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ロスト・ケア



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【この小説が収録されている参考書籍】
ロスト・ケア
ロスト・ケア (光文社文庫)

ロスト・ケアの評価: 7.93/10点 レビュー 15件。 Sランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.93pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全15件 1~15 1/1ページ
No.15:4人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

介護の過酷さとミステリを融合させた模範作

本作は、大雑把に書くと、1.介護の過酷さ、2.介護士の不条理さ、3.主人公が推理していく過程、4.どんでん返し、という構成です。

再読し、デビュー作と思えないくらい文章力があると思いました。初めて読んだのが学生時代、まだあまり犯人当て小説に目が肥えておらず、本作がミステリとも思っていなかったので、明かされた犯人に驚きました。今読み返せば、綾辻氏の『十角館の殺人』に似た要素を感じました。小説ならではのトリックだと思います。
犯人を惑わす要素はワンアイデアと思えなくないですが、介護の過酷さが強烈に描かれ、上手に機能しています。最後の最後まで犯人をミスリードし、結末に犯人を明かし、頭が?になったところを、その疑問を華麗に回収します。とてもお見後です。ミステリ初心者にお勧めできるし、ミステリ通も騙される人がいるかもしれません。
本作を評価したもう一つのポイントは、文章の読みやすさです。とても頭に入ってきやすく、物語の構成も上手です。
途中に出てくる薬物やら詐欺やらは蛇足な気もしますが、、、。

お勧めしづらいとすれば、冒頭の介護生活の地獄絵図と、主人公の魅力の薄さでしょうか。
先日レビューした『明日なき暴走』で、ミステリ要素が関係するなら暗い話も許容できると書きましたが、本作の冒頭は、眉を顰めたくなるほど描写がグロテスクです。私は頭の中で想像しながら読んでいくタイプなので、想像しただけで気持ち悪くなってしまいました。食前後に読まないほうがよいでしょう。
二つ目の主人公の魅力の薄さですが、本作の主人公は、正義感と熱血に溢れ、性善説を信じる検察官ですが、いまひとつ魅力が乏しかった印象です。信じていた性善説をロストさせるためにそういう特徴にしたのでしょうが、私には熱血感が過ぎて共感もしづらかったです。嫌なことがあると耳の奥が疼くとありましたが、後の作品に登場する奥貫綾乃にも似た特徴があったはずで、あまり個性がないです。

ですが、社会小説としてもミステリ小説としても充分ですし、文章も巧みで満足できる作品でした。

bamboo
NU17PFML
No.14:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ロスト・ケアの感想

映画化を期に読みました。
動機は安易で最初に明かされるので、こんな感じで大量殺人になったのねって意外とあっさりした展開です。
事件が発覚するきっかけが、斬新で面白かったです。

Hidezo
GX0TU62Y
No.13:3人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ロスト・ケアの感想

介護の闇という現代社会を描いた作品。ロストケアによって介護する側、される側双方を救う犯人を絶対的な悪だと断言することができるだろうか。法的には悪になるのだろうが、その法は『安全地帯』にいる人間が作ったものである。同じ行為でもそれぞれの立場により善にも悪にもなり得るということがよくわかる作品。
作者は他にも社会派の作品を書いているようなので是非読んでみたい。

BOY
IM7XWAPW
No.12:3人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

社会派小説

焦点は彼。
高齢化社会と介護に関わる格差問題を真っ向から問う本格的な社会派小説、なんだけど「彼」と「彼の目的」を主旋律にしたミステリー小説である。
単純に思い込んで読んでいたため、後半驚いてしまった。
そして、そういう展開は、結構面白く楽しめた。
ただ最後は少し宗教観が強く出すぎ、ちょっと興ざめ。もう少しミステリー感を押し出して欲しかった。
でも、登場人物はさほど多くなく読み易い。
PS:読んでいて「津久井やまゆり園」の事件が頭に何度も浮かんできた。この日本を震撼させた植松聖被告は、この小説を読んだことがあったのかもしれない。

