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悪魔の報復



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【この小説が収録されている参考書籍】
悪魔の報復 (創元推理文庫 104-18)

悪魔の報復の評価: 4.00/10点 レビュー 1件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(4pt)

地味すぎた

国名シリーズの後に書かれた3作は通称ハリウッド三部作と呼ばれているが、本書はその第一弾。ハリウッドに脚本家として呼ばれたはいい物の、特に催促もないので時間を持て余していた彼が富豪の殺人事件に挑むというもの。

従って本書では撮影現場の華やかさとか映画産業の喧しさとかは全く描かれていないため、ハリウッド三部作といいながらも全くハリウッド色を感じさせない。

さて今回エラリイが挑む事件はたった一つ。ある富豪の不可解な死。
犯行時刻に現場にいたのは富豪の息子なのだが、たまたま富豪の共同経営者のオーバー―この云い方ももはや死語ですな。今判る人はいるのだろうか?―を間違って着て行ったため、破産宣告を受けた共同経営者が容疑者となってしまうというもの。しかしなぜか共同経営者は頑なに富豪の息子をかばおうとする。彼が娘の婚約者だからという理由だけでは理解しがたいほど頑なに。

本当のことをしゃべれば自分は救われるのになぜか話さないというのは後の傑作『災厄の町』でも見られた手法だ。本書は出来栄えからしても『災厄の町』の下地となった作品という風に解釈できる。この作品があったからこその『災厄の町』なのだと云い直してもいいくらい既視感を抱いた。

さて今までのエラリイは父親のリチャードがニューヨーク市警の警視という立場を利用して門外漢ながらも警察同様に現場にずかずかと立ち入り、捜査をし、あまつさえ証拠品を隠蔽したりとおよそありえない所業を繰り返していたのだが、父親の威光が届かないここハリウッドでは、ヒラリイ・キングと名乗り、事件の渦中にいる共同経営者の娘が親族しか判らない犯罪の内幕を新聞記事として毎日連載するお手伝い役―お目付け役―として新聞記者に雇われて一介の記者に扮して捜査に携わるという設定を取っている。これはなかなかに面白いアプローチだと思った。

そして事件の発端であり、背景となるのがインサイダー取引、粉飾決算といった21世紀の今でも行われている犯罪であるのも興味深い。しかしこの後の『靴に棲む老婆』でも書かれていたが会社の社長が自身の会社の経営状況が悪いと知ったことで株を売るという行為に関しては罰せられるような記述がない。まだ株取引が法的に厳密に取り締まわれていなかったのだろうと推測される。

今回の事件は地味で、なかなか前に進まない印象を受けた。事件は早々に起きるものの、真犯人を特定する証拠、証言に手間取り、またレッド・ヘリングのためか全く関係のないエピソード―特に専任弁護士ルーヒッグと故社長の被保護者ウィニの結婚の件は全くといっていいほど事件には関係がなかった―が挿入され、右往左往しているだけと感じた。

また今回の犯人は判ってしまった。
もちろん犯人へと至るエラリイのロジックは相変わらず冴えており、事件の容疑者に当て嵌まる条件から消去法でどんどん犯人へと絞り込んでいく。

しかし残念ながらこの作品に書かれているようには今では犯人は捕まらないだろう。それは全て状況証拠に過ぎないからだ。こういった推理だけならば今の読者は納得しないだろう。作者クイーンの詰めの甘さをどうしても感じてしまう。

個人的には本書読書中は出張もあり、精神的にキツイ仕事のため、尾を引くところがあって読書を存分に愉しむ精神状態ではなかったのだが、それでも作品としては小粒だと思った。

題名の意味も最後になって恐らくあのことなのだろうなとは想起させられるものもあるが、合っているかどうかは判らない。
もう少し事件とストーリーに起伏があれば楽しめただろうに、と勿体無さが先に立つ読後感だった。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S

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