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シャイニング



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シャイニングの評価: 8.00/10点 レビュー 2件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

本書における本当の恐怖とは

もはやキングの代名詞とも云える本書。スタンリー・キューブリックで映画化され、世界中で大ヒットしたのはもう誰もが知っている事実だろう。

コロラド山中の冬は豪雪のため営業停止する≪オーバールック≫ホテル。その冬季管理人の職に就いたジャック・トランスと彼の癇癪と飲酒癖の再発を恐れる妻ウェンディ、そして不思議な能力“かがやき”を持つ少年ダニー達3人の一冬の惨劇を描いた作品である。

とにかく読み終えた今、思わず大きな息を吐いてしまった。
何とも息詰まる恐怖の物語であった。
これぞキング!と思わず云わずにいられないほどの濃密な読書体験だった。

物語は訪れるべきカタストロフィへ徐々に向かうよう、恐怖の片鱗を覗かせながら進むが、冒頭からいきなりキングは“その兆候”を仄めかす。

ホテルの冬季管理人の職に就いた元教師ジャック・トランス。彼は自粛しつつも酒に弱い性格でしかも癇癪もちであり、それが原因で教師を辞職させられた。

更にその息子ダニーは“かがやき”と呼ばれる特殊能力を持つ少年だ。人の心の中が読めたり、これから起こることが解ったりする予知能力のような力を指し、この“かがやき”はホテルのコック、ハローランも持っており、ダニーは強い“かがやき”を持っているという。
さらに彼にはイマジナリー・コンパニオン―想像上の友達―トニーがおり、それまでは孤独なダニーの遊び相手であったが、≪オーバールック≫へ来ると彼を悪夢へ誘う導き手となる。

この“かがやき”が題名のシャイニングの由来である。いわゆる第6感もそれにあたるようで、理屈では説明できない勘のようなもの、そこから肥大した第7感を示しているようだ。

そして舞台となる≪オーバールック≫ホテルもまた過去の因縁と怨念に憑りつかれた建物であることが次第に解ってくる。
1900年初頭に建てられた優雅なホテルはロックフェラーやデュポンなどの大富豪、ウィルスン、ニクソンなどの歴代大統領も宿泊した由緒あるホテルだが、その後オーナーが頻繁に入れ替わり、何度か営業停止をし、廃墟寸前まで廃れた時期もあった。しかし大実業家のホレス・ダーウェントによって徹底的に改築され、現代の姿になり、いまや高級ホテルとして名実ともに堂々たる雄姿を湛えている。

しかしジャックは地下室で何者かによって作られたこのホテルに纏わる記事のスクラップブックを発見し、ホテルの歴史が血塗られた陰惨な物であることを発見する。

そして決して開けてはならない217号室の謎。そこにはハローランでさえ恐れ、また支配人のアルマンでさえ誰にも触れさせようとしない開かずの間。

それ以外にも≪オーバールック≫には人の死に纏わる事件が起こっている。やがてそれらの怨念はこの古き屋敷に宿り、住まう者の精神を蝕んでいく。

優雅な装いに隠された暗部はやがてホテル自身に不思議な力を与え、トランス一家に、ことさらジャックとダニーに影響を及ぼす。

誰もが『シャイニング』という題名を観て連想するのは狂えるジャック・ニコルスンが斧で扉を叩き割り、その隙間から狂人の顔を差し入れ「ハロー」と呟くシーンだろう。
とうとうジャックは悪霊たちに支配され、ダニーを手に入れるのに障害となるウェンディへと襲い掛かる。それがまさにあの有名なシーンであった。
従ってこの緊迫した恐ろしい一部始終では頭の中にキューブリックの映画が渦巻いていた。そして本書を私の脳裏に映像として浮かび上がらせたキューブリックの映画もまた観たいと思った。この恐ろしい怪奇譚がどのように味付けされているのか非常に興味深い。キング本人はその出来栄えに不満があるようだが、それを判った上で観るのもまた一興だろう。

映画ではジャックの武器は斧だったが原作ではロークという球技に使われる木槌である。またウィキペディアによれば映画はかなり原作の改編が成されているとも書かれている。

≪オーバールック≫という忌まわしい歴史を持つ、屋敷それ自体が何らかの意思を持ってトランス一家の精神を脅かす。それもじわりじわりと。
特に禁断の間217号室でジャックが第3者の存在を暴こうとする件は既視感を覚えた。この得体のしれない何かを探ろうとする感覚はそう、荒木飛呂彦氏のマンガを、『ジョジョの奇妙な冒険』を読んでいるような感覚だ。頭の中で何度「ゴゴゴゴゴゴッ」というあの擬音が鳴っていたことか。
荒木飛呂彦氏は自著でキングのファンでキングの影響を受けていると述べているが、まさにこの『シャイニング』は荒木氏のスタイルを決定づけた作品であると云えるだろう。

しかしよくよく考えるとこのトランス一家は実に報われない家族である。
特に家長のジャックは父親譲りの癇癪もちでアルコール依存症という欠点はあるものの、生徒の誤解によって自身の車を傷つけられたのに激昂して生徒を叩きのめしてしまい懲戒処分となり、友人の伝手で紹介されたホテルが実に恐ろしい幽霊屋敷だったと踏んだり蹴ったりである。自分の癇癪を自制し、苦しい断酒生活を続けているにもかかわらず、何かあれば妻から疑いの眼差しを受け、怒りを募らせる。教師という職業から教養のある人物で小説も書いて出版もしている、それなりの人物なのに、家庭で暴君ぶりを発揮した父親の影響で自身も暴力と酒の性分から抜け出せない。