マッチマッチ
L6YVSIUN
No.11:7人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)
【ネタバレかも!?】 (2件の連絡あり)[]  ネタバレを表示する

我々は人の命を重んじることで実はとんでもない過ちを犯しているのかもしれない。

介護という日常的なテーマを扱った本書で日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した著者のデビュー作。新人とは思えぬ堂々の書きっぷりで思わずのめり込んで読んでしまった。

介護。
それは誰もが必ず1度は直面する問題で2000年に我が国も介護保険制度が導入されたが、今なお介護が抱える問題や闇は払拭されていない。

介護ビジネスと云われるように富める者と貧しい者が受けるその制度の恩恵に雲泥の差があるからだ。

資産を持つ裕福な者は高級な老人ホームに入り、24時間体制の厚い介護システムを受け、VIP待遇のように扱われるが、安い老人ホームは定員オーバーで入居待機を強いられ、場所によっては収容所のような環境で虐待もされているという。

さらにそこにも入れない日々の生活をぎりぎり行っている人たちは自宅介護で身のやつれる経験をし、いわゆる介護疲れで精神をすり減らし、明日の見えない日々を送らなければならない。

さらに介護ビジネスに携わる人々の環境も劣悪だ。人の身体を扱う重労働と長時間労働の上に手取りは少なく、今最も離職率が高い事業だと云われている。

本書にはそんな介護の厳しい現実がまざまざと突きつけられる。

作者はそれを介護サービスを施す側と受ける側にそれぞれ対照的な登場人物を配置して介護の厳しい現状を語る。

介護を施す側の人物は佐久間功一郎と斯波宗典。
佐久間はいわば介護ビジネス経営側の人間で政府が施行した介護保険制度の改正で軋みを立てるビジネス経営の苦しみの只中に立たされている。

一方斯波は現場サイドの人間で介護業が抱える苦しさと離職率の高さを実感している。

そしてサービスを受ける側の人間は大友秀樹と羽田洋子。
大友は有料の高級老人ホームの素晴らしさに感嘆し、介護ビジネスの光を垣間見るが、同様に法改正によって岐路に立たされている現実も知る。

羽田洋子は実母の介護で苦汁の日々を送るいわば典型的な介護疲れのロールモデルだ。

この離婚して実家に出戻りした羽田洋子の地獄のような介護生活の日々は最初に痛烈に印象に残る。
最初は帰ってきた娘と孫との暮らしを喜んでいた母親がふとしたことで怪我をして、寝たきり生活を余儀なくされる。次第に悪態をつくことが多くなり、そして認知症が進んで娘と孫すらも認識できなくなる。罵倒されながら実母の世話と糞尿の始末を負わされ、さらには昼夜仕事に出る洋子の生活は実に重く心に響く。

そしてこの介護老人連続殺人事件の真相を暴くのもまた大友秀樹だ。
彼は幼い頃から裕福な家庭で育った彼は性善説を信じる厚いクリスチャンでもある。しかし彼はその原初体験ゆえに人は誰しも罪悪感を抱き、改悛するものだと固く信じてやまない。逆に云えば己の考えが強すぎて融通が利かないとも云える。

一方彼の高校時代の友人佐久間功一郎は常に勝ち続けてきた男だ。
成績優秀、スポーツ万能、何をやらせても一流だった彼は常に人を見下してきた。勝てば官軍を信条とし、勝つためならば何をやってもいいと思っている男。介護事業のフォレストが社会的制裁を受けた時に顧客名簿を盗み出して振り込め詐欺産業に乗り出す。

