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(短編集)

エラリー・クイーンの国際事件簿



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【この小説が収録されている参考書籍】
エラリー・クイーンの国際事件簿 (創元推理文庫)

エラリー・クイーンの国際事件簿の評価: 9.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点9.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(9pt)

事実はやはり小説より奇だった

作者エラリー・クイーンが収集した事件について紹介した作品集。1編あたりが10ページ未満ということもあってショートミステリ的な作風になっている。

まず第一部はクイーンが世界中を周遊して聞いた話について書かれた「国際事件簿」。

まさに奇妙な事件ばかりだ。南スペインでは美女を彫らせるといつも同じ顔になる入墨師の話が、日本ではあの有名な帝銀事件が、フランスのノルマンディーではパリ警視庁でその人ありと謳われたフォス警部が突然引退するに至った事件が語られ、アルゼンチンでは知られざる名探偵ディエゴ・ゴメス捜査部長の活躍に、ルーマニアではある詐欺事件の一部始終が、そしてアルジェリアでは新婚初夜の夫婦に降りかかった密室での新妻殺人事件の顛末が語られる。
さらにメキシコでは富豪の未亡人の殺人事件、インドでは呪いによって殺された青年の話、ユーゴスラヴィアではヴェリカ・キキンダという町で起こった連続盗難事件、エクアドルでは浮気妻が浮気相手と2人きりの時に部屋で射殺された事件、パリでは愛のため両目を失った青年の話が、フィリピンではフィリピンで闇取引の大物になった元アメリカ軍人の殺人事件に西オーストラリアでは砂漠で白骨死体で発見された白人の話、チェコスロバキアの浮気娘がかかった奇病の正体の話、モンテカルロではカジノのクルーピエ(ルーレット係)が起こした神がかった犯罪、と続く。

そしてモロッコで起きたフランス軍人とベルベル人の美女との悲恋のお話に、トルコでハーレムの一人になったアメリカ人女性の不審死、中国は上海にあるフランス租界で起きた心中事件の意外な真相が語られ、スペインのマドリードで起きた無政府主義者の女性闘士が起こした狂気の殺人、エルサレムでは今なお謎とされる発見された男女の死体の真相で閉じられる。

第二部はアメリカで起きた奇妙な事件について語られた「私の好きな犯罪実話」だ。

まず「テイラー事件」は数奇な人生を経て名監督となり、女優たちとの浮名を轟かせたウィリアム・デズモンド・テイラー殺人事件を扱った物。まだグレタ・ガルボも登場していないサイレント時代のハリウッドで起きた映画監督殺人事件。しかし何よりもこのテイラーという人物の人生もドラマティックなのだ。才能さえあれば富と栄光が得られるハリウッドが持つ狂気の魔手。これはまさにそれに絡め捕られ人生を狂わされた人々の物語だ。

次の「あるドン・ファンの死」は実に興味深い。何しろ作者クイーンがエラリー・クイーンシリーズを書くきっかけになった事件だというのだから。この社交界の雄ジョゼフ・ボウン・エルウェルが自宅で殺された事件はなんとS・S・ヴァン・ダインのデビュー作『ベンスン殺人事件』のモデルになった作品であり、『ベンスン殺人事件』を読んだある2人が後の作家エラリー・クイーンとなったというのだ。
また社交界で浮名を沸かせたエルウェルが死体で発見された時にはカツラを脱ぎ、入歯も外し、引き締まった体に見せるためにはめていたコルセットを外した単なるハゲで歯のないデブのオッサンだったらしい。これは後にあるクイーン作品に繋がっていて興味深い。

第二部はこの2作までで最終の第三部は女性の犯罪を扱った物。女性が犯罪者だったり、被害者だった事件が紹介されている。題して「事件の中の女」だ。

いつの世もいざとなれば女性の方が度胸が据わっているもの。この第三部に挙げられた女性の犯罪者の悪女ぶりは女性の本当の怖さが滲み出ている。

結婚詐欺師を逆に手足のように使い、2件の殺人をさせた女。
6度の結婚を繰り返し、自身の殺人を実の息子に擦り付けた母親。
自分たちの世界を守るため障害となる母親を殺した2人の少女。
愛する赤ん坊におもちゃを買うために連続強盗、警官殺しを引き起こした鬼子母神のような女。
その美しさゆえに恋敵を殺させてしまった女。
陰と陽の境遇と性格を備えた2人のルームメイト。
夢で殺人事件を知った女性。
自分の死を“見た”女。
連続殺人鬼の餌食になった女性たち。
妻殺しの加害者でありながらその夫に殺された女。
別の殺人のあおりを食らって毒入りウィスキーを飲んでしまった不運な女性。
夫殺しの容疑者でありながら裁判で無罪を勝ち得た挙句に天罰が下ったとしか思えない死に方をした美女。
男のあしらい方を間違えたがために命を失った“国民の恋人”と称された絶世の美女。
自分に逆らう嫁が憎いため息子たちに殺させた姑。
恋多き人生を送っていたが一転して一人の男に尽くし、嫉妬のあまり殺してしまった女。
次々と夫、子供を毒殺していく女。
これらのうち、ある者は理解でき、またある者は理解を超え、そしてある者は不幸としか思えない末路を辿っている。

これら3部で構成された本書で語られているのはおそらく実話だろう。そしてそのどれもが意外な真相なのだ。
最後の一行で読者に知らされる“最後の一撃”はまさに「事実は小説より奇なり」であることを思い知らされる。

本書に挙げられているのは19世紀の終わりから20世紀の半ばにかけての犯罪記録である。こういった記録は実際貴重である。
日本でも牧逸馬氏が同趣向の世界怪奇実話集を編んでいたが長らく絶版となっていた。それを島田荘司氏が精選して復刻させた。本書は今なお本屋で手に入るのだからまだ幸運だ。東京創元社の志の高さに感謝したい。

世界で起こったフィクションを凌駕する奇妙な事件の数々を集めた本書はその内容ゆえに読後感が決して良いわけではないが、歴史に残る犯罪記録として実に貴重な作品だ。
さらに本書が書かれた“その後”について触れられた解説は本書の事件の驚きをさらに補完してもう一度驚かせてくれる(特に母親を殺した2人の少女のその後は強烈だ!)。その存在の意義と価値、そしてここに収められた話の奇抜さと作者の簡潔にして冷静な叙述ぶりを高く評価しよう。


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