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(アンソロジー)

マンハッタン物語



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【この小説が収録されている参考書籍】
マンハッタン物語 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

マンハッタン物語の評価: 7.00/10点 レビュー 2件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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全2件 1~2 1/1ページ
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

15人のベストセラー作家による「マンハッタン物語」

小粋な文章ばかりでスラスラ読めます。長さもちょうどよい感じです。
初めて読む作家さんがほとんどで、中には大好きなトマスHクック氏も!
クック氏の本もまた読みたいな〜と懐かしさもありました。

やっぱりブロック氏は会話がひと際上手いですね。
彼が題材に選んだのは「クリントン地区」昔の「ヘルズキッチン」でした。

ミステリーではありますが、難しくないミステリーのものばかりなので、頭をちょっとだけ冷やしたい時にお勧めです。

ももか
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No.1:
(7pt)

アメリカ人作家の奥深さを感じさせるアンソロジー

ニューヨークはマンハッタンを舞台にした短編のアンソロジー。
そもそも本書以前に本国アメリカでは『ブルックリン・ノワール』というブルックリンを舞台にした同趣向の短編集が編まれ、それが好評だったため、シリーズ化することになり、マンハッタンを舞台にしたアンソロジーの編纂をマンハッタン在住のブロックに編者として白羽の矢が立ったらしい。

さてそんな小洒落たアンソロジーの一幕を担うのはディーヴァーの「見物するにはいいところ」。
ヘルズ・キッチンを舞台にした本作は実はディーヴァーの短編集『ポーカー・レッスン』所収の「遊びに行くには最高の街」である。正直『ポーカー・レッスン』で読んだ時はレナード張りの小悪党と悪徳警官が蔓延るクライム・ストーリーにディーヴァー特有のどんでん返しを加えた粋な作品と云う風に捉えていたが、本書のようなマンハッタンに舞台を絞ったワンテーマのアンソロジーではその読み応えは異なる。
酸いも甘いも呑み込む世界一の街マンハッタンの裏側にいきなり招待してくれるイントロダクションとして実に軽妙な一編となるのだ。
『ポーカー・レッスン』では掉尾を飾ったが本書では冒頭を飾り、いきなり読者をマンハッタンへと誘う。同じ話なのに編まれ方で斯くも味わいが違うとは、これもアンソロジーならではの妙味だろう。

続くチャールズ・アルダイの「善きサマリア人」の舞台はミッドタウン。
チャールズ・アルダイと云う作家の名は初めて聞き、当然ながら初めて読んだが、実に叙情豊かな作風で好感が持てた。
浮浪者の傍にふと佇む1人の紳士。彼は微笑みを湛えながら煙草を勧める。浮浪者にとってそれは嬉しい施しの1つであったが、それは死に向かう前のひと時の安楽に過ぎなかった。

グリニッチ・ヴィレッジを舞台にしたキャロル・リー・ベンジャミンの「最後の晩餐」は離婚の手続に訪れる夫をバーで待つ女性の物語。
夫を待つ間に様々な思いを巡らすエスターの思考が面白い。やはり女ほど面白く、そして怖い存在はないのだと思い知らされる好編。

現代アメリカミステリを代表する1人、トマス・H・クックの「雨」は雨降りそぼるマンハッタンで様々な人々が織りなす大なり小なりの犯罪を描写した群像劇。
雨は誰にでも降り注ぐ。殺人者にも窃盗犯にも変質者にも遺棄された赤子にも。そしてまた犯罪を捜査する警察官にも、そして犯罪の世界から足を洗う男にも。本作はそんなマンハッタンに住む人々を点描した作品だ。

ジム・フジッリの「次善の策」はろくでなしのバンドマンと同棲する女性の物語。
同棲男が企む銀行強盗を逆手にとって彼女を慕う女性がまんまと金をせしめ、逃亡するという市井の女性の汚れたアメリカン・ドリーム。叙情豊かな文体は悪くない。

「男と同じ給料をもらっているからには」はガーメント地区を舞台にしたロバート・ナイトリーの作品。日本から出張で来たホシ・タイキという日本人が娼婦殺人の容疑で逮捕され、警察署内をたらい回しにされるのがストーリー。
意外な展開に正直面食らうが、外国人のホシが体験する警察署での尋問の一部始終は実に面白く、興味深かった。

