を手に入れる手助けをしたのは今のシステムが間違っていると思っていたからだ。
しかし彼女は正しいことをするのに一歩踏み出せなかった。一歩踏み出したのはキャルだった。

これが政府のやり方だ!とばかりの作者の憤りが込められた展開が繰り広げられる。

題名の「ラスト・ライド」は主人公キャルの実家が経営する貧乏牧場にいる老馬ライリーへの最後の騎乗と疾走を意味する。
メキシコの国境を目前にしてあらゆる交通手段を封じられたキャルが選んだのはいつか安楽死させようと思いながらもできなかった老馬に乗って国境を越えるというものだった。もはやただの穀潰しでしかなかった老いぼれ馬が最後の灯を燃やす疾走は彼がかつて名馬であったことを存分に発揮させる目の覚めるような走りっぷりだった。そしてそれはまさに命を燃やす走りだった。


ウィンズロウ初の中編集はいわばウィンズロウの過去と現在を映し出す鏡のような作品群である。

始まりと終わりは作者が怒りの矛先を向ける麻薬組織への報復の物語とトランプ政権が生み出した社会の歪みに対する怒りの物語だ。

そしてそれらの物語に挟まれるのは実にヴァラエティに富んだ作品たちだ。

エルモア・レナード張りの軽妙なクライムノヴェルもあり、またレナードのように先の読めない展開の軽妙な警察小説もある。人捜しの探偵小説やハワイを舞台にした麻薬組織との闘いとテーマも様々。

その中には過去のウィンズロウ作品の登場人物が一堂に会するファンのための作品もある。ウィンズロウ作品に登場した人物たちのその後が語られ、そして活躍が再び垣間見れる、ウィンズロウ読者にとってはご褒美のような作品。

そのうちの1つ、「パラダイス」では特に驚かされた。それは『野蛮なやつら』のあの軽妙な文体を再現しているからだ。
本書のように複数の作品が一堂に並べられると同一作家の作品とは思えない軽妙な文体で改めてウィンズロウの芸達者ぶりが窺える。

そして様々な人生観が語られる。

この世界はもうすでに壊れているという思いを抱き、そしてそんな世界に生れてきた我々はやがて壊れてその世界を出ていくのだという絶望に浸った者もいれば、眩しい陽光と青い海の傍の生活を得て生真面目に生きてきた人生を一転させ、人生一度の犯罪に手を染め、再生を目指す者もいる。
また映画スター、スティーヴ・マックイーンに憧れ、ハイウェー101号線沿いに生涯住む家を買う人生プランのまま、己の教義に従うクールな宝石泥棒もいる。

身内を殺された警察官が隠密裏に復讐を重ねる物語もあれば、同様に身内の不名誉を隠すために下々の警官の捜査を妨害する一面も垣間見れる。

聡明な動物園の霊長類専門家は美人でありながらも恋愛に奥手で恋愛婚活リアリティ番組を好んで見て自分の生活の空虚さを忘れようとする。

そして人生といえば、かつてウィンズロウの作品で登場してきたシリーズキャラクターのその後の人生が垣間見れる作品もある。

今私は並行して大沢在昌氏の小説講座をまとめた本、その名も『売れる作家の全技術』を読んでいるのだが、そこで大沢氏が何度も強調しているのがとにかく個性の強いキャラクターを作ることだということだ。

ウィンズロウ作品を読むと確かにその通りだと納得させられる。

ここに収められた作品のストーリーは読み終わった後纏めてみるとシンプルなものばかりだ。
身内を殺された家族の復讐譚、長年尻尾を掴ませなかった宝石強盗を追う話、一介のパトロール巡査が憧れの刑事に成り上がる話、かつて憧れの存在だった逃げたサーファーを追う話、ハワイで麻薬抗争に巻き込まれる家族の話、そして国境で引き裂かれた子供を親に引き渡そうとする話。

しかしそれらが実に読ませ、そして読書の愉悦に浸らせてくれるのはウィンズロウが生み出したキャラクターの個性が強いからに他ならない。

特にそれまでウィンズロウ作品に出てきたシリーズキャラクターが複数登場する「サンセット」、「パラダイス」の面白さはどうだ。私がワクワクして読まされたのは彼らの個性の強さゆえだ。

もちろんよくもまあこんなことを思い付くものだといった作品、予想外の展開を見せる作品もある。
しかしそれもそこに登場するキャラクターならそう取るであろう行動や選択肢が読み手の意識にするっと入り込んで違和感無しで読まされるからだ。つまりキャラクターがそうさせたのだと云っても過言ではないだろう。