この大友と佐久間はこの作品における光と闇を象徴している。

このように作者は色んな対比構造を組み込んで物語に推進力をもたらせている。

介護する側される側。
助かる者と助からない者。
富める者と貧しい者。
善人と悪人。

しかし究極の光と闇はやはり大友と<彼>である。これについては後に述べよう。

重介護老人を自然死に見せかけて計43人もの犠牲者を出した<彼> の所業を暴くプロセスが実に論理的だ。

本当のデータによる犯人の特定であった。これをデビュー作で既に独自色を出すとは恐るべき新人である

作者はこの作品を応募するにあたってかなりミステリを読み込み、研究していたように思える。

しかしこの物語は上に書いたように新人作家の一デビュー作であると片付けられないほど、その内容には考えさせられる部分が多い。

介護生活は今40代の私にとってかなり現実味を帯びた問題になっている。実際母親は更年期障害で入退院を繰り返し、義母に至ってはつい先月末に脳梗塞で倒れ、半身麻痺の状態で入院中だ。本書に全く同じ境遇の人物が出てきて私は大いに動揺した。
そう本書に書かれていることはもう目の前に起こりうることなのだ。

また介護制度のみならず、幼稚園の待機児童の問題もある。
なぜこれほど人々の生活を支援するシステムほど理想と現実がかけ離れているのだろうか。社会の歪みと云えばそれまでだがそれは実に曖昧で端的に切り捨てた言葉に過ぎない。
作中で登場人物が云うようにこの社会には穴が空いているのだ。もっと具体的に問題を掘り下げていかないと日本はどんどん廃れていくだけである。

高齢化社会と少子化問題。この2つは切っても切れない問題ではないだろうか。
日本は今自分で作ったシステムの狭間で悲鳴を挙げている。

果たして<彼>は悪魔だったのか天使だったのか。人を殺すという行為は最もやってはいけないことは解っていても心のどこかで<彼>の行為を認める私がいる。

羽田洋子の心の叫び、“人が死なないなんて、こんな絶望的なことはない!”は現代の医療やケアが向上したが故の延命措置のために犠牲となった人が誰しも抱く真の嘆きではないだろうか?

もはや彼ら彼女らは生きていると云えるのだろうか?
実の子供すらも認識できず、罵倒さえする。そんな人たちに病気だから悪意で云っているのではないと自らに念じ、献身的に尽くす家族たち。これが介護ならまさに地獄だ。

そんな地獄に光明を授ける<彼>が名付けるロスト・ケア、喪失の介護、即ち日々の介護で心身をすり減らす人たちを介護の対象を葬ることで解放する介護。それは単なる恣意的な殺人であることは認めるが、それで救われる人が必ずいることは否定できない。

しかし一方で長く我が子を育てるために身を粉にして働いた親たちを自分たちの都合で葬っていいとも思わない。
ただそのために人の尊厳が失われていいとも云えない。
全てはバランスなのではないか。
誰かを生かすために誰かが必要以上に犠牲を強いられ、終わりなき日常に苦しめられる人がいるのなら、それを救済するのもまた必要ではないだろうか。

我々は人の命を重んじることで実はとんでもない過ちを犯しているのかもしれない。

人を殺すことは悪だと断じる大友も実は人を多く殺したから死刑を求刑する自分もまた間接的な殺人者であることを犯人に論破され、動揺する。つまり人を殺すことは悪い事だと云いながら、社会は治安を守るために殺人を行っているのだ。
しかしそれは必要悪だ。この世は単純に善と悪の二極分化では割り切れないほど複雑だ。
しかし実は自然でさえその必要悪を行っている。自然淘汰だ。自然は、いや地球は生態系を脅かす存在を滅ぼすような人智を超えたシステムによってバランスを保っている。
私は本書の犯人の行ったことは自然淘汰に似ていると思った。誰もが最低限の幸せな生活を送る権利があるが、それが実の両親もしくは義理の両親によって侵される人々がいる。
そんなアンバランスはあってはならない。それを生み出した日本のシステムを変えるために<彼>は制裁を行ったのだ。

東野圭吾氏の『さまよう刃』でも思ったが、人は殺してはいけないが死刑のように社会の治安を守る、つまりはシステムを維持するための必要悪としての殺人は存在しうるのではないのだろうか。
実に考えさせられる作品だった。日本の介護制度の想像を超える悪しき実態を知ってもらうためにもより多くの人に読んでもらいたい作品だ。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.10:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ロスト・ケアの感想