大御所ジョン・ラッツの「ランドリールーム」は奇妙な後味を残す作品だ。
ローラは洗濯中、息子デイヴィッドの衣類に血の痕のような痕跡を見つける。どうも最近学校にも行っていないらしく、夫のロジャーに相談するが彼は一笑に付して相手にしない。しかし彼女の懇願もあってロジャーは息子の後を付けることにした。
息子の行先は物凄いブロンド美人の住むアパートだった。ロジャーは妻に電話し、場所を説明する。ローラが現地に着くと既にデイヴィッドは帰った後だった。ローラは息子の訪れた女性を訪ねることにする。しかし彼女2人が見たのは喉を掻っ切られて横たわる女性の遺体だった。
ここまではよくある話だが、さすが『同居人求む』というサイコサスペンスを書いたラッツ。本書でも同種の展開を見せてくれる。

リズ・マルティネスの「フレディ・プリンスはあたしの守護天使」は実在したコメディアン、フレディ・プリンスが一ファンだった少女の守護天使として現れる。
どこか不思議な浮遊感を持った本作はジョー・ヒルの短編に似たテイストを持っている。実在した人物が登場し、実に軽い調子で人の人生に忠告する雰囲気が似ているのだ。
しかし結局ラケルを不幸に追い込んだフレディ・プリンスは一体何だったのか?明らかに守護天使ではなく、疫病神でしかないのだが。

マアン・マイヤーズの「オルガン弾き」も奇妙な話である。
ロウアー・イーストサイドという貧民地区で手弾きのオルガンを鳴らしながら歌を歌っては小銭を稼いで糊口をしのいでいるアントニオ・チェラザーニの生活を中心に、弱い者が常に食われるような荒んだマンハッタンの最低部での生活風景が語られる。
一介のオルガン弾きをからかい、その小銭を強奪する悪ガキたち。拾った金歯を金に換えようとする警官。そこに巣食うイタリアの犯罪組織の内偵を続ける警察官。そして何者かに殺され遺棄された身元不明の女性。
それらがロウアー・イーストサイドの空気を、臭いを感じさせる。

マーティン・マイヤーズの「どうして叩かずにいられないの?」も荒廃とした物語だ。
本作もまた社会の底辺で生きる人々の物語。ろくでなしを好きになってしまう男好きの女性の哀しい物語だ。
題名は彼女が男を殺害した後に吐露する言葉だ。しかし逆に私は「どうしてそんな男を好きにならずにいられないの?」と問いかけたい。

創元推理文庫で好評のリディア&スコットシリーズを刊行中のS・J・ローザンは私がいつか読みたいと思っている作家の1人だが、彼女の手によるハーレムを舞台にした「怒り」もまた社会の最下層の人々の物語だ。
犯罪者の再犯率は極めて高いというデータがあるらしいが、それがために前科者は更生して出所しても身の回りに犯罪が起きると真っ先に疑われる。
レックスも怒りに駆られて見境なく暴力を振っていたが、その衝動を改めて真っ当に生きようとする。しかし彼の周囲で犯罪が起こると刑事たちが執拗に訪ね、尋問する。犯罪大国アメリカで今でも起こっている哀しい事実なのだろう。
少年を救うためにレックスが起こした行動はレックスが更生した証なのだが、少年以外誰も気付かないことが哀しい。

マンハッタンでもハイソな場所チェルシーを舞台にしたジャスティン・スコットの「ニューヨークで一番美しいアパートメント」は弁護士と不動産という中流層の人たちを主人公にした物語で他の作品とは一線を画しているように思えるが、中流層は中流層なりにある狂気に駆られていることがこの作品を読むと解る。
安定した職業を持つ人々にも上昇志向という性があり、それが行き過ぎると狂気に及ぶ。これはそんな物語だ。
今まで全てにおいて2番手に甘んじていた主人公が今度こそ一番を目指したのがマンハッタンのチェルシーにあるクラシックなアパートメント。そここそが彼が子供の頃に夢見たニューヨーク・ライフの象徴だった。
一方で極上のアパートメントを妻に奪われた不動産屋もそのステータス・シンボルを略奪された思いから妻の殺人衝動を日増しに募らせ狂気へと進む。アパートメントと云う富の象徴が生んだそれぞれの執着。スコットが上手いのはそこからのツイスト。
所詮人々は幻影を求めて生きているのだと痛感させられる1編だ。