そしてそんな後日譚を読むことで時は確実に流れ、彼ら彼女らが未だ作者と読者が過ごしてきた時間の中で生きてきたことが感じられた。

本書のような中編集を読むことで改めてドン・ウィンズロウという作家の引き出しの多さを思い知らされた。

しかし最後に行きつくのはウィンズロウの社会へ怒りだ。
特に本書では大なり小なり麻薬に関わる物語が6編中5編もある。つまり麻薬及び麻薬組織への怒りが今でも燻っていることが行間から読み取れる。

そしてもう1つはトランプ政権に対する怒りだ。それまで仄めかすような内容でトランプ政権を批判してきたがウィンズロウだったが本書収録の最後の中編「ラスト・ライド」では自分の置かれた国境警備隊の任務を通じて、アメリカに対する配慮はあっても、周辺の国々には全く頓着しないトランプ政権への怒りを明らさまにぶつけている。
その主人公は大統領選挙にトランプに投票し、そして彼が生み出した政策によって苦悩させられている。そして彼の同僚はアメリカのために従軍してイランに行ったのに気づいてみれば違和感だけが残り、自分の内面が壊れてしまったと吐露する。

それはつまりこれらこそが彼の書くべきテーマ、ライフワークなのだと云わんばかりだ。

そうやって考えると本書で登場したそれまでのシリーズキャラクターの再演は彼ら彼女らの“それ以後”を描くことで読者たちに引導を渡したかのように思える。

続編を願ったキャラクターたちはニール・ケアリーをはじめ、すでに歳を取り過ぎていることが判明する。つまりこれは本書における彼らの活躍が最後であり、今後彼らはウィンズロウ作品に出てこないことの決意表明ではないだろうかー伝説のサーファー、ブーン・ダニエルズのみまだ若いのでその後がこれからも書かれるかもしれないが―。

また「ラスト・ライド」に登場するキャルとハイメはかつて少年時代に親友だった者が前者が国境警備隊に入隊し、後者はメキシコから密入国者を手引きする“渡り屋”となって、取り締まる側と取り締まられる側に運命が分けられている。
これは先般シリーズに幕を下ろした『犬の力』シリーズのアート・ケラーとアダン・バレーラ2人の関係の類似型だ。そして本作こそはウィンズロウが書きたかったアートとアダン2人の結末ではなかっただろうか。

そう考えるとやはり『ザ・ボーダー』で決着をつけた2人のシリーズを本作で心の底からけりを着けたのではないかと思われる。

もっと穿った見方をすれば表題作は警察官が隠密裏に警官であった弟を殺した麻薬売人の仲間を次から次へと殺害する悪徳警官物だ。それはつまりもう1つの『ダ・フォース』とも云える。
そしてこれもまた『ダ・フォース』もう1つの結末なのかもしれない。

これまでの作品へ決着をつけた感のある中編集。彼が献辞に挙げたのは我々読者に対する「ありがとう」という言葉。

今まで読んでくれた読者への感謝のプレゼントでもある本書は作者が全てを清算し、そして新たなステップに向かうためのマイルストーンのように思えた。

ナイーヴで感傷的な探偵物語でデビューし、軽快なサーフィンを楽しむが如く、陽気でありながら残酷で現実的でもあった作品群が麻薬との戦いに憤りを感じ、ライフワークとも云えるメキシコの麻薬カルテルの長きに亘る戦いを怒りのままに描いてきたウィンズロウが本書の後、どんなテーマを我々読者にぶつけるのか。

興味は尽きないが、今はただこの作者による極上のプレゼントの余韻に酔いしれることにしよう。

▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ウィンズロウのオールスターズ!

メキシコ麻薬戦争三部作を始め、重量感がある長編が続いていたウィンズロウの中編作品集。中編とは言え、各6作品100ページ以上あって読み応え十分な、高レベルなノワール・エンターテイメント作品である。
表題作「壊れた世界の者たちよ」は「ダ・フォース」系列の警察サスペンスで、壮絶な暴力シーンが続くのだが全体のテイストは極めてドライである。ちなみに、巻頭にはヘミングウェイの一節が引用されている。「犯罪心得一の一」にはスティーブ・マックイーン、「サンディエゴ動物園」にはエルモア・レナード、「サンセット」にはレイモンド・チャンドラーへの献辞が掲げられており、その意味を考えるだけでも楽しめる。また「サンセット」、「パラダイス」は過去の作品の登場人物が主役や脇役として年齢を重ねた姿を見せているのが楽しい。
6作品、どれを取ってもウィンズロウならではのストーリー展開、物語アイディア、魅力的なエピソードがちりばめられており、長編には無いオールスターズ的な楽しさに満ちている。
長年のウィンズロウ・ファンにはもちろん、レナード、チャンドラーを始めとするアメリカン・ハードボイルドのファンには絶対のオススメである。

iisan
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