また妻のウェンディも何かと人のせいにする母親から逃れるように結婚し、そのせいかいくら優しくしても父親にべったりな息子に嫉妬し、かつての暴力と深酒による失敗からか愛してはいても十二分に夫を信用しきれない。彼女もまた親の性格による犠牲者である。

そして最たるはダニーだ。彼も“かがやき”という特殊な能力ゆえに友達ができにくく、常に父親が“いけないこと”をしないか心配している。さらにホテルに来てからは毎日怪異に悩まされるたった5歳の子供。

普通にどこにでもいる家庭なのに、運命というボタンを掛け違えたためにとんでもない場所に導かれてしまった不運な家族である。

ところで開巻して思わずニヤリとしたのは本書の献辞がキングの息子ジョー・ヒル宛てになっていたことだ。本書は1977年の作品で、もしジョー・ヒルがデビューしたときにこの献辞に気付いて彼がキングの息子であると解った人はどのくらいいるのかと想像を巡らせてしまった。

そしてよくよく読むとその献辞はこう書かれている。

深いかがやきを持つジョー・ヒル・キングに

つまり『シャイニング』とは後に作家となる幼きジョー・ヒルを見てキングが感じた彼の才能のかがやきに着想を得た作品ではないだろうか。そしてダニーのモデルはジョー・ヒルだったのではないだろうか。
そして時が経つこと36年後、息子が作家になってから続編の『ドクター・スリープ』を著している。これは“かがやき”を感じていた我が息子ヒルをダニーに擬えて書いたのか、この献辞を頭に入れて読むとまた読み心地も違ってくるのではないだろうか。

1作目では超能力者、2作目では吸血鬼、3作目の本書では幽霊屋敷と超能力者とホラーとしては実に典型的で普遍的なテーマを扱いながらそれを見事に現代風にアレンジしているキング。本書もまた癇癪もちで大酒呑みの性癖を持つ父親という現代的なテーマを絡めて単なる幽霊屋敷の物語にしていない。
怪物は屋敷の中のみならず人の心にもいる、そんな恐怖感を煽るのが実に上手い。つまり誰もが“怪物”を抱えていると知らしめることで空想物語を読者の身近な恐怖にしているところがキングの素晴らしさだろう。

そう、本書が怖いのは古いホテルに住まう悪霊たちではない。父親という家族の一員が突然憑りつかれて狂気の殺人鬼となるのが怖いのだ。

それまではちょっとお酒にだらしなく、時々癇癪も起こすけど、それでも大好きな父親が、大好きな夫だった存在が一転して狂人と化し、凶器を持って家族を殺そうとする存在に変わってしまう。そのことが本書における最大の恐怖なのだ。

読者にいつ起きてもおかしくない恐怖を描いているところがキングのもたらす怖さだろう。
上下巻合わせて830ページは決して長く感じない。それだけの物語が、恐怖が本書には詰まっている。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

「家族」というクローズドサークルと「父親」という恐怖の存在

誰でも名前ぐらいは、というか映画版でのジャック・ニコルソンの狂気の笑顔のシーンは知っているだろう有名作の原作小説を読みました。

コロラド州ロッキー山中にある、冬季はその厳寒と積雪のため閉鎖されるホテルに、その間の維持・管理を目的として雇われた男ジャック。
そんなジャックと彼の妻ウィンディ、そして五歳になる息子ダニーは、雪に閉ざされたホテルの中、家族三人だけで数ヶ月を過ごすことになる。
しかし、このホテルは過去、ジャック同様やはり家族揃って住み込みで働いていた管理人の男が発狂し、自身の妻と子供を殺害したといういわくを持っていた。
そしてジャックもまた、次第に狂気に取り付かれ、やがて彼の魔手が妻と息子に伸びようとしていた……

そんなクローズドサークルシチュエーションのホラー作品ですが、単に「深い雪に閉ざされた空間」という物理的状況だけでなく、「家族」という、その輪から出ることも入ることも容易ではない、ある意味二重のクローズドサークル状況を描いた作品なのではないかと思いました

この作品は、本来あらゆる意味で子供を庇護してくれる存在であるはずの「父親」が逆に家族を襲う、悪意・脅威になってしまうという恐怖が描かれています。
この怖さは単に大好きなパパが豹変してしまうという点のみならず、父親を愛し尊敬していても、一方で誰しもが多かれ少なかれ家庭の中で強大で支配的な力を持つ父親という存在へ抱く、リアルな恐怖を呼び起こさせるものではないかと感じました。
(私の父は温厚で、家庭内で怒鳴ったり、暴力を振るった記憶など一切ないのですが、そんな家庭に育った私でも、少年期父親をどこかで恐れる気持ちが0だったわけではないです)
また父親側も、一番大切なモノであるはずの家族を、自分が傷つけてしまうのではないかという不安や恐怖は誰しもが持っているのではないでしょうか。

ジャックは癇癪癖やアルコール依存などを持ち、仕事をクビになったりダニーを怪我させた過去があり、元々決して完璧な父親ではありません。
しかし同時に過去を悔やみ、アルコールを断つ努力をし、確かに家族を愛している、決して悪い父親でもありません。
ジャックが最初から完全な悪人あるいは善人として書かれていたら、感情移入という面でも怖さという面でも作品の魅力は下がったでしょう。

さらにこの作品の怖さや深さは、ジャックが狂気にかられたのは、ホテルの持つ魔力のせいか、ジャック自身が元々持つ狂気のせいか途中まで読んだ時点ではどちらとも取れ、読者にとって「より怖いと感じる方」を意識してしまう点にあるのではないかと感じました。

そんな父の日にふさわしいようなふさわしくないような作品のレビューでした。

▼以下、ネタバレ感想

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マリオネットK
UIU36MHZ

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