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死者との結婚



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【この小説が収録されている参考書籍】
死者との結婚 (ハヤカワ・ミステリ文庫 9-3)

死者との結婚の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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No.1:
(7pt)
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物語の裏にアイリッシュの境遇が垣間見える作品

アイリッシュ=ウールリッチお得意のサスペンス。1人の女性の運命が翻弄されるプロットが実に心憎い。やはりアイリッシュは、こうでなくてはならないという期待に必ず応えてくれる信頼できる作家だ。

アイリッシュの作品の登場する女性には悪女という冠がつくことが多いが、本書の主人公ヘレン・ジョーゼッソンは列車転覆事故がきっかけで実業家の息子と結婚した女性に成り代わるのに、彼女は決して悪女ではないのが特徴的だ。

彼女は運命に翻弄されるか弱い女性であり、常にいつ自分のついた嘘がばれないか、怯えている。しかも彼女を受け入れてくれたハザード家がこれまた善人たちの集まりであり、そんな善良な人たちを騙す行為に常に罪悪感が抱いているのだ。

しかし彼女は決して真実を話そうとはしない。なぜならば折角得た幸福を逃したくないという願望が強いからだ。
冒頭で語られる人生が変わるまでの彼女の人生はなんとも悲惨なものだ。8ヶ月の胎児を孕んだ身重でありながらその父親は賭博師で認知もせず、彼女にたった5ドルと彼女の故郷までの切符を郵送で送りつけただけ。貧乏のどん底に逢った彼女のよすががこのろくでなしの彼スティーヴンだけだったのだ。
そんな彼女に降って湧いたような豊かな生活。これは誰しもそう簡単に手放せるわけでないだろう。

アイリッシュのプロットはよくよく考えると非現実的だ。本書でも実業家の息子ヒューの花嫁パトリスが相手の両親に逢った事もないのに結婚をしている。これは今では考えられないシチュエーションだ。
しかし詩的な文体が織成す前時代性的雰囲気、そして行間に流れる登場人物の哀切な心情が読者の共感を誘い、一種の酩酊感すら覚え、これが一種荒唐無稽な設定に疑問を抱かせず、流麗な筆致で語られる物語へ没入させられるのだろう。

しかし私が本書で語りたいのは本来の幸せの形ということではなく、作者アイリッシュに対する母親という存在についてだ。
本書が発表されたのは1948年。『暗闇へのワルツ』、『喪服のランデヴー』と同時期に書かれ、正にアイリッシュが作家として爛熟期にあった頃だが、実はこの頃アイリッシュは同居していた母親が重病となるという不幸に見舞われている。恐らく彼女の看病をしながらの執筆活動だったと思われるが、本書でも義母グレースが重病に瀕しており、いつ死んでもおかしくない状況であり、ヘレンを含めた家族はとにかく刺激を与えるような事を知らせないように神経質に動いている。
まさにこれこそ当時のアイリッシュの状況を髣髴とさせる。

そんな意味からも本書は今まで読んだアイリッシュ作品の中でも、実に彼の素顔が色濃く現れており、それが悲痛な叫びと感じられる、物語の外側が妙に意識させられる珍しい作品だった。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S

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