誰もがモヤモヤしている社会問題を表現してくれた作品ですね。
人生について、死について、何が真の正義なのか考えさせられます。

kmak
0RVCT7SX
No.9:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

ロスト・ケアの感想

著者初読み。介護問題がテーマの社会派ミステリー。複数の視点から描かれているが、大友、佐久間、〈彼〉の3人は非常に極端な考え方を持ち、その主義に従い行動している。誰が正解=正義なのか言い切る事は難しい。何故なら全てに共感出来るから。つまり作者は人間の多面性、複雑な内面を3人のキャラクターに分離させた上で投影させたのでは無いだろうか。合わせて一人になるんでしょう。介護問題もスッキリとした答えが出せる物では無い。置かれた状況に寄って、同じ人物でも違う選択をするかも知れない。やり切れない事件で色々考えさせられた。

なおひろ
R1UV05YV
No.8:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

ロスト・ケアの感想

介護についてあらためて考えさせてくれた作品。
小説としてはそれほどでもなく
推理の展開・統計の話などかったるい。
関係ないTVキャスターやマスゴミが知らないことを好き勝手に言いやがってと
批判するところが
今のマスコミにもいえ事で共感できました。

jethro tull
1MWR4UH4
No.7:4人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ロスト・ケアの感想

私は両親がまだ介護を必要とする状況ではないので,この作品を100%理解することはできないのかも知れませんが,「彼」の行為には肯定的な感覚のほうが強いと思います.この作品の中で,遺族は,自身も被害者も救われたと言っていますし,こういった状況に陥らないような社会の仕組みに現状なっていないとすれば,共倒れを防ごうとすることはごく自然な考え方のようにも思います.
老人介護問題は,この先さらに状況が悪化していくことは間違いないでしょう.この問題とよくセットで議論されるのが少子化問題.
でも今の議論は,どうしたら子供を増やせるかという話で,社会保障も,減少が抑えられることを前提にしている感じ.
そろそろ,人口減少は止められないと大声で主張し,どんどん減っていくことを前提に根本的に社会基盤を見直そうとする,そんな政治家が出てきてほしいです.

マー君
S2HJR096
No.6:6人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

思考を促された

ここまで考えさせられる一冊に出会えたことに感動しています。日本が超高齢社会に向かって行く中で、抱えることがわかっている(わかっていた)介護問題について警鐘を鳴らした本作を、何が正しいのか自問しながら読み進めていきました。

この作品では明らかな悪者は出て来ません。これは実際の世の中でもそうであり、程度差はあれ誰もが善性も悪性も持っているグレーの存在だと私は思います。
本作では、要介護老人を40人以上殺害した犯人「彼」が登場しますが、彼を真っ直ぐに否定できないように感じました。彼は、大変な毎日を送る介護者と被介護者を救うために殺害したと主張しているのです。
Aさんがコップが溢れそうになるほど水を注ぎました。それをBさんが倒してしまい水を床にこぼしてしまいました。この水をこぼしたのはAさんなのかBさんなのか、答えはすぐには出ないでしょう。同じことがこの作品にも言え、殺人を犯した彼が悪いのか、はたまたそうさせた社会が悪いのか。

最後に話は変わりますが、介護業界の抱える深刻な問題を認識させられました。つい先日、介護業の平均所得がかなり低いと書かれた雑誌を読みました。介護がビジネスであることに違和感を持つ人もいると思いますが、実際に多くの人が救われてもいます。大変であるが故にビジネスとして成立しており、社会保障が関与しているにも関わらず薄給だなんておかしい!と思いながらも介護問題から目を背けたがっている自分自信に呆れもしました。そういう意味では自分も「安全地帯」の方に行こうとしているのかもしれません。

誰もが避けては通れない問題なので、誰が読んでも心に響く一冊だと思ってオススメします!

