(短編集)

バランスが肝心



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    初公開日(参考)1993年07月
    分類

    短編集

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    ローレンス・ブロック傑作集〈2〉バランスが肝心 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

    1993年07月01日 ローレンス・ブロック傑作集〈2〉バランスが肝心 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

    申し分のない仕事に、文句のつけようのない妻、そしてすばらしい愛人―会計士ヘッティンガーの人生は、まさに順風満帆だった。ところが、たった一通の脅迫状がきっかけで、彼の人生は微妙にバランスを崩しはじめた…満ち足りた毎日を送る男を待ち受けていた皮肉な運命を描く表題作をはじめ、ハードボイルドから奇妙な味の短篇まで、バラエティにとんだ19篇を収録。大好評『おかしなことを聞くね』につづく第2短篇集。(「BOOK」データベースより)




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    No.1:
    (10pt)

    このタイトルこそ優れた短編の秘訣

    長編のみならず短編の名手でもあるローレンス・ブロックの第2短編集。

    まず奇妙な味わいの1編「雲を消した少年」で幕を開ける。
    虐待を強いられた子供は何か特別な力を得るとそれを精神の背骨とせず、今までの虐待から脱却するための力として行使しようとする傾向にあるようだ。
    屑のような存在から何か特別な存在になったと錯覚し、それを誰かに試してみようと思う。今まで特に心入れることなく観ていた周囲の風景や人々が突然色づき始め、彼にとって意味を持ってくる。
    しかしそれは必ずしもいい意味ではない。彼にとって生まれながらに持って与えられた底辺の生活から脱するための餌食に見えてくるのだ。
    果たしてジェレミーの得た雲を消す力は他に応用できたのか?不穏な空気をまとって物語は閉じられる。

    「狂気の行方」はおかしな振る舞いで精神病院に入れられた男の話。

    「危険な稼業」は実にブロックらしい短編だ。
    もしかしてこれはブロック自身の物語なのか?

    「処女とコニャック」はある医者が主人公に語る奇妙な話。
    なんとも人を食ったようなお話だ。ライバルとも云える2人の取引の間を取り持つ男が見事な知恵で上手く出し抜くという話は古来昔話やお伽噺などでよくあるが、まさか処女とコニャックがその対象とは実にブロックらしい。

    もはやブロックの短編には欠かせない存在となった悪徳弁護士マーティン・エレイングラフが登場するのは「経験」。
    依頼人の無実を晴らす為ならば手段を選ばない。悪徳弁護士エレイングラフのまさに典型とも云うべき作品。しかし単なる典型に陥らず、作者は意外なオチを用意している。

    旅行に帰ってきたら空巣に入られて我が家が荒らされていた。「週末の客」はそんなシチュエーションで始まる。
    いくつか貴重品も無くなっていたがいつまでもくよくよしてはいられない、とばかりに家の主人エディは早速同僚と仕事に出かける。被害を少しでも取り返すために…と、泥棒が自宅に盗みに入られるという間抜けなシチュエーションを扱った物。

    「それもまた立派な強請」もまた奇妙な味わいの物語だ。
    デイヴィッドが行ったのは困っているかつての恋人を助ける騎士道精神からだろうか?
    彼の中で何かが変わったことは確かだ。読者はデイヴィッドの姿に一種の願望を見出すのかもしれない。

    さらに輪をかけて奇妙なのは「人生の折り返し点」だ。
    ロイスは狂人なのか?
    とにもかくにもある日自分の年齢に気付いて愕然とする瞬間と云うのは誰しもあるのだろう。その時今までの人生で自分は何かを成し得たのかと考える時が訪れるのかもしれない。そしてごく普通の生活を送り、そしてこの後の人生もまた同じことの繰り返しだと気付いた時、人は何を思い、そして何を決意するのか?
    「終わりなき日常」に嫌気が刺し、一念発起して自分が生きた証を遺そうとする者、もしくは今まで出来なかったことをやろうと決意する者。本作の主人公ロイスは明らかに後者だ。
    ある一線を超えた者の悟りを描いているのだが、そんな重い話ではなく、作者自身の声とも呼べる地の文のツッコミがとにかく面白く、独特な作品となっている。

    「マロリイ・クイーンの死」はブロックによる本格ミステリだ。
    ブロックによる本格ミステリと書いたが、その実態はアメリカ推理文壇をモデルにしたパロディミステリ。
    そこここにモデルとなった作家や評論家が登場し、彼らが容疑者となって一堂に会する。そして狙われるのは雑誌発行人で、彼女は確かに書店やエージェント、作家たちの恨みを買うようなことをその権限で行っている。そして衆人の前で殺害された発行人の事件のあまりにも意外な真相は本格ミステリそのものを皮肉っているかのようだ。
    ブロック特有のブラックユーモアの詰まった1作だ。

