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これほど昏い場所に



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【この小説が収録されている参考書籍】
これほど昏い場所に (ハーパーBOOKS)

これほど昏い場所にの評価: 5.00/10点 レビュー 1件。 Dランク
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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
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(5pt)

敵は相変わらず強大だが…

久々のクーンツ作品訳出である。最後に訳出されたのが2011年に刊行されたフランケンシュタインシリーズだから実に7年ぶりとなる。
このフランケンシュタインシリーズはその後も書かれていたが、区切りとなる第3作で訳出は打切りとなった。熱狂的なクーンツファンの瀬名氏によれば4作目以降から趣向が変わったとのことで、また売れ行きも芳しくなかったこともその一因だったのだろう。

長らく途絶えていたクーンツ作品の訳出が2018年になって訳出されたのはまたも新しいシリーズが始まったからだ。
FBI捜査官ジェーン・ホークが主人公を務めるクーンツにしては珍しいミステリ仕立ての作品がアメリカで好評だったからによる。

まずクーンツが女性を主人公にしたことが珍しい。シリーズ物のオッド・トーマス然り、フランケンシュタイン然り、今までの作品ではほとんど全て男性が主人公だった。中には印象的なヒロインが登場する作品もあったが、それでもメインは男性だった。

彼がこのジェーン・ホークを主人公にしたのは新機軸でもありつつ、今やヒットチャートもアリアナ・グランデやテイラー・スウィフトといった女性アーティストが席巻する時代である。そんな最近のトレンドもクーンツは盛り込んだのかもしれない。

久々に読んだクーンツは、かつて重厚長大化し、どんどん肥大していく作品傾向にあった2000年代頃に比べて、いわゆるグダグダとした説教的な話が少なくなり、物語展開がスピーディになったことが特徴的だ。特に短い章立てで次から次へと場面転換が行われるのは今までにない特徴と云えよう。3ページだけの章は当たり前で1ページも満たない章もいくつか散見される。

クーンツは導入部が魅力的とよく云われるが、本書でもFBI休職中のジェーンが夫を自殺で亡くした未亡人の許を訪れ、その様子を尋ねているうちに突然その未亡人も銃で自殺する。更にその後訪れた図書館でドローン2機による急襲と刺客たちとのチェイスなど一気にクライマックスへと持ち込む。

さてそんな本書で主人公ジェーン・ホークが立ち向かうのは全米で起きている不可解な自殺事件。
ある日突然普通の生活をしていた人々が突発的に自殺を行う不審死が相次いでいることにジェーンは気付く。そして彼女の夫もまたその中の1人だった。
更にそれを調べていくうちに全米で自殺率が年々上昇していることが明らかになっていく。そしてそれらの自殺がある天才たちによって引き起こされていることが判明する。
しかしその相手は大富豪とノーベル賞候補の大科学者の2人でしかも彼らの息は政府機関や各方面に掛かっており、しかもウェブで常に監視され、少しでも検索しようものならすぐに嗅ぎつけて追跡してくる。しかも彼女の所属するFBIにも息の掛かった人物がいるらしい。
と、相変わらずクーンツは主人公を絶望的な八方塞がり状態に陥れる。

クーンツ作品はどうやっても勝てないだろうと思われる巨大な敵をまず設定し、徐々に主人公に迫りくるその包囲網だったり、圧倒的な強さを持つ敵と絶望的とも思える対決を強いられるパターンが多く、そんな相手にどうやって主人公は立ち向かうのだろうかと読者はドキドキハラハラさせられるわけだが、その割には決着の付け方が淡白で今までの無敵感を誇っていた強さは一体何だったのかと肩透かしを食らう結末は少なくなかった。

その問題の欠点は改善されたかと期待したが、残念ながらそれはなかったというのが率直な感想だ。

やはりクーンツは設定作りは上手いが、物語の畳み方が下手であることを再認識させられるだけになってしまった。

ただ本書はまだイントロダクションといったところか。
ジェーンが全米で起きる不可解な自殺事件という陰謀に加担している大富豪デイヴィッド・ジェームズ・マイケルは無傷のままであり、対峙すらしていない。

そしてジェーンを取り巻く仲間たちも今後の物語に関わってくることだろう。

一人巨大な的に立ち向かうジェーンの唯一の弱点は自殺したニックとの間に生まれた愛息トラヴィス。その息子を預かるのが友人のギャヴィンとジェシカのワシントン夫妻。
ジェシカは9年前陸軍に所属していた際、アフガニスタンにおり、その時に爆弾で両足を失っている。その時に知り合ったギャヴィンと結婚し、今に至る。14カ月前にジェーン夫妻とヴァージニアで開かれた戦傷病者の基金集めのイベントで知り合った。ギャヴィンは元軍人の経験を活かしてフィクション・ノンフィクションの軍事関連の書籍を書いて生計を立てている。

パリセーズ公園での略奪劇でジェーンに加担したアメリカ陸軍の元女軍曹ノーナ・ヴィンセントに、物語後半に多大な協力者となるドゥーガル・トラハーン、そしてジェーンのシェネック邸急襲作戦に協力したヴァレー・エア社のロニー・フエンテスとその姉ノーラといった登場人物たち。

さて本書でジェーンが疑惑を抱くアメリカの自殺率の上昇は実は本書のために作られた話ではなく、どうやら本当のことのようだ。
半分の州で自殺率は30%までにも上っており、ノースダコタ州ではなんと57%も増加したらしい。

音楽業界を再び例に挙げて恐縮だが、確かに2017年にクリス・コーネルが突然自殺し、その後を追うようにリンキン・パークのヴォーカル、チェスター・ベニントンも自殺したのは実にショッキングな出来事だった。

そんな不穏な空気に包まれたアメリカの現状から恐らくクーンツは一連の自殺が何らかの陰謀によって引き起こされているという本書の設定の着想を得たと思われる。

ただ私は何となく本書の内容に乗り切れなかった。短い章立てで進むストーリーはそれがゆえに没入度を低下させ、目まぐるしく切り替わる場面転換にしばしば読み辛さを感じた。
これは全く以て私の憶測だが、昨今SNSでツイッターやフェイスブックなど短いコメントを挙げる風潮があるために、小説に関しても極力短い章立てで読ませることをもしかしたら作者は意識したのかもしれない。

今後ジェーンは一人息子のことを思いながら巧みに変装をし続けて標的であるデイヴィッド・マイケルを目指す。
ほとんど全てのアメリカ人を敵に回して少しの理解者と共に立ち向かう今後はもっとスリリングでじっくり読ませる内容であってほしい。


▼以下、ネタバレ感想

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