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恋恋蓮歩の演習



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恋恋蓮歩の演習の評価: 8.40/10点 レビュー 5件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.40pt

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No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)
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マイ・アンフェア・レディ。その名は香具山紫子

Vシリーズ第6弾は豪華客船の上で起こる密室での人間消失と絵画盗難を扱った、これまた本格ど真ん中の作品である。
前作『魔剣天翔』ではアクロバットショーの飛行機のコクピットという、恐らく世界最小の密室での殺人事件だったが、前回の舞台が空なら今度は海。なかなかヴァラエティに富んだ舞台設定である。

そんな非日常の舞台で起きる事件は次の通りだ。

たった3部屋しかない宿泊エリアの一番端の部屋から銃声が響いて何かが鉄に当たる様な音がして海に男が落ちる。現場にはピストルが落ちているが、その部屋から出入りしたのは隣室の男のみ。しかもその男は事件の後に部屋に入ったと証言しており。その宿泊エリアから出た人はいないことはフロントで確認済みである。更に真ん中の部屋の宿泊客が持っていたスーツケースには絵画が入っていたが、鍵が掛かっていたにも関わらず忽然と消えてしまう。

つまり密室状態の船室から落ちた男の謎と消えた絵画の謎がごく狭いエリアで繰り広げられる。しかもそのエリアにいたのはまず男が落下した部屋S3室には被害者の建築家の羽村怜人とその恋人の大笛梨絵のみ。隣のS2号室には保呂草が絵画を盗もうと狙っている鈴鹿幸郎と息子の明寛とさらにその息子の保と秘書の村松直美の4人。そして残りの一番大きなS1号室には鈴鹿幸郎の取引相手でフランスの富豪のクロウド・ボナパルト氏とボディガード3人に保呂草に盗みを依頼した各務亜樹良の計5人という非常に狭い範囲での事件である。
こんな限定された状態でかつ謎としても比較的なシンプルな状況でどんな真相が待ち構えているのか興味が高まった。

なんせ前作『魔剣天翔』ではたった2人しかいない曲芸飛行機のコクピットの中での密室殺人で意外な真相を展開した森氏である。今回もどんな真相が現れるのか、期待したくなるのも当然ではないか。

さて今回は今まで道化役でしかなかった香具山紫子にスポットが当てられる。背の高い女性であまり風貌については取り立てた記述はなかった紫子はコメディエンヌとしてとにかく三枚目を演じることが多く、読んでいる当方も同情が禁じ得なくなるほど不遇なキャラクターであったが、今回は、保呂草の本職である泥棒稼業の手伝いとはいえ、とうとうヒロインの役を仰せつかる。口は達者だが、本番に弱いメンタリティの弱さを持つ彼女が一念発起して保呂草の妻役に挑む。

てっきり香具山紫子のシンデレラ・ストーリーになるかと思いきや、さにあらず、やはり小鳥遊練無と瀬在丸紅子のマイペースに翻弄されて結局いつも役割に。
保呂草との甘い夜を過ごすはずの船室は紅子の独断で、恋人が船から落とされて傷心中の大笛梨絵の部屋に女性3人で泊まることになり、保呂草と練無が元々の船室に泊まって寸断される。しかも今回の自画像略奪計画の相棒として保呂草の手伝いをさせられるのだが、その目的は知らされず、事件そのものについても一切関わることはなく、結局はただの付き添いで済んでしまい、その後は自棄酒に溺れ、結局いつもの冴えない役回りを仰せつかるのであった。
恐らく保呂草としては想定外の事態に備えての保険的役割として紫子を配したのではないか。保呂草自身も紫子が自分にほのかな想いを寄せているのに気付いているはずだが、それを敢えて利用する冷静冷徹さに不満と紫子への報われなさに同情を禁じ得ない。
「マイ・フェア・レディ」になり損ねた紫子が報われる日はいつ来るのか。それともずっとこのままなのだろうか。「わたしの人生っていったいなんやろ」と一人気落ちせずに頑張れ、紫子!

さてミステリとしては標準並みの謎の難易度で全てではなくとも謎の一部は私にも途中で解ってしまうほどの物だったが、今回は事件の謎よりも物語の謎、いや保呂草という男の行動こそがメインの謎だったように思う。

この考えの読めない探偵兼泥棒の、常に客観的に物事を冷静に見つめ、目的のためには人を利用することも全く厭わない(その最たる犠牲者が香具山紫子なのだが)、あまり好感の持てない人物だが、彼の信念というか、信条が本書では意外な形で明らかになる。

恐らくそれまで保呂草嫌いだった読者の彼に対する評価は本書で大なり小なり好感を増したのではないだろうか。実際私はそうなのだが。

今回はミステリのためだけに作られた無理のある事件だったという感想は変わらないが、この保呂草の意外な温かさが最後胸に響いた。

ところで題名『恋恋蓮歩の演習』とはどういった意味だろうか?
まず目につくのは「演習」の文字。これは前作で保呂草が盗み出すように依頼された幻の美術品「エンジェル・マヌーヴァ(天使の演習)」から想起されるのは当然だし、登場人物も各務亜樹良と関根朔太と共通していることからも繋がりを連想させる。事実その通り、物語の最後は現在の関根朔太に行き当たる。

一方「恋恋蓮歩」という四文字。これは森氏独特のフレーズで造語かと思ったら実は「恋恋」は「思いを断ち切れず執着すること」、「恋い慕って思い切れない様」、「執着して未練がましい様」という意味で、一方の「蓮歩」は「美人の艶やかな歩み」という意味らしい。

この2つの単語を繋げたのは森氏の言葉に対する独特のセンスなのだが、つまり「恋恋蓮歩の演習」は「恋い慕って思いが募る女性が行う艶やかに歩く訓練」ということになる。
う~ん、そうなるとこれはやはり大笛梨絵、瀬在丸紅子ではなく、今回保呂草の計画に一役買った香具山紫子を表した題名になるのだろうか。

しかし一方で英題“A Sea Of Deceit”は“偽りの海”という意味。邦題と英題を兼ね合わせる人物はとなると大笛梨絵になるだろうか。
いずれにしても色んな解釈ができる題名ではある。

最後に読み終わった後に保呂草自身のプロローグに戻ると、文字に書かれた時点で現実から乖離し、全ては虚構となる、そして全てが書かれているわけではなく、敢えて書かないで隠された事実もあるし、今回はその時点における意識をそのままの形で記述することを避けるとも謳われている。知っているのに知らないふりをすると云うのは現実によくあることだ。
森作品、特にこのシリーズにおいてこの「書かれていること全てが本当とは限らない」というメッセージが通底しているように思われる。それはやはり保呂草潤平という謎多き人物がメインを務めているからかもしれない。
それはつまり、自分の直感を信じて読めばおのずと真実が見えてくるとも告げているように思える。ただ読むだけでなく、頭を使いなさい、と。
だからこそ森ミステリには敢えて答えを云わない謎が散りばめられているのかもしれない。それこそが現実なのだからだ、と。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

恋恋蓮歩の演習の感想

シリーズ第6弾にして最高傑作!殺人事件が起きない中でここまで謎解きの魅力を感じさせてくれる作品に久々に出会った。

ジャム
RXFFIEA1

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