    「今日はそんな日」もまた本格ミステリ趣向の作品。
    これはある意味物事の本質を云い当てた作品なのかもしれない。現実に起こる出来事の真相はほとんど明らかにされることはない。従ってミステリとははっきりとした答えの出ない現実の不満を解消するために書かれ、読まれている物だと解釈できる。

    何とも云えない味わいを残すのが全編手記という形で書かれた「安らかに眠れ、レオ・ヤングダール」だ。
    しかしどこか実に人間臭い。

    表題作「バランスが肝心」は公認会計士の許に一通の封筒が届くことから幕を開ける。
    う~ん、実にバランスの取れた作品だ。

    「ホット・アイズ、コールド・アイズ」はそのスタイルと美貌故にいつも男の視線を感じてしまう女性の話だ。
    昼の貌と夜の貌。その風貌故に人の視線を感じる女性と云うのはいることだろう。そういう女性はそんな視線を厭わしく思うのだろうか?
    それは視線の主次第だろう。彼女は昼は貞淑な女性を務めているが夜はむしろ派手になり、男の視線を浴びることを快感に思うようになる。そしてさらに彼女には秘密があった。
    ある意味ユーモアにも転じることが出来るプロットで、今までの流れからも感じる視線のオチとは他愛もないものだろうと思っていただけにこの結末は意外だった。女性のミステリアスな部分がさらに深まる短編だ。

    風来坊の主人公がダブリンに住む作家の身の回りの世話をする「最期に笑みを」はまた一種変わったテイストだ。
    街の長老と化したミステリ作家が簡単に事故として処理されそうになった事件の真実を解き明かそうと身の回りの世話をする青年を助手して捜査をする。しかしその様はいわゆる探偵小説のようなものではなく、あくまで淡々と街の人たちと会い、世間話をして様子を訊き、それを作家に報告するだけ。そして作家はその話を訊き、また指示を出す。それは死期が迫った老人の話を聞く青年との暖かい交流を思わせるのだが、次第に様相は変わり、最後はなんとも苦いものとなる。
    センチメンタリズム溢れる好編だ。

    一転して「風変わりな人質」では軽妙な誘拐劇が繰り広げられる。
    現代っ子に掛かれば誘拐事件も一種のゲームのようになるのか。誘拐されたキャロルの立場は絶望的ながらも決してシリアスにならず、寧ろ状況を愉しんで犯人を出し抜くために知恵とそして女の武器を使って乗り越えようとする。なかなか痛快な1作だ。

    続くは短編集でのシリーズキャラクターとなっている悪徳弁護士マーティン・エイレングラフの本書での2作目「エイレングラフの取り決め」では珍しく国の制度で斡旋される容疑者の弁護に携わる。
    エイレングラフは有罪明白と思われる事件の裁判を未然に防ぐために容疑者の周囲の人々、事件の関係者と逢って真相をでっち上げ―作中では明白にでっち上げられたことは書かれてないが―真犯人の告白と自殺で事件を解決させ、高額な報酬を得るのが常套手段。本作もその例に漏れないが、まずは高額な報酬が望めない国の斡旋する貧しい容疑者の弁護を受けるところから異色。
    しかしエイレングラフは動じない。彼はまた自分の信念に従って依頼人を無罪にするのだろう。

    「カシャッ!」はシンプル故に最後の幕切れが強烈な作品。
    最初の「ある意味では」というところから布石が始まっている。その被写体だけで戦慄の結末を悟らせるこの上手さはブロックしか書けない。

    「逃げるが勝ち?」は浮気相手が大金を手にした暁に夫を殺害して海外へ高飛びしようと画策する話。しかしそこはブロック、巧みなどんでん返しが用意されているが、これは予想の範疇であったかな。

    そして最後は本書中最も長い「バッグ・レディの死」。マット・スカダーが登場する中編だ。
    これはマットじゃないと務まらない最上のセンチメンタリズムが横溢した作品だろう。
    しばらく考えないと思い出せないくらい縁の薄い女性ルンペンからの突然の遺産相続という導入部のインパクトの強烈さ。そしてマットはそんな薄い繋がりが街の片隅で何者かに無残に何か所も刺され、死んだ事件の真相を、1,200ドルの遺産を依頼金として彼女が遺産を遺した他の相続人たちを渡り歩いて犯人捜しを行う。
    こんなミステリの定型をある意味台無しにする結末なのだが、それを十分読者の腑に落ちさせるのはやはりマットの、自分に関わった人たちに対する誠実さゆえだろう。これはブロックの、しかもマット・スカダーシリーズでないと書けない事件であり、物語だ。