C・J・サリバンの「最終ラウンド」は下りを迎えたプロボクサーの物語。
新聞の社会欄の片隅にほんの数行のみ報じられるであろう小さなニュースだが、そこに至った人々にはかくも深いドラマが眠っている、そんな気にさせられる1編だ。

恐らくは中国系作家と思われるシュー・シーの「オードリー・ヘップバーンの思い出に寄せて」はニューヨークに暮らす中国系移民の女性のある半生の物語。
栄枯盛衰。誰しも訪れる人生の光と影。やはりこのような話はしんみりとして哀しみを誘う。

最後は編者ブロック自身による「住むにはいいところ」。
いわゆるハニー・トラップの話。
いやはや都会の夜は恐ろしい。


冒頭にも書いたように本書は先に『ブルックリン・ノワール』なるブルックリンを舞台にしたアンソロジーが先にあり、それに続くシリーズとして今度はマンハッタンを舞台にしたアンソロジーをローレンス・ブロックが編者を務めた物。

従って原題は『マンハッタン・ノワール』であり、マンハッタンの暗部を活写するようなクライム・ストーリーで構成されている。

作者の選出はブロック自身が行ったようだが、日本の読者には馴染みのない作家の作品で構成されているのが特徴的だ。本書に収録されている作家の内、日本で知られているのはジェフリー・ディーヴァー、トマス・H・クック、ジョン・ラッツ、S・J・ローザン、そしてブロック本人ぐらいだろう。その他10名の作家は邦訳がなく、あっても1冊のみと云った未紹介作家の名前が並ぶがそれぞれが個性的でしかも読ませる。アメリカ作家の懐の深さを思い知らされた次第だ。

人種のるつぼニューヨーク。冒頭ブロックがニューヨークで“街”と云えばマンハッタンを指すと述べている。つまりマンハッタンこそがニューヨークの中心であり、アメリカの中心であり、そして世界の最先端の街である。
しかし本書に収められた作品に描かれたマンハッタンはそんな大都会の片隅で這いつくばりながら生きる人々が描かれている。彼らの生活は決して華やかではない。むしろ弱肉強食の世界に放り込まれた弱者たちで力に従い、したたかに生きている人々たちだ。

それは原題にノワールと掲げられているからかもしれないが、全体的に物語は暗鬱でペシミスティックだ。そしてどちらかと云えば誰もが誰かを出し抜こうと手ぐすね引いて待っている、そんな悪意が行間から立ち上ってくる。

そんなノワール色濃い短編集だが、個人的ベストはS・J・ローザンの「怒り」、ジャスティン・スコットの「ニューヨークで一番美しいアパートメント」、C・J・サリバンの「最終ラウンド」を挙げたい。

ローザンとサリバンの作品は底辺で暮らす人を主人公に据えながらも最後に前向きで明るい光が見えるような話になっているからだ。罪のない子供が冤罪で逮捕される所を身代わりになる元犯罪者と最盛期を過ぎ、家族を強盗で喪ったプロボクサー。決して明るい結末ではないが、善行による魂の救済が見られる。

そしてスコットの小説は中流層の人間が陥りがちな資産に自分のステータスを見出すことによる過ちを描いたのが特徴的で他の作品群と一線を画す。最後の皮肉な結末も含めて飽きさせない。

最近は編者としての技量も発揮しているブロック。創作よりもアンソロジーを編むことに専念する大御所作家が多い中、ブロックはその後も自作を発表しているところが素晴らしい。本書はニューヨークに馴染みのない日本人にはなかなか街の空気までも感じられないだろうが、日本未紹介作家の佳作たちに触れる数少ないチャンスである。

ジャスティン・スコットとC・J・サリバンの作品が読めただけでも収穫があった。他の未紹介作家の邦訳が進めばいいのになと思わされた短編集である。


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