陰気な私は地球を回さない
L1K3MG03
No.5:10人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)
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ロスト・ケアの感想

これからの超高齢化社会に警鐘を鳴らす傑作。

43人もの連続殺人を犯した介護職員。
さて、この犯人を凶悪犯と感じた読者はどれ程いただろうか。
正直私は犯人がそれ程悪い事をしたとは思えないのです。寧ろ正義の使者にすら思えてしまう自分が怖い。
被害者家族、介護関係者視点のパートが衝撃的なわけだが、これが現実ではないだろうか。
私のような人間がいる限り、これは小説の中の絵空事ではない。

明らかに来る事が分かりきっていた高齢化社会。
年金問題も合わせて、国はどんな手を打とうとしているのか、そもそも破綻した時に責任を取るつもりがあるのか。
政治家どもよ、庶民に負荷をかけるだけかけておいて、でめえらは安全地帯から傍観しているなんぞは絶対に許されないぞ。

梁山泊
MTNH2G0O
No.4:10人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

全国民への問題提起だ

著者の長編ミステリーデビュー作で、2012年の日本ミステリー文学大賞新人賞の受賞作。壮大な問題意識を魅力的なミステリーに仕上げた、社会派ミステリーの傑作である。
2016年に日本中を震撼させた「津久井やまゆり園」事件を想起させる「要介護老人連続殺人事件」をテーマに、犯人、検事、被害者家族、介護関係者それぞれの視点から事件の背景と真相が語られて行く。そこに表われるのは、「そうなることは分かっていたのに」何も手を打って来なかった、真剣に考えることを逃げてきた社会の無責任と、それが引き起こした生きづらさ、矛盾、不幸、絶望、善悪の基準の崩壊である。
「全国民への問題提起」と言いたくなる重い社会性を持ちながら、ミステリーとしても非常に完成度が高い。「介護と殺人」という紹介文で読むのを回避するのはもったいない。ミステリーファンに限らず、多くの人にオススメしたい。

iisan
927253Y1
No.3:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

身近なテーマ

どんでん返しもあり面白かったです。

わたろう
0BCEGGR4
No.2:7人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ロスト・ケアの感想

日本の高齢化社会、介護問題を改めて突きつけられ、なんとも言えない気持ちになりました。
ミステリ要素は弱め。ただ、ミステリの形式を借りた社会派小説としては一級品です。
扱われている伏線も社会的なテーマの為に存在していると感じました。

裁判にかけられた犯人の供述から始まる冒頭。
犯人が行なった犯罪は、在宅介護に苦しむ家庭を探し出し、老体を自然死に見せかけて毒殺して周った事。

殺人=罪で悪い事だという人間的な感情がありますが、介護に苦しんだ家庭にとっては地獄の日々が終わり、救われた気持ちも芽生える事から、殺人が必ず悪ではない状況が生まれている問題を読者に投げかけます。

正義の立場である検事をキリスト教徒とし、度々現れる教えの扱いが凄い。
黄金律である、
『人にしてもらいたいと思う事は何でも、あなた方も人にしなさい』
この言葉の意味を本書の介護においてみた時、介護の苦しみを終わらせてほしいという希望を叶えた犯人の行動は正しかったのか?道徳的に考えさせられます。キリスト教徒の検事の葛藤が何とも言えませんでした。

犯人、キリスト教の検事、介護会社の社員、現場の介護スタッフ…。それぞれの視点から描く高齢化社会の問題。お金が無ければ安全地帯である老人ホームの施設に入るのも難しい。また介護者達の時間、金銭的、精神的なストレスなど、今は身に覚えなくても将来自分が高齢になった時、社会や家族はどうなるのか。とても考えさせられました。

誰が犯人なのか?と言ったミステリの下地はありますが、それを考える暇がない程、この本書の掲げているテーマは深いもの。
読後将来について不安を感じる後味は辛いですが、一読の価値はある作品でした。


▼以下、ネタバレ感想

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egut
T4OQ1KM0
No.1:3人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ロスト・ケアの感想

介護問題を扱った社会派推理小説。犯人の行動の是非は自分でも結論は出せませんでした。ミステリーの部分も、本格ミステリ的仕掛けによって、急速に真相が明らかになっていく展開を効果的に演出している様に感じられる。

水生
89I2I7TQ

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