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ハイスクール・パニック



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ハイスクール・パニックの評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

先入観を排して読むこと!

スティーヴン・キングがもう1つの筆名リチャード・バックマン名義で発表した作品。これがバックマン名義での第1作となる。

オーランドのナイトクラブで銃乱射事件が発生したようにアメリカのハイスクールでの無差別銃乱射事件は多く、一番有名なのは映画にもなった1999年に起きたコロンバイン高校の銃乱射事件だろう。本書はそれに先駆けること1977年に発表されている。
これは1966年に起きたテキサスタワー銃乱射事件を材に取ったと思われるが、その後コロンバイン高校の惨劇を想起させるということでキング本人が重版を禁止した作品でもある。過激な内容を扱いながらも無差別銃乱射事件を美化したような内容が逆に同様の事件を助長させていると作者自身が懸念したからかもしれない。

そう、美化したような内容というのはいわゆる銃社会アメリカでたびたび起きているような無差別殺人を本書が扱っていない点にある。
ライフルを持った一人の頭のおかしい生徒が同級生たちを人質にして教室に立て籠もる。そう聞くと息詰まる警察と狂人の駆け引きと、1人、また1人と生徒たちが亡くなっていくデスゲームのような荒寥感を想起させるが、本書はそんな予想を裏切って、籠城状態の教室という特殊空間の中で高校生たちの日常生活に隠された仮面を次第に剥がして本音をさらけ出して語り、もしくはぶつけ合うという実に意外な展開が広がるのだ。

正直この発想は全くなかったため、非常に驚いた。

事件を引き起こしたチャールズ・デッカーは実は取り立てて目立つような存在ではない高校生だ。しかし彼は元軍人で時々暴力的衝動に駆られる父親と規律と礼儀を重んじる、優しくも厳格な母親の許で育った。好奇心旺盛で衝動的な破壊行動を抑えられない彼は悪戯をしては父親の衝動的暴力の犠牲に遭い、それがもとで父親に対して憎悪を常に抱くようになる。また頭がよく、ディベート能力に優れ、大人たちの説教も煙に巻く弁舌を振るう。そんな彼が教室を支配することでクラスの様相が変わっていく。

とにかく色んな読み方の出来る小説だ。
読了後まず想起するのはスクールカーストの変転を扱った実に特異な小説と読めることだ。

一見銃を手にした一生徒の反逆の物語と見せかけながら、彼の行った籠城行為によって生徒たちが大人への反発心を開花させる物語でもあるのだ。
原題の“Rage”は主人公チャールズ・デッカーの反逆だけでなく、彼の同級生全ての大人に対する反逆心の芽生えも指している。

また学校一の人気者が、同級生による銃を持った立て籠もりという異常な状態ゆえに、日常的に抑えてきた感情が非日常によって解放されたことで通常ならば触れるべきでないことを告白しだす。
それは彼らの両親が行っているクラスメイトの両親に対する噂話だったり、初体験の告白だったり、そんな秘密の暴露がされる中で学校一の人気者が丸裸にされ、その地位が陥落する様は実に面白い。

一方、変わり者としてみなされていた主人公チャールズ・デッカーはいきなり銃を持ち込んで先生を2人撃ち殺し、降伏するよう説得を試みる校長先生、学校担当の精神科医、そして駆け付けた警察署長らを見事に出し抜くことで人質である生徒たちの尊敬を集めていく。

そういう意味ではストックホルム症候群を扱った小説ともいえる。この症候群の名の由来となったストックホルムで起きた銀行人質立てこもり事件が1973年。そして本書が発表されたのが1977年だから当時キングがこの起きたばかりの事件に由来した新たな症候群を知っていたかどうかは疑わしい。
もし知らなかったとすると同様の状況を扱った本書の、いやキングの先駆性は驚くべきものがある。

鬱屈した高校生の反逆の物語。スクールカーストが無残にも崩れ去る物語。犯人に同調する集団意識の変転の恐ろしさを描いた物語。

そのどれもが当て嵌まり、どれもが正解だろう。

しかし私はここからさらに次のように考える。

これは意味のないところから意味を生み出した物語なのだ、と。

まずセンセーショナルな幕開けとなるチャールズ・デッカーの銃立て籠もりの顛末はチャールズが授業中に校長先生に呼び出され、説教をされたことに腹を立て、ロッカーに隠し持っていた銃を持ち出していきなり先生2人を殺したことで始まる。
これは今まで暴力的な父親に虐げられてきた彼が物理の授業で先生を衝動的に傷つけたために精神科医によってカウンセリングを受けるようになったことについてねちねちと云われることが気に食わないために起きたことで正直ここには短気で暴力的衝動が常に潜んでいるチャールズ・デッカーの衝動以外、理由がない。

従って彼は教室に立て籠もるものの、誰一人生徒を殺そうとしない。自分を理解してほしいと云わんばかりに自分のことを語り出し、そしてクラスメイトの話を聞く。それはそれまでお互いに云えなかった打ち明け話をするだけの行為だ。

チャールズの行った籠城には何の意味もなかったのだが、クラスメイト達が思い思いに胸の内を打ち明け、それぞれが抱えていた秘密を暴露することで共通の敵を見出すという意味を持ち、それに復讐する目的を確立する。

たった300ページ足らずの、しかも舞台は高校の教室内で繰り広げられるというのになんとも中身の濃い小説ではないか。
但し現代のような銃立て籠もり事件が頻発する昨今、犯人であるチャールズ・デッカーを反逆のヒーローとして描く本書は確かに読んだ者の心に危うい発想を生み出す危険性を孕んでいることは頷ける。

現在絶版であるのは非常に惜しいと思いながらも、それを決断したキング本人の想いもまた理解できる、読んでほしいにも関わらず復刊することには躊躇を覚えるジレンマに満ちた作品である。

私は本書を古本で手に入れたが、もし興味があるならばぜひとも読んでほしい。本書を読んでどのように受け取るかはあなた次第だ。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
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