    ブロックの第2短編集である本書はまたもや実にヴァラエティに富んだ内容となった。
    まずファンタジーから始まるのが実に意外。そこから殺人、叙述トリック、詐欺、強請、狂気、本格ミステリのパロディ、リドルストーリー、小咄、サイコパス、探偵物、奇妙な味に更にはジャンル別不可能な物とよくもまあこれだけのアイデアが出るものだと読んでいる最中もそうだったが、今振り返って改めて感嘆する。

    そしてここにはブロックしか書けない作品が揃っている。「処女とコニャック」、「それもまた立派な強請」、「人生の折り返し点」、「安らかに眠れ、レオ・ヤングダール」、「バランスが肝心」、「バッグ・レディの死」などがそうだ。

    そんな極上の作品が並ぶ中で個人的ベストを敢えて挙げるとすると「人生の折り返し点」と「バッグ・レディの死」の2作になろうか。

    「人生の折り返し点」は勝手に寿命を悟り、残りの半分の人生をもっと楽しく生きるために思い切ったことをやると決意した男の狂気を作者と思しき語り手の神の視点での語り口が物語に面白味を与えている。とにかくブロックにしか書けない作品の最たるものだ。

    そして「バッグ・レディの死」はマット・スカダーが登場する1編。彼に遺産を遺したバッグ・レディ、つまり女性ルンペンの死を探る物語だが、最後に犯人が自らマットの許を訪れて自白して事件が解決する結末はある意味これはミステリの定型から脱した物語だろう。
    しかしマットがあてどなく被害者である身寄りのない知的障害者の中年女性が遺産を遺した市井の人々を巡ることで誰もが彼女を思いだし、彼女を懐かしがり、死を悼むようになるがゆえにこの結末は実に納得のいく物になるのだ。そしてそれはうらびれた街角でボロ屑のようにめった刺しにされ、打ち捨てられるように亡くなった一人の女性に名を与え、警官でさえ捜査を辞めた事件を甦らせることで彼女の一人の人間にし、その死に尊厳を与えることになった。

    また一種忘れがたいのは「安らかに眠れ、レオ・ヤングダール」。10数ページの小品でその内容は単なるバカ話にしか過ぎない話なのだが、こういう話こそ折に触れ繰り返し語られる不思議な力を持っているものだ。偶然の織り成すおかしみというものがこの作品にはある。

    しかしなぜこうも印象に残る作品が多いのか。それは確かにアイデア自体も秀逸だが、ブロックの語り口がまた絶妙だからだろう。
    例えば火曜日の朝に郵便物が届く事だけで、郵便物がその曜日の朝に届くこととはどういうことなのかを書く。こんな我々の日常にでも起こるようなことについてブロックは実に興味深く考察し、物語に投入し、読者は改めてそのおかしみに気づかされ、一気に物語にのめり込んでいくのだ。

    さらにブロックは物語の結末を明白に書かず、読者の想像に委ねていることもまた強い余韻を残すのだろう。特にエイレングラフ物は決して彼が手を下したとは書いていないのに読者の心には彼が依頼人の無罪を勝ち取るならば殺人をも厭わない悪徳弁護士であると印象付けられている。
    また「今日はそんな日」の何とも云えない曖昧な結末や「カシャッ!」の最後に一行の意味などは全てを語らないのに実に強烈な印象を残す。物語の幕引きのタイミングを心得ているのだね。

    この第2短編集は第1短編集の『おかしなことを聞くね』よりも世間の話題を集めていないが、それに勝るとも劣らないほど素晴らしい内容だ。
    限られた枚数でこれだけのヴァリエーションとアイデアに絶妙なオチをつける、まことに短編は「バランスが肝心」だ。


    ▼以下、ネタバレ感想

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    No.2:
    (1pt)

    パッとした話がありませんでした

    「おかしなことを聞くね」が面白かったので続編短編集のこちらを購入しましたが、印象に残る話がありませんでした。

    悪徳弁護士(悪魔と呼んでも差し支えないほど邪悪)エイレングラフの行動もワンパターンで残念でした。
    ローレンス・ブロック傑作集〈2〉バランスが肝心 (ハヤカワ・ミステリ文庫)Amazon書評・レビュー:ローレンス・ブロック傑作集〈2〉バランスが肝心 (ハヤカワ・ミステリ文庫)より
    4150774560
    No.1:
    (4pt)

    探していました

    やっと買えました。期待通りの面白さ!でも、どうしてコメントが、短くちゃいけないの?長いコメント必要ですか?アマゾンの姿勢に???です。
    ローレンス・ブロック傑作集〈2〉バランスが肝心 (ハヤカワ・ミステリ文庫)Amazon書評・レビュー:ローレンス・ブロック傑作集〈2〉バランスが肝心 (ハヤカワ・ミステリ文庫)より
    4150774560



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